ここもあそこも日本専用! スズキ入魂の新型SUV「フロンクス」に見る“こだわり”と“狙い”
2024.10.25 デイリーコラム気合が入りまくっている
東京・日本橋で催された「スズキ・フロンクス」の発表会で、記者は大いに戸惑っていた。いや厳密には、スズキが同車の日本導入を発表して以来(参照)、ずーっと戸惑っていたのだ。いまだかつて、ここまで告知・発表に気合が入ったスズキ車があっただろうか? いや、ない! 登録車はもちろん、国内販売の8割を占める軽自動車のモデルを見ても、ない!
読者諸氏にも振り返っていただきたい。フロンクスの日本導入が発表されたのは2024年7月のこと。合わせてティザーサイトが立ち上がり、報道関係者向けのプロトタイプ試乗会&取材会が実施され(取材記事:その1、その2)、全国の実に537カ所(!)で先行展示会が催されたのだ。鈴木俊宏社長のプレゼンテーションによると、スズキがこうしてリアルな場で新車を発表するのも、実に5年ぶりのことだとか。会場の方々で「軽のときより断然スゴくない?」「スズキってこんなにティザーに前のめりだったっけ?」「ここまで力が入っているのは、取材していて初めてかも」なんて言葉が聞かれたのも、さもありなん。
それにしても、なんだってスズキは、フロンクスの日本導入にこんなに力が入っているのか? ここで「しばらく新車の投入がなかったからでしょ?」とかシタリ顔で語る人は、にわかのスズキオタクである。ケチ……じゃなくて節約家のスズキのこと、広告の予算が余ったんなら喜んで来季に繰り越すか、ほかの事業につぎ込むことだろう。浜松の雄を甘く見るな(笑)。
では記者の見解はどうかというと、フロンクスというクルマの出来に、相当に強い手応えを感じたからではないかと思う。なにせ生産国のインドでは、史上最速で累計販売20万台を達成した車種となり(発売から1年半)、そのインドと南アフリカでは、複数の自動車賞も獲得。2024年の「ワールド・カー・オブ・ザ・イヤー」でも、アーバンカー部門でファイナリストに選出されたという。クルマの出来とその反響に、スズキも「これは、イケる」と机下でこぶしを握ったに違いない。
加えて日本では、2024年4月に「イグニス」「エスクード」が相次いでお役御免となっている。花のコンパクトSUV市場で、スズキは今、背水の陣なのだ。愚鈍な記者でさえ、フロンクスに寄せる彼らの期待、手応え、覚悟を感じたのも、そりゃ無理からぬことだろう。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
ニッポンの皆さんのために大改造
あらためて説明する……までもないかもしれないが、フロンクスはスズキが「チームスズキで開発した」(森田祐司チーフエンジニア)という、入魂のコンパクトSUVだ。車名の“FRONX”は、FrontierとCrossoverを組み合わせた造語。世界70カ国に導入される重要な世界戦略車で、インドのグジャラート工場で生産される。
ベースとなるプラットフォームは軽量・高効率な設計が自慢の「ハーテクト」で、これはインド市場の基幹車種「バレーノ」と共通。要は「スイフト」のロングホイールベース版と考えてもらって差し支えない。ボディーサイズは全長×全幅×全高=3995×1765×1550mmと、グローバルカーらしくショート&ワイド。Dピラーの寝たクーペSUV的なスタイルがイカしてる……というのはすでに紹介したとおり(参照)。まぁここまでなら、よそさまのグローバルカーでもまま聞く話である。
いっぽうで、わが国のこじらせた自動車オタク(私も含む)が気にするポイントといえば、「どのぐらい、私たちのためのクルマになっているの?」ということだろう。ご安心あれ。フロンクスでは、とにかくそこも気合が入っている。なにせ降雪地の多い日本のために、専用に4WD車まで仕立てたのだ。国内導入のアナウンス前、「仮に日本に来るにしても、FFだけではなぁ」なんて言ってた記者は、赤っ恥をかきましたよ(笑)。しかも、その日本専用四駆のために、独自の遮音・制音対策まで仕込んできたというから恐れ入る。
加えて、足まわりもニッポンの皆さんのために大改造。悪路での耐久性・快適性を重視した海外仕様の調律に対し、日本仕様ではマンホールでの突き上げや目次段差の乗り越えなどに配慮して、タイヤの設定やコイルスプリングのばね定数、ダンパーの減衰力などをあらためて吟味したとか。
なお、発表会での展示車両の装着タイヤは、いずれもグッドイヤー(他社製品の指定タイヤもあるのかは聞きそびれました。スミマセン)。グッドイヤーが日系メーカーと協業というのは珍しいが、これもちゃんと、日本グッドイヤーがスズキの要望を聞いて用立てたものだとか(生産はもちろんインドだが)。もうひとつ驚いたのがハブで、海外向けは4本ボルト仕様なのに対し、日本向けには、より高剛性な5本ボルトのハブが採用されていたのだ。グジャラート工場のスタッフさんも「さすが“イニD”の国。日本人はSUVでも走りにこだわるのか」とあきれたに違いない。
このほかにも、電動パワーステアリングもセンター付近の据わりを重視して、アシスト量を独自に調整。これらの改良・変更の成果については、ぜひ佐野弘宗さんによるプロトタイプの試乗記をご覧いただきたい。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
インドの皆さん、ありがとう
このように、動的な部分はしっかりと日本向けに調律されたフロンクスだが、このほかの箇所を見ても、掘ればザクザクと変更点は出てくる。
スズキ最新のADAS(先進運転支援システム)やインフォテインメントシステムの採用は言わずもがな。日本ならではの利便性の要件も重視しており、車高はルーフレールを省くことで、一般的な機械式駐車場に入る1550mmに抑えた。荷室に備わる折り畳み&脱着可能なフロアボードも、実は日本独自のものだ。また、一見すると海外の上級仕様と同じに見えるボルドー/ブラックのインテリアも、私たちの感覚に合わせて一部を変更。ドアインナーパネルのボルドーの使用面積を減らし、ダッシュボードの装飾パネルも、光沢のあるブラックのものに置き換えたという。
加えて、これはクルマそのものの改良/変更の話ではないが、ボディーカラーの追加設定に関するお話も、ちょっと面白かった。プロトタイプ試乗記を読み込まれた方ならご存じのとおり、2024年7月時点では、日本での車体色は全7種類の予定だった。ところが発売に際して、「スプレンディッドシルバーパールメタリック」と「アークティックホワイトパール」のモノトーン2色が追加されたのだ。
もちろんこれも、「白・銀のモノトーンがないなんて、やっぱりありえない!」という日本側の要望によるもの。タイミング的に、先行展示会での来場者の意見もくんだものと思われるが、スズキが最後の最後まで日本市場への最適化にこだわったこと、また発売直前の仕様変更にも、インド側が柔軟に対応してくれたことがうかがえて興味深かった。……いやきっと、裏では「いまさら!?」「頼むよ!」とひと悶着(もんちゃく)あったんでしょうね(笑)。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
「運転して楽しい」はお客の心をつかむのか?
さて、そんなスズキ期待の新型車フロンクスだが、発表会ではちょっと意外なことも印象に残った。今どきのクルマとしては珍しく、乗る・走る・運ぶにまつわる自動車としての基本性能が、前向きにアピールされていたのだ。
例えばプレゼンテーションでは、鈴木俊宏社長が「運転する人が楽しく、後席の人も快適なモデルとして、多くのお客さまに喜んでいただけると思う」と発言。チーフエンジニアの森田祐司氏も「走行性能については、安心安全でありながら運転して楽しいことを目標に開発した」「自分で運転して楽しく、家族を乗せて遠くまで行きたくなるようなクルマに仕上げた」「一度見て、乗っていただければ、このクルマのよさを実感してもらえる」……といった具合だ。一体、何回「運転して楽しい」「乗ったらわかる」という言葉が出てくるのか、聞いててちょっとカウントしたくなったほどだ。
しかも、プレゼン後にはフロンクスにまつわるテーマごとの説明会も実施され、デザインと並んで「操縦安定性・乗り心地について」もお勉強。商品企画に関する質疑では、森田氏が「スポーティーな走りを求めたのではなく、『しっかりとした運転している感覚が欲しい』というお客さまの要望に応えたもの」と、その操安の狙いを教えてくれた。
読者諸氏ほどではありませんが(笑)、記者もこう見えてクルマ好きのはしくれ。デジタルだコネクトだとカタカナ用語が飛び交う昨今、潔く走りを推すスズキ関係者の話には、清涼な新鮮さすら覚えた……のだが、同時に「今どき『走りがいい』なんて言葉、お客さまのココロに刺さるの?」と、イジワルなことも考えてしまった。
しかし鈴木社長の話では、各地の展示会はいずれも大盛況で、受注もすでに9000台を集めているとか。若い人からの反響も大きく、これまでのスズキ車の客層にはない、それこそ「スズキ車をマイカーに」なんて考えもしなかった(失礼なやつめ!)という層の間でも、認知は広がっているという。「いいクルマができたぞ」と手応えを感じていたスズキとしても、さすがにこの反響はうれしい誤算だったそうだ。そして記者も、スズキの印象が白紙な彼らが、フロンクスを通してこのメーカーにどんなイメージを抱くことになるのか、ちょっと興味が湧いた。
船出に際し、ひとまずは追い風をつかめたといってもよさそうなフロンクス。その勢いは本物なのか? やがてはコンパクトSUVの勢力図を(ついでにスズキのブランドイメージも)ひっくり返す一台となるのか? 私たちでも頑張れば手が届くクルマで、久々に面白そうなのが出てきたぞ……と、ひとり会場の片隅でニヤニヤしていた記者でありました。
(文=webCG堀田剛資<webCG”Happy”Hotta>/写真=スズキ、webCG、向後一宏/編集=堀田剛資)
◇◆こちらの記事も読まれています◆◇
◆スズキが新型車「フロンクス」を発売 個性的なスタイルと高い機能性が自慢の小型SUV
◆話題の「スズキ・フロンクス」を徹底解剖! ライバルにはないアドバンテージを探る

堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。
-
「BYDラッコ」がアジアにはばたく!? ニッポンの軽自動車規格が海外勢に奪われる日NEW 2026.10.30 中国のBYDが、軽BEVの「ラッコ」を日本以外でも販売すると発表! 日本独自のスモールカー規格は、はたして海外でも受け入れられるのか? 本家・日本のメーカーが、海外展開に及び腰だった理由とは? BYDが食指を動かす、軽自動車の秘めた可能性を探る。
-
メルセデスのトップからのまさかの転身 BMW日本法人の上野金太郎社長にインタビュー 2026.10.29 メルセデス・ベンツ日本からビー・エム・ダブリューのトップへ。いわば巨人の四番から阪神の四番のような異例の転身を遂げた上野金太郎社長。両ブランドの文化や製品の違い、今後の販売戦略などについて話を聞いた。
-
「ミッションS」だけではない? 2035年に向けたポルシェの新戦略を探る 2026.10.28 ポルシェは2026年10月7日、新中期戦略「Sportwagenschmiede'35」を発表した。新型パワーユニット搭載の「ミッションS」をはじめとするニューモデルで、経営状態の立て直しを目指す。その注目すべき内容を詳しく解説する。
-
ホンダが次世代ハイブリッドの名称を「Honda Hybrid」に決定 命名の理由とその背景を探る 2026.10.26 本田技研工業が2027年からグローバルで用いる次世代ハイブリッドシステムの名称を発表した。その名は「Honda Hybrid」である。「i-MMD」から「e:HEV」へと変更されて6年。慣れ親しんできた名称が変更される理由と、その背景を探る。
-
「マツダRX-7」の復刻部品を生産!? ミクニの挑戦は旧車オーナーの福音となるか? 2026.10.23 ミクニが「マツダRX-7」向け復刻部品の開発検討を開始した。古い自動車部品の供給は、なぜここまで困難を極めるのか? ミクニの挑戦は世のロータリーオーナーにとって福音となるか? 日本の自動車文化に潜む課題と、その解決に挑む企業と人をリポートする。
-
NEW
メルセデスのトップからのまさかの転身 BMW日本法人の上野金太郎社長にインタビュー
2026.10.29デイリーコラムメルセデス・ベンツ日本からビー・エム・ダブリューのトップへ。いわば巨人の四番から阪神の四番のような異例の転身を遂げた上野金太郎社長。両ブランドの文化や製品の違い、今後の販売戦略などについて話を聞いた。 -
NEW
ボルボEX90ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(後編)
2026.10.29あの多田哲哉の自動車放談ボルボの新世代EV「EX90」に、トヨタでさまざまなクルマを開発してきた多田哲哉さんが試乗。ちょっと気になったところと、クルマとしての魅力を感じたポイントについて熱く語る。 -
写真で解説する「メルセデス・ベンツ・エレクトリックGLC」
2026.10.28画像・写真メルセデス・ベンツの新たなフル電動SUV「エレクトリックGLC」がデビュー。2026年10月28日に国内での注文受け付けがスタートした。一体どんなクルマなのか、その見どころを写真とともに解説する。 -
「ミッションS」だけではない? 2035年に向けたポルシェの新戦略を探る
2026.10.28デイリーコラムポルシェは2026年10月7日、新中期戦略「Sportwagenschmiede'35」を発表した。新型パワーユニット搭載の「ミッションS」をはじめとするニューモデルで、経営状態の立て直しを目指す。その注目すべき内容を詳しく解説する。 -
日産フェアレディZ NISMO(FR/9AT)【試乗記】
2026.10.28試乗記「日産フェアレディZ」のマイナーチェンジモデルが登場。改良の主眼はZが受け継いできたヘリテージのさらなる深化と性能の強化だという。もはやお値段1000万円(!)に迫らんとする「NISMO」の9段ATモデルを試す。 -
第134回:アウディデザイン水掛け論 ―これが未来のアウディか? 「ヌヴォラーリ」と他のモデルに見る不整合―
2026.10.28カーデザイン曼荼羅微妙に迷いが見えていたアウディのデザインに、新しい潮流が? これまでとは異なるモチーフが取り入れられた「ヌヴォラーリ」の造形は、次世代のフォーシルバーリングスを指し示すものなのか? カーデザインの識者と、アウディデザインの未来について考えた。















































