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メルセデスAMG GT63 PRO 4MATIC+(4WD/9AT)

誰でも試せる3.2秒 2024.10.23 試乗記 島下 泰久 「メルセデスAMG GT」のモデルラインナップに「GT63 PRO 4MATIC+」が追加設定された。確かにエンジン等のスペックはシリーズ最高峰に達しているが、数値的なリードはわずかだ。「PRO」とまで名乗らせた理由を、サーキットドライブで探ってみた。
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「PRO」の実力とは?

2023年秋に登場した新型メルセデスAMG GTは、いろいろな意味で驚きの一台だったと思っている。まずはそのパッケージング。従来の2シーター+トランスアクスルレイアウトのFRから、2+2が用意されるフルタイム4WDへと大胆な変貌を遂げていたのだ。それこそAMG自社開発モデル第1弾だった「SLS AMG」から連なるストイックなスポーツカーの系譜から、より大きな市場を視野に入れた間口の広いモデルに生まれ変わったわけである。

もうひとつの驚きは、それでいて走りがまるでスポイルされていなかったことだ。車体は大きくなり車重も増えたが、まず導入された「GT63 4MATIC+」は走りの充足感が格段に高く、また絶対的にも特にコーナリングパフォーマンスはすさまじいほどで、少なくとも公道ではまるで限界知らずに仕上げられていた。ここには重力も慣性力も存在しないのか? と、まるでキツネにつままれたように感じられる走りだったのだ。

そのラインナップに新たに加わったメルセデスAMG GT63 PRO 4MATIC+の試乗のために訪れたのはスペインの会員制サーキットであるアスカリ・レースリゾート。事前にスケジュールを見ると、ステアリングを握ることができるのはクローズドコース内のみとある。さて「PRO」とは、どれだけのパフォーマンスを見せるモデルなのか。

2024年7月のグッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードでお披露目された「メルセデスAMG GT63 PRO 4MATIC+」。スペインのアスカリ・レースリゾートで試した。
2024年7月のグッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードでお披露目された「メルセデスAMG GT63 PRO 4MATIC+」。スペインのアスカリ・レースリゾートで試した。拡大
ボディーサイズは全長×全幅×全高=4730×1985×1355mm。第2世代から2+2クーペに生まれ変わったが、スタイリングの美しさにはむしろ磨きがかかっている。
ボディーサイズは全長×全幅×全高=4730×1985×1355mm。第2世代から2+2クーペに生まれ変わったが、スタイリングの美しさにはむしろ磨きがかかっている。拡大
車名に「PRO」のエンブレムは備わらず、「GT63」の横にチェッカードフラッグが添えられる。
車名に「PRO」のエンブレムは備わらず、「GT63」の横にチェッカードフラッグが添えられる。拡大
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真価はエアロダイナミクスにあり

うたい文句は「レーストラックでの一層の敏しょう性を求めたモデル」だが、スペックを見る限りは正直、肩透かしを食らわされたと感じるかもしれない。変更点は、まずV型8気筒4リッターツインターボエンジンの最高出力が612PSに、最大トルクが850N・mにまで高められていること。とはいえ、ベース車の585PS、800N・mとの差は決して大きいとはいえない。

タイヤは標準では「ミシュラン・パイロットスポーツ5」を用意し、無償オプションとして「パイロットスポーツ カップ2 R」を選ぶこともできる。スタビライザーバーを廃して4輪の電子制御ダンパーを連関させたAMGライドコントロールサスペンション、リアアクスルステアリングなどは相応にチューニング。さらにはAMGセラミックハイパフォーマンスコンポジットブレーキシステムがおごられる。フロントのホイールの奥に見えるのは、6ピストンの巨大なキャリパーと、420mmという大径のローターだ。

それだけでも、まだPROを名乗るほどではない気もする。いや、実はこのクルマの最大の進化点はエアロダイナミクスである。

外観上すぐに分かる箇所としては、サイドエアインテークが拡大されてホイールアーチ内、ブレーキの冷却、そして一層のダウンフォース獲得を可能にしたフロントバンパー、そして固定されたリアスポイラーが挙げられる。しかしながら、キーとなっているのは実は床下。のぞき込むと、そこにはブレーキ、そしてリアディファレンシャルの冷却を意図したディフューザーやインレット、そしてダウンフォース獲得につながるストレーキなどが各部に装着されているのだ。これらの効果でフロントのリフトが30kg減じられ、リアの最大ダウンフォースは15kg増加しているという。

ヘッドランプの下にも大きなエアインテークが設けられ、パナメリカーナグリルとつながるかのような大開口部を形成。左右それぞれの奥にラジエーターを搭載している。
ヘッドランプの下にも大きなエアインテークが設けられ、パナメリカーナグリルとつながるかのような大開口部を形成。左右それぞれの奥にラジエーターを搭載している。拡大
リアには固定式の大型スポイラーを装備。バンパー下部に整然と並んだディフューザーが高い効果を予感させる。
リアには固定式の大型スポイラーを装備。バンパー下部に整然と並んだディフューザーが高い効果を予感させる。拡大
タイヤ&ホイールはフロントが295/30ZR21でリアが305/30ZR21。サーキットテストゆえに試乗車は無償オプションの「ミシュラン・パイロットスポーツ カップ2 R」を履いていた。
タイヤ&ホイールはフロントが295/30ZR21でリアが305/30ZR21。サーキットテストゆえに試乗車は無償オプションの「ミシュラン・パイロットスポーツ カップ2 R」を履いていた。拡大
フロントミドに積まれる4リッターV8ツインターボエンジンは最高出力612PS、最大トルク850N・mを発生する。
フロントミドに積まれる4リッターV8ツインターボエンジンは最高出力612PS、最大トルク850N・mを発生する。拡大

速度感がマヒしてくる

ナルホドと納得していたら試乗の順番がやってきた。イン/アウト含む5周を2スティント、いずれも先導車付きでの走行だが、引っ張ってくれるのは往年のミスターDTMことベルント・シュナイダー氏。ヌルい走りになるという心配は無用である。

コースに出て、案の定すぐに全開近くまでペースが上がった走行で、まず感心させられたのはスタビリティーの高さだった。アクセルペダルを深く踏み込むと、ホイールスピンなどとは無縁にパワーを4輪に余さず伝えて、GT63 PRO 4MATIC+はすさまじいダッシュを見せる。もちろん4WDの恩恵も大きいに違いない。時折そぼ降る雨にところどころウエットパッチが残るなか、ステアリングを戻し切る前から踏み込み始めても、クルマは安定し切ったままだ。

思い切って飛び込んだつもりのコーナーでも挙動は落ち着きはらったもので、すぐに右足をブレーキからアクセルに踏み換えることができる。特に高速コーナーでは強烈な横Gに体が持っていかれそうになるほど。一方、車重があるため低速コーナーで姿勢を乱したときには動きは比較的速めだが、それもすぐに収束してしまう。まるで、クルマが上から地面に向けて押さえつけられているかのような感覚である。

これだけシャシーの懐が深いと、速度感がマヒしてくる。今回、マニュアルモードではレブリミット到達時にメーターの点滅だけでなくピーッというビープ音でも変速タイミングを知らせるようになっている。それに合わせてパドルをはじき、さらにむさぼるようにアクセルを踏んでいくと、200km/hオーバーもあっという間だ。

ドライブトレインは4WDの「AMG 4MATIC+」。前後トルク配分は50:50から0:100の間でシームレスに変わる。
ドライブトレインは4WDの「AMG 4MATIC+」。前後トルク配分は50:50から0:100の間でシームレスに変わる。拡大
この試乗車のインテリアはブラックのレザーとアルカンターラにイエローのステッチの組み合わせ。センターコンソールやドアアームレストにカーボンが使われているが、このあたりは(予算次第で)いかようにでも仕立てられそうだ
この試乗車のインテリアはブラックのレザーとアルカンターラにイエローのステッチの組み合わせ。センターコンソールやドアアームレストにカーボンが使われているが、このあたりは(予算次第で)いかようにでも仕立てられそうだ拡大
バケット形状のシートはバックレストにAMGロゴが入る。第2世代に生まれ変わってキャビンが格段に広くなったのもポイントだ。
バケット形状のシートはバックレストにAMGロゴが入る。第2世代に生まれ変わってキャビンが格段に広くなったのもポイントだ。拡大
メーターはセンターだけバイザーをカットした特徴的なスタイル。タコメーターが左右に水の波紋のように広がるこれは「スーパースポーツ」と呼ばれる表示スタイル。
メーターはセンターだけバイザーをカットした特徴的なスタイル。タコメーターが左右に水の波紋のように広がるこれは「スーパースポーツ」と呼ばれる表示スタイル。拡大

たまにはサーキットをというカスタマーに

実はこのメルセデスAMG GT63 PRO 4MATIC+の0-100km/h加速は3.2秒で、GT63 4MATIC+と変わらない。出力は向上しているのに……ということは、つまりダウンフォースが効いているということ。極端に言えば、緊張感ある3.2秒ではなく、誰もが出せる3.2秒というわけだ。

まさにスーパースポーツカーのハイパフォーマンスを、よりリラックスして引き出し、楽しむことができるのがGT63 PRO 4MATIC+である。「PRO」を名乗っているが、実はターゲットはアマチュアのサーキット愛好者と見るべきだろう。

そういえば試乗中、ブレーキもパワートレインもまったくへこたれることなく、その点でも安心して走り切ることができた。これもまた走り好きのアマチュアにとってはありがたいポイントに違いない。

メインは普段使い。けれども、せっかくメルセデスAMG GTのようなクルマを所有するなら時々はサーキット走行も楽しみたいというユーザーにとって、GT63 PRO 4MATIC+は最良の選択となるだろう。ただし、日本導入はおそらく実現しそうだが、現時点ではまだ決定には至っていないということだ。

(文=島下泰久/写真=メルセデス・ベンツ/編集=藤沢 勝)

最高速が317km/hに設定されている「GT63 PRO 4MATIC+」。3.2秒の0-100km/h加速のタイムは「GT63 4MATIC+」と同じだが、0-200km/h加速は0.5秒速い10.9秒だ。
最高速が317km/hに設定されている「GT63 PRO 4MATIC+」。3.2秒の0-100km/h加速のタイムは「GT63 4MATIC+」と同じだが、0-200km/h加速は0.5秒速い10.9秒だ。拡大
ステアリングホイールは「AMGダイナミックセレクト」のダイヤル付き。左右に巻かれたアルカンターラがレーシーな雰囲気を高めている。
ステアリングホイールは「AMGダイナミックセレクト」のダイヤル付き。左右に巻かれたアルカンターラがレーシーな雰囲気を高めている。拡大
サーキット走行を続けてもブレーキもパワートレインもまったくへこたれる気配がなかった「GT63 PRO 4MATIC+」。温度管理に気を使わずに済むという点ではアマチュアドライバーにこそ最適といえるかもしれない。
サーキット走行を続けてもブレーキもパワートレインもまったくへこたれる気配がなかった「GT63 PRO 4MATIC+」。温度管理に気を使わずに済むという点ではアマチュアドライバーにこそ最適といえるかもしれない。拡大

テスト車のデータ

メルセデスAMG GT63 PRO 4MATIC+

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4730×1985×1355mm
ホイールベース:2700mm
車重:--kg
駆動方式:4WD
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:9段AT
最高出力:612PS(450kW)/5500-6500rpm
最大トルク:850N・m(86.7kgf・m)/2350-5000rpm
タイヤ:(前)295/30ZR21 102Y XL/(後)305/30ZR21 107Y XL(ミシュラン・パイロットスポーツ カップ2 R)
燃費:14.1リッター/100km(約7.1km/リッター、WLTPモード)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--

テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

メルセデスAMG GT63 PRO 4MATIC+
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島下 泰久

島下 泰久

モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。

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