ホンダ・シビックRS(FF/6MT)
湧き上がる運転欲求 2024.11.12 試乗記 「ホンダ・シビック」の新グレード「RS」に試乗。シビックにとっては由緒正しきスポーティーグレードだが、なんと最新モデルは6段MT専用というマニアックな設定だ。自慢のレブマッチシステムや専用仕立てのシャシーなどの仕上がりをリポートする。MT専用モデルが全体の7割に
マイナーチェンジを受けたホンダ・シビックの発売から約1カ月経過後の受注台数は、約3000台に達したという。なんと計画の約6倍(!)である。
しかも、そのうちの7割弱、約2000台を占めているのが新設定のMT専用グレードRSであり、聞けばその多くが20代のユーザーらしい。一体何が起きているのだろうか!?
シビックには国内市場に復活した先代の時点で1.5リッターターボエンジンに6段MTを組み合わせたモデルが用意されており、しかもそれが若い世代のユーザーに受けているのだという話は、すでに聞かされていた。RSは、そうしたすでにあるニーズを見越したうえで、さらに彼らが喜ぶようなスパイスを加えたモデルであり、ここまでの規模感だったかはともかく、ある程度売れる確信はあっただろうなとは思う。
それにしても約420万円という価格は若者には高価すぎないか? そんな声も聞こえてきそうだが、それが本当に欲しいものなら、残価設定型ローンなどを駆使して手に入れるのが今の若い世代である。そういう意味でもシビックRSは、手ごろとはいわないけれど、リアルな射程圏内にいたということだろう。
ベースのシビックからの変更箇所は、かなりマニアックだ。外装はヘッドライト周辺やドアミラー、ルーフアンテナなどをブラック化して、前後に「RS」のエンブレムを装着しただけ。内装も黒を基調に赤いステッチなどを各部にあしらった程度である。
速さよりも走りの快感を追求
注目はその中身。1.5リッターVTECターボエンジンはスペックはそのまま、北米仕様の「Si」から拝借した慣性モーメントを30%低減した軽量シングルマスフライホイールを組み合わせることで素早い回転落ちを実現し、そこに「タイプR」譲りのレブマッチシステムを組み合わせた。また、「ノーマル」「スポーツ」「ECON」「インディビジュアル」の選択肢をそろえたドライブモードスイッチも装備している。
サスペンションは車高を5mmだけ下げてスプリングは11%ハードに。ダンパーは主に微低速域の応答性を高めている。パワーステアリングはトーションバーを6割ほどハードなものにして操舵感を高めた。フロントのコンプライアンスブッシュを液封からソリッドに変更したのも、狙いは一緒だろう。
さらに、ブレーキはフロントのローターを大径化。サーボの制御ロジックを変更して、コントロール性を高めたとうたう。
そう、ハードウエアにも目新しいものは特にない。他グレードのパーツを賢く使いつつ、入念なチューニングを施したのみである。しかも、そうやって目指したのは速さではなく走りの快感だということも、RSのポイントである。
撮影の日は早朝に都内を出て首都高速に乗り、中央道に乗り継いで西を目指した。まず感心させられたのは、実は走りではなくGoogleの車載システムの優秀さだった。あわただしく出発したあと、走行中に目的地を音声で伝えたら、一発で理解し、セット完了。何度も言い直させられたり、「本当にセットしますか?」と繰り返されたりすることもない。サクサクとした操作感は、クルマで出かける体験をアップデートしてくれる。
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渋滞だって楽しめる
朝の中央道下りのダラダラとした流れのなかでも、シビックRSは6速に入れっぱなしのままでいける。エンジン回転数は80km/hの1500rpm前後でもむずがることはない。MTながらアダプティブクルーズコントロールも備わるから、こうした場面でのストレスは極小だ。
いや、都心の渋滞も心配は要らない。レブマッチシステムは頑張って走らせるときだけでなく低速で変速を繰り返す場面でも有用で、MT面倒くさいなと思わせることは、ほぼない。ドライバー側にクランク状に曲げてまで近づけたショートストロークのレバーは小気味よい操作感で、クラッチペダルの重さも適度。渋滞だって、むしろクルマとの対話を楽しむ場になる。
乗り心地は、さすがに多少ツンツンとした感触が増している。特に路面の継ぎ目を通過する際には、体が突き上げて結構揺すられた。
道がすいてきたので、もう少しペースを上げていく。低速で硬めの乗り心地は、速度が高まってくれば収まるかと思いきや、そういう感じではなさそう。ここは空力で抑えられそうだが、タイプRのようにいつもやりすぎてしまうホンダがあえてここでとどめたことは、むしろRSの価値かもしれない。
とはいいつつ、純正アクセサリーにはダックテールタイプのテールゲートスポイラーが用意されている。「ヨーロッパで純正オプションとして設定されており、日本より速度域の高いヨーロッパでのクルージング性とスマートなスタイリングの両立を追求」とのことで、個人的にはこれを試してみたいとも思った。
つくり込みの丁寧さがにじみ出る
シビックRSが一番イキイキするのは、やはりワインディングロードだ。ステアリングフィールは、洗練されているが冗舌ではなかった従来のシビックに比べて、ダイレクトな反力感がうれしい。切り込めば、対話に必要な最小限のロールを伴いながらインに切れ込んでいき、クルマは思ったとおりのラインをトレース。安定感と操りがいのバランスは絶妙だ。
低中速域で十分なトルクを発生するエンジンは、どこから踏んでもクルマを前に進めてくれるが、せっかくのショートストロークのMT、しかもレブマッチシステム付きだけに、積極的にシフトダウンしていくのが正しい乗り方というものだろう。
計算上、2速6500rpmでの速度は94km/hあたり。エンジン自体、5000rpm台後半から回り方が苦しげになってくるから、ギア比をもう少し3速に寄せたい気もする。もちろん、もう少し上まで回れば申し分ないのだが、シビックRSは常に全開よりも、MTの操作を楽しみながら適度なペースで楽しむクルマだと考えれば、これもこのぐらいでいいのかもしれない。
振り返って思うのは、試乗している間はそんな風にアレコレ試したり、工夫してみたりと、ずっとクルマや運転のことばかり考えていたなということだ。それは、まるでステアリングホイールを握る手のひらを通じて、開発者たちと対話しているかのような、とても幸せな時間だった。特別新しい提案があるわけではないが、あえて今の時代にMTを選ぶようなユーザーのことを思い描きながら丁寧につくり込まれたに違いない一台。シビックRSとは、そんなクルマである。
(文=島下泰久/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝/車両協力=本田技研工業)
テスト車のデータ
ホンダ・シビックRS
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4560×1800×1410mm
ホイールベース:2735mm
車重:1350kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段MT
最高出力:182PS(134kW)
最大トルク:240N・m(24.5kgf・m)
タイヤ:(前)235/40R18 95Y XL/(後)235/40R18 95Y XL(グッドイヤー・イーグルF1アシンメトリック2)
燃費:15.3km/リッター(WLTCモード)
価格:419万8700円/テスト車=434万7200円
オプション装備:ボディーカラー<ソニックグレーパール>(3万8500円) ※以下、販売店オプション フロアカーペットマット(5万2800円)/ドライブレコーダー<前後2カメラ>(5万7200円)
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:1147km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:222.2km
使用燃料:16.4リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:13.5km/リッター(満タン法)/13.0km/リッター(車載燃費計計測値)

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
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