トヨタ海外仕様車試乗会(後編)【試乗記】
海の向こうの気になるトヨタ(後編:FJクルーザー/フォーチュナー/ハイラックス) 2010.10.31 試乗記 先に、「マトリックス」や「アイゴ」などハッチバックを中心にリポートした「日本で買えないトヨタ」の試乗記。後編では、個性的な3台のSUVを紹介する。別の進化の最新型
「三菱パジェロ」が時代の寵児(ちょうじ)だった1990年代の初めごろから、クロスカントリー4WD車から派生したワゴンとその周辺をRVなんて呼んだものである。RV、すなわちレクリエーショナル・ビークル。当時はあまりにストレートで笑っちゃうネーミングだなんて思ったが、いまになってみれば立派に意味のある名前だ。それまで働いていた土曜も休みになって、世間が「余暇だ」「ライフスタイルだ」などと言い始めたあの頃の気分を思い出す。
その後、ブームの終焉(しゅうえん)とともにRVという言葉も徐々に使われなくなっていった。代わって出てきたのがSUV(スポーツ・ユーティリティ・ビークル)だのクロスオーバーといった名称だ。もっともこれらは米国直輸入の言葉で、われわれの生活実感とは直接の関係がないだけに、字ヅラが平面だ。ESPやUSBみたいに見えてしまうのは筆者だけだろうか?
この20年間でかつてのRVはデザインやメカニズムの面で格段の洗練を遂げ、乗用車として別モノになった。しかし同時に捨てていったものもある。ラダーフレームシャシーであり、オールテレーンタイヤであり、センターデフロックであり(センターデフ自体ないクルマも多いくらいだ)、つまりは悪路の走破性を少しずつ削っていくことで進化を果たしてきたわけだ。RV都市化の20年と言ってもいいかもしれない。
ところが、そう信じていたはずなのに、実はそうではなかったというのが今回の3台である。最新型だというのにラダーフレームはあるし、リアサスはリジッドだし、「ハイラックス」のリアスプリングにいたってはリーフ式。RVと呼んでいたころの懐かしいスペックがここにある。われわれが見てきた20年の蓄積が「レクサスRX」として結実しているのなら、こっち側の最新型はどうなっているのか?
まずは年内の日本発売が決まっている「FJクルーザー」に乗る。
リメイクは上々
昔の歌や映画を今の解釈で作り直す行為をリメイクなどというが、自動車の分野でこれがはやったのが1990年の後半から。「ニュービートル」、「ニューミニ」、「フォード・サンダーバード」、「フォードGT」、最近では「ダッジ・チャレンジャー」、「シボレー・カマロ」などが生まれた。こう並べてみるとはっきりするが、そのお得意様はアメリカ市場。2003年にコンセプトカーが発表され、2006年にアメリカで発売された「FJクルーザー」もこの流れに乗ったクルマといえるだろう。元ネタは言うまでもなくランクル40系である。
今回乗ったのは4リッターV6エンジン(260hp、37.5kgm)に5段ATを組み合わせるパートタイム4WD仕様。ラダーフレームを持つシャシーは「ランドクルーザープラド」と共用だが、FJクルーザーの方がホイールベースが10cm短い。しかもリアのオーバーハングが短く、車重もおおむね100kg軽い。エンジニアの方に聞いたところでは、オフロードはかなりイケる、とのこと。アメリカでは本格オフ車にモディファイして楽しんでいる層もいるそうだ。
エンジンは5500rpmまできっちり回り、そういう走り方をするとかなり速い。正確には上屋とラダーフレームの動きが微妙にズレるのか、体感的なスピードが実際のスピードを若干上回るタイプといえそうである。
ただしそのズレは思っていたよりずっと小さかった。路面の不整を通過しても足元が無用に暴れることはないので乗り心地は悪くないし、ステアリングを切ってからターンインの姿勢を取るまでに「時差」を感じることもない。クロカン四駆にありがちなグラッと傾くロールも抑えられている。プラドと比較して軽量で、しかも全幅が広いことも効いているのだろう。
天地方向に狭いグラスエリアや、太いCピラーのせいで生じる死角が大きいので、日本の都市部で乗るにはそれなりに気を遣いそう。しかし乗用車としてのまとまりは、思っていたよりずっと文化的だった。
ハイテクに負けない“熟成技”
トヨタの「IMVプロジェクト」というのをご存知だろうか。IMVとはイノベーティブ・インターナショナル・マルチパーパス・ビークルの意。専用のピックアップ・トラックとマルチパーパス・ビークル(多目的車)を開発して、世界規模で最適な生産および供給体制を構築する大規模なプロジェクトのことで、日本以外の工場、具体的にはタイ、インドネシア、南アフリカ、アルゼンチンの新興4カ国をグローバルな生産拠点と位置付けている。2004年の夏にスタートした。
「フォーチュナー」と新型「ハイラックス」は、そのプロジェクトによって生まれたクルマで、今回試した仕様は前者がタイ向け、後者がオーストラリア向けだった。どちらもシャシーにはラダーフレームを持ち、サスペンションはフロントがダブルウィッシュボーン、リアが4リンクのリジッドとなるなど基本構造は同じ。ハイラックスについては、前述のとおりリアスプリングがよりヘビーデューティーなリーフ式とされている。
「フォーチュナー」は3リッターの直4ディーゼルエンジン(163ps、35.0kgm)を搭載する仕様だったが、エンジンの静かさと吹け上がりのスムーズさが印象的だった。決して誇張ではなく、一瞬6気筒と勘違いするくらい洗練されているし、低回転からのトルクも潤沢で、ハイラックスの4リッターV6に負けてはいない。
アッパーボディとラダーフレームは8点締結されており、フレームの振動を打ち消すためのダイナミックダンパーのたぐいは持たないそうだが、これがまた「FJクルーザー」にもまして自然な剛体感を持ち、乗り心地はとてもスムーズだ。ロードノイズの遮断については、もしかするとモノコックボディより上ではないかと思えるほど優れていた。
前回試したハッチバック車にしろ、今回のユーティリティ車にしろ、どのクルマも特にハイテクなスペックは持たず、むしろ古典的に見える。しかし熟成技術の組み合わせがもたらす安定感に満ちているというか、クルマとしてとても骨太な感触を持っていた。日本だとなかなか触れられないトヨタの「ローテクな」クルマたちは、ハイテクなトヨタ車に勝るとも劣らない楽しさにあふれていた。
(文=竹下元太郎/写真=高橋信宏)
拡大
|
拡大
|
拡大
|
拡大
|

竹下 元太郎
-
BYDシールAWD(4WD)【試乗記】 2026.1.17 BYDのBEVサルーン「シール」の機能アップデートモデルが登場。強化のポイント自体はそれほど多くないが、4WDモデルの「シールAWD」は新たに電子制御式の可変ダンパーを装備したというから見逃せない。さまざまなシーンでの乗り心地をチェックした。
-
マツダCX-60 XDドライブエディション ナッパレザーパッケージ(4WD/8AT)【試乗記】 2026.1.14 「マツダCX-60」に新グレードの「XDドライブエディション ナッパレザーパッケージ」が登場。スポーティーさと力強さ、上質さを追求したというその中身を精査するとともに、国内デビューから3年を経た“ラージ商品群第1弾”の成熟度をチェックした。
-
カワサキKLX230シェルパS(6MT)【レビュー】 2026.1.13 その出来には“セロー乗り”も太鼓判!? カワサキのトレイルバイク「KLX230シェルパ」に、ローダウン仕様の「シェルパS」が登場。安心の足つき性で間口を広げた一台だが、実際に走らせてみると、ストリートでも楽しめるオールラウンダーに仕上がっていた。
-
メルセデス・ベンツC220dラグジュアリー(FR/9AT)【試乗記】 2026.1.12 輸入車における定番の人気モデル「メルセデス・ベンツCクラス」。モデルライフ中にも年次改良で進化し続けるこのクルマの、現在の実力はいかほどか? ディーゼルエンジンと充実装備が魅力のグレード「C220dラグジュアリー」で確かめた。
-
日産ルークス ハイウェイスターGターボ プロパイロットエディション(FF/CVT)【試乗記】 2026.1.10 日産の軽スーパーハイトワゴン「ルークス」がフルモデルチェンジ。「見えない危険が……」のテレビCMでお茶の間をにぎわせているが、走る、曲がる、止まるをはじめとしたクルマ全体としての仕上がりはどうか。最上級グレードをテストした。
-
NEW
クルマの乗り味の“味”って何だ?
2026.1.20あの多田哲哉のクルマQ&A「乗り味」という言葉があるように、クルマの運転感覚は“味”で表現されることがある。では、車両開発者はその味をどう解釈して、どんなプロセスで理想を実現しているのか? 元トヨタのエンジニア、多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
プジョー208 GTハイブリッド(FF/6AT)【試乗記】
2026.1.20試乗記「プジョー208」にマイルドハイブリッド車の「GTハイブリッド」が登場。仕組みとしては先に上陸を果たしたステランティス グループの各車と同じだが、小さなボディーに合わせてパワーが絞られているのが興味深いところだ。果たしてその乗り味は? -
ベントレー・コンチネンタルGTアズール(4WD/8AT)【試乗記】
2026.1.19試乗記ベントレーのラグジュアリークーペ「コンチネンタルGT」のなかでも、ウェルビーイングにこだわったという「アズール」に試乗。控えめ(?)な680PSのハイブリッドがかなえる走りは、快適で満ち足りていて、ラグジュアリーカーの本分を感じさせるものだった。 -
第327回:髪もクルマもナイスファイト!
2026.1.19カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。日産の新型「ルークス」で夜の首都高に出撃した。しっかりしたシャシーとターボエンジンのパワフルな走りに感心していると、前方にスーパーカーの姿を発見。今夜の獲物は「フェラーリ・ローマ」だ! -
日本で売れるクルマはあるのか!? 最新の“アメリカ産ニホンシャ”を清水草一が検証する!
2026.1.19デイリーコラムアメリカからの外圧による制度変更で、北米生産モデルの国内導入を決めたトヨタ。同様に、今後日本での販売が期待できる「海外生産の日本車」には、どんなものがあるだろうか? 清水草一が検証してみた。 -
フェラーリ12チリンドリ(後編)
2026.1.18思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が「フェラーリ12チリンドリ」に試乗。前編では伝家の宝刀であるV12エンジンを絶賛した山野。後編ではコンビを組むシャシーの印象を余すところなく聞いてみた。































