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アフィーラに宿るソニーの魂! ソニー・ホンダモビリティが提供する新しい移動体験の真価

2025.01.24 デイリーコラム 林 愛子
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プレスリリースのほとんどがサウンド関連

ソニーとホンダが次世代電気自動車(EV)の開発で提携すると発表(参照)してから、間もなく3年。ついにオンラインでのクルマの予約が始まった。価格は、特定の機能と装備の3年分の利用料込みで、8万9900ドルから。1ドル156円換算で1400万円を超える。2025年内には米カリフォルニア州で正式に発売し、納車は2026年中旬の予定。当初からの「2025年に最初のモデルを出す」という宣言どおりのスケジュールで進んでいるとみてよさそうだ。

ソニー・ホンダモビリティ(SHM)はこれまで、国内外のイベントで車両のモックアップを展示し(その1その2)、コンセプトや搭載される機能について説明を重ねてきた。2025年1月に米ラスベガスで開催されたITとエレクトロニクスの見本市「CES 2025」では、発売予定の「AFEELA(アフィーラ)1」のプロトタイプを展示。このタイミングで、オーディオストリーミングサービス、Spotifyとのパートナーシップや、アフィーラブランドを体験できる新拠点「AFEELA Studio & Delivery Hub」の計画など、計7本のプレスリリースを出している。新型車一台に対してプレスリリース7本をほぼ同時発信とは尋常じゃないが、そこにSHMの戦略が隠れているように思う。

プレスリリースの内訳は、CES出展に関するリリースが1本、ポリフォニー・デジタルやDolby Atmos、Amazon MusicとAudible、そして上述のSpotifyなど、サウンド関連のパートナーシップやサービス導入に関するリリースが4本、そして修理・メンテナンスに関するリリースとブランド体験拠点(ショールームのようなもの)に関するリリースが各1本。つまり、半数以上が車内の、しかもサウンドまわりに関する内容だったのだ。ソニーは通信を祖業とし、音響機器の進化とともに発展してきたメーカーだ。ソニーの世界観において、サウンドは何にも勝る最重要ファクターなのである。

「CES 2025」でのプレスカンファレンスより、「アフィーラ1」の詳細を語るSHMの水野泰秀会長兼CEO。
「CES 2025」でのプレスカンファレンスより、「アフィーラ1」の詳細を語るSHMの水野泰秀会長兼CEO。拡大
「アフィーラ1」は、“クルマ”としては航続距離300マイル(約480km)を標榜(ひょうぼう)するEVだが、その真価は移動中に車内で提供されるユーザーエクスペリエンス(UX)にある。SHMは同車について「クリエイターとの共創やソフトウエアアップデートを通じて、進化し続ける」クルマと表している。
「アフィーラ1」は、“クルマ”としては航続距離300マイル(約480km)を標榜(ひょうぼう)するEVだが、その真価は移動中に車内で提供されるユーザーエクスペリエンス(UX)にある。SHMは同車について「クリエイターとの共創やソフトウエアアップデートを通じて、進化し続ける」クルマと表している。拡大
ディスプレイ上にズラリと並んだ、音楽・映像コンテンツの提供サービス等のアイコン。
ディスプレイ上にズラリと並んだ、音楽・映像コンテンツの提供サービス等のアイコン。拡大

期待されるアフィーラならではのサウンド体験

今このタイミングでソニーが自動車産業に本格参入したのは、必然だったのかもしれない。自動運転技術が進化しているとはいえ、依然としてドライバーの視覚に頼るところは大きく、視覚を奪う機能の拡充には限界がある。アフィーラ1のコンソールには大きなディスプレイが搭載されているが、ドライバーの視覚を奪うようなサイズにはできないし、現状では「パッセンジャーがエンターテインメントを楽しんでいる画面が、運転席から見えないようにフィルターをかける」といった工夫も必要になる。現時点での技術的要件、法規的要件、そして倫理的要件を踏まえれば、車内の体験価値向上に向けて注力すべき領域は、視覚よりも聴覚なのだ。

サウンドに関する4本のプレスリリースのなかでも、特に乗り心地や動的な質感を重視する『webCG』読者に訴えそうなものだったのが、ポリフォニー・デジタルとの協業についてである。車内オーディオに加速・減速やコーナリング時の効果音「e-Motor Sound」を組み込むというものだ。EVはエンジン搭載車と比べて静粛性に優れるがゆえにロードノイズなどが目立っていたが、アフィーラではSHM独自のノイズキャンセリング技術でノイズを打ち消すいっぽうで、ドライバーとクルマとの一体感を追求するために、あえての効果音を用意する。ポリフォニー・デジタルはゲーム『グランツーリスモ』シリーズで培ってきたサウンド開発のノウハウや技術に強みがあり、アフィーラだけのサウンド体験が期待できそうだ。

40個の車載センサーや最大800TOPSの計算能力を持つECU、そして独自のAI技術により、エンド・ツー・エンドの全域で高度な運転支援を実現するという「アフィーラ1」。それでも、ドライバーが運転操作からまったく開放される、完全な自動運転を実現しているわけではない。
40個の車載センサーや最大800TOPSの計算能力を持つECU、そして独自のAI技術により、エンド・ツー・エンドの全域で高度な運転支援を実現するという「アフィーラ1」。それでも、ドライバーが運転操作からまったく開放される、完全な自動運転を実現しているわけではない。拡大
「アフィーラ1」のインストゥルメントパネルまわり。同車には対話型のパーソナルエージェント「アフィーラ パーソナルエージェント」が搭載されており、自然な対話を通じてさまざまな車載機能をコントロールできるほか、エージェントとの会話を楽しんだり、行動計画の提案を受けたりもできるという。
「アフィーラ1」のインストゥルメントパネルまわり。同車には対話型のパーソナルエージェント「アフィーラ パーソナルエージェント」が搭載されており、自然な対話を通じてさまざまな車載機能をコントロールできるほか、エージェントとの会話を楽しんだり、行動計画の提案を受けたりもできるという。拡大

ソフトの世界とハードの世界が交差する

今回のアフィーラ1をホンダが携わった新型車と見ると、物足りなく思う人がいるのは当然のことかもしれない。ホンダは同じCES 2025で「Honda 0(ゼロ)」シリーズの「Saloon(サルーン)」と「SUV」のプロトタイプを披露し(参照)、あわせて専用ビークルOS「ASIMO(アシモ)OS」の搭載を発表した。アシモの進化の歴史を見てきた世代にとっては心くすぐられる話だ。わかりやすい話題が多く、出展車両も目立つものだったHonda 0と比べると、アフィーラの発表は、モノに寄った既存の自動車の物差しで見ると、いささかわかりづらいものだったかもしれない。しかし、それぞれ異なるアプローチである点にこそ価値がある。

ホンダは1980年代にASIMOの開発を開始し、2022年にいったんプロジェクトを終えるも、そこで培ってきたノウハウをここに復活させた。ソニーは1990年代から手がけてきたグランツーリスモというコンテンツのコア技術をリアルな世界に持ち込んだ。ハードウエアから始まったASIMOがOSとなってITの世界に息づき、ITの世界で育まれたグランツーリスモの技術がEVというハードウエアのなかに根ざす。そう考えると、なかなかにドラマチックな展開だ。

将来的には車内の体験価値向上に視覚や触覚、嗅覚、さらには味覚までも関わるようになるかもしれない。今までにない感動体験のための仕掛けをつくるには新しいパートナーシップが必要となるはずで、SHMはアフィーラをアイコンにその仲間を集めていくのではないだろうか。まずは2026年に予定されている日本国内でのアフィーラ1の発売を待ちたい。

(文=林 愛子/写真=ソニー・ホンダモビリティ/編集=堀田剛資)

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「CES 2025」ではホンダも「Honda 0」シリーズの2台のプロトタイプを公開。両車に搭載予定のさまざまなデジタル技術やソフトウエアについても発表し、大いに注目を集めていた。
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「アフィーラ1」の車内には、シートごとに最適化された独自のサウンドシステムとディスプレイを配置。SHMでは社外のクリエイターやデベロッパーとの共創により、この車内で提供する、走行・車両データを用いたモビリティーならではのエンターテインメントの創出にも取り組んでいる。
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「CES 2025」のプレスカンファレンスでは、すでにパートナーシップを結んでいるコンテンツサプライヤーなどもあわせて紹介された。アフィーラならではのUXの実現は、こうした仲間づくりに成否がかかっているのだ。
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林 愛子

林 愛子

技術ジャーナリスト 東京理科大学理学部卒、事業構想大学院大学修了(事業構想修士)。先進サイエンス領域を中心に取材・原稿執筆を行っており、2006年の日経BP社『ECO JAPAN』の立ち上げ以降、環境問題やエコカーの分野にも活躍の幅を広げている。株式会社サイエンスデザイン代表。

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