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中国BYDが日本専用に開発するという軽自動車はどんなスペックか?

2025.05.21 デイリーコラム 佐野 弘宗
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日本の乗用車販売のメインストリームに進出

さる2025年4月24日、中国BYDの日本法人であるBYDオートジャパンは、2026年度後半に、軽乗用の電気自動車(BEV)を日本導入すると発表した。

これまで軽自動車(以下、軽)の輸入車が一般販売された例は数えるほどしかなく、近年では、2001年~2004年に販売された「スマートK」と、現在も販売中の「ケータハム・スーパーセブン600(以前の車名は170)」くらいのものだ。どちらも特殊なパッケージレイアウトの2シーター車で、たまたま小改造で軽規格におさまることから、インポーターの遊び心で実現させたニッチ商品である。普通のユーザーが、日本の軽と比較検討して買うような商品ではない。

また、2023年4月から佐川急便やマツキヨに納入されはじめた軽商用BEVの「ASF2.0」も中国からの輸入車だが、リース販売のみだし、そもそもASFは日本ブランドである。

BYDオートジャパンによると、BYDの軽BEVは「日本の乗用車販売のメインストリームである軽自動車分野への進出」のために「乗用車タイプで、日本独自の軽規格に準拠した専用設計」になるとのことだ。その文言から、BYDは日本の軽乗用車市場を本気で攻略するつもりにみえる。

BYDの軽BEVは“乗用”とのことなので、競合するのは今のところ「日産サクラ」と「三菱eKクロスEV」しかない。日産、三菱ともに総電力量20kWhの三元系(リチウムイオン)電池で、WLTCモードによる一充電走行距離(以下、航続距離)は180km。急速充電性能が最大30kWにとどまるのは、時間あたり料金設定しかない日本の急速充電インフラには不利だ。

日本では数少ない乗用軽BEVの「日産サクラ」(写真)と「三菱eKクロスEV」の兄弟。BYDにとっては与(くみ)しやすしと考えられたのだろうか。
日本では数少ない乗用軽BEVの「日産サクラ」(写真)と「三菱eKクロスEV」の兄弟。BYDにとっては与(くみ)しやすしと考えられたのだろうか。拡大

駆動用バッテリーの容量はいかほどか?

では、それに対抗するであろうBYDの軽BEVはどんな姿、どんな性能になるのか……だが、ヒントとなりそうな前例はほぼない。それくらい日本の軽規格は独特ということだ。BEVとなれば、なおさらだろう。

たとえば、日本で買える最小BYDである「ドルフィン」でも、あの「フォルクスワーゲン・ゴルフ」に匹敵するCセグメントサイズである。本国にはさらに小さい「シーガル」があるが、それでも全長3780mm×全幅1715mm。日本でいう3ナンバー幅で、全体のサイズ感は「スズキ・スイフトスポーツ」に近い。

どれも軽からはほど遠い……と思いつつネット検索していたら、BYDが2019年~2021年に販売していた「e1」がヒットした。e1のスリーサイズは3465×1618×1500mmで、日本の軽規格より全長で約7cm、全幅で約15cmオーバーしているが、2340mmというホイールベースは近年の軽のそれ(2.5m前後)と比較するとかなり短い。結果として、床下の電池スペースは軽に近いと思われる。

そんなe1は総電力量32.2kWhの電池で、航続距離は、WLTCモードと同等といわれるNEDCモードで305km。サクラ/eKクロスEVと比較すると、電池の総電力量も航続距離も1.5倍以上という計算である。

「BYD e1」は全長が3465mmのコンパクトなハッチバック車だ。軽規格からは少しはみ出すが、駆動用バッテリーの容量や一充電走行距離は「日産サクラ」を圧倒。BYD車ではおなじみの大きなセンタースクリーンも備わっている。
「BYD e1」は全長が3465mmのコンパクトなハッチバック車だ。軽規格からは少しはみ出すが、駆動用バッテリーの容量や一充電走行距離は「日産サクラ」を圧倒。BYD車ではおなじみの大きなセンタースクリーンも備わっている。拡大

スーパーハイト化で電池容量を拡大

ただし、e1の電池は、BYDとしては旧世代ともいえる三元系だった。現在のBYDはより低コストで、耐久性や安全性、急速充電性能も高いリン酸鉄(LFP)リチウムイオン電池を大きな売りとする。エネルギー密度ではLFPが不利とされるので、同じ搭載スペースなら三元系よりも総電力量が小さくなる傾向にある。よって、そのままではサクラ/eKクロスEVの1.5倍以上の電池を積めるかはわからない。

しかし、1500mmというe1の全高は、ハイトワゴンとスーパーハイトワゴンが主流の今の軽と比較すると、明らかに低い。全高をハイトワゴンのサクラと同等の1.6m台半ば、あるいはスーパーハイト型の1.7~1.8mとすれば、電池スペースも拡大するはずだ。

スーパーハイト型の乗用軽BEVはまだ存在しないが、商用車の「ホンダN-VAN e:」は十分にヒントになるだろう。N-VAN e:の電池は総電力量29.6kWh、最大50kWの急速充電性能をもつ三元系で、245km(WLTCモード)の航続距離をうたう。ただ、N-VAN e:は超低床パッケージによる広大な積載空間をもつ。その室内空間を乗用車として不足ない程度でよしとするなら、床をもう少し高くして、LFPでN-VAN e:と同等の30kWhか、それ以上の電池を積むのも不可能ではないだろう。

ホンダの商用BEVである「N-VAN e:」。日本の軽市場を本気で攻略するのであれば、BYDの送り込んでくるモデルもスライドドアのスーパーハイトワゴンになることだろう。
ホンダの商用BEVである「N-VAN e:」。日本の軽市場を本気で攻略するのであれば、BYDの送り込んでくるモデルもスライドドアのスーパーハイトワゴンになることだろう。拡大

ホンダもスズキも超えたBYD

まだ見ぬBYDの軽BEVだが、あえて“日本専用開発”とまでうたうからには王道のスーパーハイト型にして、今のN-VAN e:を明確に上回る35~40kWhレベルのLFP電池を積んでくるのではないか。それだけの電池を積めれば、現在のBYDの性能からすると、航続距離300km以上、急速充電性能も60kWクラスを期待できそうだ。

そして、今のBYDの戦略そのままであれば、軽BEVも日本車より明らかに割安な価格で売る。たとえば、額面の本体価格が200万円以下、補助金込みで150万円ちょっと……となれば、さすがに食指を動かされる向きは少なくないだろう。

ただ、これはあくまで筆者の勝手な予測にすぎず、「そもそも輸入車に厳しいうえに、人口減少社会の日本市場のために、海外企業のBYDがそこまでするか?」という疑問もわく。しかし、今のBYDの勢いは素直にすごい。同社の2024年の年間販売は、2022年比62.3%増だった2023年から、さらに41%増の427万台に達した。メーカー別の世界販売ランキングでも前年の10位から6位に上昇。BYDに続く7位以下には、フォード、ホンダ、日産、スズキがならんでいるという状況なのだ。

歴史を振り返れば、かつての日本のクルマ産業も、先達(せんだつ)である欧米にさんざんバカにされながらも、いつしか世界トップと肩をならべるようになった。BYDに往年の日本メーカーと同等以上の勢いを感じるのは事実。せっかくなら、BYDの勢いに日本メーカーが真正面から対抗して、互いに競い合いながら軽BEVの商品力をどんどん引き上げていってほしい。そうすれば、それが日本でのBEV本格普及の第一歩になるかもしれない。

(文=佐野弘宗/写真=BYD、日産自動車、本田技研工業/編集=藤沢 勝)

BYDの国内ラインナップでは一番コンパクトな「ドルフィン」。2025年4月に300万円を切る新たなエントリーグレードが設定された。
BYDの国内ラインナップでは一番コンパクトな「ドルフィン」。2025年4月に300万円を切る新たなエントリーグレードが設定された。拡大
佐野 弘宗

佐野 弘宗

自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。

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