これがSDV量産への第一歩 トヨタの新車載OS「Arene(アリーン)」の正体
2025.06.11 デイリーコラム 拡大 |
先日発表されたトヨタの新型「RAV4」。現行5代目までのモデルを眺めていると、なんとも懐かしいものがこみ上げてくる。初代は1994年にリリース。前年放送のドラマ『あすなろ白書』でブレイクを果たした木村拓哉を起用したCMが話題となり、自動車に興味関心がない層にまでRAV4の名は響き渡った。
その後はモデルチェンジを重ね、2019年発売の5代目からハイブリッド車が加わった。そして今回の6代目モデルはハイブリッド車とプラグインハイブリッド車のみで、ガソリンエンジン車の設定はない。しかも、「SDV(Software Defined Vehicle)の量産の第一歩」という位置づけだ。「プリウス」もSDVもなかった30年前に、いまのRAV4を誰が想像できただろう。
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新型RAV4でドライビング体験はどう変わる?
トヨタのSDV量産化のカギを握る、ウーブン・バイ・トヨタ(WbyT)が中心になって開発を進めてきた車載OSが「Arene(アリーン)」だ。以前から2025年の実用化を目指すとしてきたが、新型RAV4は年度内の発売予定なので、宣言どおりのデビューとなりそうだ。
OSとはさまざまなシステムやアプリケーションなどを統合管理するソフトウエアのこと。スマートフォンでいえば「iOS」や「Android」のことで、多数のシステムを円滑に効率よく稼働させるうえで重要な役割を果たす。ただ、自動車に搭載されるシステムやECUは膨大で、メカニカルな機構とも連動するため、スマホほど簡単にはいかない。テスラもソフトウエアをアップデートするOver The Air(OTA)などを実現しているが、彼らが理想とするSDVには遠く及ばないのが実情だ。
今回の新型RAV4でアリーンが果たす役割は大きく2つ。
1つはエンターテインメント分野。新型RAV4で初搭載となる新世代マルチメディアは、ホーム画面をカスタマイズ可能とし、それぞれに適した設定にすることで操作性の向上を図る。また、音声認識の応答速度や理解精度が向上し、対話がスムーズになるという。
もう1つは運転支援領域で、「Toyota Safety Sense(TSS)」の機能向上に貢献している。走行中のドライバーの異常時対応はよりスムーズに改善され、また、ペダルの踏み間違い等による急加速の抑制機能が新たに加わった。
ソフトウエアが開発の中心にある世界
これら2つの役割が、従来のアップデートやモデルチェンジと何がどう違うのか、実感として分かりにくいのではないかと思う。読み解くポイントはトヨタがアリーンを「ソフトウエアを開発するためのプラットフォーム」に位置づけていることと、今回のデビューを「SDVの量産の第一歩」と表現していることだ。
アリーンは「Arene SDK(ソフトウエア開発キット)」「Arene Tools(ソフトウエア検証ツール)」「Arene Data(データ収集基盤)」という3つの構成要素からなる。
ざっくり言えば、SDKはソフトを開発しやすくするためのもの。従来はハードとソフトが一体開発だったが、両者を切り離したことでソフト開発が行いやすく、しかも横展開ができるようになった。具体的には新型マルチメディアの音声対応ソフトなどに適用されている。Toolsはソフト開発のスピードアップに貢献するもの。開発したソフトは検証が必要だが、コンピューター上でシミュレーションできれば、実車を使った検証プロセスを大幅に削減できる。Dataは走行データを安全に収集するためのもの。顧客の同意のもとに走行データを収集・分析すれば、さまざまなサービスに生かすことができる。将来的には自動運転機能の向上や車内アプリケーションのカスタマイズなどにも利用可能だ。ToolsとDataは今回TSSの開発に活用されたという。
スマホの場合はiOSとAndroidで利用できるアプリケーションが異なる。同じ「LINE」のアプリでも、開発はそれぞれのOSに対して行わなければならない。OSによる違いはユーザー以上に、開発側が感じていることだろう。Appleは使い勝手のよいアプリ開発環境をサードパーティーに提供したことで、iOSに対応するエンジニアが増え、アプリの充実につながっている。ソフトウエア開発のプラットフォームとはそういった効果をもたらすものだ。
スマホにしてもパソコンにしても、世界に普及しているOSは数えるほどしかない。OSの開発や維持には莫大(ばくだい)なリソースがかかるうえに、複数のOSでアプリを開発するのは骨が折れるため、いずれ淘汰(とうた)が起こる。車載OSでも同じだ。アリーンが車載OSとして存続するには覇権を取ることが絶対条件で、そのためにはサードパーティーに開発環境を開放し、アリーンの使い手を増やしていく必要がある。それがSDV量産化への唯一の道であり、その一歩を新型RAV4で踏み出したというわけだ。アリーンが真価を発揮するのはまさにこれから。覇者と呼ぶにふさわしい存在になることを願っている。
(文=林 愛子/写真=トヨタ自動車/編集=藤沢 勝)
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林 愛子
技術ジャーナリスト 東京理科大学理学部卒、事業構想大学院大学修了(事業構想修士)。先進サイエンス領域を中心に取材・原稿執筆を行っており、2006年の日経BP社『ECO JAPAN』の立ち上げ以降、環境問題やエコカーの分野にも活躍の幅を広げている。株式会社サイエンスデザイン代表。
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