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マツダも国内向けに採用 テスラの急速充電システム「スーパーチャージャー」はBEVの最適解か

2025.06.26 デイリーコラム 世良 耕太
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北米ではNACSが優勢か

マツダは2025年5月9日、2027年以降に国内で販売する電気自動車(BEV)の充電ポートに北米充電規格のNACS(North American Charging Standard)を採用すると発表した。2026年後半に日本での販売を予定しているソニー・ホンダモビリティのBEV「アフィーラ」も、NACS規格の採用を決めている。こちらは発表も、国内での販売もマツダより先。テスラ社を除く日本向けBEVのNACS規格採用は国内で初となる。つまり、マツダは2番目。3番目のメーカー/ブランドは現れるか……。

「スーパーチャージャー」の充電設備名で知られるNACS規格はそもそも、テスラ社が始めたものだ。国内にはCHAdeMO(チャデモ)という標準規格があり、北米にはCCS1(CCSはCombined Charging System、通称コンボ)の標準規格がある。ついでに言うと、欧州の標準規格はCCS2、中国はGB/Tだ。

充電ポートのタイプは、そのクルマを販売する国の規格に合わせるのが基本だ。国内で販売されるアウディやメルセデス・ベンツなどのBEVはCHAdeMO規格を採用している。キャデラックは2025年に右ハンドルの電動SUV「リリック」を日本に導入するが、日本仕様はCHAdeMO規格を採用する。

アメリカで販売する日本車は当然CCS1と言いたいところだが、このところ風向きが変わってきている。トヨタ、日産、ホンダ、スバルは北米向けのBEVにNACSを採用することを表明。アメリカのGMやフォード、欧州のメルセデス・ベンツやBMW、フォルクスワーゲンもNACSへのスイッチを表明している。例えばトヨタは2023年10月に次のような発表を行っている。

「トヨタとレクサスは、2025年からトヨタ・モーター・マニュファクチャリング・ケンタッキー(TMMK)で生産予定の3列シートSUVを含む、一部のトヨタとレクサスのBEVにNACSポートを搭載します。さらに、CCS規格を搭載したトヨタ車およびレクサス車を所有またはリースしているお客さまには、2025年以降、NACS充電を可能にするアダプターも提供予定です」

マツダは2025年5月、2027年以降に国内で販売する電気自動車の充電ポートに、テスラ社が「スーパーチャージャー」と呼ぶNACS(North American Charging Standard=北米充電規格)を採用すると発表。一部の自動車関係者をざわつかせた。
マツダは2025年5月、2027年以降に国内で販売する電気自動車の充電ポートに、テスラ社が「スーパーチャージャー」と呼ぶNACS(North American Charging Standard=北米充電規格)を採用すると発表。一部の自動車関係者をざわつかせた。拡大
3列シートレイアウトを採用するマツダのフラッグシップSUV「CX-80」。普通充電と急速充電に対応するプラグインハイブリッドの「e-SKYACTIV PHEV」搭載モデルをラインナップしている。
3列シートレイアウトを採用するマツダのフラッグシップSUV「CX-80」。普通充電と急速充電に対応するプラグインハイブリッドの「e-SKYACTIV PHEV」搭載モデルをラインナップしている。拡大
2025年に米国での販売開始に続き、2026年後半に日本でも発売を予定しているソニー・ホンダモビリティの電気自動車(BEV)「アフィーラ」(写真左)。同車は国内で販売されるテスラ以外のBEVで初めて、NACS規格が採用される。写真右はテスラのミッドサイズ電動セダン「モデル3」。
2025年に米国での販売開始に続き、2026年後半に日本でも発売を予定しているソニー・ホンダモビリティの電気自動車(BEV)「アフィーラ」(写真左)。同車は国内で販売されるテスラ以外のBEVで初めて、NACS規格が採用される。写真右はテスラのミッドサイズ電動セダン「モデル3」。拡大
マツダは2025年3月31日をもって、同社初の量産電気自動車「MX-30 EVモデル」の生産を終了した。現在MX-30はPHEVの「ロータリーEV」と、マツダが「e-SKYACTIV G 2.0」と呼ぶマイルドハイブリッドシステムを搭載するガソリン車の2種類のみがラインナップされる。
マツダは2025年3月31日をもって、同社初の量産電気自動車「MX-30 EVモデル」の生産を終了した。現在MX-30はPHEVの「ロータリーEV」と、マツダが「e-SKYACTIV G 2.0」と呼ぶマイルドハイブリッドシステムを搭載するガソリン車の2種類のみがラインナップされる。拡大
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スーパーチャージャーの魅力は?

テスラの独自規格だったNACSのスーパーチャージャーは北米全域で1万2000基以上あり、事実上、北米の標準規格となっている。ユーザーの利便性を考えれば、CCSではなくNACSなのだろう。日本では1980年代にVHS対ベータのビデオ戦争が繰り広げられ、最終的にVHSに軍配が上がった。北米ではCCSとNACSの覇権争いが起こり、NACSに主権が移る流れ。米欧日の自動車メーカーの動きがそのことを示している。

地域固有の標準規格からNACSにスイッチする流れは日本に飛び火した格好だ。マツダによるNACSの採用は、他のメーカーが雪崩を打って追随する前触れなのだろうか。ソニー・ホンダモビリティがアフィーラにNACSを採用することを知らせる2024年9月27日付の報道発表資料のなかで、テスラの充電事業ディレクターは次のようにコメントしている。

「スーパーチャージャーにおいて、テスラは、世界最大の充電ネットワークを構築しています。現時点でグローバルに6万基を設置し、その数は拡大し続けています。日本では、150kW以上の充電性能を有する90%の機器がスーパーチャージャーです」

スーパーチャージャーの魅力は充電出力が高いことだ。日本で普及が最も進んでいるV3タイプの最大出力は250kWである。CHAdeMO充電器のほうが数は圧倒的に多いが、最新の150kWタイプはまだ数が少なく、それゆえ「150kW以上の充電性能を有する90%の機器がスーパーチャージャー」なのが実情だ。短い時間でたくさん充電できるのが、スーパーチャージャーの魅力だ。

テスラの独自規格だった「スーパーチャージャー」と呼ばれるNACSは、北米全域で1万2000基以上を有する事実上の北米標準規格となっている。写真は米ネバダ州ラスベガスのメインストリート「ストリップ」に隣接するNACSステーションの様子。
テスラの独自規格だった「スーパーチャージャー」と呼ばれるNACSは、北米全域で1万2000基以上を有する事実上の北米標準規格となっている。写真は米ネバダ州ラスベガスのメインストリート「ストリップ」に隣接するNACSステーションの様子。拡大
現在テスラは、世界最大の充電ネットワークを構築。「スーパーチャージャー」の魅力は充電出力が高いことにあるとされ、日本で最も普及が進んでいるV3タイプの最大出力は250kWとなる。
現在テスラは、世界最大の充電ネットワークを構築。「スーパーチャージャー」の魅力は充電出力が高いことにあるとされ、日本で最も普及が進んでいるV3タイプの最大出力は250kWとなる。拡大
単純に数で比較すれば、日本国内ではNACSよりもCHAdeMO充電器のほうが圧倒的に多いが、最新の150kWタイプはまだまだ設置数が少ない。写真は150kWタイプの充電器を4基用意する小田原厚木道路・大磯PAの様子。
単純に数で比較すれば、日本国内ではNACSよりもCHAdeMO充電器のほうが圧倒的に多いが、最新の150kWタイプはまだまだ設置数が少ない。写真は150kWタイプの充電器を4基用意する小田原厚木道路・大磯PAの様子。拡大
テスラ社が開発・展開している「スーパーチャージャー」と呼ばれるNACS規格のコネクター。CHAdeMOに比べて、コネクター自体がコンパクトで軽量なのも特徴だ。
テスラ社が開発・展開している「スーパーチャージャー」と呼ばれるNACS規格のコネクター。CHAdeMOに比べて、コネクター自体がコンパクトで軽量なのも特徴だ。拡大

マツダの決断とその影響を注視しているのは?

マツダが国内で販売するBEVにNACSを選んだのは、ユーザーの利便性よりも(無視しているわけではないが)、お家の事情だろう。2025年3月18日の「マツダ マルチソリューション説明会2025」では、「2027年に導入予定の自社開発バッテリーEVはグローバルの導入を予定し、国内(防府第2工場)で生産する予定」としている。「(BEVの普及は)アメリカでもカリフォルニア州では約2割だが、アラバマ州ではほとんど見かけないのが現状。マツダは『意思あるフォロワー』の戦略を採用し、電動化の進展に柔軟に対応する方針」とも説明している。

BEVは生産するし、そのための投資も行う。やると決めたからには本気で取り組むが、「低投資で高い施策効率を確保し、競争力のある技術・商品を提供することで、持続的な成長を実現していく」のがマツダのプランだ。CHAdeMOを採用せずNACSを選んだのは「低投資で高い施策効率を確保」の考えにマッチする。これで少なくとも、北米と日本で充電規格への対応を統一することができ、開発に必要な工数やコストを大幅に削減できる。ただでさえ仕向け地ごとに異なる排ガスや衝突安全の規制対応に忙殺されているのだから、効果は大きいはずだ。

充電環境はユーザーそれぞれなので、「NACSで問題ない」と考えるユーザーもいれば、「不便」と感じるユーザーもいることだろう。考えてみれば、国内のテスラユーザーはNACS規格で無事にBEVライフを過ごしているのだから、他のメーカーのクルマだってCHAdeMOでなくても致命的な問題があるはずはない。「ウチの近所にはみずほのATMはあるんだけど、三菱UFJのは遠いんだよなぁ」というのと同種の悩みがCHAdeMOとNACSで繰り広げられることになるのだろう。

マツダの決断に触れると流れはNACSに傾いているように受け取れるが、流れを決定づけるのは、マツダの決断とその影響を注視しているはずの山(有り体に言って、資本提携関係にあるトヨタ)がどう動くか、だろう。

(文=世良耕太/写真=マツダ、テスラ、webCG/編集=櫻井健一)

2021年1月に発売された「マツダMX-30 EVモデル」は、4年2カ月でその歴史に幕を下ろした。同車の販売終了後、現在マツダに純BEVはラインナップされていないが、ロータリーエンジンを発電機として搭載するマツダ独自のPHEV「MX-30ロータリーEV」がその後継モデルという位置づけだ。
2021年1月に発売された「マツダMX-30 EVモデル」は、4年2カ月でその歴史に幕を下ろした。同車の販売終了後、現在マツダに純BEVはラインナップされていないが、ロータリーエンジンを発電機として搭載するマツダ独自のPHEV「MX-30ロータリーEV」がその後継モデルという位置づけだ。拡大
「MX-30ロータリーEV」は、発電用の「8C」型1ローターエンジンを、高出力モーターとジェネレーターの同軸上に配置したシリーズ方式のPHEV。ハイブリッド燃料消費率(WLTCモード)は15.4km/リッター、一充電あたりのEV航続距離(WLTCモード)は107kmと発表されている。
「MX-30ロータリーEV」は、発電用の「8C」型1ローターエンジンを、高出力モーターとジェネレーターの同軸上に配置したシリーズ方式のPHEV。ハイブリッド燃料消費率(WLTCモード)は15.4km/リッター、一充電あたりのEV航続距離(WLTCモード)は107kmと発表されている。拡大
「MX-30ロータリーEV」に搭載されるロータリーエンジンは発電機としてのみ用いられる。発電専用ではあるが、市販車にロータリーエンジンが採用されるのは「RX-8」以来、じつに11年ぶりであった。
「MX-30ロータリーEV」に搭載されるロータリーエンジンは発電機としてのみ用いられる。発電専用ではあるが、市販車にロータリーエンジンが採用されるのは「RX-8」以来、じつに11年ぶりであった。拡大
最新のNACS「V4スーパーチャージャー」は充電ケーブルが従来の約1.7倍となる3mに延長され、利便性能向上がうたわれる。「V3スーパーチャージャー」と同様に最大250kWの充電速度に対応しており、テスラ車の場合、約15分で最大275km走行分の充電が可能とされる。
最新のNACS「V4スーパーチャージャー」は充電ケーブルが従来の約1.7倍となる3mに延長され、利便性能向上がうたわれる。「V3スーパーチャージャー」と同様に最大250kWの充電速度に対応しており、テスラ車の場合、約15分で最大275km走行分の充電が可能とされる。拡大
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