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日本市場は前途多難? スズキ初のBEV「eビターラ」は「いいビターラ」になれるのか

2025.07.18 デイリーコラム 工藤 貴宏
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背後にある欧州の厳しいCAFE規制

世の中には「いいビラーラ」と「悪いビターラ」があって、これは「いいビターラ」。……そんなくだらないオヤジギャグはともかく、スズキ初の量産BEV(バッテリー式電気自動車)である「eビターラ」には期待しかない。

いわゆる「CAFE(Corporate Average Fuel Efficiency=企業別平均燃費基準)」の達成状況があまりよくないスズキにとって、走行中に二酸化炭素を排出しないクルマを世に送り出した意味は大きい。eビターラが成功するかどうかに社運がかかっている……と言ったらちょっと大げさだけど、遅ればせながらBEVでスタートラインにつけたわけで、規制が厳しい(基準値に届かないとメーカーに高額な罰金が科せられる)欧州では、ここから猛ダッシュを決める必要があるのだ。インドでつくられるeビターラは、そんな欧州でスズキの強力な助っ人となることが使命として課せられている。

しかしながら、ここは日本。欧州じゃない。今回は、日本における“いいビターラ”……じゃなかった。eビターラの未来を考えてみようというのが趣旨である。

スズキeビターラ
スズキeビターラ拡大
プラットフォームの「ハーテクトe」はトヨタと共同開発。リン酸鉄リチウムイオンバッテリーはFDBが中国・浙江省の最新工場で生産。車両生産を担うのはスズキの印グジャラート工場……と、小さいながらもワールドワイドなクルマである。
プラットフォームの「ハーテクトe」はトヨタと共同開発。リン酸鉄リチウムイオンバッテリーはFDBが中国・浙江省の最新工場で生産。車両生産を担うのはスズキの印グジャラート工場……と、小さいながらもワールドワイドなクルマである。拡大
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海外ではおなじみの、日本では新鮮な車名

そもそも「ビターラって、あんた誰よ?」って話だ。なにを隠そう、「ビターラ」というのは「エスクード」の海外名。日本では「小泉八雲」だけど海外では(というか本名は)「ラフカディオ・ハーン」みたいなものだと思えばいい。

いまどきのエスクードは、かつてのような硬派なメカニズムの“ヨンク”ではなく、モノコックボディーにエンジン横置きのパワートレインを積んだ、シティーユースにも適したコンパクトなクロスオーバーSUV。つまり欧州では乗用車のド真ん中といえるポジションである。eビターラはそのBEV版というわけだ(日本以外では)。

もっとも、実際のところはボディーもプラットフォームも、エンジン車のビターラとBEVのeビターラでは、まったくの別物。フォードのBEVが「マスタング」とは見た目もメカニズムも車両ジャンルも全然違うのに、「マスタング マッハE」って名乗っているのと同じだ。海のものとも山のものともわからない新種のBEVなら、聞いたこともない車名をつけるより、耳なじみのある名前を拝借したほうが、親しみを持ってもらえるということ。イメージが大事なのだ。

とはいえ、「日本ではビターラなんて誰も知らない」というのもまた事実。スズキはここ日本では、「エスクードのBEVである『eエスクード』」というより、eビターラという新種として、まったく新しいイメージで売りたいようだ。

「eビターラ」は全長×全幅×全高=4275×1800×1640mmのコンパクトSUV。欧州では、まさに実用車のメインストリームに位置するクルマとなる。
「eビターラ」は全長×全幅×全高=4275×1800×1640mmのコンパクトSUV。欧州では、まさに実用車のメインストリームに位置するクルマとなる。拡大
車名の「ビターラ」とは、コンパクトSUV「エスクード」の海外名。「日本では『eエスクード』って車名になるのかしら?」と思っていたが、わが国でも「eビターラ」の車名で導入されるようだ。
車名の「ビターラ」とは、コンパクトSUV「エスクード」の海外名。「日本では『eエスクード』って車名になるのかしら?」と思っていたが、わが国でも「eビターラ」の車名で導入されるようだ。拡大
フォードのBEV「マスタング マッハE」。クルマのよしあしはともかく、古くからのファンからすると「これをマスタングって言われましても……」といったところだろう。
フォードのBEV「マスタング マッハE」。クルマのよしあしはともかく、古くからのファンからすると「これをマスタングって言われましても……」といったところだろう。拡大

主目的はアドバルーンだろうけど……

既報のように、クルマのデキはすごぶるいい。筆者もプロトタイプに試乗してきたが、驚いたのはハンドリング性能で、美しい曲がりの姿勢に感動。芯の太さを感じずにはいられなかった。そのうえ、航続距離はベーシックタイプでもWLTCモード計測で400kmを超え、仕様によっては500kmを超える十分といえるもの。実用性だって高い。

ただし、それが日本におけるeビターラの成功に直結しているかといえば、言いにくいけどそれもビミョーだ。なぜなら、そもそも日本にBEVの土壌がないからである。2024年の日本の乗用車市場におけるBEV比率は、わずか2%にも満たない。たとえ「いいクルマ」であっても、顧客が求める台数には限りがある。

とはいえ、スズキだってそんなことは百も承知だ。そもそもeビターラは、インドで生産されて日本では輸入車扱い。たとえ日本で数がはけなくても、大きなダメージが出ないよう戦略が構築されているのはさすがである。

むしろ日本においては、「スズキがBEVを売っている」というアドバルーンとしての効果のほうが重要なのだろう。そういう意味では、見た目も存在感があり、六角形に近いステアリングなど、コックピットまわりもスズキ車としては新鮮。“新しさ”という価値でもって、eビターラはスズキの将来を切り開く存在となるのかもしれない。

そんなeビターラが日本において予想外のヒットを決めるとすれば、それは価格次第といえるのではないだろうか。スズキといえば「シンプルでよい品をリーズナブルに提供」という質実剛健なイメージを持つ自動車メーカー。eビターラの価格は現時点では未定だが、もし「同クラスの中国車と真っ向勝負できる価格で導入」なんてことになれば、いろんな意味で「いいビターラ」になれる……と思うのだが、いかがでしょう?

(文=工藤貴宏/写真=スズキ、フォード/編集=堀田剛資)

ラインナップはバッテリー容量が49kWhのFWD仕様と、同61kWhのFWDおよび4WD仕様を用意。航続距離は、49kWhのFWD仕様が400km以上、61kWhのFWD仕様が500km以上、61kWhの4WD仕様が450km以上とされている(いずれもWLTCモード)。
ラインナップはバッテリー容量が49kWhのFWD仕様と、同61kWhのFWDおよび4WD仕様を用意。航続距離は、49kWhのFWD仕様が400km以上、61kWhのFWD仕様が500km以上、61kWhの4WD仕様が450km以上とされている(いずれもWLTCモード)。拡大
インテリアでは、上下をフラットにした異形ステアリングホイールや、液晶メーターとセンターモニターを一体化したデュアルディスプレイが目を引く。ダイヤル式のシフトセレクターなど、操作系の一部はトヨタのBEVと共通だ。
インテリアでは、上下をフラットにした異形ステアリングホイールや、液晶メーターとセンターモニターを一体化したデュアルディスプレイが目を引く。ダイヤル式のシフトセレクターなど、操作系の一部はトヨタのBEVと共通だ。拡大
スズキでは純正の家庭用充電器など、「eビターラ」の導入に際してさまざまなアクセサリーを用意。相当に気合が入っているのは間違いない。
スズキでは純正の家庭用充電器など、「eビターラ」の導入に際してさまざまなアクセサリーを用意。相当に気合が入っているのは間違いない。拡大
日本のBEVマーケットにおいて、“スズキのBEV”がどのように受け入れられるのか? 「2025年度中」とアナウンスされている発売を期待して待ちたい。
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工藤 貴宏

工藤 貴宏

物心ついた頃からクルマ好きとなり、小学生の頃には自動車雑誌を読み始め、大学在学中に自動車雑誌編集部でアルバイトを開始。その後、バイト先の編集部に就職したのち編集プロダクションを経て、気が付けばフリーランスの自動車ライターに。別の言い方をすればプロのクルマ好きってとこでしょうか。現在の所有車両は「スズキ・ソリオ」「マツダCX-60」、そして「ホンダS660」。実用車からスポーツカーまで幅広く大好きです。

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