「ボディー剛性」はどこの強さで、何にどう作用する?

2025.08.19 あの多田哲哉のクルマQ&A 多田 哲哉
【webCG】クルマを高く手軽に売りたいですか? 車一括査定サービスのおすすめランキングを紹介!

自動車の世界では「ボディー剛性」という言葉をよく耳にしますが、具体的には、車体における、どこのどういう強さを示しているのでしょうか? やや漠然とした印象で、その強度の高低がどんな結果をもたらすのかもピンときません。

これはずばり、4カ所ある「サスペンション取り付け部」における強度のことです。ここで言う“ボディー”は、決して「ボディー構造のすべて」とか、「ボディーパネルの内側にある基本骨格のすべて」という意味ではありません(パワートレインの取り付け部の剛性もいろいろと関係がありますが、これについては別途要望があれば説明します)。

そのボディー剛性は、なぜ大事なのか? 路面からの入力が、タイヤおよびホイール、そしてサスペンションを介して車体に伝わるポイントが剛性不足でしなると、もともと設計者が意図した「タイヤが路面に接する角度」が変わってしまい、操縦性に悪影響が出て理想どおりに走らない、という状況になるからです。

で、取り付け部分の剛性をどんどん上げて、“変なしなり方”をしないようにすると、サスペンションストロークやアライメントなどが設計どおりになる。結果、走りがより良くなるというのが基本な考えです。

「サスペンションの動きが意図したとおりになるように、その部分の剛性を上げてほしい」というのは、シャシーエンジニアがボディーの設計者にずっと言い続けてきたことです。しかし、そうすると車重はかさむし、お金もかかるというネガがありますから、むやみやたらにアップすることはできないというせめぎ合いがありました。

その点、欧州のメーカーは、昔から走りにかかわるこの重要性に気がついていて、上に述べたような設計をしていますから、日本車とは走りに歴然とした差があった。

ところがその後、衝突安全性能の重要度が増し、そのためにボディー剛性を上げるという時代がやってきます。これに関連して、日本でも上述のサスペンション取り付け部の剛性を上げる必要性が議論できるようになってきて、日本車・欧州車の走りの性能差は一気に縮まりました。

ボディー剛性の問題は、基本的には「サスペンションの取り付け部分が変な方向に動かなければそれでいい」という話です。

繰り返しますが、これは純粋に「固ければいい」という意味ではなくて、「変な方向に動かなければいい」ということ。設計者が意図した動きの範囲内であれば、ボディーがしなっても問題はないのです。

昔はその“しなり”まで計算することができなかったものだから、ひたすらあっちもこっちもガチガチに固める傾向がありました。そのイメージが今も残っているのかもしれませんが、現実には、「意図した方向にしなってくれる」ぶんにはうれしい。今はコンピューターシミュレーションでボディーのしなりは事前に解析できますし、しなりについて、意図的に強弱をつけることまで可能になっています。

逆に、最新のクルマはそのようにメーカーが設計しているものだから、アフターパーツを装着することで全体の剛性バランスが崩れてしまうケースもあります。私自身、「これは危ないな……」と思う例に出会うこともしばしばです。特に今は「衝突安全で、ぶつかった際に壊れてくれないと困る部分」も多々ありますから、注意が必要です。

→連載記事リスト「あの多田哲哉のクルマQ&A」

多田 哲哉

多田 哲哉

1957年生まれの自動車エンジニア。大学卒業後、コンピューターシステム開発のベンチャー企業を立ち上げた後、トヨタ自動車に入社(1987年)。ABSやWRカーのシャシー制御システム開発を経て、「bB」「パッソ」「ラクティス」の初代モデルなどを開発した。2011年には製品企画本部ZRチーフエンジニアに就任。富士重工業(現スバル)との共同開発でFRスポーツカー「86」を、BMWとの共同開発で「GRスープラ」を世に送り出した。トヨタ社内で最高ランクの運転資格を持つなど、ドライビングの腕前でも知られる。2021年1月に退職。