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ビモータKB4RC(6MT)

ハンドメイドのロケットマシン 2025.09.27 試乗記 青木 禎之 イタリアに居を構えるハンドメイドのバイクメーカー、ビモータ。彼らの手になるネイキッドスポーツが「KB4RC」だ。ミドル級の軽量コンパクトな車体に、リッタークラスのエンジンを積んだ一台は、刺激的な走りと独創の美を併せ持つマシンに仕上がっていた。
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異形のネイキッドスポーツ

ビモータのフルカウルモデル、「KB4」に乗せてもらった僥倖(ぎょうこう)を振り返るに(参照)、あまりに恐れ多くも不遜な感想ですが、「あれはツラかった」。走りだした当初こそ、これは初見のスポーツモデルに乗る多くの人が経験することかと思いますが、アドレナリンの後押しを受けて「意外とイケるかも!?」と楽観してしまった。ちょっとポジションは厳しいけれど、カワサキ由来の動力系は親しみやすく、あわせて足まわりも過剰に硬くはない。撮影終了後、「せっかくだから」といつもの峠道へ向かったのでした。

ラジエーターをリアのカウル内に移動させてまで切り詰めた短いホイールベース、立ち気味のフロントフォーク、そしてビモータ自慢の軽量フレームを生かして軽やかにつづら折りを舞う……はずだったのだが、東京都内から峠のとば口にたどり着く過程で、短躯(たんく)短足のライダー(←ワタシです)はすでに疲労困憊(こんぱい)。なにより左右のグリップが遠くて低いので、ライディング中はひたすら肩、腰、首に負担がかかる。このときほど、赤信号が待ち遠しかったことはない。

……というわけで、KB4のネイキッド版、KB4RCには大いに期待していたわけです(何さま!?)。相変わらず好き嫌いが分かれそうな個性的な外観だが、この手のモデルは「オッ!?」と道行く人の目を引いてナンボだから、RCは合格(再び、何さま!?)。ノーズのロケットカウルがなくなったぶん、フロントからリアのラジエーターにエアを送るサイドボックスの存在が際立っており、こちらのほうが開発陣の意図がわかりやすいと思う。ゴツい見かけのボックスは乾いた感触のカーボン製だ。

「KB4」からカウルを取り払ってネイキッドモデルに仕立てた「KB4RC」。ほかのどんなバイクにも似ていないその造形と、全長2040mm、ホイールベース1390mmという、リッターマシンとは思えないコンパクトさに目を奪われる。
「KB4」からカウルを取り払ってネイキッドモデルに仕立てた「KB4RC」。ほかのどんなバイクにも似ていないその造形と、全長2040mm、ホイールベース1390mmという、リッターマシンとは思えないコンパクトさに目を奪われる。拡大
「4」と描かれた巨大なカーボン製のサイドボックスは、内側がダクトになっている。フロントの開口部からリアのラジエーターへと空気を送るのだ。
「4」と描かれた巨大なカーボン製のサイドボックスは、内側がダクトになっている。フロントの開口部からリアのラジエーターへと空気を送るのだ。拡大
リアカウルの下に備わるラジエーター。ここにラジエーターを配することでエンジンをより前方に搭載することができ、理想的な前後重量配分とショートホイールベースを実現しているのだ。
リアカウルの下に備わるラジエーター。ここにラジエーターを配することでエンジンをより前方に搭載することができ、理想的な前後重量配分とショートホイールベースを実現しているのだ。拡大

普段使いも意外とイケる?

真夏の太陽の下で実車を眺めると、ブっ太い倒立フロントフォーク(オーリンズ)、迫力あるラジアルマウントのブレーキ(ブレンボ)、鍛造ホイール(OZ)、そしてRCになって採用されたARROWのマフラーと、全身ブランド物でキメている。さらにアルミが多用されたステップまわりとアルミ削り出しの美しい幅広リアアームが、有無を言わさずKB4RCの価格を暗示する。KB4RCには、カウル付きのKB4より35万2000円“高い”473万円のプライスタグが付く。惜しむらくは、ビモータのアイデンティティーたるトレリスフレームが、赤く塗って目立たせる努力はしているものの、大部分が隠れてしまっていることか。

豪華な、けれども薄くて硬い革シートにまたがると、ありがたや、セパレートハンドルは、軽め孔が開けられた凝ったつくりのトップブリッジより高い位置にある。もちろん強い前傾姿勢をとる必要があり、一般的なネイキッドモデルの実用性からは遠いというものの、これなら”やせ我慢”の範囲で使えるポジションだ。

「ニンジャ1000SX」のパワーソースを転用した水冷並列4気筒は、1043ccの排気量から142PS/1万rpmの最高出力、111N・m/8000rpmの最大トルクを発生する。

KB4RCの車重は191kgだから(念のため追記すると、この値は乾燥重量でなく実際の走行が可能な装備重量)、どの速度域からでもスロットルのひとひねりで、文字どおり「蹴り飛ばされる」ような加速を得られる。エンジンの絶対的なアウトプットが大きいので、公道ではフルスケール回してパワー全開! ……という気にはならないが、すこしゴロついた4気筒のフィールとフラットな特性が、意外なほど異形のバイクにマッチしている。街なかの低回転域でも不便はなく、「KB4RCは“使える”ビモータだ」と、やせ我慢しつつ頭の中でメモをとる。

足まわりにはプレミアムブランドの製品を惜しみなく採用。サスペンションは前後共にオーリンズ製で、前が倒立フォークの「FG R&T 43 NIX30」、後ろがピギーバック式のショックユニット「TTX36」となる。
足まわりにはプレミアムブランドの製品を惜しみなく採用。サスペンションは前後共にオーリンズ製で、前が倒立フォークの「FG R&T 43 NIX30」、後ろがピギーバック式のショックユニット「TTX36」となる。拡大
タイヤサイズは前が120/70ZR17、後ろが190/50ZR17。サーキット走行も想定したハイグリップタイヤ「ピレリ・ディアブロ スーパーコルサSP V3」が装着されていた。
タイヤサイズは前が120/70ZR17、後ろが190/50ZR17。サーキット走行も想定したハイグリップタイヤ「ピレリ・ディアブロ スーパーコルサSP V3」が装着されていた。拡大
エンジンはカワサキから供給される排気量1043ccの水冷直4 DOHC。トランスミッションにはクラッチ操作なしでの変速を可能にする、「KQS(カワサキクイックシフター)」が装備される。
エンジンはカワサキから供給される排気量1043ccの水冷直4 DOHC。トランスミッションにはクラッチ操作なしでの変速を可能にする、「KQS(カワサキクイックシフター)」が装備される。拡大
車重は走行可能な状態(油脂類やバッテリー液などを含めた状態)で191kgと、リッターバイクとしては相当な軽さ。スロットルを開くと、はじけるように加速する。
車重は走行可能な状態(油脂類やバッテリー液などを含めた状態)で191kgと、リッターバイクとしては相当な軽さ。スロットルを開くと、はじけるように加速する。拡大
1973年にバイクの製造を始めたビモータ。今もイタリア・リミニの工房で、ハンドメイドのバイクづくりを続けている。
1973年にバイクの製造を始めたビモータ。今もイタリア・リミニの工房で、ハンドメイドのバイクづくりを続けている。拡大
上質な革張りのシート。シート高は810mmで、リアサスペンションに備わるビモータ独自のエキセントリックアジャスターにより、±8mmの調整が可能だ。
上質な革張りのシート。シート高は810mmで、リアサスペンションに備わるビモータ独自のエキセントリックアジャスターにより、±8mmの調整が可能だ。拡大
パワートレインに加え、インターフェイスや操作系にはカワサキのコンポーネントを採用。高い信頼性を確保している。
パワートレインに加え、インターフェイスや操作系にはカワサキのコンポーネントを採用。高い信頼性を確保している。拡大
日伊合作のハンドメイドのモーターサイクル「ビモータKB4RC」は、イタリアのクラフトマンシップを感じさせる趣と、刺激的かつ懐の深い走りを併せ持つマシンに仕上がっていた。
日伊合作のハンドメイドのモーターサイクル「ビモータKB4RC」は、イタリアのクラフトマンシップを感じさせる趣と、刺激的かつ懐の深い走りを併せ持つマシンに仕上がっていた。拡大

匂い立つイタリアのクラフトマンシップ

つづら折りが続く道では、ホイールベースが1390mm、キャスター角24°のKB4RCは、まさにミドル級スーパースポーツにリッターエンジンを積んだバイクで、実によく曲がる。限界域での挙動は存じませんが、その気になるには十分すぎるほどアグレッシブで、まさに視線をやった先に飛び込んでいく。ブレーキは強力かつコントローラブルで、手だれの乗り手なら、タイヤのつぶれ具合をじんわり見極めながら、きっちりカーブを攻略できるはず。

まったく想定外だったのは高速巡航での楽しさで、おだやかにクルージングしながらでも、状況によって軽くスロットルを開けるだけで、ダマされたような軽やかさをもって加速する。これは不思議な気持ちよさ。峠で息を詰めて走らずとも、「軽量コンパクトでハイパワー」というビモータの神髄を手軽に感じ取れる、といったら大げさにすぎようか。

KB4RCの価格はバイクとしては破格なものだが、四輪のスーパースポーツを考えてみてほしい。400万円台で、クラフトマンシップが注ぎ込まれた、今日の大量消費社会では珍しいプロダクトアウトの一品を手に入れられる。そう考えれば、むしろリーズナブルである(断言)。

加えて一言。リアにラジエーターを移したイタリアンモーターサイクル、手づくりが薫るカーボンパーツをまとった工芸品のようなビモータKB4RCだが、東京で35.1℃を記録した真夏の昼間に走行しても、機関類は一切グズらなかった。まさに「日本のメカにイタリアの皮と骨」という理想の組み合わせを見た気分だ。懐に余裕があるエンスージアストの方々、ガレージの奥に秘匿している盆栽マシンにプラスして、足にも使えるサブバイクとして、一台、いかがでしょう?

(文=青木禎之/写真=向後一宏/編集=堀田剛資/車両協力=カワサキモータースジャパン)

ビモータKB4RC
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ビモータKB4RC(6MT)【レビュー】の画像拡大
 
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【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2040×773×1060mm
ホイールベース:1390mm
シート高:810mm(±8mm)
重量:191kg
エンジン:1043cc 水冷4ストローク直列4気筒DOHC 4バルブ(1気筒あたり)
最高出力:142PS(104.5kW)/1万rpm
最大トルク:111N・m(11.3kgf・m)/8000rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:--km/リッター
価格:473万円

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ビモータKB4(6MT)【レビュー】

青木 禎之

青木 禎之

15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。

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