4WDという駆動方式は、雪道以外でも意味がある?
2025.12.02 あの多田哲哉のクルマQ&A新車を見ていると、高性能車を中心に4WDの比率が高まっている印象があります。実際のところ、雪道以外、特にドライ路面における4WDのメリットとは何でしょうか? わかりやすく教えてください。
皆さんの常識としては、4WD車を選ぶ根拠は「低μ路を走る機会があるかどうか」「ドライ路面でもスリップしまうほどのハイパワー車なのかどうか」といったところかと思います。
それは昔も今も変わりませんが、今はさらに、前後のみならず左右のトルク配分まで4輪別々に制御できるというトルクベクタリングの技術が電動化の進行とともに進化し、一般化されつつあります。ブレーキを活用した各輪の制御にとどまらず、積極的に4輪へのトルク配分を、きめ細かく、速く制御できる技術が確立されているのです。
その結果どうなるかといえば、例えば、6軸(前後・左右・上下および回転軸のロール・ピッチ・ヨー)の動きで望ましくないものがあれば、トルクの伝達を利用した逆位相の入力で抑え、感覚的には車体がほとんど揺れないままの状態で走ることが可能になります。
実際、この技術を部分的に製品に取り入れているメーカー・ブランドはありますし、それこそが悪路でスリップする/しないという話以外の、四駆のメリットの最たるものといえます。
そしてこれは、クルマの性能をさらに高めて他の製品と差異化するためのポイントとして、わずかに残されている貴重なゾーンであり、今後ますます先鋭化されていくのは確実です。姿勢変化の話だけでなく、グリップを限界まで引き出す技術ですから、雪道においてもドライバー自身が驚くようなスピードで旋回できるようになりますよ。
もっとも、現時点ではそんな技術を搭載しているクルマは限定的なのですが、テストカーのレベルではかなり昔から行われていることで、その効果の大きさは本当にびっくりするほど。誰でも違いを体感できます。まさにcoming soonな技術ですから、ご期待ください。

多田 哲哉
1957年生まれの自動車エンジニア。大学卒業後、コンピューターシステム開発のベンチャー企業を立ち上げた後、トヨタ自動車に入社(1987年)。ABSやWRカーのシャシー制御システム開発を経て、「bB」「パッソ」「ラクティス」の初代モデルなどを開発した。2011年には製品企画本部ZRチーフエンジニアに就任。富士重工業(現スバル)との共同開発でFRスポーツカー「86」を、BMWとの共同開発で「GRスープラ」を世に送り出した。トヨタ社内で最高ランクの運転資格を持つなど、ドライビングの腕前でも知られる。2021年1月に退職。
