第57回:スズキはなぜインドに賭ける? 変わらず牛が闊歩するインドの最新工場を小沢コージが直撃
2026.04.18 小沢コージの勢いまかせ!! リターンズインドに工場建設ラッシュのスズキ
みなさんナマステ~。不躾(ぶしつけ)小沢、ざっくり10年ぶりにインドのニューデリーとグルガオンとグジャラートに行って参りました(10年前のインド取材の記事)。
経済アナリスト向けには8年ぶり、自動車メディア向けには実に19年ぶりに行われたスズキのインド直撃取材です。それも飛行機から宿泊費まで完全自腹の(笑)。当たり前か?
なぜなら浜松のスズキは今や飛ぶ鳥を落とす勢い。来る年度末決算を控え、あのトヨタでさえトランプ関税で利益2ケタ%減、ホンダや日産が軒並み赤字転落や難しいEV不況にあえぐなか、スズキのみが第3四半期も堅調で、国内販売台数でもトヨタの次の2位を確保し、今年もデカい不調要因なし。予想じゃ営業利益5700億円(上方修正)の売上高6兆2000億円で増配。
さらに言うと4年後の2030年度には売り上げ8兆円超え、利益率10%のビッグサクセスまで狙っております。
それは台数は出るけどリスキーな国、すなわち中国からは2018年に、北米からは2012年に撤退し、狙いを超大国インドに絞ってるから! 確かにコンパクトカーを得意とする「小少軽短美」思想や、乾いた雑巾をさらに絞るようなスズキのモノづくりは中国&北米には合わなかったけど、人口14億人の世界一の大国、インドにて実力を遺憾なく発揮しているのは事実。
それどころかいまどき1.2兆円のインド大型投資の真っ最中で2030年までにデカい新工場2つの設立と既存工場のライン増設を計画しており、生産能力を現在のほぼ倍の年間400万台に引き上げる予定。だからこその目標8兆円であり、ヘタすると20年後にはトヨタを抜くかも? の予想もあるくらい。
ってなわけでスズキはインドでなぜ強い? インドはホントに伸びるのか? ニューデリー市内の路上にブラリ出てみました!
ルールを守る人がちょっぴり増えた
まず行ったのはバックパッカーの聖地、ニューデリー駅西口パハールガンジのメインバザール。デリー空港から地下鉄で20分、戦後のアメ横ってこんな感じだったのかも? って思うような荒れ具合。
インドの乗用車は「スズキ・スイフト」のセダン版である「デザイア」や「ヒョンデ・クレタ」、それに「タタ・ネクソン」などの小型セダンが人気で、エンジンは1.2リッターガソリンか1.5リッターディーゼル。
しかし、ここパハールガンジはバイクの延長のタイのトゥクトゥクみたいなオートリキシャがメインで、路面はところどころアスファルトがはがれていて土が半分むき出し。加えて、商店街にはお経みたいな肉声ミュージックが流れており、これがトリップ感アリアリ。また店にはアメ横的にTシャツやカバンやみやげ物があふれかえっており、活気がスゴイです。
さらにニューデリー市内を歩いてびっくり。路上には相変わらず寝ていたり歩いていたりで牛がゴロゴロいるけど、最近は犬が多いのと小沢が以前に来たオートエキスポ2016のころに比べると、微妙に落ち着いてます。
かつて交差点はクラクションの嵐で、クルマがレースカーばりに車線お構いなしで突っ込み、信号はあってもなくても同じだったけど、それが心なしかおとなしくなっているような? クラクションも抑えめで、車線を守ってる人もときどきはいました。二輪も以前はノーヘルが多かったのが7~8割はかぶってるイメージ。
とはいえ日本とは比べものにならない無法地帯ですけどね。インドは「ジュネーブ条約締結国」なので国際免許で運転できるって体裁にはなってますが、レンタカー屋が貸してくれないってのにも納得(苦笑)。いつになったらわれわれ外国人でもフツーに運転できる日がくることやら……。
とにかくスピード最優先
今回マジメに取材したのは2017年にできたグジャラート州のスズキのハンサルプール工場で、中のモダンさにはびっくり。
いまだ人件費が欧米より安いがゆえ、自動化は言うほど進んでないけど、コマツの数千tクラスのプレス機がドカンと並び、スイフトのほかに「バレーノ」や「フロンクス」をガンガン量産しているし、タクトタイム1分切りのスピード生産にもびっくりだ。
聞けばラインは現在3本稼働中でそれぞれ年間25万台ずつ生産しており、これは量産ラインとしてはトップクラス。しかも一部で日本的な多品種少量生産もやってるけど、基本はスイフトならスイフト、フロンクスならフロンクスをドカンと1車種つくる体制。
そのためには浜松の湖西工場でやってるような省スペースのコの字型ラインはつくらず、既存3ラインはすべて一直線。そのメインライン両側にドアパネルやインパネなどのパーツをトラックじかづけで供給しており、ある意味複雑なサブアッセンブリーラインを省略した構造。
そのぶん、現状では多品種混流は無理だけど1車種のみなら速くつくれるメリットがあり、このスピード効率生産こそがマルチスズキ最新工場の真骨頂。つくってるクルマはスズキらしく細かく小さくコスパ良だけど、つくり方は日本とは違って生産効率最優先。まさしく砂に水をまくが如き吸収力を持つ超巨大なインドマーケットゆえであり、現在は年間400万~500万台の市場で、時に減る傾向すらある日本マーケットとはわけが違うのだ。
明日は今日より絶対良くなる! それがインドポジティブマインド
その基本となるのはすでに中国を超える14億人ともいわれる世界最多の人口だ。中国も14億人とかいわれているけど、それは減少傾向かつ一部間違いがあるともされ、それに比べると自由主義で民主主義のインドはマジで14億人以上。
その国で2025年の乗用車マーケットが過去最高の約455万台。絶賛成長中だが、今の中国が商用車ほかを含めて3400万台であることを考えると、インドも順調にいけば少なくともピークは2000万台どころか3000万台を見込める。
スズキは具体的に2030年に800万台規模と見込んでおり、だからこそ同年には年間400万台の販売を計画。現状は210万台程度だが、4年でインドだけでほぼ倍にはなると見込んでいるわけだ。
具体的には2つの巨大な新工場計画を発表済みで、1つはハリヤナ州カルコダ新工場で、実は2025年2月25日に稼働済み。現在はライン1本で年25万台の生産能力とされ、最初は人気SUVの「ブレッツァ」のみを生産。最終的には年産100万台まで拡大する計画だ。
もう1つはグジャラート州のサナンド新工場で、2024年に州政府と合意し、2026年1月に用地取得を開始。スズキインドの竹内社長は「用地買収が大変」とこぼしており、共産党支配の中国とは違って個人の土地を買い集めるのは容易ではないらしい。こちらも1ラインで年産25万台からスタートし、将来的には最大100万台まで見込んでいる。
投資額はそのほかのEV用バッテリー工場も含めてインドだけで約1.2兆円(約7000億ルピー)を見込んでおり、2030年度までに計画している世界4兆円という投資枠のうち、約6割(約2.4兆円規模)がインド市場向けという説も。
ま、とにかくスズキのインド一本足打法っぷりというか、実際は日本をはじめ、欧州ではハンガリーも伸びているわけだが、インドの成長=スズキの成長ってのは間違いないところ。
小沢コージ的には有名な中興の祖、故鈴木 修相談役に続くような、例えばインド人と結婚して骨を埋めるくらいの名経営者が出たらすごいなと思うわけで、それくらいインドへのスズキの入りっぷりはすごい。
聞けば今のモディ首相の地場であり票田は、今回行ったハンサルプール工場のあるグジャラート州で、まさにモディ首相のタニマチ的にスズキが存在している可能性もある。
今までのアメリカにおけるトヨタやホンダの伸びとは違う新天地におけるスズキの存在感。このかつてない一体感とインドの伸びしろが日本人クルマ関係者としては本当に楽しみなのであーる!
(文と写真=小沢コージ/編集=藤沢 勝)

小沢 コージ
神奈川県横浜市出身。某私立大学を卒業し、某自動車メーカーに就職。半年後に辞め、自動車専門誌『NAVI』の編集部員を経て、現在フリーの自動車ジャーナリストとして活躍中。ロンドン五輪で好成績をあげた「トビウオジャパン」27人が語る『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた』(集英社)に携わる。 YouTubeチャンネル『小沢コージのKozziTV』
-
第59回:待望の2代目「日産キックス」は「ヴェゼル」や「カローラ クロス」に勝てるのか!? 小沢コージが嗅ぎまわる 2026.7.9 日産が満を持して「キックス」の新型を発表した。新世代の「e-POWER」を搭載したほか、各部の質感もデザインも先代モデルから大幅に進化しているが、大事なのはライバル車に勝てるかどうかだ。小沢コージが開発リーダーを直撃した。
-
第58回:ええ? 燃費でも「アルヴェル」に勝ってるだとぉ…… スクープ! 激白新型「エルグランド」のホントの話 2026.6.10 日産の立て直しという大命を抱いて発売される新型「エルグランド」。自らが創出したジャンルでありながら、トヨタに好き放題にされてしまっているのが現状だ。日産はどんな武器を手に失地回復に挑むのか。小沢コージが開発トップを直撃!
-
第56回:走行16万kmでも電池の劣化なし! -20℃でもエアコンが効く! 新型「日産リーフ」のスゴイところを聞く 2026.3.23 航続距離が伸びたり走りの質がよくなったりで話題の3代目「日産リーフ」だが、本当に見るべき点はそこにあらず。小沢コージが開発エンジニアを直撃し、ジミだけど大きな進化や、言われなかったら気づかないような改良点などを聞いてきました。
-
第55回:続・直撃「BYDラッコ」! 背が15cmも高いのに航続距離が「サクラ」&「N-ONE e:」超えってマジか? 2026.2.3 2026年の発売に向けて着々と開発が進められている「BYDラッコ」。日本の軽自動車関係者を震え上がらせている中国発の軽スーパーハイト電気自動車だが、ついに大まかな航続可能距離が判明した。「これは事件だ!」ということで小沢コージが開発関係者を再直撃!
-
第54回:18年目の大改良! 奇跡の不老不死ミニバン「デリカD:5」のナゾ 2026.1.11 三菱のオールラウンドミニバン「デリカD:5」が2025年末にまたも大幅改良を敢行。しかもモデルライフが10年をとっくに過ぎた2024年に過去最高の台数が販売されたというのだから、いったい現場で何が起きているのか。小沢コージが開発者を直撃!
-
NEW
写真で解説する新型「日産エルグランド」
2026.7.16画像・写真新型「日産エルグランド」は、日本伝統の美をデザインに生かしながら、同社独自の最新技術を組み合わせて“走りのよさ”も徹底追求したという意欲作。その見どころを写真とともに解説する。 -
NEW
第970回:クルマの背中に浮かぶ文字たち――空いた字間が語るもの
2026.7.16マッキナ あらモーダ!アナタは自動車のボディー背面に施されたメーカー/ブランドのロゴについて考えたことがあるだろうか? 字間を詰めたり、広げたり、時代によって変わるそのトレンドと、その背景にあるメーカーの思惑を、自動車史にも精通する大矢アキオが語る。 -
NEW
九州・熊本で開催 「Lamborghini Summer Days 2026」で極上なる猛牛の世界観を知る
2026.7.16デイリーコラムランボルギーニが1泊2日の無料招待制イベント「Lamborghini Summer Days 2026」を、九州・熊本で開催。上天草の自然とともに最新モデルの走りと独自の世界観を味わう特別なツアーの詳細を報告する。 -
フェラーリ849テスタロッサ スパイダー(4WD/8AT)【海外試乗記】
2026.7.15試乗記歴史ある車名が与えられた「フェラーリ849テスタロッサ」は、従来型から大幅な進化をとげた高性能スポーツカーだ。では、そのオープントップバージョンの走りはどうか? 日本での発売を前に、フェラーリ通として知られる西川 淳が試乗した。 -
ポルシェ・カイエン ターボ エレクトリック(4WD)【試乗記】
2026.7.15試乗記ポルシェ最新の電動ハイパフォーマンスSUV「カイエン エレクトリック」。そのラインナップのなかでも、最高峰に位置するのが「カイエン ターボ エレクトリック」だ。最高出力1156PS、最大トルク1500N・mという、とてつもないパフォーマンスの一端に触れた。 -
第120回:幽玄なるBMWアルピナ(前編) ―日本でも愛された「控えめの美学」にこの先の未来はあるか?―
2026.7.15カーデザイン曼荼羅日本でも、ファンの間で熱く支持されてきたBMWアルピナ。創業家の手を離れ、BMWの傘下となったこのブランドだが、その伝統である「控えめの美学」は今後も受け継がれるのか? ショーカー「ビジョンBMWアルピナ」の造形から、カーデザインの識者と考えた。










































