フォルクスワーゲン・ゴルフTSIトレンドライン(FF/7AT)【試乗速報】
小は大を兼ねられる 2010.03.25 試乗記 フォルクスワーゲン・ゴルフTSIトレンドライン(FF/7AT)……257.0万円
フォルクスワーゲンの基幹モデル「ゴルフ」に、小さな1.2リッターエンジンを搭載したエントリーグレードが誕生。その実力のほどは……?
期待の“安いやつ”
ここ数年、フォルクスワーゲンの「TSIエンジン」には驚かされ続けている。TSIは、小排気量エンジンに直噴システムと過給器を組み合わせたエンジンで、高性能と低燃費を両立。いまや日本で販売されるフォルクスワーゲンの多くがTSIを搭載する。最初の衝撃は、2007年発売の「ゴルフGT TSI」だ。たかが1.4リッターと侮っていたら、ターボとスーパーチャージャーを組み合わせたTSI“ツインチャージャー”の力強さにノックダウン! さらに、燃費の良さにもう一度驚いた。
2008年に登場した「ゴルフTSIトレンドライン」も、良い意味で予想を裏切ってくれた。こちらに積まれるのは同じ1.4リッターエンジンながら、ターボだけのTSI“シングルチャージャー”。さすがに物足りないだろうと甘く見ていたのだが、実際は余裕すら感じるほどの実力だった。
そして今回、新型ゴルフのエントリーグレード、「ゴルフTSIトレンドライン」が登場した。2009年4月、ゴルフは6代目にフルモデルチェンジし、1.4TSIツインチャージャーを積む「ハイライン」と1.4TSIシングルチャージャーの「コンフォートライン」が用意されたものの、エントリーグレードのトレンドラインは空席となっていた。このトレンドラインに積まれる新しいTSIエンジンは、三たび私を驚かすことになるのか?
今度は1.2リッター!?
1.4リッターのツインチャージャー、シングルチャージャーと仲間を増やしてきたTSIエンジン。そのさらなる“進化形”は、より小さい排気量の1.2TSIシングルチャージャーだった。新型「ポロ」にも搭載が予定される1.2リッターのTSIユニットが、ひと足早く上位モデルのゴルフに積まれて、日本にやってきたのだ。
ハイライン用の1.4TSIが160ps、24.5kgm、コンフォートライン用が122ps、20.4kgmであるのに対し、トレンドライン用の1.2TSIは最高出力105ps/5000rpm、最大トルク17.8kgm/1550-4100rpmとさらに控えめなスペックだ。しかも、1.2TSIはSOHCの2バルブヘッドで、エンジンルームを覗いたら、なんとも頼りない印象である。
「いまどき、シングルカムの2バルブかよ」と思われるかもしれないが、もちろんこれには理由がある。軽量化とフリクションの低減を狙ったのだ。たとえば、1.4TSIシングルチャージャーと比較して、シリンダーヘッドは3.5kg軽く、アルミのシリンダーブロックで14.5kg、さらに、クランクシャフト、タイミングチェーンケースなどを積み上げると24.5kgの軽量化に成功。また、DOHCに比べてシンプルなSOHC2バルブ式シリンダーヘッドや低フリクションタイプのピストンなどが機械損失低減に貢献しているという。
その一方で、燃焼室や吸気ポートの形状を見直すなどして、燃焼効率を改善。また、過給システムでは、ウェイストゲートバルブの制御を油圧式から電動式に変更し、過給圧コントロールを精密化している。
これぞゴルフ
こうした手法で、ゴルフTSIトレンドラインは、コンフォートラインを上まわる17.0km/リッター(10・15モード)の燃費を実現し、エコカー減税(取得税と重量税が75%減免)とエコカー補助金(25万円または10万円)の対象にもなっている。言い忘れたが、車両本体価格はコンフォートラインより21万円安の257万円である。
燃費も価格も魅力的だ。では、カンジンの走りはどうか? 私自身、1.4TSIシングルチャージャーのゴルフヴァリアントに乗っているので、興味津々である。1.4TSIに比べて、どのくらい非力なんだろう、と。
ところが、走り出して、またしても驚いた。全然、非力じゃない! 軽くアクセルペダルを踏む状況、つまり、ふつうに走る場合、1.4TSIにまるで引けを取らないのだ。低速に限れば、自然吸気の2リッター並みのトルク感だ。しかも、1500rpm以下の低回転から粘りがあり、アクセルペダルに載せた右足の動きにも素早く反応する。2000rpmを超えたあたりからは、さらに余裕を増し、頻繁に加減速を強いられる街なかでも実に扱いやすい。この感覚こそ、まさにベーシックゴルフの魅力なのだ。静粛性は1.4TSIと同等。ひょっとすると1.2TSIのほうが優れているかもしれない。ちなみに、組み合わされるトランスミッションは、ともに7段DSGで、ギア比は共通だった。
もちろん、1.4TSIには200ccのアドバンテージがある。アクセルを深く踏んで加速する場面では、1.4TSIの速さを容易に体感できるが、それでもトレンドラインのドライバーは、高速の合流や追い越しでちゅうちょする必要はないし、山道の上りでも、後続車に気兼ねしないで済む。
最強の商品力
一方、トレンドラインの走りは、コンフォートラインよりもむしろ好ましい。ノーズが軽く、車両重量も20kg軽量、さらに、装着されるタイヤが195/65R15と1インチ小さいことなどが味方するのだろう。絶対的な速さはともかく、軽快感ではトレンドラインのほうが上で、コーナーでは機敏な動きを見せる。タイヤは硬めだが乗り心地は軽快。もちろん、速度域によらず、フラット感があるのは、ゴルフの文法どおりだ。
気になる燃費は、1.4TSIと厳密な比較をしたわけではないが、いつもの通勤ルートでオンボードコンピューターを確認するかぎり、5%程度の向上が見られる。また、高速をおとなしく走ると、20km/リッターを超える数字が出たから、満タンで1000km走るのも難しくない。
というわけで、エントリーグレードとはいえ、その実力はコンフォートラインに優るとも劣らないトレンドライン。この内容で257万円の価格は、クラス最強の商品力といっても過言ではない。悩みは、278万円のコンフォートラインなら、トレンドラインに装着されないレザーステアリングホイールやレザーシフトレバー、16インチアルミホイール、オートエアコンなどが標準装着となること。装備にこだわる人なら、21万円差のコンフォートラインに目移りするかもしれないが、ゴルフの本質は、このトレンドラインで十分堪能できると断言しよう。
(文=生方聡/写真=河野敦樹)

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。