ホンダ・シビック タイプR ユーロ(FF/6MT)【試乗記】
今さら、でも欲しくなる 2009.12.24 試乗記 ホンダ・シビック タイプR ユーロ(FF/6MT)……298.0万円
日本で買える唯一の英国製「シビック」、「タイプR ユーロ」に試乗。個性的なスタイリングだけでなく、その走りも、いかにも「ホンダ」なクルマだった。
抜群の存在感
やっと? それとも今さら? とにかく2009年も終わりになって、「シビック タイプR ユーロ」が日本上陸と相成った。そもそもイギリス生産のハッチバックの日本導入は無いと言っていたホンダだが、2008年夏にはその方針が転換され、ヨーロッパ向けタイプRの投入が発表される。ところが秋に起こった世界的な経済危機でイギリス工場が操業停止。日本向けの生産も出来なくなり、話は延期になる。それがここにきて、ようやく実現の運びとなったわけである。
目の前にたたずむ姿を見ていると、待った甲斐はあったとしみじみ感じる。登場当初、ヨーロッパで話題を呼んだスタイリングは今ここ日本で見ても存在感はやはり抜群。シャープで躍動感、凝縮感にあふれ、未来的でもあるフォルムは、いかにもホンダ、いかにもシビックらしい。
ヨーロッパでは単に「タイプR」であるこのタイプR ユーロは、この魅力的なボディにファンならお馴染みのK20A型2リッターi-VTECユニットを積み込む。最高出力は201psと、日本の「シビック タイプR」(225ps)に比べれば抑えられているものの、それでもリッター当たり100ps以上という、自然吸気としては文句無しの超高性能を誇る。7800rpmという最高出力発生回転数だけでも、十分ソソられてしまうというものだ。
乗り心地は、けっこうツラい
ドアを開け、大きなサイドサポートを持ったシートに身をあずけると、目の前にはノーズ先端のそれと同じ、赤地にHの文字が刻まれたマークが。各部に入れられたステッチ、さらにはカーペットまで真っ赤に染め上げられていて気分を昂揚させる。
ただしフィットと同じセンタータンクレイアウトのプラットフォームを使い、つまり前席下に燃料タンクを擁することもあって、着座位置は高め。しかもスライドを相当前寄りにしないと、前後に長いシートの座面前端が太腿の裏と干渉してペダルを踏み込みにくいのは、これがスポーツモデルだけに、なおのこと大きな不満である。
6段MTの丸いシフトノブを1速に入れてクラッチを繋ぐと、まさにその瞬間、クルマが弾けるように前に出る。1320kgの車重は絶対的には軽いというほどではないが、それでも活発さにあふれたこの動き出しだけで、テンションは一気に高まる。
従来のタイプRでは代名詞のようになっている乗り心地の悪さが、このタイプR ユーロは改善著しいというのが世間の評判である。しかし実際のところ、それは基準をどこに置くかによりそうだ。たしかにセダンのタイプRよりは随分ましである。しかし、それはレーシングカーと比べるようなもので、一般的な基準で見れば決して良いとは言えない。硬いアシが突き上げてくるのはある程度は仕方無いとして、ツラいのはそのあと地面に向かって引き戻されるような感覚を伴うこと。しかも本来フラットになってほしい高速域ほどこの傾向が強まるのだ。実は昨年、アウトバーンでこのクルマを走らせた時にも、長距離走行は腰が痛くなり、また食後すぐには走り出せず、結構ツラかった記憶がある。
回さずにはいられない
しかし痛快きわまりないパワートレインは、それでも構わずアクセルを踏み込ませてしまう。3000rpm台中盤からトルクの出てくるエンジンは5400rpmでVTECのカムが高速側に切り替わると明らかに音が変わり、そこからは一気呵成に吹け上がる。しかも最高出力を発生する7800rpmのちょっと手前あたりで、さらにもうひと伸びするのだからたまらない。これに乗ったら誰だってトップエンドまで回したいという誘惑からは、逃れられないだろう。
コーナリングは程々のペースで飛ばすぐらいなら軽快で楽しい。しかし思い切り攻めていこうとすると、やや心許なく感じられたのも事実だ。着座位置が高く、また硬いアシのわりにはロールも大きいこと、ステアリングレシオは速いがノーズの入り自体はそれほど良くないことなど、原因はひとつでは無い気がする。ヘリカルLSDの効果で脱出は素早いから、それを生かしてコーナー前半では無理しなければいいのだが、それではちょっとタイプRらしくない。また、こうした印象は雨ではさらに強まる。
日常域で楽しさが味わえ、お勧めできるクルマだとは思う。しかしほぼ同時期に同じカテゴリーに投入された「ルノー・ルーテシアRS」の、乗り込んだ瞬間からクルマを信じて全開でいける素晴らしい走り、そして快適性を味わった後では、正直ちょっと点数を下げざるを得ない。硬派なら硬派、洗練なら洗練と、もう少し明確にどちらかに振っても良かったのではないかと思う。
とは言いつつも、見た目にしろ走りにしろ際立って強い存在感には、やはり大いにひかれるところがあるのもたしか。2010台という限定台数はすでに捌けてしまい、あとは販売店在庫のみという状況のようだが、それも頷ける話だ。色々書いたが、久々に、理屈を超えて欲しいと思わせるホンダ車の登場である。
(文=島下泰久/写真=荒川正幸)

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
-
DS N°8エトワールAWD(4WD) 2026.8.22 DSオートモビルから登場した、新時代の旗艦モデル「N°8」。完全新設計のシャシーにアクティブサスペンションを組み合わせた電気自動車(BEV)は、往年の“ハイドロ”を思わせる乗り味と人車一体の走りを備えた、稀有(けう)なサルーンに仕上がっていた。
-
メルセデス・ベンツCLA220(FF/8AT)【試乗記】 2026.8.21 メルセデス独自のオペレーティングシステムと、フル電動化を見据えた最新プラットフォームを組み合わせて開発された新型「CLA」。その先鋒として発売されたハイブリッドモデルの仕上がりを、セダンの上級グレードに試乗して確かめた。
-
マツダCX-5 L(4WD)【試乗記】 2026.8.19 マツダの販売の中軸を担うミドルクラスSUV「CX-5」が、3代目にフルモデルチェンジ。その完成度にはどうしても期待してしまうところだが、実車の仕上がりはどうだったのか? 絶対に失敗の許されない、マツダの基幹車種の実力に触れた。
-
トヨタbZ4XツーリングZ(FWD)【試乗記】 2026.8.18 クルマの進化か、充電インフラの進化か、それともCEV補助金拡充の効能かは定かではないが、ようやく日本の電気自動車(BEV)も普及期を迎えつつある。ことに「bZ4Xツーリング」は豊かな一充電走行距離と優れたドライバビリティーが自慢のトヨタの最新作だ。FWDモデルの仕上がりをリポートする。
-
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【試乗記】 2026.8.17 BMWの新世代電気自動車の第1弾である「iX3」がいよいよ日本の道を走り始めた。さすが「ノイエクラッセ」をうたうだけあって、内外装だけではなく、運転感覚もまた新しい。「Mスポーツ」グレードの仕上がりをリポートする。
-
NEW
OEM車で自社製品らしさを出すために、多田さんだったら何をする?
2026.8.25あの多田哲哉のクルマQ&A他メーカーが開発したクルマを、自社製品として別の名前でユーザーに供給するOEM車。エンジニアの工夫次第で、オリジナルとは異なる独自の個性を出すことはできるのか? 元トヨタの車両開発者、多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
BMW 120オリジナル(FF/7AT)【試乗記】
2026.8.25試乗記BMWの主要モデルに新グレードの「オリジナル」が設定された。位置づけとしては新たなエントリーグレードということになるが、BMWらしさを損なうことなく装備を厳選し、価格を抑えたのがポイントだという。「1シリーズ」の「120オリジナル」の仕上がりをリポートする。 -
NEW
トライアンフ・スラクストン400(6MT)【レビュー】
2026.8.25試乗記カフェレーサーの本場である、イギリスのトライアンフがリリースした「スラクストン400」。車名のとおり、カジュアルに楽しめる400ccクラスのマシンではあるのだが、その実物からは、エントリーモデルとは思えない本物の香りが漂っていた。 -
NEW
スズキeスカイ プロトタイプ(FWD)【試乗記】
2026.8.24試乗記スズキが満を持して世に問う、軽規格の新型電気自動車「eスカイ」。軽乗用車の本質である、生活の足としてのちょうどよい性能を追求したという一台は、どのようなクルマに仕上がっているのか? 2026年秋の正式発表を前に、プロトタイプモデルに試乗した。 -
デビュー4年でどう変わる? 最新型「トヨタ・クラウン クロスオーバー」の詳細を予測する
2026.8.24デイリーコラム2022年7月のデビューから4年がたち、仕様変更が予告された「トヨタ・クラウン クロスオーバー」。では、どこがどう変わるのか? 最新型の発売を前に、さまざまな角度からポイントを予測してみよう。 -
トヨタRAV4アドベンチャー(前編)
2026.8.23思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が新型「トヨタRAV4」に試乗。ご存じのとおり今やトヨタの屋台骨を支えるSUVであり、先代モデルではグローバルでの年間販売台数が100万台に到達。世界で最も多く販売されるトヨタ車の6代目だ。箱根のワインディングロードでの印象を聞いた。





























