スバル・エクシーガ2.0i-L(4WD/CVT)【試乗記】
エクシーガよ、どこを目指す? 2009.11.12 試乗記 スバル・エクシーガ2.0i-L(4WD/CVT)……303万4500円
「レガシィ」の血を引く、スバルの7シーターモデル「エクシーガ」が小変更を受けた。新開発のCVTを搭載する、2リッターNAモデルの走りを試す。
CVTの悪癖が目立つ
デビューからもうじき1年半となる「エクシーガ」は最近、今まで以上に「レガシィ」の血縁であることを強くアピールしている。単なる7シーターではなく、スバルらしく走りを重視していることを謳いたいのだろう。もっともレガシィがモデルチェンジでデザインも走りもテイストを大きく変えてしまっただけに、一見して共通のDNAを感じ取るのはむしろ難しくなったとさえ言えるかもしれない。しかし現金なもので、レガシィよりクリーンなそのデザインが、今になって案外悪くなく見えてきた感は正直言ってある。
そんなエクシーガに、レガシィに続いて新開発のCVT「リニアトロニック」が搭載された。採用されたのは、水平対向2リッター自然吸気(NA)エンジンを搭載した「2.0i-L」「2.0i-S」の2モデル。以前の4段ATからの置き換えである。それに伴って、エンジンの最高出力が148psから150psへと増大しているが、基本的には同じものと見ていいだろう。ちなみにレガシィでは、CVTは2.5リッターNAエンジンとの組み合わせである。
では、それで走りはどう変わったか? 結論から言えば、残念ながら個人的にはあまり満足のいく仕上がりとは思えなかった。
まず発進して徐々に加速していく時には、CVT特有の悪癖であるエンジン回転が先行する感じが強い。欲しいだけのレスポンスが得られないから、感覚としては常に加速以上にアクセルを踏み込んでいるよう。実際の加速以上にもどかしく感じられてしまう。
さらに加速をという時にも、やはり軽く踏み込んでも即座に反応してくれないから、ついつい多めにドンッと踏み、速度が乗ってきたらアクセルをパカッと離して、みたいな運転になりがちだ。しかもアクセルを離しても加速感がまだ残っているから速度コントロールもしにくい。こんな具合で繊細に運転しても応えてくれないと、そのうち適当な運転になってしまう。
コーナーでは楽しめるが……
たしかにドライバーの意思に関係無くエンジンの美味しいところを使おうとするから、効率は悪くないのだろう。実際、今回も燃費はリッター当たり10km近辺を上下していて、サイズを考えれば上々と言えるとは思う。しかし走りの気持ち良さという面では響くところは薄い。せっかく心地良い吹け上がりをもつボクサーユニットなのに、回転をひとりで上下させようとしてウーウー唸っているだけである。
そもそもCVTは、特に効率性を高めようとすればするほど、レスポンスの面では人間の感性とかけ離れていきがちだ。残念ながらその悪癖が、このエクシーガではモロに出ている。せめて低速トルクのある2.5リッターなら、ドライバビリティは随分良くなっていただろうし、燃費だってきっとそうだったはずだ。
乗り心地は、とても当たりが柔らかい。しかし高速道路をそれなりのペースで走っていると、グラッとした動きで特にボディ後半部の重心の高さが感じられて、直進時でも強い風に煽られると進路が乱れがちだ。もう少しビシッと走ってくれたほうが、快適に感じられるのではないだろうか? 運転席だけの話ではない。こういう動きは席が後ろになるほど大きくなるものである。
それでもコーナーでは、一旦曲がり始めてしまえば、安定した姿勢で気持ち良く駆け抜けることができる。このあたりはまさにDNAのなせるワザ。操舵初期のヨッコイショという動きにさえ慣れれば、ワインディングロードでも結構楽しむことができるのだ。
|
もっと自身に自信を
このクルマの目指した境地は一体どこだったのだろうか? それこそレガシィにも通じる味わいを期待すると、緩慢なレスポンス、歯切れの良くないフットワークに裏切られる。別にCVTだからダメだと言うつもりはない。世の中には、CVTでも良くできたクルマはある。アシを硬くしろと言っているわけでもない。しかし現状は、せっかくのスバルらしい走りのDNAを生かし切れていないと思わざるを得ない。
水平対向エンジンやシンメトリカルAWDなど、メカニズムについては一本筋の通ったところを見せるスバルだが、デザインや走りのテイスト等々の部分は、どうも統一感に乏しいというのが正直なところである。スバルは自らのブランドの価値、揺らいではいけないものはなにかということを、再度見直すべきなのでは?
|
ついレガシィを引き合いに出してしまうのは、自身の魅力、本当の持ち味を自分でわかっていないからだ。見たいのは、もっと自らの素性を生かした、そして自信に満ちあふれたエクシーガである。進化に期待したい。
(文=島下泰久/写真=高橋信宏)

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
-
ポルシェ911タルガ4 GTS(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.26 「ポルシェ911」に求められるのは速さだけではない。リアエンジンと水平対向6気筒エンジンが織りなす独特の運転感覚が、人々を引きつけてやまないのだ。ハイブリッド化された「GTS」は、この味わいの面も満たせているのだろうか。「タルガ4」で検証した。
-
ロイヤルエンフィールド・ハンター350(5MT)【レビュー】 2025.11.25 インドの巨人、ロイヤルエンフィールドの中型ロードスポーツ「ハンター350」に試乗。足まわりにドライブトレイン、インターフェイス類……と、各所に改良が加えられた王道のネイキッドは、ベーシックでありながら上質さも感じさせる一台に進化を遂げていた。
-
ホンダ・ヴェゼル【開発者インタビュー】 2025.11.24 「ホンダ・ヴェゼル」に「URBAN SPORT VEZEL(アーバン スポーツ ヴェゼル)」をグランドコンセプトとするスポーティーな新グレード「RS」が追加設定された。これまでのモデルとの違いはどこにあるのか。開発担当者に、RSならではのこだわりや改良のポイントを聞いた。
-
三菱デリカミニTプレミアム DELIMARUパッケージ(4WD/CVT)【試乗記】 2025.11.22 初代モデルの登場からわずか2年半でフルモデルチェンジした「三菱デリカミニ」。見た目はキープコンセプトながら、内外装の質感と快適性の向上、最新の安全装備やさまざまな路面に対応するドライブモードの採用がトピックだ。果たしてその仕上がりやいかに。
-
ポルシェ911カレラGTSカブリオレ(RR/8AT)【試乗記】 2025.11.19 最新の「ポルシェ911」=992.2型から「カレラGTSカブリオレ」をチョイス。話題のハイブリッドパワートレインにオープントップボディーを組み合わせたぜいたくな仕様だ。富士山麓のワインディングロードで乗った印象をリポートする。
-
NEW
2025年の“推しグルマ”を発表! 渡辺敏史の私的カー・オブ・ザ・イヤー
2025.11.28デイリーコラム今年も数え切れないほどのクルマを試乗・取材した、自動車ジャーナリストの渡辺敏史氏。彼が考える「今年イチバンの一台」はどれか? 「日本カー・オブ・ザ・イヤー」の発表を前に、氏の考える2025年の“年グルマ”について語ってもらった。 -
NEW
第51回:290万円の高額グレードが約4割で受注1万台! バカ売れ「デリカミニ」の衝撃
2025.11.28小沢コージの勢いまかせ!! リターンズわずか2年でのフルモデルチェンジが話題の新型「三菱デリカミニ」は、最上級グレードで300万円に迫る価格でも話題だ。ただし、その高額グレードを中心に売れまくっているというから不思議だ。小沢コージがその真相を探った。 -
ミツオカM55ファーストエディション
2025.11.27画像・写真光岡自動車が、生産台数250台限定の「ミツオカM55 1st Edition(エムダブルファイブ ファーストエディション)」を、2025年11月28日に発売。往年のGTカーを思わせる、その外装・内装を写真で紹介する。 -
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】
2025.11.27試乗記ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。 -
第938回:さよなら「フォード・フォーカス」 27年の光と影
2025.11.27マッキナ あらモーダ!「フォード・フォーカス」がついに生産終了! ベーシックカーのお手本ともいえる存在で、欧米のみならず世界中で親しまれたグローバルカーは、なぜ歴史の幕を下ろすこととなったのか。欧州在住の大矢アキオが、自動車を取り巻く潮流の変化を語る。 -
「スバル・クロストレック」の限定車「ウィルダネスエディション」登場 これっていったいどんなモデル?
2025.11.27デイリーコラムスバルがクロスオーバーSUV「クロストレック」に台数500台の限定車「ウィルダネスエディション」を設定した。しかし、一部からは「本物ではない」との声が。北米で販売される「ウィルダネス」との違いと、同限定車の特徴に迫る。






























