第393回:2009年ルマン24時間耐久取材で考える
レースっていったいなんなんだろう?
2009.07.27
小沢コージの勢いまかせ!
第393回:2009年ルマン24時間耐久取材で考える レースっていったいなんなんだろう?
レースのゲーム性はテレビ観戦で十分わかる?
ちょっと前の話になるが、久々にルマン24時間耐久レースを生でじっくり観た。日本からLMP2クラスで出た「NAVI TEAM GOH」の追っかけ記者としてであり、詳しくは雑誌『NAVI』を読んでほしいが、ここに個人的感想を付け加えようと思う。
それは俺の得意なプリミティブネタ(笑)、「レースとはなんぞや?」という話だ。
正直、最近俺はレースを生で見たいとほとんど思わない。というか、バトルが激しい二輪のMotoGPぐらいは見に行こうかと思うけど、F1やGTにほとんど興味がない。もちろんF1を観ると感激はするし、中嶋悟が出ていた90年代には、何度か自腹で鈴鹿まで行ったこともある。
でもそのたびに、うすうす「なんでこんなの来るのに何万円も払うんだろ」「テレビで十分じゃん」と思っていたのも事実。レースの詳しい途中経過、すべてのバトル、クラッシュシーンはテレビで観なければわからないし、現場で観られるのはほんの数コーナー、数ストレートの出来事だけ。モニターとの距離にもよるが、リプレイも見られない。よって今じゃ、F1はほとんどテレビ観戦になった。現場には仕事で行くか、ルマンやドイツのニュルブルクリンク24時間レースなどに足を運ぶぐらいだ。
比べるとサッカーは、いまだにヨーロッパの試合はもちろん、国内でも生でタマにみるし、アメリカに行けば現場のメジャーリーグの試合をなるべく観る。すごいレース好きでもないといえばそれまでだが、現場で観るならサッカーや野球のほうがいい。ほかにはテニスのウィンブルドン、ゴルフの全英オープンはぜひ一度観てみたいし、ワールドカップスキー、特にダウンヒルは本場のオーストリアのキッツビューエルやスイスのヴェンゲンで生で観てみたい。
醍醐味はインサイドにあり
しかし、今回は久々にレースを現場で観て、メチャクチャ楽しいと思った。それはルマン特有の味わい深さもあるが、つくづくレースの醍醐味はインサイドにあると感じたからだ。
今回は監督である『NAVI』編集長の加藤さんに密着し、24時間、いやモーターホームも同じだから36時間一緒にいた(変な関係ではないですよ(笑))。それと3人のドライバー、2004年ルマン総合優勝の荒聖治さんに、2008年のマカオGP優勝の国本京佑君、ポルシェワークスのサシャ・マッセン。さらにチーフエンジニアの加藤博さんにチーフメカニックの岡澤君、マネージャーの池田君ともそれぞれ顔見知りになれ、生の声を聞くこともできた。それもほとんど日本人なので、ほぼオール日本語で(笑)。
チーム代表の郷和道さんから直接お話が聞けたことも貴重だった。これまた非常にサービス精神旺盛かつ頭のいいかたなので、話していて大変面白かった。
その場で小さな疑問がすぐに解消するだけではない。彼と話していると、現場の緊張感、戦略、考えてることがかなり理解できるうえ、歴史的ルマンストーリーをも思い起こさせるのだ。
もちろん、俺には理解できないこと、教えられないこと、言いたくないこともたくさんあったとは思うが、情報、テンションともに普段コースサイドでボーッと観てるのとは雲泥の差。すると、いつもとは違う別の世界が見えてきた。スタート前のレースプラン詳細から始まり、それらの成功不成功、アクシデントの詳細、トラブル、そしてそれに伴うドライバーやスタッフの喜怒哀楽などだ。
特にそれがトップカテゴリーのLMP1に次ぐ、LMP2だけに味わいはなおさら。マシン、ドライバー、スタッフ、すべてが世界レベルで一つ一つが興味深い上に、さらにそれにまつわる大きなストーリーが構築されている。
なかでも俺は、細かいメカニズム、ディテールがそれほど気にならないアンマニアック(?)なタイプなので、大きく流れるストーリーが面白かった。
人が見えない
それはいわば壮大な人間ドラマである。たとえば今回はレースとはいえ、ライバルは同じ「ポルシェRSスパイダー」を駆る、デンマークのエセックスチームに限られており、事実上のマッチアップ。詳しくは『NAVI』2009年10月号を読んでいただくとして、ある種、テニスのようであり、ボクシングのようだった。一周一周のラップタイム競争が、ネットを挟んだラリーであり、アクシデントがボクシングのノックダウンか。特に今回はチームにずっと張り付き状態だったので、チーム郷側に感情移入がすんなりでき、序盤は特に寝たくても寝られなかった。
途中、何回か“ノックダウン”させられたので、テンションは変わったが、その後の防戦もまたリアルスポーツだ。そこにはマシンを走らせる人がいて、サポートする人、見守る人がいる。それぞれはもちろん人の命がかかった作業なので、手の抜きようもない。ある種の我慢比べなのだ。
繰り返すが、レースは選ばれた人と優れたハイテクマシンで織りなす、壮大なドラマだ。スケールの大きさ、複雑さは他のスポーツ以上であり、人の重要性はもちろん、マシンファクターも大きい。本来メカにオタク的興味のない俺ですら、セミワークスとも言えるポルシェRSスパイダーの造りには驚かされたし、メカニズムとその思想も面白かった。
しかしそれは、コースサイドで見ているだけではよくわからない。特に人の感情、動きのさまがわかりやすく見えないという点で、レースはサッカーやテニスそのほかに確実に劣る。たとえばサッカーはメインスタンドにパッと立ち、詳しい人と5分も観れば誰がクリスチアーノ・ロナウドなのか、カカなのかわかるし、選手の喜び、怒りも良く伝わるし、場外乱闘もある。戦術もちょっとつっこんで観てれば自ずとわかってくる。
しかし、クルマのレースはそれがわからない。いや、わかりにくい。それが今回ルマンを観てよくわかった。今まで俺は、そこの場所までたどり着いていなかったと。
観戦の障害とは?
ではなぜにレースは人を集めるのか? それは興行として、非常に優れているからである。ようするに俺がスキーのダウンヒルで、生身の人間が100kmで降りていくさまを観たい、と思うのと同様の興奮がある。特に真夜中に300km/hでぶっとばすルマンは、世界最大のスピードの祭典だろう。そこには一種の人としての狂気、マシンの狂気があるのだ。
だが、それにいったん慣れてしまうと飽きがくるし、現場に来なくなる。本来は、その先に複雑な人間ドラマ、マシンドラマがあるのだが、レースの場合、よほど情熱のある人か運のいい人、立場のいい人しか、そのシーンを目撃できる場所にたどり着けない。今回俺はラッキーにも、ライターという立場でそこに行けたが、普通の人は簡単には行けない。そこがレース観戦を楽しむ上で、大きな障害となっているようにも思う。
要するにモータースポーツほど観る立場によって、醍醐味、情報量レベルが違うスポーツもなく、しかも最初のインパクトがデカいだけに、なかなか先に進めない。つい、おざなりになってしまうのだ。
しかし、日本人ほどスポーツにある種のストーリー性や“道”を求める民族もないと思う。つまり、本当は日本人ウケする面白いスポーツなのに、正しく伝わってない気がするのだ。そして、それを阻害しているのは、我が国特有の隠蔽体質や事なかれ主義もある。ハプニングやトラブルをつい隠してしまいがちで、結果的にツマラナイ報道になりがち。結局、そこに日本でモータースポーツが流行らない根本原因があるのではないだろうか。
もはやモータースポーツ報道も裸になるしかない。浪花節でもないオタクでもないリアルななにかの情報が必要なのだ。業界人よ、目覚めよ! 人間よ、土に帰れ! だ。
(文と写真=小沢コージ)

小沢 コージ
神奈川県横浜市出身。某私立大学を卒業し、某自動車メーカーに就職。半年後に辞め、自動車専門誌『NAVI』の編集部員を経て、現在フリーの自動車ジャーナリストとして活躍中。ロンドン五輪で好成績をあげた「トビウオジャパン」27人が語る『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた』(集英社)に携わる。 YouTubeチャンネル『小沢コージのKozziTV』
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