フォルクスワーゲン・ゴルフR32(4WD/2ペダル6MT)【ブリーフテスト】
フォルクスワーゲン・ゴルフR32(4WD/2ペダル6MT) 2006.04.19 試乗記 ……460万円 総合評価……★★★★ 3.2リッターV6エンジンを搭載する「R32」は先代ゴルフでも人気を博した。5世代目に加わった新R32は、さらにパワーを向上させただけでなく、プレミアム感をもまとって登場した。オールラウンドな全能性
DSGというのは、実に罪作りな機構である。先に同じR32の6MTモデルに乗って、気持ちよくマニュアルシフトならではの走りを楽しんだ。しかし、このDSG仕様を走らせてみると、いかに自分がパフォーマンスをフルに発揮できていなかったかを思い知ることになる。シフトアップ、シフトダウンのスムーズさと素早さはまったく敵わないのだ。クラッチ操作から解放されるおかげで、ステアリング操作に集中して走りを楽しむことができる。しかもパワーをダイレクトに感じられることに関しては、MTにまったくヒケをとらないのだ。
3.2リッターエンジン、DSG、4モーションという三位一体がもたらすのは、安楽な高性能だ。強大なトルクを出来の良いトランスミッションを介して、4WDが路面に伝える。かくして誰もが安心して速く走る能力を手に入れることになる。
とは言え、それは事務的にただ高速移動を可能にするクルマということではなく、走ることに楽しみを見出すことができる。それは心を躍らせるエグゾーストノートであり、パドルでシフトを操る快感であり、巧みにクルマ好きのツボを刺激してくるのだ。
同じくスポーツモデルである「GTI」との区別が議論を呼ぶところだ。価格を同じDSGモデルで比べると約100万円の差があり、パワーでは50psのギャップがある。どちらも速いクルマであることに違いはないが、R32はその速さを目一杯使い切らずに悠然と乗ってもいいだろう。GTIは、盛り上がるターボのパワーを駆使したいという欲望がドライブされるところがある。「ワッペングリル」がブラックアウトされて攻撃性を強調したGTIと、クロームを施すことでプレミアム感を醸し出したR32との見栄えの差にも現れている。オールラウンドな全能性ということでは、R32に分があるだろう。
R32もGTIも、販売はすこぶる好調らしい。寿ぐべきことだが、それが必ずしもゴルフ全体の人気につながっているとは言えないところがある。高性能モデルはもちろん魅力的だ。それだけの実力があるということは、ベーシックモデルにも大きなポテンシャルが備わっていることを意味するはずなのだが。
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【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
コンパクトカーの代名詞的存在であるゴルフは、2004年5月に5世代目が日本に導入された。「アウディA3」とプラットフォームを共用しているが、ゴルフ自体でも広いバリエーションを展開している。エンジンラインナップは、1.6リッターFSI(116ps)、2リッターNA(150ps)、2リッターターボ(250ps)、3.2リッターV6(250ps)の4種、トランスミッションはティプトロニック付き6段AT、6段MT、6段DSGの3種がある。
240万4500円の「E」から439万円のR32まで、価格も幅がある。
(グレード概要)
先代は限定販売だったR32だが、新型はGTIとともにスポーツモデルとしてカタログに載る。従来モデルより9ps出力を増し、”ゴルフ史上最強”を謳う。「4ドア、右ハンドル、DSG」が標準のモデルで、「2ドア、左ハンドル、MT」の仕様が受注生産モデルとして用意される。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★
左に回転計、右に速度計が同じ大きさで並び、真ん中にはマルチファンクションインジケーターが備わるという構成はこのモデルでも同じ。シンプルだが、機能的で見やすいメーターパネルである。ただし、速度は300km/hまで刻まれている。栓抜きで区切られるカップホルダーも他のグレードと同様で、ハイパフォーマンスモデルにもゴルフの実用性は貫かれている。思想がぶれないのは好ましいが、アルミニウム製のトリムなどを除けば特別なモデルに乗っているという実感が得られないのは、物足りなく感じるオーナーもいるかもしれない。
(前席)……★★★★
試乗車には、レカロ製のスポーツシートが装着されていた。ホールド性は高いが、結構大ぶりなサイズなのでスリムな人はサイドのサポートの間で横に動いてしまいそうだ。当然、乗り降りには多少のコツを要する。レザーが張られているけれども、プレミアム系の柔らかな素材ではなく、ごわごわした丈夫そうなもの。18インチタイヤを履き足まわりが固められているものの、乗り心地が決して悪くないことはとてもありがたい。パドルを操作しながらスポーティな走りを楽しむのを、不快な振動やショックに妨げられることはないのだ。
(後席)……★★★
前席に比べると、路面からの突き上げは明らかにストレートに伝わってくる。また、レカロシートのショルダーサポートに視界を遮られ、背面に映り込む自分の姿を始終見つめていることになる。やはりこの手のモデルでは、リアシートは最高の空間とはならないようだ。もちろんあくまで前席と比べるといくらか劣るという程度であって、耐えきれないというレベルではない。頭上や足下の空間も、十分に確保されている。後席用のカップホルダーがやけに強力なバネでホールドされているのに戸惑ったのだが、VW車には得てして細かな操作に大きな力を要する場合がある。
(荷室)……★★★★
リアのエンブレムを押してハッチを開ければ、広大でフラットなスペースが広がる。リアシートは6:4の分割可倒式で、さらに大きな空間を得ることもできる。これぞゴルフという実用性を兼ね備えたスポーツモデルなのだ。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★★★
250psという数値以上に、3.2リッターV6エンジンは活発な印象をもたらす。ひとつには、音のチューニングが徹底されていることが影響しているのだろう。加速にともなって響いてくる心地よいエグゾーストノートが、なにやら気分を高揚させてくれるのだ。この演出は、ラテン車もかくやと思わせる。もちろん気分だけではなく、低回転からしっかりとついてくるトルクが発進直後に目の覚める加速を招来する。そして瞬く間にレブリミットまで一気に吹け上がるのだ。
エンジンの気持ちよさを存分に味わうことができるのは、恐ろしくよくできたDSGのおかげだ。オールマイティなトランスミッションである。Dモードに入れておけば、32.6kgmのトルクをしっかりと受け止めてスムーズにシフトアップしていく。ギアチェンジの素早さには、嫉妬を覚えるほどだ。Sモードでは、より戦闘的な振る舞いを見せ、隙あらば中吹かしを入れて低いギアを選ぼうとする。Dモードで100km/h走行しているとギアは6速で2300回転を保っているが、Sに入れた途端に4速に落ちて回転が3500に達する。パドル操作は常に有効なので、モードを変更することなくシフトダウンを行うこともできる。しかし、どうやらDSGにまかせておくのがいちばん速く走れるようだ。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★★
FFの「ジェッタ」は、2リッターターボでも発進時に少しラフにアクセルを開けると前輪がトラクションを伝えきれなくなった。ハルデックスカップリング4WDシステムの4モーションを備えるR32は、いきなり全開加速を行ってもしっかりと4輪が受け止めてくれる。コーナリング時の安心感もこの上ないものだ。基本的にはFF状態で走行する身のこなしは素直なフィールで、安定した姿勢でコーナーを駆けぬけることができる。腕自慢には物足りないかもしれないが、万人に開かれた民主的高性能がこのクルマの持ち味である。
乗り心地は総じて問題のないレベルではあるが、西湘バイパスや首都高速3号線など、目地段差が連続する場面では腰で衝撃を受け止めざるを得ないこともある。しかし、享受しているパフォーマンスの高さを考えれば、文句を言うのはわがままというものだ。
(写真=峰昌宏)
【テストデータ】
報告者:NAVI鈴木真人
テスト日:2006年4月6〜10日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2006年型
テスト車の走行距離:6570km
タイヤ:(前)225/40R18 92Y(後)同じ(いずれも、ミシュランPilot Exalto)
オプション装備:レカロ製フロントスポーツシート=21万円
形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3):高速道路(5):山岳路(2)
テスト距離:395.6km
使用燃料:64.9リッター
参考燃費:6.1km/リッター

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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