フォルクスワーゲン・ニュービートル(FF/4AT)/ニュービートルカブリオレ(FF/6AT)【試乗記】
いかがです、ワンチュク国王? 2005.11.03 試乗記 ニュービートル(FF/4AT)/ニュービートルカブリオレ(FF/6AT) ……259万8750円/313万9500円 デビューから6年、「ニュービートル」にとって初めてのマイナーチェンジである。とはいっても、内外装のお色直しはごく限定的なもの、機関面は何も変わらない。ハッピーなキャラも、そのままである。ロハスなクルマ!?
フォーマット上仕方がないからそのままにしたけれど、本当はこの記事にはスペックなんて記したくなかった。そんなものは、このクルマにとってたいした意味を持っていないのだ。数字では語れない魅力、なんていうと使い古された言葉になってしまうのだけれど、なにしろ数値データと実感する魅力の間にこれほどギャップのあるクルマも珍しい。
たとえば、エンジンは1.6リッターと2.0リッターの直4SOHCで、最高出力はそれぞれ102ps、116psという平々凡々たるものだ。組み合わせられるトランスミッションは、カブリオレこそティプトロニック付きの6段ATだが、セダンモデルはフツーの4段ATである。そもそもシャシーは先代ゴルフのものを使っているわけだし、テクノロジーに関してはほとんど語るべきことがない。
それでも、結論から言ってしまうと、これは大のおすすめグルマなのだ。「Go Slow」というのがこのクルマのスローガンで、なるほど、フォルクスワーゲンはよくわかってるなあ。遅く走ろうって呼びかけてしまうんだから、高速で移動することをひたすら追い求めるビジネス・エキスプレスに対してイヤミをいっているようなものだ。しかし時代はロハスってことになっているわけで、このフレーズは新しもの好きの人にもしっかり響くんじゃないか。
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風を入れたくなる
試乗会の基地が逗子マリーナというのも、グッチョイだった。このあたりは海に行っても山に行っても狭い道だらけで、そもそもスピードが出せない仕組みになっている。あいかわらずの見切りの悪さで、観光客が集まっているところにうっかり入ってしまった時は結構困った状況に陥った。北鎌倉の寺にお参りにきた善男善女に取り囲まれて、身動きがとれなくなったのだ。
寺の門の前にニュービートルを置いて、じっくり眺めてみる。1999年のデビュー以来、初めてデザインに手が入った。元ネタとして旧ビートルがあるのだから、根本的に形を変えてしまうことはもちろんできない。目立つ変更点は、前後のライトとバンパー形状に関するものだ。ヘッドランプが真ん丸から楕円になり、リアコンビネーションは二重丸の構造になった。前バンパーは3分割となり、後ろも含めてエッジの立った形状に変更された。穏当であり、それでいてしっかりと違いが確認できるという、なかなか頃合いを心得た絶妙な加減である。
海辺の道を走っていると、窓を開けて風を入れたくなる。普段はどんなクルマに乗っていても、しっかり密閉した空間でエアコンを効かせているのだが、なぜかこのクルマは外の空気とつながりたくなるのだ。だから、できることならばオープンに乗るのがいちばん気持ちがいい。さっそく、ニュービートルカブリオレに乗り換えた。
まわりまでハッピー
絵に描いたような秋晴れの空の下、トップを開け放つと陽光と海風を独り占めした気分になる。最近は名ばかりのオープンカーが多く、フロントウィンドウの角度がきつくて開放感が感じられないこともあるのだが、ニュービートルは古典的なプロポーションである。裏を返せば、速度を出せばそれなりに風を巻き込むことを意味するが、それがマイナスにならないところがこのクルマのキャラクターなのだ。細かいことに文句を言う気にならない。
テストドライブ中、何台ものニュービートルカブリオレとすれ違った。試乗車ではなく、地元の人が乗っているクルマである。海と山が出会うこんな土地に住んでいれば、そりゃあこういうクルマに乗りたくもなるだろう。外から眺めていても、いい気分になる。特に畳んだトップがリアにちょこんと突き出ている様子はなんとも可愛らしくて、リゾート感覚に溢れている。乗っている人間だけでなく、まわりまでハッピーにさせるんだからたいしたものだ。どこがどういいのだかさっぱり説明できていないのだけれど、そういうクルマなのだ。この部分が優れている、という説明はしようがない。
ヒマラヤの山間にある小国ブータンでは、ワンチュク国王が国家目標として「GNP」ならぬ「GNH」を掲げているのだそうだ。Gross National Happiness、つまり「国民総幸福」を意味する言葉だ。貧しい農業国のブータンはGNPや外貨準備高とかの数値では世界でも最貧国に位置づけられてしまうかもしれないが、国民の「幸せ度」なら負けない自信がある、ということらしい。理屈で説明するのは難しいけれど、豊かな自然の中で無駄な欲を抱かずに生きるライフスタイルに共感する人は多いだろう。
同様に、ニュービートルも「総幸福」というよくわからない基準で評価していいのである。お金を集めて放送局やら野球チームやらを買うことに生き甲斐を感じている人たちにこそ乗ってほしいクルマだ。世の中にはいろいろな価値基準があるんだということに気づくんじゃないかと思う。
(文=NAVI鈴木真人/写真=峰昌宏/2005年11月)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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