トヨタ・ハリアー300G“Lパッケージ”(FF/5AT)【ブリーフテスト】
トヨタ・ハリアー300G“Lパッケージ”(FF/5AT) 2003.04.04 試乗記 ……339.7万円 総合評価……★★★ワイルド・バット・グローバル
1997年、「カムリ」をベースに背の高いSUVをつくったら、“ラクシュリーSUVブーム”という神風が吹いて、累計販売台数40万台という予想外のヒット。日本では下火だが、アメリカでは活況を呈するこの市場に目をつけた他メーカーが続々新型SUVを投入。それを迎え撃つべく、現行カムリをベースに仕立て直したのが、今回の「ハリアー」。アメリカでのレクサス「RX330」だ。
ハリアーとは「チュウヒ」という猛禽類にちなんだネーミング。国鳥がハクトウワシであることから推測するに、アメリカ人はきっと鷹とか鷲が大好きなんでしょう。外観のモチーフとなったのは獲物を狙う鷹、内装のイメージは翼を広げた鷹。アメリカ人が好む(と思われる)猛禽類をあちこちにちりばめた。黒人音楽に憧れた白人ミュージシャンがR&Bを演奏すると、必要以上にブラックなノリを強調して、黒人よりも“らしく”なってしまうことがあるけれど、ハリアーもアメ車以上にアメ車っぽい。わかりやすく明るくキラびやかで、見ても乗っても力強い。
つまりは「ワイルド・バット・グローバル」。ここでのグローバルとは、アメリカの意であるが……。
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【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
1998年に登場した乗用車ベースのSUV。北米ではレクサスRX300として販売され、大ヒットとなった。現行モデルは、2003年2月17日にフルモデルチェンジを受けた2代目。
新型は、リアハッチゲートの傾斜を強め、スタイリッシュを演出。ボディサイズは拡大され、全長×全幅×全高=4730(+155)×1845(+30)×1680(+15)mm、ホイールベースは2715mm(+100)(カッコ内は先代との差)の堂々たる体躯となった。エンジンラインナップは従来と変わらず、2.4リッター直4 DOHC16バルブ(160ps/5600rpm、22.5kgm/4000rpm)と、3リッターV6 DOHC24バルブ(220ps/5800rpm、31.0kgm/4400rpm)の2種類。3リッターにのみ5段ATが組み合わされ、2.4リッターは従来通りの4段ATとなる。駆動方式はFF(前輪駆動)と、4WDが用意される。
新型の目玉技術は、衝突時の被害を軽減する「プリクラッシュセーフティ」(AIRSにオプション設定)。フロントのミリ波レーダーが前方障害物への衝突可否を判断し、不可避なら前席シートベルトをモーターで巻き取り、乗員をシートに固定。ブレーキペダルの踏み込みと同時にブレーキアシストを作動させ、衝突ダメージを最小限に食い止めるという。
(グレード概要)
新型ハリアーのラインナップは、ベーシックな「240G」、3リッターV6を積む「300G」と、トップグレード「AIRS」の3種類。それぞれにFFと4WDが設定され、240Gと300Gには、装備が充実する“Lパッケージ”と“プレミアムLパッケージ”が用意される。
「300G“Lパッケージ”」は、3リッターモデルの豪華版。ベーシックな300Gとの差異は、ハロゲンヘッドランプがディスチャージヘッドランプになること、電動パワーシート(運転席8WAY、助手席4WAY)など。シート生地は、トリコットからジャガード織物にグレードアップする。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ&装備)……★★★
デザイン的に冒険はしていないが、価格に見合った質感と装備をもつインパネまわり。試乗車は黒一色の内装だったが、カタログで見るにアイボリーやライトグレー内装色のほうが“アメ車っぽい”と思われる。
通常のエアバッグのほかに膝を保護するニーエアバッグが全車標準で備わるなど、装備に抜かりはない。オーディオの操作はステアリングホイールのスポーク部に付くスイッチで行う。オーディオ類をすべて左親指一本で操作できるのは便利で安全だった。後退時に後ろの風景を映してくれるバックガイドモニターは、狭い日本で大変便利であったが、やはり便利だったDVDナビとあわせて31.7万円とかなり高価。
(前席)……★★★
印象的なのは、シートのサイズがたっぷりとしていること。かけ心地は可もなく不可もなくというところ。長時間座っても不満を感じなかったが、いつまでも座っていたいとも思わなかった。電動で細やかに調整できるシート位置に不満もない。
ATのシフトレバーが高い位置にあるので、巨大なカップホルダー兼モノ入れさえなければ、助手席とウォークスルーできるはず。あるいはベンチシートも……、と貧乏性なことを考えるが、ラクシュリーなSUVはそんな些細なことよりも、ゴージャスに空間を使うほうが大事なのだろう。ドアに備わるポケットがパカッと口を開いたり、モノ入れの蓋がワンタッチで開閉したりと、トヨタらしい細やかな気配りは、慣れると心地良い。
(後席)……★★★
後席スペースは、レッグルーム、頭上空間とも十分以上。身長180cmのリポーターが前席シート位置を合わせてから後席に乗り込んでも、狭っくるしさは感じない。120mmの移動量があるスライド機構を使えば、さらに余裕ができる。ただし、ボディ後部に向かうにつれてサイドウィンドウが細長くなるフォルムは、見た目はカッコいいが、後席の閉塞感にもつながる。
また、後席中央に座る人は覚悟が必要。基本的にはアームレストを置く場所として設計されているようで、スペース的に狭いし座り心地も悪い。大人だったら4名乗車と考えるべし。ここでも、合理性より贅沢を重視している。
(荷室)……★★
4輪ストラットを採用するクルマの宿命である、荷室へのストラットの張り出しが目立つ。地面からテールゲート下端までかなりの高さがあるので、重いモノの出し入れは厳しそう。後席シートバックをフォールディングできたり、センターアームレストをスルーにできたり、荷室床下に収納スペースをつくったりという機能も、特に目新しくはない。総じて、週末の買い物以上の荷物を載せることは重視していない印象だ。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★★
3リッターのV型6気筒DOHCユニットは、低速から良質なトルクを供給し、6500rpmのリミットまで爽快に吹け上がる。市街地をタラタラ走っても、高速道路で追い越しをかけても、山道で頑張っても、どこでも期待に応えてくれる。特に4000rpmから上の明朗なサウンドと滑らかなフィールはスポーティで、運転好きには嬉しい。新型はアクセルペダルへの入力を電子信号に変換して伝える、いわゆる「ドライブ・バイ・ワイヤ」を採用したが、これに起因するかったるさは一切感じなかった。
V6モデルに備わる5段ATもグッド(直4モデルは4AT)。加速が欲しいところでは敏感にキックダウンし、巡航姿勢に入るべくアクセルペダルから力を抜くとドライバーの意思を察知したかのようにシフトアップする。キックダウンもシフトアップも、注意しなければ見逃しそうなほどスムーズに行うから恐ろしい。
シフトレバーを前後にヘコヘコ動かし、ドライバーの意思で変速するマニュアルモードも試してみる。変速はスムーズで素早い。しかし、鷹揚なクルマの性格とできのいいATのおかげで、特に自分のシフト操作が必要とされているとは思えない。運転好きにとってはチョット悲しい現実か。マニュアルモードでリミットの6500rpmまでまわすと、1速で70km/h、2速で110km/hまでをカバー。トップエンドまでまわしても、マニュアルモードでは自動的にシフトアップしないのは、お節介でなくていい。5速1950rpmの100km/h巡航は、いたって静かで高級だ。
(乗り心地+ハンドリング)……★★
見かけよりも乗り心地はいい。というか、高級乗用車と較べても遜色はない。つまり、名実ともに背の高いカムリ/ウィンダム。路面からのショックは巧みに遮断され、道路とタイヤのケンカが遠い世界の出来事に感じる。低速から高速まで、この印象は変わらない。ただし、自分が運転しているという事実まで、遠い世界の出来事に思えるのは問題。今タイヤがどういう状態にあってバネがどのくらい縮んでいるのか、といった情報が、ステアリングホイールから伝わってこない。これは運転が好きな人にとって、悪い意味でたまらないだろう。また、高速道路で追い越しをかける速度でステアリングホイールの手応えが頼りなくなり、フワフワしてしまうのは運転していてツマラナイ以上に不安だ。1670kgの重量物を“軽く運転している”フィールを与えたいのかもしれないが、ちょっとやりすぎ。ブレーキは、どんな速度からも空走感なしに効きはじめ、ペダルの踏み応えもしっかりしたもので、重量に見合っている。こちらは好印象。
(写真=峰昌宏)
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【テストデータ】
報告者:佐藤健(NAVI副編集長)
テスト日:2003年3月25日から26日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2003年型
テスト車の走行距離:1518km
タイヤ:(前)225/65R17(後)同じ
オプション装備:VSC(ビークルスタビリティコントロール)&TRC(トラクションコントロール)=6.0万円/SRSサイドエアバッグ(前席)&SRSカーテンシールドエアバッグ(前後席)=8.0万円/DVDボイスナビゲーションTV付きエレクトロマルチビジョン+音声ガイダンス機能付きカラーバックガイドモニター=31.7万円
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1):高速道路(7):山岳路(2)
テスト距離:298.9km
使用燃料:36.0リッター
参考燃費:8.3km/リッター

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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