ポルシェ・ケイマンS(MR/7AT)/ケイマン(MR/7AT)【海外試乗記】
悩ましい選択 2013.04.10 試乗記 ポルシェ・ケイマンS(MR/7AT)/ケイマン(MR/7AT)もはや「911カレラ」を脅かす存在になった? 新型「ケイマン」の完成度の高さに脱帽する筆者。しかし同時に、2台の間にある厳然たる違いに気付くこととなった。ポルトガルからのリポート。
期待は高まるばかり
「今度のはマジでヤバいぞ」
昨年日本に上陸した981型「ボクスター」に乗って、そのあまりに完璧な出来栄えに感動しつつも、すぐに脳裏をかすめたのはこの新型「ケイマン」のことだった。
元ネタであるボクスターがこれほどのタマ。そして新型ケイマンは前型と違い、あるものとして各種設計が織り込まれている。ことによると半額近い値札にして「911」の存在をも脅かす、とんでもないクルマになるのではないか。この試乗の機会を迎えるまで、僕の期待値はまったく萎(な)えることなくパンパンに膨らんだままだった。
テールエンドに向かって一直線に下っていくハッチゲートを備えたファストバック。象徴的なフォルムはそのままに、新しいケイマンはフロントまわりに「918スパイダー」のイメージを継承するダイナミックなテクスチャーを与え、リアフェンダーまわりの量感を強めるなど、より力強いアピアランスを表現したようにみえる。ボクスターに対すればスポーツ性をより強く打ち出したということだろうか。ちなみに内装まわりの造作はボクスターと同一で、リアのラゲッジスペースは若干の拡大と共にトリム類のデザインも変更、フィニッシュの質感も高められている。
新型ケイマンに搭載されるエンジンはボクスターと同様、2.7リッターと3.4リッターのいずれも直噴フラットシックスの2本立て。パワーはそれぞれボクスターより10ps高く設(しつら)えられる。両車の差異はそのほとんどがECUによるものだが、3.4リッターユニット同士で比べると、興味深いのは最高出力の発生回転域が700rpmも高い7400rpmで325psをマークしていることだろうか。
ちなみに同型のエンジンを積む「911カレラ」は同じ発生回転域ながら、パワーは25ps増しの350ps。「以上〜未満」という先代からの不文律は踏襲されたかっこうだ。
同時に気になるのは、直噴化により先代の2.9リッターユニットと比較しても10ps高い275psを、やはり7400rpmでマークする2.7リッターのベースモデルだろうか。リッター100psの大台を超えたハイチューンエンジンのフィーリングにも期待が高まる。
守備範囲の広さに脱帽
試乗のベースポイントとなったのは、ポルトガルにあるアルガルヴェ・サーキット。アップダウンに富んだ地形を生かし、ダイナミックな中高速コーナーの続くコースレイアウトが印象的なそこを、ハイペースな先導車に従ってがっちり走り込む。その車両をそのまま公道の試乗にも用いるというのは、いつものポルシェのスタイルだ。自らのプロダクトのタフさを示すうえで、これ以上の実証はないということだろう。
そういう然(しか)るべき場所で新型ケイマンに乗ると、ボクスターとの差異として実感するのはやはり破格の剛性感だ。静的ねじれを数字にすれば、あきれることに約2倍というそのボディーは、アクセル全開状態で突っ込む下りと上りが入り交じったコーナーでも、激しく変化する負荷をミシリと泣き言一つも口にせずケロッと受け止める。もちろんボクスターでもボディーの弱さなど感じることは微塵(みじん)もなかったが、上には上があるという世界を見せられると頭を垂れるしかない。
一方で新型ケイマン、サーキットスピードをして乗り心地が抜群にいい。単にアシの動きが正確で余力もたっぷりあるという以上に、シャシー側がドライバーに容赦なくのし掛かるはずのピッチやロールをきちんといなしているのが、凹凸のゼブラゾーンなんかを踏んでいくとよくわかる。
ボディー構造はボクスターと同様、アルミとスチールの混成からなるものだが、前型と違ってルーフをフィクスした状態での剛性バランスもあらかじめ考慮されて設計されている点も奏功しているのだろう。サーキットを連続周回してもGの負荷が柔らかく、肉体的な疲労感が思いのほか少ないのが印象的だった。
そしてサーキットを離れての一般道試乗でも、まず際立つのはひたすら角の取れたライドフィールだ。試乗車は全てPASM(ポルシェ・アクティブサスペンション・マネージメントシステム)を装着していたことを差し引いても、サスは微細な凹凸をサラッと丸め込み、姿勢をフラットに保ちながら淡々と距離を刻んでくれる。
天蓋(てんがい)一枚を挟んでキャビン内に音源があるというのにメカニカルサウンドもよく整理されていて、ノーマルのエキゾーストシステムであれば会話を妨げるほどのノイズがこもるようなこともない。相変わらず室内にカバン等の小物を置くスペースがないのは残念だが、侮れない積載力も相まって、ヘタなスポーツセダンやホットハッチよりも快適にロングツアーもこなせるだろう。スポーツドライビングでのポテンシャルを知るに、そのコントラストはひときわ強烈に感じられる。
下克上が起きている
普段乗りのような扱い方からサーキットスピードまで、ボクスターの印象を思い出しながらMTとPDKを触りつつ新型ケイマン両グレードのエンジンを吟味するに、そのフィーリングには特筆するほどの違いはないというのが正直な感想だった。
スペックが示す通り、トップエンドへと吹き抜ける感覚は若干ケイマンの方にシャープさを感じるが、さりとてボクスターのそれも文句のつけようがないほどスポーティーなうえ、そのビート感をオープンボディーで体感できるという優位もある。厳密に速さを競うならまだしも、気持ちよさを重視するならば両車の差異はないと考えてもいいだろう。
そういう視点に立てば、キャパシティーの小さいぶん回転フィールのスムーズな2.7リッターユニットを6段マニュアルシフトで操ることにボクスター/ケイマン固有の官能性を見いだすこともできる。
そこでもうひとつ、思い出すのが兄貴ぶんである911の存在だ。価格差を抜きにしてみても、ケイマンと911の間には厳然たる違いが相変わらず存在する。それはエンジンの搭載位置や車重のみならず、ポルシェが恣意(しい)的に両車の間に明確なキャラクターを設定しているからだろう。
簡単に言えば、ケイマンが爽快で清涼なスポーツカーであるのに対して、911はのれんの持つ滋味が変わらず重視されているといった印象だ。ステアリングやブレーキの反応ひとつとっても、911にはそれ以外ではかなえられない手応えが宿っている。抱える数字や使う道具は大して変わらないというのに、よくここまで違うものにしてくるもんだと感心するのは、新型ケイマンがケチのつけどころがない優等生だからでもあるのだろうが。
ちなみに新しい「ケイマンS」と911カレラ、ニュルブルクリンク北コースのラップタイムは非公式ながら前者が7分55秒台、後者が7分58秒台と、実はすでに下克上を迎えているそうだ。かつては「ホンダNSX-R」が必死でたどり着いた数字をケロッとマークする。それはとりもなおさずケイマンが、ミドシップスポーツカーとして最良の資質を備えていることを意味している。
が、一方で911を好む向きにとって、それは深刻な問題にはならないだろう。仮に数字に拘(こだわ)るならば7分40秒台の「カレラS」が背後に控え、さらには7分30秒を切るという「GT3」もスタンバっているわけだが、彼らがカレラに対して最も拘るべき官能の数字は「911」である。その点において、御大にブレはない。残念ながらポルシェのスポーツラインを求める者にとって、悩ましい日々はこれからも続くということだ。
(文=渡辺敏史/写真=ポルシェジャパン)
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渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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