ボルボS60 T4 SE(FF/6AT)/V60 T6 AWD(4WD/6AT)
得意科目はロングドライブ 2013.09.08 試乗記 2014年モデルの「ボルボS60/V60」で東京から福島までを往復。1泊2日の小旅行を通して、最新のボルボ車が持つ魅力に触れた。時代が追いついてきた
「V40」以外のボルボがまとめて、フェイスリフトを含むけっこう大幅な手直しを受けた。ボルボといえば、現行ボルボ最小最安にして最新のV40が日本でも売れ行き好調だ。
ただ、V40は基本的にヨーロッパ(と日本などの一部先進国市場)向けで、ドル箱の北米では売られない。より利益率が高くて、グローバル商品でもある“60シリーズ”をはじめとするV40以外が売れてこそ、ボルボは企業としての安定が見込める。というわけで、他のラインナップに即座なテコ入れが必要だったのだろう。
今回の2014年モデルは、その最新V40に投入された自慢の“アドバンスト・セーフティー”を可能なかぎり搭載して、顔つきもワイドグリルと大型ヘッドランプによりV40との血縁関係をより強調する。また、運転席計器盤(最古参の「XC90」を除く)が3テーマ選択式のフル液晶式となったのもV40に準じる。
ちなみに“アドバンスト・セーフティー”とは、レーダーなどを駆使した予防安全技術を意味するもので、それらを従来のアクティブ・セーフティーやパッシブ・セーフティーと区別するために、ボルボはそう総称している。例えば、「シティーセーフティー」や「ヒューマンセーフティー」などの衝突防止オートブレーキや自動追尾型クルーズコントロールなども、ボルボが長年をかけて磨き上げてきたアドバンスト・セーフティーの一種である。
スバルによる「アイサイト」大キャンペーン効果もあって“ぶつからないクルマ”に対する注目度は日本でも高まるいっぽうである。だが、その方面ではスバルがキャンペーンを張る以前から、ボルボが常に世界最先端を走ってきたわけで、昨今のぶつからないクルマブームを「時代がボルボに追いついてきた」と表現しても、それはお世辞でもなんでもない。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
快活なエンジンと癒やし系の足まわり
今回試乗できたのは2台で、最初に乗ったのはセダンの「S60」だった。2種類あるエンジンのうち、ベーシックな1.6リッター直噴ターボを積む「T4」をベースに、ナビや電動パワーシート、17インチホイールなどを標準装備した「T4 SE」である。
ダウンサイジングターボ+ツインクラッチという今風のパワートレインに、高級Dセグメント車に期待される装備をひととおりそろえたT4 SEは、60シリーズでも主力とか。
後述するワゴンの「V60」も含めた60シリーズは、1.8m台半ばの全幅がクラス平均よりワイドであることを除けば、全長やホイールベースは例えば「メルセデス・ベンツCクラス」とほぼ同等。ファストバッククーペを思わせる低めのルーフと傾斜した前後ウィンドウからは、室内空間はあまり期待できないと錯覚するかもしれないが、スペース効率の高いFFレイアウトもあって室内は意外に広い。前席空間は実に広々としており、後席もCクラスと大差ない。さらにトランクはかなり広大だ。
そのスポーツカールックには似合わず、特に穏やかな17インチタイヤを履くT4の身のこなしは癒やし系。ダンピングが少しばかりユルめの感もあるが、上屋をゆったり上下させながら快適に走る。例えば「BMW 3シリーズ」のように喜々として曲がるタイプではないかわりに、ジワーッと横Gがかかり続ける高速コーナーでは姿勢はなんとも落ち着いて安定しており、なおかつストローク感のある足まわりのおかげで快適だ。
考えてみれば、スポーティーグレードの「R-DESIGN」も、やる気満々風のイデタチのわりには走りはなんとも穏やかだった。
Cクラスでは1.8リッター、3シリーズでは2リッターで達成しているのと同等のパワーを1.6リッターで絞り出すエンジンはけっこう“ターボ感”が強め。変速機もキレアジ鋭いDCTなので、穏やかなシャシーに対して、パワートレインは意外と活気系なのが面白い。
やっぱり直6は気持ちいい
もう一台の試乗車はトップレンジの「T6」。3リッターターボのありあまるパワーを存分に路面にたたきつけるべく、駆動方式は4WDのみとなる。この「T6 AWD」はもちろん60シリーズすべてのボディー形式で選べるが、今回試乗したのはワゴンのV60だった。
横置き直列6気筒という特異なレイアウトのT6は、そのスペックから想像されるとおり、のけぞるほど速い。変速機は1.6リッターと異なり6段のトルコンATとなるが、今回の手直しにより、0-100km/h加速タイムが明確に短縮するほど変速スピードが引き上げられているという。しかも新たにステアリングパドルも装備。
60シリーズはこのT6でも細かいコーナリングより超高速コーナーを得意とする印象で、パドルシフトを駆使してコーナーを攻めるタイプではないが、交通量の多い都市高速などでちょっとしたエンジンブレーキを効かせたいときにはパドルはけっこう便利なことは間違いない。
3リッターターボは、低速から強力なキック力を発揮して、高回転まで引っ張ると甘美なサウンドがソソるエンジンだ。BMWでもストレートシックスは少数派になりつつある昨今だが、ボルボのT6はパドルを使って時折トップエンドまで回すだけでも「エンジンが気持ちいいなあ」と思わせるだけのものがある。やっぱ直6だよなあ。
それにしても、このパワーを存分に解放しても、足取りが乱れるそぶりがないのは4WDの恩恵。300ps超、4WD、18インチ……というスペックをならべると、かつてのラリーエボのような体育会系を想像するかもしれないが、その実体はT4にも通じる癒やし系。もともとノーズが重い基本パッケージということもあろうが、ゴリゴリ曲がるよりも高速を延々と飛んでいくほうがクルマはうれしそうだ。
そういえばボルボのレーダー追尾型クルーズコントロール(ACC)は世界でも一番のデキ。混み合った首都高も含めてブレーキやアクセルにほとんど足をふれる必要がないほどだった。モデルを問わずに快適系のシャシーに世界一のACCを組み合わせるボルボは「趣味は高速ロングドライブ」という人にドンピシャのクルマである。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
テスト車のデータ
ボルボS60 T4 SE
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4635×1845×1480mm
ホイールベース:2775mm
車重:1540kg
駆動方式:FF
エンジン:1.6リッター直4 DOHC 16バルブターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:180ps(132kW)/5700rpm
最大トルク:24.5kgm(240Nm)/1600-5000rpm
タイヤ:(前)215/50R17 95W/(後)215/50R17 95W(ピレリ・チントゥラートP7)
燃費:13.6km/リッター(JC08モード)
価格:409万円/テスト車=486万円
オプション装備:メタリックペイント<エレクトリックシルバーメタリック>(8万円)/本革スポーツシート(10万円)/自動防眩機能付きドアミラー(3万円)/ステアリングホイール・ヒーター(2万5000円)/パークアシストカメラ<リア>(6万円)/ETC車載器<音声ガイダンス機能付き>(2万5000円)/セーフティー・パッケージ(20万円)/レザーパッケージ(25万円)
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:1607km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(9)/山岳路(0)
テスト距離:309.6km
使用燃料:32.0リッター
参考燃費:9.7km/リッター(満タン法)
![]() |
ボルボV60 T6 AWD
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4635×1865×1480mm
ホイールベース:2775mm
車重:1800kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:304ps(224kW)/5600rpm
最大トルク:44.9kgm(440Nm)/2100-4200rpm
タイヤ:(前)235/40R18 95W/(後)235/40R18 95W(コンチネンタル・コンチスポーツコンタクト3)
燃費:8.5km/リッター(JC08モード)
価格:559万円/テスト車=639万1000円
オプション装備:メタリックペイント<パワーブルーメタリック>(8万円)/電動ガラスサンルーフ(17万2000円)/本革スポーツシート(10万円)/自動防眩機能付きドアミラー(3万円)/ステアリングホイール・ヒーター(2万5000円)/本革巻き/シルクメタル・ステアリングホイール(1万2000円)/プレミアムサウンド・オーディオシステム(9万7000円)/パークアシストカメラ<リア>(6万円)/ETC車載器<音声ガイダンス機能付き>(2万5000円)/セーフティー・パッケージ(20万円)
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:1914km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:310.6km
使用燃料:37.5リッター
参考燃費:8.3km/リッター(満タン法)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。