第211回 未来のHondaに先取り試乗!
ホンダの最新技術と、次期型「タイプR」の走りに触れる
2013.11.19
エディターから一言
年に1度、報道陣向けの「走る技術博覧会」
東京モーターショーを間近に控えた2013年11月10日、ホンダは本田技術研究所・四輪R&Dセンター(栃木県芳賀郡)で毎年恒例の「ホンダミーティング」を実施した。これは、ホンダが現在開発中の次世代車や新技術を体験できる、報道陣向けのスペシャルイベントだ。普段は厳重に機密保持されているテストコースの各所を使って、朝8時半から夕方5時までの充実の一日だった。
プログラムは大きく4つ。「SPORT HYBRID SH-AWD」や「P-AWS」によるスポーツハンドリングを味わう「ハンドリングファン」、先端電動化技術がもたらす将来像を体感する「エブリデイファン」、事故ゼロを目指す先進安全技術を体験する「アドバンストセーフティー」、そして新パワートレイン搭載車がもたらす爽快な走りを「アクセラレーションファン」で味わった。
試乗車は「アコード」ベースの自動運転車や、発売間近の軽乗用車「N-WGN」、超小型モビリティーの「MC(マイクロコミューター)β」、中国市場向けセダンの「クライダー」、東南アジアやインド市場向けの「ブリオ アメイズ」などさまざまあったが、参加者が口をそろえて「これが今日の目玉だ」と絶賛した一台があった。
新型「シビック タイプR」でバンクを激走
今回の目玉は、なんといっても新型「シビック タイプR」だ。2015年に欧州市場を皮切りに日本でも発売の可能性が濃厚。同車の基礎開発は、WTCC(世界ツーリングカー選手権)に参戦するホンダワークスチームと日本のホンダの量産チームが共同で行ってきた。その舞台は、独ニュルブルクリンクのノルドシュライフェ(北コース)。これまでに覆面車両が海外メディアにスパイフォトされたことはあったが、実車が公の場に登場したのは今回が初めてだ。「バックアップカーがないので、運転はくれぐれも注意してください」というホンダ側の指示のなか、高速周回路を走行した。
まず、その実物を目の前にして、ビックリした。つや消しブラックボディーのフロントまわりはまるで、SUPER GT参戦車両のように数枚のエアスプリッターでおおわれているではないか。リアビューではリアゲート下部を基点に鋭角シェイプの大型ウイング。リアエプロンからは、4本のマフラーテール。この風貌、いやが応でも「コイツ、相当走りそうだ」と思ってしまう。
そして、エンジンフードを開けることは許されなかったが……。そこには、高効率シリンダーヘッド、電動ウエイストゲート、さらに排気VTECを採用した、2リッター直列4気筒ターボエンジン。公表データでは圧縮比9.8、最高出力280ps以上、そして最大トルクが40.8kgmだ。燃費の詳細は未公開だったが、アイドリングストップ機能を備え、厳しいEURO6をクリアしている。
ドアを開けコックピットへ。バケットシートのヒップポイントはさほど低くない。少しアップライトなドライビング姿勢の方がしっくりくる。シフターはアルミ削りだしの球形、ペダルはスポーティーなアルミ調のデザイン。
さほど重さを感じることのないクラッチペダルを踏み、インパネ上部右側の赤いエンジンスタートボタンをオン。アイドリング時、車内に響くマフラーのこもり音は「レーサー」のレベルではなく、あくまでも「スポーティーなクルマ」の領域だ。
ところが……、実はこのクルマ、「とんでもないシロモノ」だった!
体感的には400psオーバー!?
1速クラッチミートでゆったりとスタート。2000rpmあたりで早めのシフトアップ。高速周回路の誘導路の後半でアクセルを床まで一気に踏んだ。すると、車内全体に「ガツゥン!」と衝撃が走った。7000rpmオーバーでリミッターが利き、3速へ。アクセルオンでまた「ガツゥン!」。これは、アクセルレスポンスに対してエンジンが機敏に作動している証拠だ。またターボラグは皆無で、高回転域での伸びも良い。5000rpmから7000rpmにかけて突き抜けるように回る。
早朝に降った雨で路面はセミウエット。「最高速度は130km/hをめど」との指示。しかたなく、4速、5速、6速へとショートシフトし高速巡航を試した。5速100km/hで2250rpm、4速だと3500rpmを示した。
乗り心地はガッシリとした味わいだが、決してサスが硬過ぎる領域ではない。「ニュルでのFF最速、8分を切る」を使命とする同車にとって、高い次元でのロードホールディング性は必然だ。
周回路2周目、モードスイッチを押してベースモードからスポーティーなモードへ。すると、アクセルオンでの「ガツゥン!」は、全回転域においてさらに強烈に感じられた。体感的には最高出力280psレベルではなく、400ps近い印象だ。同乗した技術者は「アクセル開度に対して、より速くトルクが出るよう制御を変えている」と説明。だがこれは、一般的な「レスポンスがいい」などというようなイメージではない。2リッター級の量産ターボエンジンのイメージでもない。これぞ、ホンダにしか量産できない”スゴ技”である。
こうしたド迫力のトルクがかかっても、フロントのトラクションは十分。オン・ザ・レールで安心のハンドリング性能を堪能できた。
「NSX」は「縦置きV6ツインターボ+3モーター」で決まり!
もう一台、ここでしか見られない展示があった。
それが3モーター式の次期「NSX」だ。ほぼ量産型の実車は、東京モーターショーに出展されるが、その内部を「見える化」した展示物は、同ショーでも、同じ時期の米ロサンゼルスショーでも未公開となる。
その展示物、まず驚かされるのがエンジンレイアウトだ。以前公開されたイメージビデオではV6ツインターボの横置きミドシップ。それが縦置きに変わっていた。この点をホンダ関係者に聞いてみたところ、「パワーユニットは日本国内開発。実際にモーターとミッションを組み合わせたところ、横置きでは対応できなくなった」と説明。またリチウムイオン二次電池の容量はかなり小さく「EV走行もできるが、基本的には走りのアシストをする程度」だという。
価格については「社内では、現行アキュラのラインナップとかけ離れるというイメージは持っていない」と答えるにとどまった。なお今回、同社幹部は「NSXを日本ではホンダブランドとして発売する」と明言した。
ホンダがこれから目指す方向性とは?
2012年のホンダミーティングでは、次世代パワートレイン「アースドリームテクノロジー」を発表。その中核に「フィットハイブリッド」で採用された1モーター2クラッチ式の「i-DCD」、「アコード ハイブリッド」搭載の2モーター式の「i-MMD」、そして「アキュラRLX」と次期NSX搭載の3モーター式を据えた。今回、これらに加えて「ターボシリーズ」を復活。1リッター3気筒、1.5リッター4気筒、そして「シビック タイプR」の2リッター4気筒を投入することが明言された。
このほかにも、「CR-Z」をベースにCFRP(炭素繊維強化プラスチック)のモノコックシャシーを採用して300kg軽量化した実験車に見られるように、軽量化技術を磨く。デザインでは新型「フィット」を再出発点と位置付け、「80年代~90年代のワクワクドキドキしていたホンダ」を取り戻すような「エキサイティングHデザイン」思想で突き進む。
さらに、近い将来の完全自動運転走行を見据えて、ホンダ独自のテレマティクス技術の研究開発が加速する。
今回は用意されていなかったがは、東京モーターショーでは「S660」もワールドプレミアとなる。「シビック タイプR」、「NSX」、そして「S660」と、ホンダのクルマがこれからますます面白くなりそうだ。
(文=桃田健史/写真=桃田健史、本田技研工業、webCG)

桃田 健史
東京生まれ横浜育ち米テキサス州在住。 大学の専攻は機械工学。インディ500 、NASCAR 、 パイクスピークなどのアメリカンレースにドライバーとしての参戦経験を持つ。 現在、日本テレビのIRL番組ピットリポーター、 NASCAR番組解説などを務める。スポーツ新聞、自動車雑誌にも寄稿中。