第215回:新型「マスタング」のここに注目!
フォードの開発陣にインタビュー
2013.12.14
エディターから一言
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2013年12月5日、新型「マスタング」がフォードの拠点である米国ミシガン州ディアボーンのほか、ニューヨーク、ロサンゼルス、バルセロナ、シドニー、そして上海の6都市で、ほぼ同時に公開された。同車50年の歴史において、最も革新的な進化を遂げたとうたわれる新型は、どのようなコンセプトで開発されたのか。開発陣に聞いた。
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レトロではなく「今」を表現
「フォード・マスタング」の世界6カ所での同時発表イベントが終了したのが昨晩の午前0時過ぎ。デザインを手がけたフォード・オブ・オーストラリアのチーフデザイナー、クレイグ・メトロス氏も新型マスタングとともにカメラのフラッシュを浴び、マイクを向けられ忙しくしていた。それなのに、今朝は午前4時30分からシドニーのランドマーク、オペラハウス前でマスタングと一緒の撮影を済ませてきたという。その後でのインタビューとなったが、眠そうなそぶりなど一切見せることがなかったのは、新型マスタングのデザインの仕上がり具合に大いに満足しているからだろう。
クレイグ・メトロス氏は、マスタングに携わる前はピックアップトラックの「レンジャー」をデザインした。日本の広島にも駐在したことがあり、その時は「エスケープ」を担当。二輪車のデザインにも関心が大きく、横浜のモーターサイクルショーに足を運んだほどだ。
――新型マスタングのデザインで最もエネルギーを注いだのは、どんな点でしたか?
「誰にも、ひと目でアメリカンマッスルカーだと感じてもらえるプロポーションを維持することです」
――具体的には、どんな点ですか?
「強力なエンジンが搭載されていることをイメージさせる長大なボンネットとキャビン、4本のホイールとホイールベース、車高などの位置関係をミリメートル単位で何度も何度も調整して仕上げました。キャビンが前にあり過ぎるように見えてもいけないし、後ろ過ぎるように見えてもいけません。力強く加速していく姿がイメージできるようなプロポーションが大事です」
――旧型と比べて幅広く、全高が低くなっていますね。
「ええ。パフォーマンスを向上させ、視覚的にも安定感を増すためです」
――歴代マスタングが必ず持っているディテールも忘れていませんね。
「もちろんです。逆スラントしたシャークノーズ、ギャロッピングホース、3連のリアコンビネーションランプなどはマストです」
――ヘッドライトの内側にもう1組あるドライビングライトが、初代マスタングのルーバーみたいですね。
「よく気付いてくれましたね。あのルーバーをなんとか再現したいといろいろ試みてみましたが、ヘッドライト自体を小さくすることと併せて、実現できました」
――その狙いは達成されているように思えました。誰が見てもマスタングだし、とてもモダナイズされたと思います。
「ありがとう。レトロじゃないということをわかってほしい。マスタングらしさをアピールしながら、レトロに陥らせたくなかったんです。これは簡単なことではありません。“マスタングらしさ”を追求していくと、それはその時点でのマスタングらしさでしかありません。時は流れています。前進しなければなりません。2013年12月に発表するにふさわしいマスタングでなければならなかったのです。デザインチームはとても粘り強くトライし続けてくれました」
コンバーチブルは「ほろ」にも自信あり
――ボディーには、従来のスチールに加えて、アルミニウムやカーボンファイバーなどの軽量素材は用いられているのでしょうか?
「ウ~ン、正確なところは確認してみないと答えられません」(注:インタビュー終了後、エンジンフードとフロントフェンダーにはアルミが使われているとの連絡をメトロス氏から受けた)
――コンバーチブルでは、畳んだほろがボディーにきれいに収まっているのは大きな進歩ですね。旧型ではほろが大きく残っていましたから。
「その通りです。ほろがぴたりと収まるようになったので、スッキリとして見えるでしょう?」
――ほろを上げた姿も昨晩見てみたかったですね。
「ああ、そうですね。昨晩はほろを上げませんでしたからね。実は、ほろを上げた姿が最も難しかったんです。上げた時に、ボディーと窓ガラスとほろの3つの、それぞれが占める面積の視覚的なバランスの取り方が難しかった。もちろん、ドライバーからの視界を確保した上でのことですが、そのうえで、ほろを上げたクルマの姿が美しく見えなければなりません。ぜひ、ローンチの際にはほろを上げてみてください」
――昨晩のイベントは混んでいて、インテリアをよく見られませんでした。新しいマスタングは最近のフォード各車、例えば「クーガ」や「フォーカス」、「エクスプローラー」などと共通したインテリアデザインなのでしょうか?
「機能的には、マスタングも最新のフォードのインテリアデザインにのっとっています。マイフォードタッチやSYNCなども標準で装備されています。しかし、マスタングのインテリアにはエクステリアと同じように、マスタングならではの伝統的なデザインキューがあります。“ビッグT”(T字型のダッシュボードトップ)、アナログ式の大径2眼メーターをはじめ、航空機から得たインスピレーションを反映させた、操作性に優れたコックピットを実現しました。インテリアもエクステリア同様に、マスタングらしさを込めた現代性を追求しています」
「歴代マスタングで好みのモデルは?」という質問に、メトロス氏は1967年型と答え、昨晩イベント前に運転した70年型もいいねと相好を崩していた。新型マスタングにふさわしい、長身のハンサムガイだった。
新型2.3リッターエコブーストは音にもこだわる
続いて、パワートレイン開発の責任者であるフォードのボブ・ファセッティ副社長にインタビューすることができた。
ファセッティ氏はフォードのエンジン設計ならびに開発を率いている人物。一連のエコブーストエンジンは、彼のリーダーシップの下で開発された。いうなれば、フォードを燃費とパフォーマンスの両面でナンバーワンにすべく活躍している人物である。
新型マスタングのエンジンは3種類。5リッターV8、3.7リッターV6、2.3リッター直4ターボである。それらに組み合わされるトランスミッションは6段MTと6段ATの2種類。ATには、ステアリングポストから生えるマニュアルシフト用のパドルが装備される。
――先ほどCNNのニュース番組で、アラン・ムラーリーCEOが「マスタングはグローバルカーになった」と語っていました。グローバルカーということは、スペックも基本的に世界共通になると考えていいのですか?
「残念ながら、昨晩発表したことよりも詳しいことはまだ言えません。もっとも、グローバルカーといっても、異なるマーケットに完全に同一のスペックの車両を投入するということはあり得ません」
――とすると、その3種類のエンジンと2種類のトランスミッション以外にも、何か用意しているのですか?
「いや、違います。それらのパワートレインが搭載されます」
――ところで、2.3リッター4気筒ターボはまったくの新型ですね。
「エコブーストエンジンの新型です。わずか2.3リッターの4気筒から、305psの最高出力と41.5kgmの最大トルクを発生します」
――スゴい!
「ガソリン直噴とツインスクロールターボチャージャーによって、3.7リッターV6の最高出力である300psを上回り、41.5kgmという同等の最大トルクを持っている、フォード最新のダウンサイズエンジンです」
――どんな特徴を持つエンジンですか?
「ターボラグがほとんどない、とてもレスポンスのいいエンジンです。非常に静か(dead silent)なんですが、いい音(good sound)がしますよ」
パワーと環境性能を両立
ファセッティ氏は早口で各エンジンとトランスミッションの詳細なスペックをそらんじていく。
要点をまとめれば、5リッターV8については、シリンダーヘッドと吸排気バルブを新たに開発した。これに伴い、吸気系、排気系、点火系などのパーツを改めただけでなく製造工程も見直し、パワーアップと燃費向上とクリーンな排気を追求したという。
新型5リッターV8のアウトプットは420psと53.9kgm。従来のV8(405psと54.0kgm)からどれだけ出力を向上させるかということより、むしろ燃費と排ガスの改善に目標の重点が設定されているようだ。
ファセッティ氏は、「たしかに、パワーアップ分は少ないかもしれません。しかし、ドライバビリティーや静粛性の向上、燃費、排ガスなどに目覚ましい進化が認められます」と語った。
――V8のサウンドの改善に多くの時間を費やしたと昨晩スピーチされていましたね。
「ええ。V8のエンジンサウンドには自信があります。非常にデリケートなチューニングを行いました」
ところで、新型マスタングの技術的な大きなトピックのひとつとして、リアサスペンションがとうとう固定軸から独立式に改められた点がある。
――新しいサスペンションについて説明していただけますか?
「私はパワートレインの担当なので、サスペンションについては話せません」
――エンジンにモーターを組み合わせたハイブリッド版は登場しますか?
「ハイブリッドだけではなく、ディーゼルにしても、プラグインハイブリッドにしても、われわれはあらゆるパワートレインを広範囲にわたって研究しています。ですから、やろうと思えばいつでもできます」
――SVT(Special Vehicle Team:フォードの高性能車開発部門)バージョンは出ますか?
「SVTはいつも働いています。SVTだけではなく、開発チームはファン・トゥ・ドライブや燃費向上など、最高のパフォーマンスに向かって開発の手を緩めてはいません」
――ありがとうございました。
(文=金子浩久/写真=フォード)

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