メルセデス・ベンツC250(FR/7AT)
伝統の味がする 2014.03.21 試乗記 「メルセデス・ベンツCクラス」が5代目にフルモデルチェンジ。劇的な進化を遂げた新型に宿る、伝統的なメルセデスのライドフィールに触れた。従来モデルから100kgも軽量化
「W205」型となった5代目「メルセデス・ベンツCクラス」。まずもってそのスタイリングが話題の的になっている。いわく、一見しただけではわからないほど「Sクラス」みたい――と。実は社内でも開発テーマのひとつがベビーSクラスだったというから、これは確信犯的な施策なのだろう。両車の意匠的な印象がここまで接近したのは、初代~2代目以来かもしれない。が、問題はその中身にどれほどSクラスのエッセンスが詰め込まれているか、である。
新型Cクラスのボディーサイズは、ライバルの大型化によりそのコンパクトさが際立っていた「W204」型に対し、全長は95mm増の4686mm、全幅は40mm増の1810mm、ホイールベースは80mm増の2840mmと、それぞれ一回り大きくなった。サイズ的にいえば「BMW 3シリーズ」や「レクサスIS」のそれにほど近い。
完全刷新されたモノコックは、現行「SLクラス」に端を発し、メルセデスのFR系アーキテクチャーでの採用が拡大しているアルミとスチールのハイブリッド構造で、アルミ材の使用率は48%に達している。特に外板周りはそのほとんどがアルミに置き換えられるなど、このクラスでは最も先進的なボディーを得たといってもいいだろう。ほかにサスペンションの構成部品や電装系などでも軽量化は進められ、合計ではW204型の同級グレードと比較して最大100kgの減量を達成した。前述したライバルのベースモデルは日本基準の計測値で1.5トンを超えるところにあるが、仮に1.5トンを切れば維持費の面でも優位に立つことになる。
見どころ満載のパワーユニット
搭載されるエンジンは当面ディーゼル3種、ガソリン4種となるが、日本仕様では導入時に「C180」「C200」「C250」の3つのガソリンモデルが用意されるもようだ。うちC180は1.6リッター、C200は2リッターの4気筒直噴ターボとなる。これは「Aクラス」系のFF系ラインナップから導入された、縦横両方のレイアウトが可能な最新デザインのもの。C180は156psのパワーをもって0-100km/hを8.2秒で、C200は184psのパワーで0-100km/hを7.5秒で駆けるとアナウンスされている。共に十分な動力性能と共に、116~123g/kmとクラストップの環境性能を示している辺りも、軽量化の恩恵といえそうだ。そしてC250には現行の「E250」で初搭載された2リッター4気筒直噴リーンバーンターボを採用……と、W204型とは同じグレード名でもエンジンはすべて異なるものになる。
さらに、333psを発生する3リッターV6直噴ツインターボに「4MATIC」を組み合わせた本国名称「C400」も、従来の「C300」に相当するグレードとして日本導入が確実視されるほか、将来的にはガソリンハイブリッドおよびプラグインハイブリッド、さらにはユーロ6対応となったディーゼルと、これらも日本市場への導入が検討されることになるだろう。加えていえばトランスミッションも現状は「7Gトロニックプラス」を採用しているが、メルセデスは既に9段ATの市販化を公言しており、モデルライフ中にはそちらにスイッチすることも考えられる。
安全装備は「Sクラス」に遜色なし
新しいCクラスのさらなるトピックは、先進セーフティーデバイスの発展にある。ステレオカメラと長短距離捕捉レーダー、およびパーキング用ソナーからの情報をもとに車両を統合制御する「インテリジェントドライブ」は、現行Sクラスが搭載するそれとほとんど遜色がない。クルーズコントロール機能には、60km/h以下の速度域であれば、車線に関わらず、前車の軌道を捕捉して追従する方向へと操舵(そうだ)アシストを働かせる「ストップ&ゴーパイロット」を新たに採用するなど、オートノマスに積極的な彼らの、貪欲な姿勢が伺えるものとなった。
またW204型では内装の質感においてネガティブな意見が聞かれることもあったが、新型Cクラスはその鬱憤(うっぷん)を晴らすかの如く、静的なアピアランスが一気に高められている。部品単体の質感はもとより、複雑な形状を狂いなくはめ込んだダッシュおよびドアトリムの仕立てを筆頭にした建て付けの良さなど、ライバルに一歩先んじた仕上がりといっていいだろう。室内空間は横方向の広がりに前型との差異はあまり感じない反面、後席の居住性はホイールベースの延長効果がしっかり表れている。
インフォテインメントシステムは新たにタッチパネル式の操作ロジックが加えられたが、インターフェイスとの親和性は若干の慣れを要するかもしれない。もっとも、従来のダイヤルも残されている上、近々「CarPlay」などの端末とリンクするアプリケーションが登場することで、その使い勝手が大きく広がることも考えられる。
思い出すのは“あのクルマ”
W204型がアジリティーを前面に押し出したシャシーコンセプトを持っていたことに加えて、大幅な軽量化が進んだこともあり、その走りはさぞや軽快になっているのだろう――。という当初の予想がそんな感じだったこともあって、新型Cクラス、まずびっくりさせられたのは走り始めからの穏やかなクルマの動きだった。特にアクセルやステアリングからの初期入力に対する反応はあえて落ち着けている印象で、そこから操作した分だけ線形的に加速や旋回力が高まっていくサマは、かつてのメルセデスが持っていたおうようさを思い出すほどだ。試乗車は全てオプションのエアサスを装着していたこともあるのだろう。薄い緩衝材を一枚かませたようなふわりとしたタッチは、完全にDセグメントの水準を超えている。クルマをEクラスと間違えたかと思うような大物感は、とても1.5トン付近のクルマとは思えない。
とはいえ、新しいCクラスが鈍重なクルマかといえばそんなことはない。新設計のサスペンションは速度域が上がるほどにねっとりと路面にタイヤを踏ん張らせ、ステアリングの切り込みに対してグリップの推移は均一に保たれる。きれいな接地感はステアリングインフォメーションからもしっかり伝わるが、そのフィードバックはノイズが上手に取り除かれており、電動パワステの操舵感は中立時のわずかながらの甘さを除けば絶品といってもいいだろう。つづら折りでも切り返しに動きが遅れる感覚はなく、回頭性も十分スポーツドライビングに応えてくれる。総じていえば新しいCクラスのダイナミクスは、軽い車体にいいアシという実にシンプルな要因でその大勢が決められているということになると思う。そんなメルセデスといえば思い出すのは、今や伝説の感すらある「W124」型だ。
伝統的なメルセデスの乗り味
思えば彼らのお家事情、つまりモデルレンジの構成がW204型の時代とは明らかに異なっている。この辺りが新しいCクラスのテイストに少なからぬ影響を与えたことは想像に難くない。
というのも、彼らのブランドエントリーにあたるFF系ラインナップは、あまたのライバルとガチンコで対峙(たいじ)するアーキテクチャーへと変更された。スポーティーネスに対する要求のより強いセグメントゆえ、その走りのデザインもアジリティーを強く意識したものになる、それはAクラスの印象からも明らかだ。それゆえ、彼らの精神的支柱でもあるC、E、Sの各クラスでは伝統的なメルセデスライドというものが以前よりも強く意識されるようになったとしても不思議はない。
そう考えると、過剰な高揚感を追わず、額面通りの仕事をそつなくこなすエンジンの平たんな印象もメルセデスらしさと納得できる。新しいCクラス、実は伝統的なメルセデスのライドフィールを愛する向きにこそ刺さる滋味があるのではないか。その辺りは今夏頃という日本上陸の暁に再確認してみたい。
(文=渡辺敏史/写真=メルセデス・ベンツ日本)
テスト車のデータ
メルセデス・ベンツC250
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4686×1810×1442mm
ホイールベース:2840mm
車重:1480kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:211ps(155kW)/5500rpm
最大トルク:35.7kgm(350Nm)/1200-4000rpm
タイヤ:(前)225/40R19/(後)225/40R19(コンチネンタル・コンチスポーツコンタクト5 SSR)
燃費:5.3リッター/100km(約18.9km/リッター)
価格:--
オプション装備:--
※欧州仕様車の数値
テスト車の年式:2014年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
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渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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