フェラーリ・カリフォルニアT(FR/7AT)
より速く、より効率的に 2014.06.23 試乗記 今やスーパーカーも“ダウンサイジング”の時代。フェラーリの2+2オープンスポーツカー「カリフォルニア」が、エンジンを4.3リッターV8自然吸気(NA)から3.9リッターV8ターボに改め、より速く、より効率的に進化した。その走りは? イタリア・トスカーナ地方からの第一報。フェラーリの裾野を広げた
2008年のパリサロンにデビューし、翌09年に販売開始された「カリフォルニア」は、フェラーリにとってさまざまな意味で画期的なモデルだった。パワーユニットは4.3リッターDOHC 32バルブ直噴V8だったが、まずこれがフェラーリの市販車で初の直噴エンジンだった。と同時に、直噴か否かを別にして、V8をフロントに搭載して後輪を駆動するクルマというのも、かつてのレーシングモデルを別にすればフェラーリ初だった。
さらに、そのエンジンと組み合わせられてトランスアクスル配置された通称F1ギアボックスがいわゆるDCT、デュアルクラッチ式2ペダルMTだったのも、フェラーリで最初だった。しかも、その2+2座オープンボディーをカバーするアルミ製可変式ルーフ、RHT(リトラクタブルハードトップ)を採用したのも、フェラーリで初だった。
ここまでは、クルマとしてのハードな部分におけるフェラーリ初だが、実はカリフォルニア、それ以外の分野でも画期的なモデルだった。まずはその販売台数で、09年から今年になって次期モデルにモデルチェンジするまでの間に世界中で1万台以上を販売し、フェラーリにとってのベストセリングモデルになったのだった。
しかもカリフォルニアにはもうひとつ特徴的なポイントがあった。その購買者のおよそ70%にとって、カリフォルニアが最初のフェラーリだったという。つまりカリフォルニアは、自社以外のブランドからの顧客を最も多く獲得したフェラーリでもあった、というわけだ。
“ダウンサイズ”するも70ps増強
そのカリフォルニアに替わるべく今年登場したのが、「カリフォルニアT」である。車名の最後に加えられた「T」は、かつてのF1マシンのように横置きトランスミッションを示すわけではもちろんなく、多くの読者諸兄がご想像のとおりターボを意味している。そう、フェラーリのエンジンにもついに、ターボ化によるダウンサイジングの波が及んだのである。
具体的には、カリフォルニアに積まれていた4.3リッター直噴4カム 32バルブV8に代わって、カリフォルニアTには新開発の3.9リッター直噴4カム 32バルブV8ツインターボが搭載された。ただしこれ、先代の4297ccから3855ccへと、排気量の縮小幅が小さいことが、フェラーリのパフォーマンス至上主義を象徴しているといえるかもしれない。
しかもフェラーリは、その顧客が高回転型NAマルチシリンダーエンジンのシャープな回転感を望んでいることを知っているから、ターボといえどもそれらを可能な限り受け継ぐべく、エンジンの設計には細部にまで気を配っている。例えば、高回転向きのフラットプレーンクランクシャフトや、燃焼効率を高めるインテークマニフォールド、素早いレスポンスを実現する小型ツインスクロールターボなどを採用、さらに排気音の質を高めるべく溶接鋳造による等長エキゾーストヘッダーを実現する、といった具合だ。
それらの結果、3.9リッター直噴V8ツインターボユニットは、560ps/7500rpmのパワーと77.0kgm/4750rpmのトルクを発生、先代の4.3リッター直噴V8 NAは後期型で490psと50.5kgmだったから、70psと26.5kgmの増強になる。このエンジンにトランスアクスル配置の7段F1 DCTを組み合わせ、基本的に従来型を踏襲するアルミ製シャシー&ボディーのフロントに搭載して後輪を駆動するのがカリフォルニアT、ということになる。
車重は乾燥重量で1625kgと事実上先代と変わらないから、動力性能は当然向上した。0-100km/hは3.85秒から3.6秒に短縮され、最高速も316km/hへと伸びている。それでいて燃費はおよそ15%向上しているというから、新エンジンの効果は明確である。
これまでより低くほえるターボユニット
このカリフォルニアT、試乗の舞台となったのはイタリア中部トスカーナ地方だったが、走り始める前に、現地で目の当たりにしたエクステリアについて書いておこう。全体のサイズやプロポーションは先代を基本的に踏襲するが、イメージが大きく変わったのはフロントで、1950~60年代初頭の「250GTカリフォルニア スパイダー」の面影を採り入れていた先代から脱却し、一段とモダンですっきりした、というのが僕の得た印象だった。
そこでまずはそのオープンコックピットに収まるが、そこで実感したのは相対的に高いダッシュボードに対して着座位置が低いことで、シートを低い位置にセットしておくとノーズ直前が確認しにくい感じがある。だがその点を別にすれば、居住性、操作性とも良好で、従来型より大型化されたステアリングパドルを1速に送って、躊躇(ちゅうちょ)なく走りだす。
最大の変更点であるエンジンは、NAのフェラーリユニットに親しんだドライバーが乗っても、明確な違和感を覚えることがないであろうものに仕上がっているといえる。スロットルレスポンスは実用域から良好で、軽く踏んでもごく自然な感じにトルクを膨らませて、ボディーを前へ前へと押し出していく。もちろん深く踏み込めば、フェラーリのイメージにふさわしい、鮮烈にしてパワフルな加速を振る舞ってくれるのはいうまでもない。
一方、先代のV8 NAユニットと比較的明確に異なるのはそのサウンドで、エンジン本体のうなりも排気音もNAほど甲高くない、やや低い音を奏でる。と同時に、7500rpmのレッドゾーン入り口に向けて回転を上げていく際の最後の伸びも、NAユニットほどは鋭くないように感じられた。NAと同じ回転感のターボをつくるのは簡単ではない、ということだろう。
新エンジンには、入っているギアによって発生するトルクの絶対値が変化する制御が加わっていて、高いギアになるほど大きなトルクを生み出すのだが、それによる変化を明確に実感するのは難しかった。トルクの変化がギア比によって相殺されるからだろう。
よりシャープ、しかも快適に
このように、最大の変化であるエンジンに関しては以上のような印象を得たが、実はカリフォルニアT、それ以外にもけっこう印象に残る部分があった。そのひとつが乗り心地で、最初に乗って走りだした途端に、こいつは快適だと思った。試乗車は標準の19インチ径ではなく、オプションの20インチ径のピレリPゼロを履いていたが、それでもその乗り心地は不整路でも粗さを感じさせず、実に感じがいい。
実はサスペンションのスプリングは先代比で11%ほど固められているのだが、磁性流体式ダンパーの進化がそれを補って余りあるのだろう。その証拠に、大きなうねりのある道を走破しても、ボディーはフラットに保たれていた。それに加えて、先代の後期モデルに至って強化されたボディーが十分な剛性を保っているのも、快適な乗り心地に貢献している。
その一方で、前記のようにサスペンションを固めると同時に、ステアリングレシオを10%速めた効果は、ハンドリングに明確に表れていた。ステアリング操作に対する反応は明らかに先代より素早くしかも正確で、V8ツインターボを収めたノーズが気持ちよく向きを変える。そこには、トランスアクスル配置によって47対53というややテールヘビーに仕立てられた前後重量配分も、効いているに違いない。
したがって、トスカーナの変化に富んだカントリーロードを飛ばすと、カリフォルニアTが真のスポーツカーであることを実感させてくれる。印象的なのは、脱出に際して踏み込んでも機械式LSDを備える後輪が執拗(しつよう)に路面を捉え続けることで、無用なスライドを発生させる気配を感じさせず、安定したアンダーステアを保ってコーナーを抜けていく。
さてこのカリフォルニアT、社内ではフェラーリ入門用GTと位置づけられているらしく、たしかにカリフォルニア譲りのRHTをはじめとする2+2コックピットや使えるトランクルームなど、そういう要素には事欠かない。それでいて上記のように、ワインディングを攻めると見事にスポーツカーらしさを発揮してくれるのも好ましい。ターボに変貌したエンジンに関しては、今後の進化ぶりを熱く見守っていきたいと思う。
(文=吉田 匠/写真=フェラーリ)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
フェラーリ・カリフォルニアT
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4570×1910×1322mm
ホイールベース:2670mm
車重:1625kg(乾燥重量)
駆動方式:FR
エンジン:3.9リッターV8 DOHC 32バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:560ps(412kW)/7500rpm
最大トルク:77.0kgm(755Nm)/4750rpm
タイヤ:(前)245/40ZR19/(後)285/40ZR19
燃費:10.5リッター/100km(約9.5km/リッター)(欧州複合モード)
価格:2450万円/テスト車=--円
オプション装備:--
※諸元は欧州仕様、価格は日本市場のもの。
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
拡大 |

吉田 匠
-
ボルボES90ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(4WD)【試乗記】 2026.10.12 ボルボの電気自動車(BEV)「ES90」のトップモデル「ウルトラ ツインモーター パフォーマンス」を駆り、東京から初秋の新潟へ。往復700kmを超えるロングドライブで分かった新型5ドアハッチバックモデルの実力と、BEVで気になる充電環境のリアルな今を報告する。
-
フェラーリ・プロサングエ ハンドリング スペチアーレ仕様(4WD/8AT)【海外試乗記】 2026.10.8 フェラーリの4ドア4シーターモデル「プロサングエ」に、「ハンドリング スペチアーレ」を名乗るスペシャルバージョンが登場。その走りは従来モデルからどのように変わったのか? 跳ね馬の原産国、イタリアで確かめた。
-
トヨタ・ランドクルーザー“FJ”VX(4WD/6AT)【試乗記】 2026.10.7 新たにシリーズに加わった「ランドクルーザー“FJ”」は、ポップな見た目から簡易版のように思われるかもしれないが、その中身は紛れもなく本物であり、道なき道をグイグイと突き進む。これもまた「どこへでも行き、生きて帰ってこられる」を体現する一台である。
-
スバル・レヴォーグ レイバック プレミアムS:HEV EX(4WD/CVT)【試乗記】 2026.10.6 「スバル・レヴォーグ レイバック」にストロングハイブリッド搭載モデルが登場。高効率なパワーユニットが積まれたのはもちろんのこと、既存の純エンジン車とはデザインやボディーサイズも違っているというから興味深い。上位グレードの「プレミアムS:HEV EX」を試す。
-
アウディA6アバントTFSIクワトロ200kW(4WD/7AT)【試乗記】 2026.10.5 今も昔もアウディの中核を担うアッパーモデル「A6」。その最新世代の「アバント」に試乗した。堂々とした優雅なボディーに最新のハイブリッドシステムを搭載したステーションワゴンは、いかなる走りを見せてくれるのか。その実力をリポートする。
-
NEW
「BYDラッコ」「スズキeスカイ」登場で卍どもえに 軽乗用BEVの覇権はどこが握る?
2026.10.14デイリーコラムこれまで「日産サクラ/三菱eKクロスEV」と「ホンダN-ONE e:」のみだったところに「BYDラッコ」と「スズキeスカイ」が加わり、軽BEV市場がにわかに盛り上がりを見せている。どれもほぼ同じ床面積を持つBEVだが、比べてみるとその中身は結構違う。今後の覇権を握るのはどの陣営か。 -
NEW
第132回:軽EVのデザインを考える(前編) ―「スズキeスカイ」にみる“大衆車メーカー”スズキのスゴみ―
2026.10.14カーデザイン曼荼羅希代の凡作か? 実はすべてが計算のうちか? スズキ初の軽乗用電気自動車「eスカイ」の造形を、カーデザインの識者と考察。つかみどころのないイメージの背景にある、“大衆車メーカー”スズキの慧眼(けいがん)に思いをはせた。 -
NEW
先進のSUV「エクストレイル」という選択
2026.10.13SUVのフロントランナー 日産エクストレイルの魅力に迫る<AD>4代・四半世紀にわたって進化を重ね、SUVブームのなかでも開拓者であり続けてきた「日産エクストレイル」。その先進技術がもたらす“乗ればわかる喜び”とは? 最新世代の到達点について、詳しくリポートする。 -
自動運転はこの先10年でどこまで進化できる?
2026.10.13あの多田哲哉のクルマQ&A自動車業界において、再び話題になる機会が増えてきた「自動運転」。この先はどのように進化・普及するのか。既存の先進運転支援システムで十分ではないのか? 元トヨタの車両開発者、多田哲哉さんの見解を聞いた。 -
フィアット500トリノ ハイブリッド(FF/6MT)【試乗記】
2026.10.13試乗記電気自動車からエンジン搭載車へと華麗に変身! 日本では珍しい、4代目「フィアット500」のマイルドハイブリッドモデルに試乗。1リッターの自然吸気エンジンを6段MTで駆るイタリアンコンパクトは、今のクルマが忘れてしまった楽しさに満ちていた。 -
ボルボES90ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(4WD)【試乗記】
2026.10.12試乗記ボルボの電気自動車(BEV)「ES90」のトップモデル「ウルトラ ツインモーター パフォーマンス」を駆り、東京から初秋の新潟へ。往復700kmを超えるロングドライブで分かった新型5ドアハッチバックモデルの実力と、BEVで気になる充電環境のリアルな今を報告する。
























