フェラーリ・カリフォルニアT(FR/7AT)
攻めないフェラーリ 2015.01.22 試乗記 フェラーリ久々のターボエンジン搭載車、「カリフォルニアT」に試乗。プライベートで「458イタリア」を駆る清水草一が、最新オープンモデルの仕上がりを報告する。要注目のV8エンジン
私は年に1回、フェラーリのイベントをやっている。その時にはフェラーリが200台近く集まってくれるが、カリフォルニアは毎年1台いるかいないかだ。カリフォルニアは、従来のフェラーリファンとはまったく別の、こだわりのない富裕層が気軽に乗るためのフェラーリだから、そもそもディープなイベントに足を向けたりはしない。
逆に従来のフェラーリファンは、カリフォルニアにはまったく関心がない。そこには驚くべき断絶があり、見事にすみ分けられている。カリフォルニアは、モンテゼーモロ前会長が新しい顧客層を開拓する目的で開発したモデルであり、オーナーの7割は初めてフェラーリを買う方だというが、目的は見事に達成された。
私はディープなフェラーリマニアだから、カリフォルニアTにも関心はある。注目ポイントは何といっても「T」が意味する新開発のターボエンジンだ。今後フェラーリV8はすべてターボ化されるのが既定路線といわれており、次期V8ミドシップマシンも同様。今やV8ミドシップこそフェラーリマニアの魂のよりどころだから、関心を向けないわけにはいかないのだ。
もちろんそれだけでなく、フェラーリはすべからく速くカッコよくあってほしいので、購入対象ではなくても大いに気になるんですけど。
ということで、まずスタイル。今回の「T」はビッグマイナーチェンジともいうべきものなので、基本フォルムは変わっていないが、カリフォルニアに比べると非常にシャープかつシンプルになった。特にフロントフェイスは全体にエッジが鋭くなり、ヘッドライト形状は大幅にスリムかつモダンに。以前のクラシカルな顔つきも悪くはなかったが、「T」には現代のフェラーリらしい鋭さがある。
ボディーサイドでは、フロントフェンダー上端あたりから後方へと伸びるサイドエッジの形状が大きく変わった。カリフォルニアはこれを後端で複雑に跳ね上げていたが、「T」はそのまま直線的に後方へと流している。これだけで印象はぐっとシンプルかつスポーティーになった。
まるで極上サルーン
6年前、先代カリフォルニアに初めて乗った時の印象はイマイチだった。フェラーリ初の直噴エンジンのフィールは重く、サウンドも物足りず、あらゆる部分がフェラーリとしていま一歩未成熟だった。
あれから6年。「T」の洗練度は恐ろしいほど高まっていた。すべてがとてつもなくスムーズな極上の乗り味だ。まるで空に浮かんで走っているみたい。これはフェラーリ的というより、極上のサルーン的な洗練である。街を普通に流している時(これがカリフォルニアTの主な用途だろう)の「いいクルマに乗っている感」は、富裕層の奥さまの心に強く響くに違いない。
問題の3855ccツインターボエンジンはどうか。
ベースとなったのは、「マセラティ・クアトロポルテGTS」に搭載済みの3799cc V8ツインターボ。その排気量を若干上げ、クランクシャフトをフェラーリ伝統のシングルプレーンに変更。最高出力は530psから560psへと向上している。
クアトロポルテのV8ターボには、本当にガックリきていた。サウンドもパワー&トルクの盛り上がりもすべてが平板で、今やどこにでもあるダウンサイジングターボ的な性格だったのだ。
最大トルクの発生回転数は2250rpmから3500rpmまで。低い回転からひたすらフラットなトルクを発生させていてラクチンではあるが、フェラーリエンジンらしい突き抜け感はまったくない。先代クアトロポルテのV8自然吸気エンジンの快音と比べたら、悲劇的な堕落。もし、フェラーリのV8ターボがこの延長線上にあるとしたら、ターボ化は大失敗だったと言わざるを得なくなる。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
自然吸気っぽいターボ
だが、カリフォルニアTに乗るにつれ私は、「これはクアトロポルテとは違う!」と安堵(あんど)していった。エンジンフィールそのものは、クアトロポルテGTSの延長線上にはあるが、カリフォルニアTのそれには、穏やかながら明確な山があった。
低回転域でのトルクはすさまじく厚く、コンフォート&オートモードで街を流せば余裕をぶちかまして粛々と走るのみだが、マネッティーノをスポーツに切り替えると、音量的には控え目ながら、フェラーリのターボらしい抜けのいい響きも聞こえてきた。
マニュアルモードでギアを固定し、あえて2000rpm付近からアクセルを深く踏み込むと、そこからのパワーとトルクの盛り上がりは、自然吸気エンジンをほうふつとさせた。回せば回すほどトルク感が上昇する。この性格はダウンサイジングターボとは別物だ。かといってドッカンターボでもない。
最大トルク発生回転は4750rpm。マセラティV8ターボとは明確に性格が違う。そこを超え、5000、6000と回転が上昇しても、パワー感は増幅を続ける。さすがに6000rpmあたりから7500rpmで始まるレッドゾーンまではフラットだが、それでもこれは「ちょっと自然吸気みたいなフィール」と言っていい。
フェラーリは、バリアブル・ブーストマネジメントというシステムにより、シフトポジションによってトルクの出方を変え、この自然吸気のようなフィーリングを作っているという。77.0kgmのカタログ最大トルクは7速でのみ発生させ、1速から3速まではあえて最大トルクを60.9kgmに絞って、低回転のトルクが太り過ぎないようにしている。そこまで手の込んだことをしているのか! と驚愕(きょうがく)するしかない。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
確信犯的な“味付け”
このエンジンが次期V8ミドシップマシンに搭載される時、その性格はさらにはっきりとどう猛なものになっているだろう。さらに高回転型になり、最高出力は600psを超え、サウンドはよりレーシーに。電子制御をオフにすれば、危険な暴れ馬になってくれるのではないか?
カリフォルニアに初めて搭載された、あの重い・回らない直噴ユニットが、458に積まれた時はまるで別物になっていたことから考えても、このターボエンジンがミドに積まれる時は、「F40」の再来と騒がれる予感すらする。
一方操縦性に関しては「?」だった。「F12ベルリネッタ」にも言えることだが、ワインディングでコーナーを攻めると「えっ!?」と思うほど不安定になる。
それについて海外のジャーナリストは、そろって「ステアリングがクイックすぎる」とコメントしているが、私は違うと感じた。ステアリング・ギアレシオは、458系に対して40%もスロー。それほどクイックではない。
そうではなく、ロール速度が速すぎるのだ。ステアリングを切り込むと、速い速度でグラッとロールし、ロールが止まったところから急激にコーナリングGが立ち上がる。それで非常にヒョコヒョコした動きになり、スタビリティーが損なわれるのである。
このスタビリティーの低さに関して、『webCG』スタッフからは、「ステアリングの遊びがなさすぎることも原因では」という声もあった。つまりステアリングのレシオではなくレスポンスがクイックすぎるということ。そうかもしれない。いずれにせよ、いくつかの要因が組み合わさってこういう特性になっているようだ。
しかし恐らくフェラーリ本社は、確信犯的にこれをやっている。カリフォルニアTを買う方はワインディングを攻めたりしないのだ。F12も恐らく同様。リアルセレブの生活シーンに合ったフェラーリの足まわりとは、こういうものだという裏付けがあってのことだろう。私も、カリフォルニアTを買うことは一生ないし、目くじらを立てるつもりはない。
(文=清水草一/写真=田村 弥)
テスト車のデータ
フェラーリ・カリフォルニアT
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4570×1910×1322mm
ホイールベース:2670mm
車重:1625kg(乾燥重量)
駆動方式:FR
エンジン:3.9リッターV8 DOHC 32バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:560ps(412kW)/7500rpm
最大トルク:77.0kgm(755Nm)/4750rpm
タイヤ:(前)245/35ZR20 95Y/(後)285/35ZR20 100Y(ピレリPゼロ)
燃費:10.5リッター/100km(約9.5km/リッター)(欧州複合モード)
価格:2450万円/テスト車=3204万8000円
オプション装備:マグネライド・デュアルモード・ショックアブソーバー・システム(49万9000円)/フェラーリ・ヒストリカル・カラー<ロッソ・カリフォルニア>(111万9000円)/ツートン・エクステリア(68万1000円)/ロッソ・スクーデリア・ブレーキキャリパー(13万7000円)/フェンダーの“スクーデリア・フェラーリ”シールド(16万7000円)/20インチの鍛造ホイール<シルバー>(56万円)/スポーツ・エキゾーストパイプ(7万6000円)/レッドタコメーター(7万円)/デュアルカラーインテリア<ロッソ・フェラーリ>(28万8000円)/デイトナスタイルシート(37万8000円)/デイトナスタイルリアシート(12万1000円)/デイトナアルカンターラ・インサートのリクエスト(7万6000円)/LED付きのドライバーゾーン(69万6000円)/ダッシュボード上のカーボンファイバー(59万円)/センタートンネルのカーボンファイバー(28万8000円)/HiFiプレミアムシステム(56万円)/Appleカープレイ(37万8000円)/リアビューモニター(18万2000円)/フロントとリアのパーキングカメラ(63万6000円)/アルミニウムフットレスト(7万6000円)/リアシート用のラゲッジセット(34万8000円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:2706km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:220.5km
使用燃料:38.9リッター
参考燃費:5.7km/リッター

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
-
MINIクーパーSEポール・スミスエディション(FWD)【試乗記】 2026.8.3 人気のプレミアムコンパクト「MINI」に、特別なデザインが魅力の「ポール・スミスエディション」が登場。著名なファッションブランドがコーディネートしたMINIは、クルマに疎い人も、ブランドに疎い人も魅了する、説得力のある装いの一台に仕上がっていた。
-
トヨタRAV4アドベンチャー(4WD/CVT)【試乗記】 2026.8.1 いまやトヨタの最量販モデルへと上り詰めた「RAV4」の6代目モデルが登場。もちろんトヨタにとっては自信作のはずだが、後を追うライバル勢も着々と進化しており、カスタマーのチェックの目は厳しくなるばかりだ。国内向けでは最廉価の「アドベンチャー」でその仕上がりを試した。
-
ビモータKB998リミニ(6MT)【レビュー】 2026.7.31 ビモータのスーパースポーツ「KB998リミニ」にサーキットで試乗! イタリア職人の手によるフレームに、カワサキの強心臓を搭載した一台は、いかなる走りを見せてくれるのか? クローズドコースだからこそ体験できたマシンの真価に迫る。
-
ポルシェ・マカンGTS(4WD)【試乗記】 2026.7.29 ポルシェの擁する電動のハイパフォーマンスSUV「マカン エレクトリック」に、さらに走りを磨いた「GTS」が登場。エンジンを積まない電気自動車でも、ポルシェならでは、GTSシリーズならではの走りは楽しめるものなのか? 雨のなかの試乗を通して確かめた。
-
シトロエンë-C3マックス(FWD)【試乗記】 2026.7.28 シトロエンのコンパクトハッチバック「C3」に電気自動車版の「ë-C3」が登場。さすがはシトロエンらしく、操作系やスペック、装備の設定、さらには乗り心地にいたるまで、普通のBEVとはひと味違う。誰にでも勧められるクルマではないが、そもそもシトロエンとはそういうポジションだ。
-
NEW
アウディA6 TDIクワトロ150kW(4WD/7AT)【試乗記】
2026.8.5試乗記歴史的にも車格的にも、アウディの中核に位置している「A6」。その最新モデルが日本に導入された。往年の「100」から数えて9代目となる新型は、いかなる走りを備えているのか? 既存の車種とは一味違う、新時代のアウディのドライブフィールを報告する。 -
NEW
16年ぶりのフルモデルチェンジ 新型「日産エルグランド」の価格は妥当か?
2026.8.5デイリーコラム実に16年ぶりのフルモデルチェンジで登場した新型「日産エルグランド」。その価格は「X e-4ORCE」の689万7000円からとなっているが、はたしてこの設定は買い得なのだろうか。グレード間の装備差やライバル車との比較を通じて検証した。 -
NEW
第123回:新型「日産キックス」とゆかいな仲間たち(後編) ―ライバル比較で浮き彫りになる日産デザインの底力―
2026.8.5カーデザイン曼荼羅日産ひさびさの話題作となっている新型「キックス」だが、盛況なコンパクトSUV市場は競合ひしめくレッドオーシャン! ライバルと比較しても、キックスのデザインは埋もれない逸品と言えるのか? カーデザインの識者とともに、日産デザインの実力に迫る。 -
「売れるクルマ」と「いいクルマ」にズレがあるとき、開発者がつくりたいのはどっち?
2026.8.4あの多田哲哉のクルマQ&A「いいクルマが売れるとは限らない」などといわれるが、「売れるクルマ」と「いいクルマ」が一致しないとき、エンジニアが目指したいと思うのはどちらなのか? 元トヨタの車両開発者である多田哲哉さんに聞いてみた。 -
ホンダ・スーパーONE(FWD)【試乗記】
2026.8.4試乗記ホンダのスポーツハッチバック電気自動車「スーパーONE」がいよいよ公道を走り始めた。その愛らしいスタイリングと走りの楽しさはすでに各所で報告されているが、多くの方が不安に感じているのは“距離”に関してに違いない。幾度かの経路充電を挟みつつ300km余りをドライブした。 -
第341回:「スカイアクティブZ」は大丈夫か
2026.8.3カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。夜の首都高に新型「マツダCX-5」で出撃した。マイルドハイブリッドのパワートレインと進化したシャシーが織りなす走りを確かめつつ、ディーゼルエンジンがラインナップから消えた3代目CX-5について考えた。























