メルセデス・ベンツC200エクスクルーシブライン リミテッド(FR/7AT)(本革仕様)
優雅でピチピチ 2015.06.18 試乗記 上級サルーン「Sクラス」に似たフロントデザインを持つ、「メルセデス・ベンツCクラス」の特別限定車に試乗。果たしてそれは、1台で2種類のドライブフィーリングが得られるという、“ふたつの顔を持つクルマ”だった。590台限定の顔
ボンネットにはスリーポインテッドスターのマスコット、ラジエーターグリルには3本のルーバー。メルセデス・ベンツCクラスのラインナップに、より大人っぽいフロントマスクを与えた「メルセデス・ベンツC200エクスクルーシブライン リミテッド」が台数限定で追加された。
このニュースを聞いた時、特に驚きはなかった。
なぜなら、先代Cクラス(W204)にも、2つの顔が用意されていたからだ。「クラシック」と「エレガンス」はボンネットにスリーポインテッドスターが載っかる“エレガンス顔”、「アバンギャルド」はエンジンフードの上はツルンとしていて、代わりにラジエーターグリルの中央に大きなスリーポインテッドスターがどんと鎮座する“クーペ顔”だった。
したがって、“2つの顔を持つクルマ”であることは、Cクラスにとって驚くには値しないのだ。
台数限定の内訳を記せば、メルセデス・ベンツC200エクスクルーシブライン リミテッドはセダンのみ設定され、ポーラーホワイトのボディーカラーで日本限定190台。インテリアをレザーで仕立てた今回の試乗車「メルセデス・ベンツC200エクスクルーシブライン リミテッド(本革仕様)」は、ポーラーホワイトが300台、カバンサイトブルーが100台の限定販売となる。
顔は大人っぽいけれど、ドライバーズシートに座って眼前に広がる若々しいインテリアは、現行C200の特徴。デザイン的に新しさを感じさせるのと同時に、着座位置の低さが「スポーティー感=若々しさ」を演出している。
かつてのメルセデス・ベンツは、ドライバーズシートに収まると「おれも大人になった」としみじみさせてくれた。けれども現行のCクラスは、「おれ、ちょっと若返ったかも?」と思わせてくれる。もちろん自分が壮年と呼ばれる世代になったこともあるけれど、メルセデスも間違いなくアンチエイジング効果を狙っていると思う。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
みなぎる若々しさ
座った瞬間に「おれ、若返ったかも?」と思わせてくれるメルセデス・ベンツC200エクスクルーシブライン リミテッドは、走りだすと「おれ、若返ったね」と「?」が消えてなくなる。なぜクエスチョンマークがなくなるのかといえば、すすっと軽やかに走りだすからだ。ぜい肉のない体で、しなやかな筋肉をムチのように使って走り回っていた、“あの頃”のように発進する。
そう感じさせる理由のひとつに、アルミの使用率を約50%にまで引き上げた、アルミニウムハイブリッドボディーシェルの物理的な軽さがあるだろう。ホワイトボディー同士で比べると先代より約70kg軽くなったということは、車重1520kgに対してざっくり5%。体重80kgの人間だったら4kgのダイエットに相当する。体重を4kg減らすのがどれだけ大変か、40歳代以上の方ならご理解いただけるはずだ。
物理的に軽くなっているのとは別に、軽く感じさせる演出も施されている。状況に応じてギア比を変化させる電動パワーステアリングが、「若々しくさっそうと駆け抜けるセダン」の味付けになっているのだ。
ステアリングホイールを操作した時に、どんよりとした手応えが一切なく、街中の交差点を曲がる時でも、高速道路で車線変更をする時でも、一発の操舵(そうだ)でぴたりとキマる。ステアリングフィールがスカッとさわやかなので、クルマ全体が若々しく感じられるのだ。
ここで、メルセデス・ベンツが「アジリティセレクト」と呼ぶ、4つのドライブモードを切り替えるとまたクルマの印象が変わる。
スイッチひとつで違うクルマに
「アジリティセレクト」は、「ECO」「Comfort」「Sport」「Sport+」に個別設定が可能な「Individual」を加えた5つのモードを選ぶことができる。設定が変化するのは、「ステアリング」「エンジン/トランスミッション」「ECOスタートストップ機能」「空調」である。エアサス仕様であればここに「サスペンション」も加わるけれど、試乗したメルセデス・ベンツC200エクスクルーシブライン リミテッドの足まわりはエアサスではなく「AGILITY CONTROLサスペンション」なので、ここでは除外する。
で、「アジリティセレクト」を操作すると、ステアリングのフィールがこれほどクルマの印象を変えるのかと驚く。
「ECO」と「Comfort」では、ステアリングの設定は同じ。とはいえステアリングフィールは前述したように「エコカー」や「ダンナ仕様の快適カー」とは異なる軽快なものだ。
ところが「Sport」を選ぶと、ボディー各部のボルトをギュッと締め付けたように、クルマがタイトな印象となる。それは、ステアリングフィールがダイレクトな手応えになるからだ。見かけは優雅なセダンであるけれど、路面からのインフォメーションを確実に伝え、コブシ半分の操舵でも明確に向きを変える動きの質は、まるでスポーツカーのようだ。
しかも「Sport」だとエンジンの回転数を高めに保ち、変速も素早くなるから、クルマ全体がソリッドな印象になる。
冒頭で、Cクラスを“ふたつの顔を持つクルマ”だと紹介したけれど、外観だけでなく、中身も「セダン」と「スポーツカー」というふたつの顔を持っている。
優秀な執事を思わせる
とはいえ正直なところ、「これはスポーツカーだ!」と言い切るには、エンジンが物足りない。パワーやトルクが足りないわけではなく、音とか回転フィールといった手触りの部分が、スポーツカーと呼ぶにはややビジネスライクなのだ。
ま、ここでエンジンのフィールまでスポーツカー顔負けのものを求めるのは、欲張りすぎというものだろう。
メルセデス・ベンツC200エクスクルーシブライン リミテッドは「レーダーセーフティパッケージ」を標準装備するので、現代のプレミアムカーに求められる安全装備の基準は完璧に満たしている。果たして先行する車両に追従する「ディストロニック・プラス」を試してみると、ただ安全装備があるというだけでなく、その質の高さに感心させられる。
先行車両に追従する時のナチュラルな加速、先行車両が急減速した時の音と表示による効果的なウォーニング。また、車線をはみ出しそうになった時にステアリングホイールに振動として伝わる警告の的確さ。
乗り手を調子に乗せないように、かつ、気に障らないように、優秀な執事のようにエスコートしてくれるのだ。
メルセデス・ベンツが開発テーマに掲げた「アジリティ(敏しょう性)」を実現した操縦性、新しモノ感に満ちたインテリアなど、現行Cクラスは若鮎のようにぴちぴちしたモデルだ。
だからフロントマスクはこの“エレガンス顔”よりも、フレッシュな“クーペ顔”のほうが似合うと思う。とはいえ、「エレガンス顔が選べない」のと、「エレガンス顔も選べる」のとでは大違いだ。全方位的に隙がないCクラスが、これでさらに盤石となった。鬼に金棒、虎に翼、Cクラスにエレガンス顔である。
(文=サトータケシ/写真=三浦孝明)
テスト車のデータ
メルセデス・ベンツC200エクスクルーシブライン リミテッド(本革仕様)
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4690×1810×1445mm
ホイールベース:2840mm
車重:1520kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7AT
最高出力:184ps(135kW)/5500rpm
最大トルク:30.6kgm(300Nm)/1200-4000rpm
タイヤ:(前)225/50R17 94W/(後)225/50R17 94W(コンチネンタル・コンチスポーツコンタクト5 SSR)
燃費:16.5km/リッター(JC08モード)
価格:610万円/テスト車=610万円
オプション装備:なし
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:2079km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(8)/山岳路(0)
テスト距離:296.7km
使用燃料:25.5リッター
参考燃費:11.6km/リッター(満タン法)/12.0km/リッター(車載燃費計計測値)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
-
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.12.2 「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
ポルシェ911タルガ4 GTS(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.26 「ポルシェ911」に求められるのは速さだけではない。リアエンジンと水平対向6気筒エンジンが織りなす独特の運転感覚が、人々を引きつけてやまないのだ。ハイブリッド化された「GTS」は、この味わいの面も満たせているのだろうか。「タルガ4」で検証した。
-
ロイヤルエンフィールド・ハンター350(5MT)【レビュー】 2025.11.25 インドの巨人、ロイヤルエンフィールドの中型ロードスポーツ「ハンター350」に試乗。足まわりにドライブトレイン、インターフェイス類……と、各所に改良が加えられた王道のネイキッドは、ベーシックでありながら上質さも感じさせる一台に進化を遂げていた。
-
NEW
アウディがF1マシンのカラーリングを初披露 F1参戦の狙いと戦略を探る
2025.12.4デイリーコラム「2030年のタイトル争い」を目標とするアウディが、2026年シーズンを戦うF1マシンのカラーリングを公開した。これまでに発表されたチーム体制やドライバーからその戦力を分析しつつ、あらためてアウディがF1参戦を決めた理由や背景を考えてみた。 -
NEW
第939回:さりげなさすぎる「フィアット124」は偉大だった
2025.12.4マッキナ あらモーダ!1966年から2012年までの長きにわたって生産された「フィアット124」。地味で四角いこのクルマは、いかにして世界中で親しまれる存在となったのか? イタリア在住の大矢アキオが、隠れた名車に宿る“エンジニアの良心”を語る。 -
NEW
あの多田哲哉の自動車放談――ロータス・エメヤR編
2025.12.3webCG Movies往年のピュアスポーツカーとはまるでイメージの異なる、新生ロータスの意欲作「エメヤR」。電動化時代のハイパフォーマンスモデルを、トヨタでさまざまなクルマを開発してきた多田哲哉さんはどう見るのか、動画でリポートします。 -
タイで見てきた聞いてきた 新型「トヨタ・ハイラックス」の真相
2025.12.3デイリーコラムトヨタが2025年11月10日に新型「ハイラックス」を発表した。タイで生産されるのはこれまでどおりだが、新型は開発の拠点もタイに移されているのが特徴だ。現地のモーターショーで実車を見物し、開発関係者に話を聞いてきた。 -
第94回:ジャパンモビリティショー大総括!(その3) ―刮目せよ! これが日本のカーデザインの最前線だ―
2025.12.3カーデザイン曼荼羅100万人以上の来場者を集め、晴れやかに終幕した「ジャパンモビリティショー2025」。しかし、ショーの本質である“展示”そのものを観察すると、これは本当に成功だったのか? カーデザインの識者とともに、モビリティーの祭典を(3回目にしてホントに)総括する! -
日産エクストレイルNISMOアドバンストパッケージe-4ORCE(4WD)【試乗記】
2025.12.3試乗記「日産エクストレイル」に追加設定された「NISMO」は、専用のアイテムでコーディネートしたスポーティーな内外装と、レース由来の技術を用いて磨きをかけたホットな走りがセリングポイント。モータースポーツ直系ブランドが手がけた走りの印象を報告する。




































