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メルセデスAMG C63 S(FR/7AT)

オトコの乗り物 2015.07.29 試乗記 清水 草一 「メルセデス・ベンツCクラス」の頂点に君臨する、高性能モデル「メルセデスAMG C63 S」に試乗。それはまさに、特別な心構えを必要とする“4ドアのスーパーカー”だった。

後輪駆動は「チカラの象徴」

私は自動車について何か書いている者の中では、たぶんかなり鈍感な方で、例えば現代のよくできたFF車とFR車を乗り比べても、駆動方式の差を感じることができない。少なくとも公道のドライ路面だったらまずわからない。それがわかる人は霊感があるのではないかと思う(笑)。とにかく、特殊な能力を持った選ばれた人たちだ。

が、先日自分の先代「BMW 335iカブリオレ」を、大雨の高速道路で走らせていて、「これは確かにFRだ」と実感した。それはドライブスルー洗車の中を走っているような状況だったが、路面の水膜が厚くなるにつれ、どんどん恐怖感が増していったのだ。別にフルパワーをかけたわけではなく(怖くてかけられませんでした)、フツーに走っているだけで強烈に後輪駆動を感じた。やはり後輪駆動は、ミューの低い路面では直進性が落ち不安定になる。そういう状況では、FFや4WDが断然有利だ。

が、300psを超えるハイパワーエンジンを積んでいる場合、FFではトラクションが足りなくなるので、FRは存続している。つまりFR=ハイパワー2WD車の称号ともいえる。ハイパワーではないFR車も、トップグレードには大抵ハイパワーモデルをいただいており、その分FF車よりエライという社会的合意を得ている。私はそのように解釈している。

最高出力476psの「メルセデスAMG C63」と、今回のテスト車でもあるハイチューン版「C63 S」(510ps)はともに、日本では2015年5月に発表された。発売時期は同年10月が予定されている。
最高出力476psの「メルセデスAMG C63」と、今回のテスト車でもあるハイチューン版「C63 S」(510ps)はともに、日本では2015年5月に発表された。発売時期は同年10月が予定されている。
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「C63 S」のインテリア。ハンドル位置は、セダンでは左右が選べるものの、ステーションワゴンは右のみとなる。
「C63 S」のインテリア。ハンドル位置は、セダンでは左右が選べるものの、ステーションワゴンは右のみとなる。
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センターコンソールの中央には、スイスの時計メーカーIWCのアナログ式クロックが配される。
センターコンソールの中央には、スイスの時計メーカーIWCのアナログ式クロックが配される。
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フロントフェンダー部に添えられる「BITURBO」(=ツインターボ)のエンブレム。
フロントフェンダー部に添えられる「BITURBO」(=ツインターボ)のエンブレム。
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トップモデルにも苦手はある

「メルセデス・ベンツCクラス」がいまなおFRを採用しているのは、トップに「メルセデスAMG C63」という超ハイパワーモデルが存在しているからではないか。これがなければ「Aクラス」ベースに変更した方が、スペースユーティリティーも大雨の時の直進性も増すのでイイんじゃないか? でもメルセデスAMG C63を作る以上、「Cクラス」はFFにはできない。ひょっとしてそういうことではないだろうか。

メルセデスAMG C63 Sに試乗したのは、ちょうど大雨の日だった。なんでこんなクルマに乗る日に大雨なのかと呪(のろ)いたいが、FRを実感するには最適だった。正直、真剣に怖い。高速道路を巡航中、アクセルを踏み込んでキックダウンが起きた瞬間に超ビビる。

まずキックダウン時のエンジンの吼(ほ)え声がすごい。大雨の中「ボワン」という爆発音が響くので、空爆を受けた無辜(むこ)の市民のように逃げまどいたくなる。しかもその瞬間姿勢がわずかに乱れる。大雨で路面に水膜ができていると、どんな精密な電子制御がついていても、一瞬進路は乱れるのだ。
C63 Sのステアリングを握る奥さまは、これだけで恐怖のあまり失神するかもしれない。いや、鈍感なので平然としているかもしれない。わが家の奥さまはどんなにサスの硬いクルマに乗せても違いがわかりません。


メルセデスAMG C63 S(FR/7AT)【試乗記】の画像 拡大
前席は、電動ランバーサポートやシートヒーターが備わる「AMGスポーツシート」。レッドペッパー×ブラックのツートンカラーが目を引く。
前席は、電動ランバーサポートやシートヒーターが備わる「AMGスポーツシート」。レッドペッパー×ブラックのツートンカラーが目を引く。
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「AMGスポーツシート」の表皮はナッパレザー。背もたれと座面にパンチングメッシュが施される。
「AMGスポーツシート」の表皮はナッパレザー。背もたれと座面にパンチングメッシュが施される。
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センターコンソールは、ブラックアッシュウッドと呼ばれるウッドパネルで飾られる。
センターコンソールは、ブラックアッシュウッドと呼ばれるウッドパネルで飾られる。
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ゾッとするほどのハイパワー

普通なら、大雨の中で超ハイパワー後輪駆動車に乗ったりしない。もちろんフェラーリなどは出撃しない。しかしC63 Sは、超ハイパワー車でありながら実用車でもあるので、大雨の中でも出撃の可能性が極めて高く、その際は「やっぱりFRは男の乗り物だぜ!」と実感することができる。3ステージESPをはじめ、レーダーセーフティーパッケージ、ABS、BAS、その他数えきれないほどのセーフティーデバイスが標準装備されていても、「今ここで本気でフルパワーかけたら死ぬんじゃないか」と思ってしまう。510ps/71.4kgmは、それくらいの威力を持つ。

先々代「C55 AMG」に乗った時、「途方もないパワーでしょう?」と問われても、私にはそれほどすごいとは思えなかった。場所が箱根のターンパイクで、しかもピーカンのドライ。そんな状況下では、347ps程度はまったく大したことはない。こちとら、鈍感ながらスーパーカーを全開にしてオマンマを食っている者である。この程度のパワーでガタガタ言うなくらいのことは思った。

しかし、大雨の中のC63 Sは真剣に怖かった。それでも意を決して、じんわりと優しくアクセルを踏み込み、せめて一度はアクセルを床まで踏もうと努力したが、ついにそこまで踏めなかった。どんな優秀なセーフティーデバイスがついていても、ホントに働くまで信じられないじゃないですか! 借り物だし。先日、「マクラーレン650S」でチョイぬれの高速で全開にしてタコ踊りして以来、気弱になってます。超ハイパワー後輪駆動車をナメてました。

C63 Sで大雨の中を走る際は、繊細な運転が要求される。アクセルを深く踏み込む時は、M(マニュアル)モードにし、パドルでシフトダウンを完了しておいてからにすべきだ。いや、いきなり床までドカンで4速くらいいっぺんにキックダウンしても、最後はセーフティーデバイスがすべて抑え込んでくれるのだろう(たぶん)。でも気持ちだけは繊細でいたい。それが超ハイパワー後輪駆動車のお作法ではないだろうか。

「クラストップの動力性能を実現した」とうたわれる「メルセデスAMG C63 S」。0-100km/hの加速タイムは4.0秒と公表される。
「クラストップの動力性能を実現した」とうたわれる「メルセデスAMG C63 S」。0-100km/hの加速タイムは4.0秒と公表される。
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最高出力510psと最大トルク71.4kgmを発生するV8エンジン。2基のターボは、シリンダーバンクの内側にレイアウトされている。ドライビングの状況に応じて硬さを自動調節する、磁性体入りのエンジンマウントも備わる。
最高出力510psと最大トルク71.4kgmを発生するV8エンジン。2基のターボは、シリンダーバンクの内側にレイアウトされている。ドライビングの状況に応じて硬さを自動調節する、磁性体入りのエンジンマウントも備わる。
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後席は3人掛け。40:20:40の分割可倒式となっている。
後席は3人掛け。40:20:40の分割可倒式となっている。
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トランクルームの容量は、標準状態で445リッター。写真のように後席の背もたれを倒すことで、長尺物にも対応できる。
トランクルームの容量は、標準状態で445リッター。写真のように後席の背もたれを倒すことで、長尺物にも対応できる。
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アグレッシブな表情を見せるフロント周り。エンジン冷却のために広い開口部が設けられている。
アグレッシブな表情を見せるフロント周り。エンジン冷却のために広い開口部が設けられている。
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名実ともにスーパーカー

そんなわけで、4リッターV8ツインターボエンジンについては、撫(な)でた程度しかテストできなかったのですが、現代のターボらしくラグはほとんどなく、大排気量自然吸気のように低回転域から豊かなトルクを発生しつつ、中回転域から上はしっかりさく裂してこちらの肝を冷やさせる。
なにしろ「AMG GT」と基本的に同じエンジンなのだ。そんなものをこのコンパクト(?)セダンのノーズに詰め込んでいるのだから、大雨の中で乗る時は、「これはスーパーカーだ」という心構えが必要なのは当然だろう。

ドライブモードはコンフォート、スポーツ、スポーツプラス、レースの4モード切り替え。公道ではほぼどんな状況でもコンフォートがおすすめだ。それでもサスは結構ハード目である。スポーツ以上が必要になるのはサーキットだけ。あるいはアウトバーン250km/h巡航とかではないかと想像する。スポーツではハンパなく硬い。スポーツプラスはほとんど拷問だ。大雨だったのでレースには一度も入れませんでした。これらは、「やろうと思えばやれるぜ」という称号のようなものと考えてもいい。

トランスミッションは、湿式多板クラッチ式7段ATの「AMGスピードシフトMCT」だが、トルコン式ATとまるで変わらないスムーズさなので、何も意識する必要はなかった。というより気付かなかった。

こういうクルマは、何も考えずにブリブリ乗るのがあるべき姿だ。富裕層には何も考えさせず、必要以上のパワーをご用意する。それがメルセデスAMGに期待されていることで、C63 Sはそれに沿って作られている。細かいことをあれこれ言っても無意味だ。鈍感ですいません。
ただ、これまでのモデルに比べると、ヤバいくらい“本気度”が高まっているようにも感じた。レースモードでは、本気でレースさせるつもりかもしれん。

(文=清水草一/写真=荒川正幸)

メーターのデザインは、オーソドックスなアナログ式の2眼タイプ。速度計の目盛りは320km/hまで刻まれる。
メーターのデザインは、オーソドックスなアナログ式の2眼タイプ。速度計の目盛りは320km/hまで刻まれる。
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タブレットのようなデザインのモニター。カーナビの地図や各種の車両情報が表示される。(写真をクリックすると画面の表示バリエーションが見られます)
タブレットのようなデザインのモニター。カーナビの地図や各種の車両情報が表示される。(写真をクリックすると画面の表示バリエーションが見られます)
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ひじ掛けの前方に置かれる、インフォテインメントシステムの操作デバイス。ダイヤル式のセレクターとマウス式のスイッチが組み合わされている。
ひじ掛けの前方に置かれる、インフォテインメントシステムの操作デバイス。ダイヤル式のセレクターとマウス式のスイッチが組み合わされている。
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アルミホイールのサイズは19インチ。その奥に見えるフロントのブレーキディスクは、直径390mm。
アルミホイールのサイズは19インチ。その奥に見えるフロントのブレーキディスクは、直径390mm。
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マフラーエンドは、左右2本ずつの4本出し。フラップを使ってエキゾーストノートを変化させられる「AMGパフォーマンスエグゾーストシステム」が備わる。


    マフラーエンドは、左右2本ずつの4本出し。フラップを使ってエキゾーストノートを変化させられる「AMGパフォーマンスエグゾーストシステム」が備わる。
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テスト車のデータ

メルセデスAMG C63 S

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4755×1840×1430mm
ホイールベース:2840mm
車重:1520kg
駆動方式:FR
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:7AT
最高出力:510ps(375kW)/5500-6250rpm
最大トルク:71.4kgm(700Nm)/1750-4500rpm
タイヤ:(前)245/35ZR19 93Y/(後)265/35ZR19 98Y(ダンロップSPORT MAXX RT)
燃費:9.5km/リッター(JC08モード)
価格:1325万円/テスト車=1360万円
オプション装備:エクスクルーシブパッケージ<ヘッドアップディスプレイ+ハンズフリーアクセス+エアバランスパッケージ+Burmesterサラウンドサウンドシステム+盗難防止警報システム>(35万円)

テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:3518km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(8)/山岳路(0)
テスト距離:194.0km
使用燃料:28.5リッター
参考燃費:6.8km/リッター(満タン法)/6.9km/リッター(車載燃費計計測値)

メルセデスAMG C63 S
メルセデスAMG C63 S
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メルセデスAMG C63 S(FR/7AT)【試乗記】の画像 拡大
前席のヘッドレスト。AMGエンブレムの型押しが施されている。
前席のヘッドレスト。AMGエンブレムの型押しが施されている。
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「C63 S」のヘッドランプには、他の走行車両を幻惑させないよう照射範囲を自動的に制御しながら、ハイビームで最大の視界を確保する機能「アダプティブハイビームアシスト・プラス」が備わる。
「C63 S」のヘッドランプには、他の走行車両を幻惑させないよう照射範囲を自動的に制御しながら、ハイビームで最大の視界を確保する機能「アダプティブハイビームアシスト・プラス」が備わる。
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清水 草一

清水 草一

お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。

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