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フェラーリF12tdf(FR/7AT)

魔性のスペチアーレ 2016.01.08 試乗記 渡辺 敏史 フェラーリから799台限定の高性能モデル「F12tdf」が登場。往年のロードレース「ツール・ド・フランス(Tour de France)」へのオマージュが込められたスペチアーレの実力を、フィオラーノのテストコースで試した。

799台はすでに完売

テストドライバーの横に乗せられてまずは3周。無口な彼は時々、複合コーナーの回り込みやオーバーパスのギャップなどを指し、走るにあたって注意すべきポイントをイタリア語で指摘する。が、横に乗る大柄な僕には「アテンシオネ」以外は何を言っているのやら訳がわからない。それ以前に、朝もはよからタイヤも温まらぬうちに容赦なく全開をくれられるそのクルマのあまりの速さに、ひたすら呆然(ぼうぜん)とするばかりだ。

フィオラーノを走るのは人生で2度目。最初の経験は「599」の試乗会だったから、既に8年近い時がたっている。おぼろげな記憶と現在のコース状況とを、横G祭りの中で一生懸命擦り合わせているうちに、あっという間の3周が終わった。

「はい、じゃああと20分くらい。チェッカー出すまで好きにどうぞ」
オーガナイズする広報女史に告げられて、ああやっぱり……と思う。預けられるのは世界の好事家が血眼で買い求め、瞬殺で完売となった799台の限定車。そんなクルマでもフェラーリの試乗スタイルは変わらない。熟練の先導車が引っ張るわけでもなければ危険なラインをパイロン規制するでもない、完全放置プレイだ。心もとないお手々を携えてきた身にしてみれば、「お前ウチのクルマちゃんと踏めるわけ?」という挑発と、「万一コースを飛び出してクルマを壊そうもんなら一生出禁だし」的な脅迫とを同時に受けたような、なんとも重い心境だ。

11月も半ばとなればマラネロは朝晩がっちりと冷え込み、午前8時の時点でも4~5度までしか気温があがらない。ともあれ曲がれず自爆は国の恥。それは絶対に避けなければと、気を引き締めてそろりとコースに入る。

12気筒エンジン搭載モデルの「F12ベルリネッタ」をベースに開発された「F12tdf」。2015年11月に開催されたフェラーリのサーキットイベントにおいて、世界初公開された。
12気筒エンジン搭載モデルの「F12ベルリネッタ」をベースに開発された「F12tdf」。2015年11月に開催されたフェラーリのサーキットイベントにおいて、世界初公開された。 拡大
各所にカーボン素材やアルカンターラが用いられたインテリア。軽量化のため、グローブボックスは省かれている。
各所にカーボン素材やアルカンターラが用いられたインテリア。軽量化のため、グローブボックスは省かれている。 拡大
ドアインナーパネルにはカーボン素材が使用されている。
ドアインナーパネルにはカーボン素材が使用されている。 拡大
799台の限定モデルであることを示すシリアルナンバープレート。
799台の限定モデルであることを示すシリアルナンバープレート。 拡大
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エンジンは限りなく「ラ フェラーリ」に近い

F12tdfのスリーサイズはベースとなる「F12ベルリネッタ」に対して、全長が約40mm伸び、全幅が約20mm広くなったのみ。数字的なものは意外なほど変わっていないが、低く広く構えた実物のたたずまいは、ベルリネッタとは一瞥(いちべつ)しただけで違いがわかるほどダイナミックだ。その前後バンパー部やドアインナーパネル、ダッシュボードやシートなどの部材は軒並みカーボンに置き換えられており、乾燥重量はベルリネッタに対して110kg軽く仕上げられている。

搭載される6.3リッターV12直噴ユニットはF12ベルリネッタが積む「F140CFC」型をベースとしており、吸気側サージタンクの大容量化や、彼らが「トランペット」と呼ぶ吸気ファンネル長の可変システム、専用プロファイルのハイカム、DLCコートにより40%の重量低減を実現した直打タペット、そして専用エキゾーストなど、主に吸排気まわりにF1テクノロジーをフィードバックしたというチューニングが施されている。最高出力は8500rpmで780ps。レッドゾーンは8900rpmに設定される。ちなみに「ラ フェラーリ」に搭載されるそれは800ps/9000rpmというから、限りなくそれに近いハイチューンユニットといえるだろう。

そこに組み合わせられるトランスミッションはベルリネッタと同じ7段DCTだが、ローギアード化された専用ギアレシオを備えるほか、マネッティーノの走行モードに応じて、最大でアップシフトに要する時間が30%、ダウンシフトに要する時間が40%詰められている。

車名の「tdf」とは、1950年代から60年代に開催されたロードレース「ツール・ド・フランス(Tour de France)」の略称。同レースでは、1956年から「フェラーリ250GT」が8年連続で総合優勝を果たしている。


	車名の「tdf」とは、1950年代から60年代に開催されたロードレース「ツール・ド・フランス(Tour de France)」の略称。同レースでは、1956年から「フェラーリ250GT」が8年連続で総合優勝を果たしている。
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「F12tdf」に搭載される6.3リッターV12エンジン。「F12ベルリネッタ」に搭載されるものから、最高出力が40ps、最大トルクが1.5kgm向上している。
「F12tdf」に搭載される6.3リッターV12エンジン。「F12ベルリネッタ」に搭載されるものから、最高出力が40ps、最大トルクが1.5kgm向上している。 拡大
トランスミッションにはベース車と同じく7段デュアルクラッチ式ATを採用。ただし、ギア比はベース車のものよりクロスレシオ化されている。
トランスミッションにはベース車と同じく7段デュアルクラッチ式ATを採用。ただし、ギア比はベース車のものよりクロスレシオ化されている。 拡大

足まわりも空力パーツも専用設計

255幅から275幅へと前輪を拡幅したことに伴い、専用のジオメトリー設定となったF12tdfの足まわりには、「バーチャルショートホイールベース」と呼ばれるシステムが後軸側に搭載された。これは電動モーターを用いてリアアクスルを物理的にステアさせるもので、ポルシェが「911ターボ」などに用いているZF社製のシステムをベースに、フェラーリが独自のキャリブレーションを加えたものだ。その制御は同相側にのみ最大で1度余りと、低速時の強烈な回頭性よりも、中高速域での旋回性・安定性の向上を目指したものといえるだろう。

そしてスタビリティーに関して見逃せないのは、エアロダイナミクスの大幅な改善だ。前後バンパー形状の変更に加え、床下もカーボンパネルによりまったく新しいフラットボトムに形成されたほか、F12の特徴である「エアロブリッジ」も形状を変更。リアクオーターウィンドウのフリックによる整流など、F1で培った解析技術に基づいたアクセントが加えられており、大げさなリアウイングをまとうことなくダウンフォース量を最大で87%も改善しているという。

フロントのタイヤサイズは275/35ZR20と、ベース車(255/35ZR20)のものより幅の広いタイヤが装着されている。
フロントのタイヤサイズは275/35ZR20と、ベース車(255/35ZR20)のものより幅の広いタイヤが装着されている。 拡大
「エアロブリッジ」とは、ボンネットの上を通る空気をボディーサイドに流し、空気抵抗を低減させるデバイス。「F12tdf」ではより効果を高めるために形状が変更されている。
「エアロブリッジ」とは、ボンネットの上を通る空気をボディーサイドに流し、空気抵抗を低減させるデバイス。「F12tdf」ではより効果を高めるために形状が変更されている。 拡大
リアクオーターウィンドウの下端にそって設けられたフリック。こうした細かな改良により、200km/hでの走行時には従来モデルより107kg大きい230kgのダウンフォースが発生する。
リアクオーターウィンドウの下端にそって設けられたフリック。こうした細かな改良により、200km/hでの走行時には従来モデルより107kg大きい230kgのダウンフォースが発生する。 拡大

“780ps”を御する制動性能とスタビリティー

ラインや路面のアンジュレーションを確かめつつタイヤを温めてからの最終コーナー立ち上がり、3速からいよいよ全開をくれるや否や後輪がシュッと空転したのを感じ、身が引き締まる。過給なしでかなえられた生の780psはあまりにレスポンスが強烈で、トラクションコントロールが介入する間も与えない。エンジンの吹け上がりの軽さは明らかにF12ベルリネッタとは異なり、軽量化された車体も相まってのスピードの乗りは、ヘタなスポーツバイクも押しのけてしまいそうだ。

異次元の火力をいさめるこれまた猛烈な減速力に慣れるころには、F12tdfの備えるスタビリティーの高さにうならされる。フィオラーノにはわざわざコーナー脱出から姿勢を整えつつのハードブレーキングを余儀なくされる場所が2つほどあるが、そこでの四肢がしっかりと地面に張り付いた減速姿勢は、足まわりの設定がいかに優れたものかを感じさせてくれる。また、FRにして前:後ろ=46:54という異質な重量配分を考えるとなおさらに、アクセルをガンガン踏んでの高速コーナーでは、フロントまわりのドシッとした接地感が印象的だ。ここではタイヤの拡幅を含めたメカニカルグリップに加えて、エアロダイナミクスの効果も大きく働いていることだろう。

最高速は340km/h以上、0-100km/h加速は2.9秒という動力性能を発揮する「F12tdf」。フィオラーノテストコースでは1分21秒というラップタイムを記録している。
最高速は340km/h以上、0-100km/h加速は2.9秒という動力性能を発揮する「F12tdf」。フィオラーノテストコースでは1分21秒というラップタイムを記録している。 拡大
「F12tdf」には「ラ フェラーリ」のノウハウを取り入れたワンピース構造の新型ブレーキキャリパーを採用。制動距離は100-0km/hが30.5m、200-0km/hが121mとなっている。
「F12tdf」には「ラ フェラーリ」のノウハウを取り入れたワンピース構造の新型ブレーキキャリパーを採用。制動距離は100-0km/hが30.5m、200-0km/hが121mとなっている。 拡大
フェラーリは「F12tdf」について、フロントタイヤの幅を広げることでフロントのグリップ力を高めるとともに、限界域でオーバーステアとなるのを防ぐために、後輪操舵(そうだ)機構の「バーチャルショートホイールベースシステム」を採用したという。
フェラーリは「F12tdf」について、フロントタイヤの幅を広げることでフロントのグリップ力を高めるとともに、限界域でオーバーステアとなるのを防ぐために、後輪操舵(そうだ)機構の「バーチャルショートホイールベースシステム」を採用したという。 拡大

ドライバーから理性を奪う

コーナリングはとにかくシャープで、特にタイトターンでの操舵(そうだ)の切り増し時や、S字での切り返しなどでの身のこなしは、前方に12気筒のマスを抱え込むクルマとは思えない。ただし、最大のコーナリングフォースを生み出すためには、アプローチ時に前軸荷重を気持ち多めに残しておいた方がよさそうだ。走りのセオリーがあまりFRらしくないところもまた、後ろによった重量配分によるところだろうか。

その日はスケジュールに余裕があったのか、午後からも2セットの都合3セットもフィオラーノをF12tdfで走り込むことができた。最後の数周はクルマに相当慣れてきたこともあり、禁断の“CSTカット”も一度は試みたが、僕くらいのスキルであればサーキットスピードでどえらく賢いフェラーリのマネッティーノに身を任せた方が断然楽で速い。

その安心感を手綱に思いっきり12気筒をぶん回していると、理性のネジが1本、2本と飛んでいっている自分に気づく。ともあれ、すさまじいクルマだ。こんなに自在なハンドリングを備えた12気筒は、僕にとってほかに例がない。そしてその12気筒が醸し出す魔性のエキゾーストノートは、乗る者の自制心をあっさりと失わせてしまう。フェラーリがなぜ、ここまで人を昂(たか)ぶらせるのか。代々のスペチアーレにはその究極の回答が託されてきたのだろう。F12tdfは間違いなく、そこに名を連ねるにふさわしいクルマだ。

(文=渡辺敏史/写真=Ferrari SpA)

「F12tdf」の前後重量配分は前:後ろ=46:54と、やや後ろよりとなっている。
「F12tdf」の前後重量配分は前:後ろ=46:54と、やや後ろよりとなっている。 拡大
CSTとはフェラーリの姿勢制御システムのこと。「マネッティーノ」と呼ばれる走行モード切り替え機構により、「トラクションコントロールのみオフ」「横滑り防止装置もオフ」と、介入の度合いを調整することができる。
CSTとはフェラーリの姿勢制御システムのこと。「マネッティーノ」と呼ばれる走行モード切り替え機構により、「トラクションコントロールのみオフ」「横滑り防止装置もオフ」と、介入の度合いを調整することができる。 拡大
 
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テスト車のデータ

フェラーリF12tdf

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4656×1961×1273mm
ホイールベース:2720mm
車重:1415kg(乾燥重量)
駆動方式:FR
エンジン:6.3リッターV12 DOHC 48バルブ
トランスミッション:7段AT
最高出力:780ps(574kW)/8500rpm
最大トルク:71.9kgm(705Nm)/6750rpm
タイヤ:(前)275/35ZR20/(後)315/35ZR20(ピレリPゼロ コルサ)
燃費:15.4リッター/100km(約6.5km/リッター、欧州複合モード)
価格:5230万円/テスト車=--円
オプション装備:--

テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
 

フェラーリF12tdf
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渡辺 敏史

渡辺 敏史

自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。

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