アルファ・ロメオ4Cスパイダー(MR/6AT)
真のエロス 2016.02.25 試乗記 アルファ・ロメオのスポーツカー「4C」に、オープンバージョンの「スパイダー」が登場。フェラーリをはじめ、これまでMRスポーツに乗り継いできた清水草一が、その走りをリポートする。期待の“享楽的な4C”
アルファの4Cについては、「すばらしいライトウェイトスポーツカーである」という評価が定着しているが、私はアルファファンとして、2点不満を抱いている。それは、
「デザインが男性的である」
「コンセプトがストイックすぎる」
というものだ。
デザインが男性的というのは、具体的にはパネル面が筋肉質に見えること。柔らかな脂肪の層がなく、腱(けん)や血管が浮き出ているように見える。例えばフロントフードのV字型のエッジの浮き上がりかたは、明らかに男性の肉体を思わせる。
ヘッドライトの昆虫の複眼のような造形も、女性的とは言い難い。アルファといえば美しい女性を連想する私としては、「なんか違う」のである。
コンセプトがストイックすぎるというのは、つまり「これじゃロータスじゃないか」ということだ。スペック的にも「ロータス・エリーゼ」のハイパワーバージョンに近く、乗り味もまさに「イタリアのロータス」である。ピュアスポーツを愛するものにとっては正しい方向性だが、個人的には、アルファはもっとイーカゲンで享楽的なスポーツカーであってほしいという思いがある。例えれば、かつての「アルファGTV」や「アルファスパイダー」(2代目)的な。
そして登場した4Cスパイダー。スパイダーというだけである程度「イーカゲンで享楽的」ではある。ヘッドライトも昆虫ではなく単眼でフレンドリー。して、実際のところはどうか。
意外に感じた「音」と「風」
まず衝撃だったのはそのサウンドだ。4Cも「すごい音だな」と思ったが、やはり、ほろを開け放って走るとまるで違う。そりゃもうとんでもない爆音だ。バルンバルンバルルルルルル~~~~~~~~~ン! と。
音質はハイパワーターボらしい低音系だが、とにかく抜けがメチャクチャいい。触媒付いてないんじゃないか? くらいの突き抜け感。実際のところ、触媒はあるけどほぼ直管だそうです。よくぞこんな音が音量規制を通ったものだ。
その他はすべて4Cに準ずる。車両重量は1050kgから1060kgへ10kg増加しているが、体感できるはずもない。トランスミッションも4C同様、MTはなく6段の乾式デュアルクラッチ。古典的なライトウェイトスポーツだけにMTが欲しかったが、いまさらそれを言ってくれるなというところか。
ルーフのほろは「ホンダS660」同様、外して巻いて収納するタイプで、リアピラーやリアガラスは完全に残る。フロントウィンドウ上端にディフレクター的なものもない。
こういうオープンは、意外と後方から室内に風が巻き込んでくるものだが、4Cスパイダーの場合、サイドウィンドウを閉めておけばほとんど問題ない。日本の法定速度内なら、適度な風を感じつつ快適なドライブが可能だ。真冬でもそれほどの寒さは感じなかった。
ルーフに加えてサイドウィンドウも開けると、室内にどっと風が巻き込んでくるが、それは街中パレードラン(?)用と割り切って使い分ければ、まったく問題はないだろう。
すっ飛んで行っちゃいそう
パワー感は4C同様すばらしい。1744ccターボエンジンは240psを発生させ、なにより魅力的なのは、そのサウンドとレスポンスだ。とにかく「やってる気にさせる」。もちろん実際にも非常に速い。1060kgに240psなのだ。アクセルを全開にすれば野蛮そのもの。適度なホイールスピンをブチかましながら「ガウウウウウウウーーーーン!」と加速する。どっかにすっ飛んで行っちゃいそうな加速という表現がピッタリである。ターボエンジンの最大トルクは2100rpmで発生する。踏めばいきなり最大加速Gが出る感じで、軽量ボディーとあいまって、ヤバいくらい速く感じる。
タイトコーナーめがけてフル加速、フルブレーキングからターンイン。その時の挙動は安定している。地面に張り付きつつ、弱アンダーステアを感じながらコーナリング。立ち上がりで無造作にパワーをかけてもフロントが逃げる方向で、リアは非常に安定している。ミドシップ車として、やや安定性重視の順当なステア特性だ。
が、これが高速コーナーになると、すべてが一変する。まず、速度がある程度上がるだけで、急激に不安感が増していく。ステアリングインフォメーションがどんどん希薄になっていくのである。その状態でステアリングを切るのはおっかなびっくりだ。正直、全然曲がる気がしない。1トン強という軽量のカーボンボディーが木の葉のように感じられて、風が吹いたら本当に飛んでいってしまいそうなのである。実際にはハンドルを切れば曲がるのだが、手に汗ビッショリ、脇の下グッショリ。なにより恐怖が先に立つ。
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今となっては希少な存在
この感覚は「フェラーリ360モデナ」に似ている。モデナは、高速コーナーで非常に怖いクルマである。4C同様、速度を上げるとステアリングインフォメーションが徐々に消失していく。私はモデナを約5年間所有したが、最初のサーキットアタックで、あまりの怖さに打ちのめされた。一体なにが悪いのか。リアガラスが重くて重心が高いのか。お尻が不安定で、怖くて怖くてどうしようもない。取りあえずリアの車高を下げるなど、簡単なオーバーステア対策をしてみたが、速度が上がれば元の木阿弥(もくあみ)。レーサー諸氏は口をそろえてアドバイスしてくれた。
「そのクルマ、でっかいリアウイング付けないとだめだよ!」
つまり、リアがリフトするということか? こんな立派なリアディフューザーが付いていて、ダウンフォースを発生させているはずなのに? 最後に「チャレンジストダラーレ」と同じエアロを装着してみて、課題がほぼ解決されたことにがくぜんとした。モデナの恐怖の源泉は、主にリアのリフトだったのだ。あのディフューザーは路面から遠すぎてまったく効いていなかった。
4Cスパイダーの恐怖感の原因も同じと断定するつもりはない。が、速度を上げると急激に恐怖感が増す点はまったく同じ。空力に起因するものの可能性が高いだろう。
実際のところ、高速コーナーで恐怖に打ち勝ちつつ頑張ってみても、何が起きるのかはわからない。それを試すにはエスケープのあるサーキットでないとムリです。ただ、人が怖いと感じるのには大抵理由があるものだ。それは930型「ポルシェ911」やフェラーリ360モデナが証明している。
これほど死と隣り合わせに感じられるスポーツカーが、現代新たに生まれたのは奇跡かもしれない。これはこれで、ポジティブに考えるべきかもしれない。真のエロスは、死と隣り合わせでなければ味わえないのだから。
いや、速度を上げるからいけないのだ。低速コーナーだけ楽しんでいれば最高のピュアスポーツだ。恐怖は天の贈り物。今や希少な存在でもある。恐怖に耐えながらステアリングを切る僥倖(ぎょうこう)を喜ぶという、ドMな方向性もアリである。
がしかし、やっぱり個人的には、アルファにはもっと軟派なスポーツカーも作ってもらいたい。FFでかまわない。見てくれ優先の気分だけのチャラチャラしたスポーツカーが欲しいです。アルファというクルマは、命を削るよりも、花束を積んで女性を迎えに行くのが向いているのではないか……と思うのですが、いかがなものでしょう。
(文=清水草一/写真=峰 昌宏)
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テスト車のデータ
アルファ・ロメオ4Cスパイダー
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3990×1870×1190mm
ホイールベース:2380mm
車重:1060kg
駆動方式:MR
エンジン:1.7リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:240ps(177kW)/6000rpm
最大トルク:35.7kgm(350Nm)/2100-4000rpm
タイヤ:(前)205/40ZR18 86Y/(後)235/35ZR19 91Y(ピレリPゼロ)
燃費:12.1km/リッター(JC08モード)
価格:861万8400円/テスト車=1084万4220円
オプション装備:ボディーカラー<プロトタイプイエロー>(16万2000円)/スポーツパッケージ<スポーツエキゾーストシステム+スポーツサスペンション+5ホール ガンメタリック仕上げの18-19インチアロイホイール+205/40ZR18フロントタイヤ+235/35ZR19リアタイヤ>(32万4000円)/レザーパッケージ<レザーシート+レザーハンドブレーキグリップ+スポーツレザーステアリング>(25万9200円)/カーボンドアミラーカバー(29万8080円)/18-19インチホイール<10スポークタイプ>(27万2160円)/ブレーキキャリパー<イエロー>(45万3000円)/カーボンエアインテークキット(20万5200円) ※以下、販売店オプション メモリーナビゲーションMP33II+1DINオーディオDEH-970(13万8240円)/ルームミラー+リアカメラセット(7万7760円)/ETC車載器(1万260円)/フロアマットベロア(2万5920円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:2775km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(8)/山岳路(0)
テスト距離:251.4km
使用燃料:23.2リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:10.8km/リッター(満タン法)/11.1km/リッター(車載燃費計計測値)
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清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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