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ジャガーFタイプ R AWD クーペ(4WD/8AT)

ブランドを感じるクルマ 2016.02.26 試乗記 下野 康史 550psを発生する過給機付き5リッターV8エンジンと、4WDシステムを組み合わせた「ジャガーFタイプ R AWD クーペ」に試乗。Fタイプシリーズの中でも屈指の高性能モデルの走りと、その端々に宿るジャガーならではの魅力を報告する。

重量を感じさせない身のこなし

ジャガーFタイプ R AWD クーペに乗ったとき、たまたま同行していた試乗車が「ホンダ・シビック タイプR」だった。「R」が付いていることと、英国製であることは2台に共通だが、もちろん比較テストでもなんでもない。とはいえ、同道していると、どうしても比べてしまう。

シビックは5ドアハッチバック、こっちは2座スポーツカーなのに、シビックのほうがフロントピラーがスーパーカーチックに寝ているのにはびっくりした。逆にジャガーのサプライズは、走りだしの瞬間からシビックより身軽に感じられることだった。タイプRはシフトノブがオールアルミだが、Fタイプはボディーがオールアルミである。走りの芯に感じられる軽やかさはそのせいだろうか。いずれにしても、そんな印象は四駆になってもまったく変わっていない。はやりの言葉でいえば、アジリティー(敏しょう性)が「ニュルブルクリンクFF最速」のレーシングハッチと比べてもむしろ勝っているのである。

高速道路に入り、ふとルームミラーを見上げると、鏡の中にあおむけになったヒョウがいた。100km/hで自動的に起き上がるジャガーマーク付きリアスポイラーが、ミラーに映り込んでいたのだ。なんてことも、Fタイプ体験のひとコマである。

「Fタイプ」は2012年のパリモーターショーでデビューしたジャガーのスポーツモデル。4WDモデルの「Fタイプ R AWD クーペ」は、2014年11月に日本に導入された。


	「Fタイプ」は2012年のパリモーターショーでデビューしたジャガーのスポーツモデル。4WDモデルの「Fタイプ R AWD クーペ」は、2014年11月に日本に導入された。
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「Fタイプ R AWD クーペ」のインストゥルメントパネルまわり。写真の円形のステアリングホイールに加え、無償オプションでフラットボトム形状のものも用意されている。
「Fタイプ R AWD クーペ」のインストゥルメントパネルまわり。写真の円形のステアリングホイールに加え、無償オプションでフラットボトム形状のものも用意されている。 拡大
動力性能については、0-100km/h加速が4.1秒、最高速が300km/hと公表されている。
動力性能については、0-100km/h加速が4.1秒、最高速が300km/hと公表されている。 拡大
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550psを無駄なく使うための四駆

おさらいすると、Fタイプはクーペとコンバーチブルの2種類。日本仕様のエンジンは3リッターV6スーパーチャージャーと5リッターV8スーパーチャージャーで、3リッターには340psと380psの2チューンが用意されている。

新たに加わった“AWD”は、クーペの「R」にのみ設定されるFタイプの上級モデルである。電子制御クラッチを使ったオンデマンド四駆で、通常は後輪駆動だが、リアタイヤがグリップを失うと、最大で50:50の比率まで前後のトルク配分を変化させる。

興味深いのはメーカー発表の加速データである。AWDの0-100km/hは2WDのRをコンマ1秒上回る4.1秒。8段ATのギア比やファイナルレシオは変わっていない。車重(1860kg)が50kg重いことを考えると、にわかには信じがたいデータだが、AWDはそれくらい550psを漏れなく有効に生かすツールだという主張なのだろう。

実際、AWDでのゼロ発進フル加速は、2WDよりもスマートである。スーパーチャージャーだから、右足を踏み込むといきなりドンとくる。そのときに路面を蹴り出す後輪のムズがるような挙動が、AWDだとない。あ、こりゃリアタイヤの減りが少なくなるな。財布の軽いドライバーは直観的にそう思ってしまった。

「R」グレードの4WD車であることを示すリアバンパーのバッジ。4WD化により、車両重量はFR車より50kg重くなった。
「R」グレードの4WD車であることを示すリアバンパーのバッジ。4WD化により、車両重量はFR車より50kg重くなった。 拡大
「R クーペ」および「R AWD クーペ」には、よりホールド性の高い「Rパフォーマンス プレミアムレザーシート」が装備される。
「R クーペ」および「R AWD クーペ」には、よりホールド性の高い「Rパフォーマンス プレミアムレザーシート」が装備される。 拡大
4WD機構には、オーバーステアやアンダーステアを感知すると前後輪に適切なトルクの分配を行い、トラクションを回復させる「インテリジェント・ドライブライン・ダイナミクス(IDD)」が備わる。
4WD機構には、オーバーステアやアンダーステアを感知すると前後輪に適切なトルクの分配を行い、トラクションを回復させる「インテリジェント・ドライブライン・ダイナミクス(IDD)」が備わる。 拡大

安心してワインディングを走るために

ワインディングロードでもAWDはスマートである。腕さえあればパワースライドが楽しめるテールハッピーなキャラクターは基本的に2WDと同じだが、後輪がわずかでも空転すれば、前が引っ張ってくれる。そう思っているだけで、腕のないドライバーは安心してワインディングロードを駆けることができる。4WD保険である。

スーパーカーイディオットという言葉がある。動画サイトなどではすでにおなじみの新語だ。イディオット(idiot)の意味は、どうぞ調べてください。

かつて、超高性能なクルマを買う人は、運転がうまかった。どの程度の“かつて”かというと、例えばフェラーリでいえば、まだ2ペダル変速機がなく、しかもクラッチペダルがとてつもなく重かった「308」のころまでだ。しかし、時代は変わった。超高性能なスポーツカーのマーケットが新興経済諸国に広がりつつあるいま、こうしたクルマも、カネはあるけどウデはない、という人が乗る。そういう意味でも、セレブな超高性能車の4WD化は時代の必然だろう。

「Fタイプ」の「S」と「R」には、エンジンやステアリング機構、ダンパーなどの特性を調整できる「コンフィギュラブルダイナミックが採用される。操作はタッチスクリーンで行う。
「Fタイプ」の「S」と「R」には、エンジンやステアリング機構、ダンパーなどの特性を調整できる「コンフィギュラブル・ダイナミック」が採用される。操作はタッチスクリーンで行う。 拡大
メーターはアナログ式の2眼タイプ。中央には燃費や平均車速など、さまざまな情報を表示するマルチインフォメーションディスプレイが備わる。
メーターはアナログ式の2眼タイプ。中央には燃費や平均車速など、さまざまな情報を表示するマルチインフォメーションディスプレイが備わる。 拡大
日本仕様で4WDが選べるのは、今回試乗した「Fタイプ R AWD クーペ」のみ。また2016年のジュネーブショーで発表される予定の高性能モデル「SVR」も、駆動方式は4WDとなる。
日本仕様で4WDが選べるのは、今回試乗した「Fタイプ R AWD クーペ」のみ。また2016年のジュネーブショーで発表される予定の高性能モデル「SVR」も、駆動方式は4WDとなる。 拡大

中も外も、カッコいい

FタイプのAWDに乗ったのは、沖縄に歴史的な降雪があった寒い日だった。コールドスタート時のかん高い“いななき”は相当な迫力だが、ファストアイドルは数秒で落ち着いて静かになる。冷却水温の上がりは特に早い方ではないが、シートヒーターとステアリングヒーターのおかげで、すぐに暖をとることができる。

エンジンがかかった途端、ダッシュボード中央からエアコンのルーバーがせり上がってくる。開閉作動はオートエアコンと連動している。昼間の走行中、フロントウィンドウに日が差して、暖かくなったなと思ったら、いつのまにか閉じていたルーバーが再び登場して、音もなく涼しい風を送り始めた。これもお金持ち気分を盛り上げてくれるFタイプ体験である。

ボディー全幅は1925mm。ミラーまで入れると2045mmに達するワイドなクルマだが、純粋2座のコックピットはほどよくタイトだ。MTのシフトノブかと見まがうATセレクターも、1.6リッターのライトウェイトスポーツカーのシフトレバーとそう変わらない近いところにある。リアスタイルなどはほれぼれするほどカッコいいと個人的には思うが、Fタイプは車内にいてもカッコいいスポーツカーである。

センターコンソールにあるスイッチを押すと、排気系のバイパスバルブが作動してエキゾーストノートが高まるが、ふだん普通に走っている限り、うるさいクルマではない。操作タッチのすべてがやさしく洗練されているせいか、いつもより多めに譲りたくなるようなオーラも感じ取れる。
走りの芯にスポーツカーがある一方で、そんなところもあるのが、あ、やっぱりジャガーだなと感じるところである。

(文=下野康史<かばたやすし>/写真=郡大二郎)

テスト車には、カーボンセラミックブレーキや「Storm」と呼ばれる20インチアルミホイールなどからなる、オプションの「カーボンセラミック ブレーキパック2」が採用されていた。
テスト車には、カーボンセラミックブレーキや「Storm」と呼ばれる20インチアルミホイールなどからなる、オプションの「カーボンセラミック ブレーキパック2」が採用されていた。 拡大
シートには運転席、助手席ともに、メモリー機能付きの14way電動調整機構が備わる。
シートには運転席、助手席ともに、メモリー機能付きの14way電動調整機構が備わる。 拡大
8段ATのシフトセレクター。センターコンソールには、走行モードの選択や、リアディフューザーの開閉、排気音の切り替えなどに用いるスイッチ類が備えられている。
8段ATのシフトセレクター。センターコンソールには、走行モードの選択や、リアディフューザーの開閉、排気音の切り替えなどに用いるスイッチ類が備えられている。 拡大
 
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テスト車のデータ

ジャガーFタイプ R AWD クーペ

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4470×1925×1315mm
ホイールベース:2620mm
車重:1860kg
駆動方式:4WD
エンジン:5リッターV8 DOHC 32バルブ スーパーチャージャー付き
トランスミッション:8段AT
最高出力:550ps(405kW)/6500rpm
最大トルク:69.3kgm(680Nm)/2500-5500rpm
タイヤ:(前)255/35ZR20 97Y/(後)295/30ZR20 101Y(ピレリPゼロ)
燃費:8.1km/リッター(JC08モード)
価格:1443万円/テスト車=1695万1000円
オプション装備:アダプティブフロントライティング(9万1000円)/カーボンファイバールーフ(30万9000円)/電動テールゲート(6万2000円)/フロントパーキングコントロール+リアパーキングコントロール+リアカメラパーキングコントロール(15万3000円)/ジャガースマートキーシステム(7万7000円)/カラーシートベルト<レッド>(3万6000円)/トレッドプレート<イルミネーション付き>(4万6000円)/ヴァレイモード(1万1000円)/デジタルTVチューナー(12万1000円)/エクステンテドレザーパック+プレミアムレザーインテリア(31万4000円)/カーボンセラミック ブレーキパック2(130万1000円)
※2016年1月の一部改良により、現在のモデルは価格や仕様の一部が異なる。

テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:5848km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:371.7km
使用燃料:54.2リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:6.9km/リッター(満タン法)/7.5km/リッター(車載燃費計計測値)
 

ジャガーFタイプ R AWD クーペ
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下野 康史

下野 康史

自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。

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