スズキ・アルト ワークス(FF/5MT)
特別な体験が待っている 2016.04.07 試乗記 楽しいだけのクルマにあらず? 軽い車重にレスポンシブなエンジン、クロスレシオのMT、よく曲がるシャシーと、走りを楽しむために必要なもののすべてがそろった「スズキ・アルト ワークス」。久々に復活した、軽規格のスポーツモデルの魅力に触れた。乗ったら思わず笑っちゃう
パーン! と膝をたたいて「ふははははははは」と高笑いしちゃった。と言って分かっていただけるだろうか? スタートして30秒たらず。もうその段階で、めちゃくちゃ楽しいクルマであることを実感させられたのだ。
たった30秒で何が分かる? それが困ったことに、もちろん全部が分かるわけじゃないけど、分かっちゃうのである。何せそういうクルマなのだ。軽い。エンジンもチカラがある。1速は瞬時に、2速も3速も速攻で吹け切ろうとする。スティックシフトの感触もカキコキと気持ちいい。加速も結構鋭い。──と、いきなり痛快なのである。「これじゃない感」という言葉をよく耳にするけれど、それに倣うなら、見事なまでの「これだよこれ感」なのだ。それはもう笑い出しちゃうくらいに……。
いや、試乗のときの興奮がよみがえってきて先走ってしまったが、何のことかといえば、アルト ワークスのお話。あっちこっちで評判がいいし、ぜひとも乗ってみたいと思っていたのだけれど、念願かなって走らせてみたら、聞いていた以上に楽しかった、というわけだ。
実のところ、昨年の春にデビューした「アルト ターボRS」も十分に楽しいクルマだった。軽自動車の規格に収まったクルマでありながら、軽自動車という概念から飛び出したようなとびきりホットなテイストに魅力を感じたものだった。ただし、トランスミッションが2ペダルのAMTのみで、それも時代というものか……と感じつつも、車体の小ささやエンジンのアウトプットを考えたら、3ペダルの手動変速の方が断然楽しいに違いない、と感じていたところがあったのも確かだ。
スポーツカーのパワートレインたり得ている
アルト ワークスでは、まずそこがクリアになった。ターボRS同様AMTも用意されているが、5段のマニュアルトランスミッションが備わったのだ。それも専用開発品で、シフトフィールにこだわって開発がなされた逸品。AMTも変速スピードが短縮されるなど専用のチューンが施されているようだけど、そちらを試すこともないまま、僕はマニュアルトランスミッションをイチオシにしたい気分。なぜなら、ストロークが短くて、フィールにも節度感があって、シフトすることそれ自体が楽しみのひとつになるような出来栄えだったからだ。ギア比も結構クロスしていて、エンジンのチカラを次また次ときれいにつなぎ、加速を途切れさせない。シフトノブのある位置も、高さも含めて適切だ。かなり念入りに開発されていることがさまざまなところからうかがい知れるが、おかげで街中を流して走るようなシチュエーションでも、どこか気持ちが弾んでくるような楽しさを感じられるのだ。これだけでスポーツカーとしての条件を満たしているようにすら思える。
でも、アルト ワークスの魅力は、トランスミッションだけではなかった。658ccの直列3気筒ターボエンジンは、64ps/6000rpmの最高出力はそのままながら、最大トルクをターボRSから0.2kgm引き上げた10.2kgm/3000rpmとした。そちらについては残念ながら僕には違いが体感できなかったけど、アクセルレスポンスはほんのちょっぴりだけど鋭くなったように感じられた。力強さやシャープさは十分にスポーティーといえるレベルで、2000rpmちょっとの回転域でトルクはすでにしっかり立ち上がっているし、6000rpmを少し超える辺りまでパワー感をきっちりと伝え続けてくれる。ギア比が低めでクロスしていることや車重が670kgと素晴らしく軽いこともあるけれど、どの領域からアクセルを踏んでも元気よく加速するし、その勢いは軽自動車であることを考えると相当にダイナミック。並のリッターカーなんてお呼びじゃないくらいの速さも感じられる。不満がないどころか、実に痛快で楽しいのだ。
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ワインディングロードは最高の晴れ舞台
フットワーク系に関しても同様。ベースはあくまでもターボRSであるが、サスペンションではKYB製ダンパーの減衰力をセットし直してロールスピードを調整。パワーステアリングはマッピングを変えて操舵(そうだ)感のさらなる向上を図り、さらには応答性や踏ん張りを考えてホイールのリム幅を4.5Jから5Jへと拡大するなど、大掛かりな変更こそないものの、それ以上に手間暇のかかりそうな細かい専用チューニングをさまざまな部分に施している。
おかげで、曲がることまで楽しいことこの上ない。ワインディングロードは最高の晴れ舞台だ。ノーズの素直でシャープな動き、ヒラリとした身のこなし。適度なロール、しっかりしたスタビリティー。もともとのボディー剛性の高さも大きな要因だと思うけど、エンジンに対して足腰が余裕を持っている感じで、結構なレベルまで攻め込んでいけちゃうのだ。
考えてもみてほしい。上の方までしっかり回ってパワーもついてくるエンジン、カキコキと気持ちいいシフト、つながりのいいギアレシオ、よく曲がって包容力のあるシャシー、車体の軽さ。ワインディングロードを楽しむために必要なものは、すべてそろっているのだ。しかも、だ。いかに速いといってもその速度域は決して常人の感覚を飛び越えるようなものではなく、常に「楽しいな」「気持ちいいな」と感じていられるおいしい領域にとどまっている。スポーツカーにとって重要なのは絶対的な“スピード”ではなく“スピード感”であって、その加減が絶妙なところにあるのである。
楽しいだけのクルマにあらず
もちろん、ここまで楽しさ優先で仕上げられたクルマなのだから、人によってはネガに感じる部分もあるだろう。足まわりがかなり締め上げられているため、不快な突き上げ感のようなものはないものの、その乗り心地はコンフォートとはいえないし、100km/hで巡航しようとするとエンジンは4000rpm近くで回り続けていて、そういう意味ではちょっと疲れるところもあるといえばある。
でも、僕は「それでいいんじゃない?」なんて思っていたりする。だって、あらためて断言しておくけれど、このクルマはスポーツカーなのだ。4人乗れて荷物も積める軽自動車としての実用性を持ってはいるけれど、はっきりとスポーツカーなのだ。「さぁ、走れ!」「ほら、楽しめ!」とドライバーを強くけしかけて、ひたすらペダルとステアリングとシフトを操作することを要求する代わりに、何ものにも代えがたい濃密な時間を提供してくれる乗り物なのである。そんなふうにして峠道の途中にある駐車場にたどり着き、うまい缶コーヒーを味わうための乗り物なのである。
僕のようなオヤジ世代のクルマ好きにとっては、素晴らしく懐かしいシチュエーション。このクルマを駆れば、知らない間にどこかに置いてきてしまったほろ苦くも甘い何かを取り戻せるかもしれない。若い世代にとっては、そのままでいたら知ることのできなかった特別な缶コーヒーのうまさを味わうことができ、何かとても大切なものを身に着けるための新鮮な体験を得られるかもしれない。
そんなふうに考えると、150万円で買えるクルマとしては、ただただひたすら楽しいだけじゃなく、最も深みのある存在といえるかもしれない。アルト ワークス恐るべし、である。
(文=嶋田智之/写真=田村 弥)
テスト車のデータ
スズキ・アルト ワークス
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1500mm
ホイールベース:2460mm
車重:670kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:5MT
最高出力:64ps(47kW)/6000rpm
最大トルク:10.2kgm(100Nm)/3000rpm
タイヤ:(前)165/55R15 75V/(後)165/55R15 75V(ブリヂストン・ポテンザRE050A)
燃費:23.0km/リッター(JC08モード)
価格:150万9840円/テスト車=169万5816円
オプション装備:なし ※以下、販売店オプション カーナビゲーションシステム(14万7258円)/フロアマット(1万6902円)/ETC車載器(2万1816円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:3842km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:212.9km
使用燃料:14.0リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:15.1km/リッター(満タン法)/14.6km/リッター(車載燃費計計測値)
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嶋田 智之
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