フォルクスワーゲン・ザ・ビートル デューン(FF/7AT)
ザ・ベストバランス 2016.06.14 試乗記 500台の限定車として日本に導入された、「フォルクスワーゲン・ザ・ビートル」のクロスオーバーモデル「ザ・ビートル デューン」。試乗してみると、ユニークでファニーなルックスからは意外なほどのスポーティーさや、まじめな作りが見えてきた。こっちのほうがむしろ本家
フォルクスワーゲンのザ・ビートルをベースに、ちょい車高を上げてSUV風味をまぶした特別限定車、フォルクスワーゲン・ザ・ビートル デューンが登場。
こう書くと、「はは~ん、クロスオーバーのブームに乗った、まねっこフォロワーだな」と考える人がいるかもしれない。けれども、もしザ・ビートルに人格があれば、「いやいや、こっちのほうが本家ですから」と強硬に主張するに違いない。
1960年代、アメリカ西海岸での「フォルクスワーゲン・ビートル」は、カウンターカルチャーの象徴だった。ぴっかぴかの高級車へのアンチとしてボディーをサビサビにする、RUST(=さび)加工を施す一派もあれば、ルーフラックにサーフボードを載せたサーファー一派もいた。
そのなかに、バギーに仕立ててオフロードを疾走する一派もいた。彼らが仕立てたのが、「デューン(dune=砂丘)・バギー」とか、「バハ(Baja)バグ」と呼ばれるカスタムカーだ。ちなみにバハバグの名称は、メキシコのバハ・カリフォルニア半島の砂漠地帯を駆け抜けるレース「バハ1000」で、ビートルをベースにしたバギーが優勝したことに由来する。
フォルクスワーゲン・ザ・ビートル デューンの名誉のために(?)言わせていただくと、ただ流行に乗っかったわけではなく、こんな歴史的背景があるのだ。第2次大戦にまでさかのぼれば、ビートルをベースに悪路走破性を高めた軍用車両「キューベルワーゲン」もつくられているから、「SUVっぽいビートル」に歴史アリ。
すみません、前置きが長くなってしまいましたが、こんなウンチクもクルマ道楽の楽しみのひとつ。といったところで、試乗スタート。
パワーユニットにも注目
最低地上高と全高を15mm高くして、専用のアクセサリーでヘビーデューティー感を演出している以外にも、フォルクスワーゲン・ザ・ビートル デューンには注目すべき点がある。それは1.4リッターのTSIエンジンを7段DSGと組み合わせて搭載していることだ。
これまで日本仕様のザ・ビートルは1.2リッターTSIと、最高出力211psを誇る2リッターTSIの2本立て。このエンジンのラインナップを「帯に短し襷(たすき)に長し」と感じていた向きも多いようなので、1.4リッターとの組み合わせには興味がわく。
「サンドストームイエローメタリック」という呼称の新色はフォルクスワーゲン・ザ・ビートル デューンの専用色。華やかでありながらシックな雰囲気も漂わせるあたり、“大人の遊びグルマ”という位置づけのこのモデルに合っている。
パッと見、車高が15mm引き上げられたことによる違和感はない。前後のアンダーガードや黒く縁取られたホイールアーチもうまくなじんでいて、副作用ゼロでザ・ビートルにSUVっぽさを移植することに成功している。
インストゥルメントパネルとシートのステッチがボディーと同色になっていることを確認してからエンジン始動。ストップ&ゴーが続く都心部でも、1.4リッターTSIエンジンは1.3トンを超えるボディーを楽々と動かす。
ありあまるトルクで、というわけにはいかないけれど、「もうちょい力があれば……」というストレスは一切ない。スペックを見ると最大トルク25.5kgmは1500rpmという低回転域から発生しているが、それが納得できるドライバビリティーを獲得している。
ひとつ不満を感じるのは、アイドリングストップからエンジンが再始動する時にちょっとした間を感じること。もちろん、後続車両に迷惑をかけるほど遅いわけではない。けれど、最近は軽自動車でも電光石火で再始動するから、あれに慣れると不便は感じないけれど不満は感じる。
驚くほど俊敏
15mm車高を上げる専用サスペンションを装備すると聞いたときには、コーナーでぐらっと傾かないように足まわりが固められているのではないかと予想した。結果として乗り心地が悪くなっていたらイヤだなと思っていたけれど、その不安は杞憂(きゆう)に終わった。
首都高速のつなぎ目を乗り越えてもドッタンバッタンしないし、ボディーの揺れもスッと収束する。
見た目は“ゆるキャラ”であるけれど、フォルクスワーゲン・ザ・ビートル デューンの動きはゆるくない。これはザ・ビートルの全グレードに共通するけれど、見かけに反して乗り味はソリッド。ふなっしーと同じで、ルックスはふわっとしているけれど、動きは素早いのだ。色が似ているだけで全然似ていないからビミョーなところであるけれど、“自動車界のふなっしー”と呼びたい。
コーナーでは、4本のタイヤがしっかりと路面をつかんで俊敏に身を翻す。一方で、路面の凸凹を比較的ダイレクトに伝える。これがイヤだと感じないのは、前述したように振動の収まりがいいことと、ボディーがしっかりしているからだ。昔で言うところのスポーティークーペ的な操縦フィーリングのクルマである。
繰り返しになりますが、もし外見から、ふわんふわんとした乗り心地を期待している方がいたら、そうではないのでご注意を。
高速道路に上がっても、1.4リッターのTSIエンジンに力不足は感じない。むしろ、3000rpm台の後半から盛り上がる抜けのいい音とパワー感がスポーティーに感じられ、スポーティークーペ的な操縦性とマッチする。
7段DSGの変速はスムーズかつクイックで、追い越す時に標準で備わるパドルシフトで「7速→5速」への1段飛ばしのシフトダウンを敢行しても、ショックなど皆無で回転計の針がハネ上がり、滑らかに車速が上がる。
ファンカーなのに真面目
100km/h巡航時、回転計の針は2000rpm付近を指している。この時の室内は非常に静かで、エンジンとトランスミッションの働きが洗練されていることから、実に近代的なクルマだと感じる。その印象と、ちょっとレトロが入ったインテリアとがミスマッチでおもしろい。
でもミスマッチに感じるのはここだけで、エンジン、トランスミッション、そしてシャシーと、実にバランスがいい印象だ。燃費を気にせず走り回った結果、満タン法による燃費値は13.5km/リッターで、高回転域のフィールをしつこく確認した結果だと思えば、走りと経済性のバランスもまずまず。
おしゃれファンカーのザ・ビートルを、さらに遊び方向に振ったフォルクスワーゲン・ザ・ビートル デューンであるのに、バランスよくまじめに仕上がっているあたりが面白い。
「プールサイドで日光浴をしている男が、もし靴下を履いていたらそれはドイツ人だ」というヨーロッパのジョークを思い出す。
1960~70年代のデューン・バギーと同じように、タイヤが丸見えになるぐらいもっと派手にやってもいいのではないか、と外野は勝手に思うけれど、これなら友人や知人、親戚や向こう三軒両隣にも安心して薦められるのもまた事実。
クロスオーバー的な雰囲気がウリではあるのは百も承知。でも、個人的にはベストバランスのザ・ビートルである。
(文=サトータケシ/写真=峰 昌宏/取材協力=河口湖ステラシアター)
テスト車のデータ
フォルクスワーゲン・ザ・ビートル デューン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4285×1825×1510mm
ホイールベース:2535mm
車重:1340kg
駆動方式:FF
エンジン:1.4リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:150ps(110kW)/5000-6000rpm
最大トルク:25.5kgm(250Nm)/1500-3500rpm
タイヤ:(前)235/45R18 94V /(後)235/45R18 94V(コンチネンタル・コンチスポーツコンタクト3)
燃費:18.3km/リッター(JC08モード)
価格:321万9000円/テスト車=321万9000円
オプション装備:なし
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:1979km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(8)/山岳路(0)
テスト距離:318.8km
使用燃料:23.5リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:13.5km/リッター(満タン法)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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