メルセデスAMG GLE43 4MATIC(4WD/9AT)
オトコを試すSUV 2016.07.18 試乗記 AMGの名から想像するよりずっと静かなエンジンと、それに不似合いな硬さの足まわり。「メルセデスAMG GLE43 4MATIC」の本性を、街中だけで見抜くのは簡単ではない。いざ、高速道路に乗って、このツンデレなSUVのアクセルを踏み込むと……。どこかゆるりとアメリカン
GLEといえば、その先代は「Mクラス」である。GLEになって、見た目こそ一段とメルセデスライクになった。しかしアメリカはアラバマ州で造られるどこかホンワカとしたSUVに、スピードマニアであるAMGのスパイスが振りかかったら、一体どんなSUVになってしまうのか……? そんな心配をした筆者であったが、このGLE43、実に絶妙な塩加減に収まっていた。
ちょっとだけGLEを弁護しておくと、初代Mクラスはどこかチープさが見え隠れするアメリカンテイストなSUVだったが、2代目以降では、その質感がしっかりとメルセデス格式に格上げされていた。
とはいえ、メイン市場をアメリカに置いていることには変わりないから、その乗り味やシルエットにはどことなく“ゆるり”としたテイストがいまなお残っている。筆者はこのポロシャツでも乗れるおおらかでヤッピーなテイストが嫌いではないが、これにガッチガチのAMGがドーピングされたら、どうなっちゃうのかと思ったのだ。
搭載されるエンジンは、車名こそ“ヨンサン”ながら3リッターのV型6気筒直噴ツインターボ。いわば4.3リッターなみの実力を持つダウンサイジングターボということになる。
このエンジン、一基一基が職人の手で組み上げられる“プレミアムAMG”向けのV8やV12とは異なり、職人のネームプレートも付かない量産ユニットだが、シリンダー内部には摩擦抵抗の低減と強度アップを実現するナノスライド加工が施されるなど、最新技術がしっかりと盛り込まれている。またインジェクターは200barの高圧縮で燃料を筒内噴射し、367ps/53.0kgm(520Nm)というパワー&トルクを発生する。
燃費性能(JC08モード)は10.0km/リッターとやや前時代的ではあるが、今回の試乗では満タン法で8.6km/リッター、車載燃費計で9.0km/リッターと、カタログ値からそれほど離れていない数値を記録した。
ハイウェイでは別人格
そんなAMG GLE43 4MATICをひとことで表すと、“最強のツンデレSUV”だと筆者は思う。
まずは街中を運転したときに感じたのは、AMGっぽさの薄い静かなエンジンによる肩すかしと、それとはまるでミスマッチな少し硬い足まわりだった。背の高いSUVで高速安定性を出すために固められたAIRマティックサスペンションと、AMGらしさを強調する21インチタイヤは路面の段差で車体を左右に揺さぶり、その印象は決して良くなかった。前2席ならまだしも、後部座席の乗り心地は、座面の小ささも手伝って悪いと言える部類だった。
もっともGLEはSUVだから、足まわりの硬さはラゲッジルームに荷物を満載して、さらにアウトバーンをぶっ飛ばすときの安定性に狙いを定めているのだろう。
また試乗車にはパノラミックスライディングルーフが装着されていた。これが上屋のふらつきに対して影響しているのは間違いないと思うのだが、後部座席側からの意見としては、この開放感――というか閉塞(へいそく)感のなさ――は一度味わうと捨てがたい。
「SUVはまさに、欲望の産物だな……」などと、ブツクサと文句を付け、それをまたひとりで勝手に納得するという、偏屈なジャーナリストぶりを発揮しながら高速道路に乗ると、今度はその印象がガラッと変わった。コンフォートモードの足腰は路面からの突き上げを吸収しながら、実にスイートな路面追従性を見せ始めたのである。
本性はスポーツプラスに潜む
ステアリングはタイヤのたわむ感触をドライバーの手に伝えながらも、細かな振動はしっかりと遮断されている。ステアコンシャスなBMWや、正確無比なライントレース性を追い求めるアウディともまた違う、メルセデスらしい快適さと高級感だ。
速度が上がるほどに足腰の据わりが良くなり、ハンドリングも生き生きとしてくる。後部座席に座ったカメラマン氏からも、速度が上がるほどに乗り心地が良くなるという報告を得た。
なんだよ、素晴らしいじゃないか。タイヤの径をワンサイズ落として、それをスタンダードモデルにすればいいのに!
しかし驚いたのは、よりその制御が先鋭化するスポーツプラスモードに入れてからだった。筆者は大抵この手のモードの脚色っぷりが苦手だ。しかしAMGのスポーツプラスは、そんな頑固者の心をも見事に高揚させてくれたのである。
まず手応えがグッと増したステアリングによって、高い速度でも安心してコーナーへ入っていけるようになった。電動パワステの抵抗が増えたことでステアリングの切り過ぎがなくなり、微妙なステアリング操作がしやすくなったのである。同時にダンパーの減衰力も高められ、高い荷重領域でも実にゆっくりと背の高いボディーがロールする。
この動きを読みながら、ホールド性の良いフロントシートに座って、小さなステアリングをコーナーの手前から少しずつ連続的に切り込んでいくだけで、大きなGLEが狙った通りのラインで走ってくれる。この大きなSUVを操っている感覚は、ある意味、スポーツカーよりもリアルにクルマを運転している気持ちになれる。つまり運転が楽しいのである。
そのAMG、ツンデレにつき
約2.3tの巨体ゆえか、絶対的な排気量の小ささゆえか、それとも4MATICのトラクション性能の高さゆえか、全開加速時におけるトルクの出方は53.0kgmの脅威を感じさせない。しかしその吹け上がりはターボエンジンらしからぬスコーン! と抜けた気持ち良さで、9段ATもその加速に対してシームレスに変速してくれるから、遅いとは感じない。
そしてアクセルを閉じると、乾いたサウンドがエキゾーストから容赦なく「ヴァララッ!」とまき散らされる。普段ならこうしたAMG流のエゲツなさには眉をひそめるところだが、どうしてどうしてワクワクしてしまう。気持ち良いエンジン特性と高いシャシー追従性が下地となって、完全にリラックスして運転できるから、このエキゾチックサウンドが受け入れられてしまうのかもしれない。
普段は硬めながら、きっちり走らせるとスイートな乗り心地とエモーショナルなエンジン特性をチラ見せしてくれるGLE43。ひとつ心配なのは、日本にそのスイートスポットを堪能できる環境がほぼないということだ。この最強のツンデレ嬢と、ツンツンさせたままお付き合いするのはまったくもって意味がない。……のだが、さりとて甘やかすには手が掛かる。
ドイツ車の歴史はまさにスピードとともにある、そう痛感した試乗だった。
(文=山田弘樹/写真=田村 弥)
テスト車のデータ
メルセデスAMG GLE43 4MATIC
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4815×1950×1765mm
ホイールベース:2915mm
車重:2260kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッターV6 DOHC 24バルブ ツインターボ
トランスミッション:9段AT
最高出力:367ps(270kW)/5500-6000rpm
最大トルク:53.0kgm(520Nm)/2000-4000rpm
タイヤ:(前)265/40R21 105Y/(後)265/40R21 105Y(コンチネンタル・コンチクロスコンタクト)
燃費:10.0km/リッター(JC08モード)
価格:1150万円/テスト車=1158万8000円
オプション装備:カバンサイトブルー(メタリックペイント)(8万8000円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:2281km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(7)/山岳路(0)
テスト距離:759.6km
使用燃料:88.4リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:8.6km/リッター(満タン法)/9.0km/リッター(車載燃費計計測値)

山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。