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ポルシェ・ケイマンGT4クラブスポーツ(MR/6AT)

禁は破られた 2016.10.27 試乗記 河村 康彦 「ポルシェ・ケイマンGT4クラブスポーツ」は、先代ケイマン(タイプ981)の「GT4」をベースに仕立てられたサーキット専用車。ポルシェのレーシングモデルといえば「911」がベースと相場が決まっていたから、いわば「禁」が破られた格好だが……。ドイツのサーキットでその実力を探った。

主役の交代?

富士スピードウェイでの熱い戦いが終わったばかりのWEC(世界耐久選手権)に出場したような、ごく少数が手づくりされるいわゆるプロトタイプ・レーシングカー。その類いを除けば、“戦うためのポルシェ”というのはその大半が911をベースとしたものと、これまで相場は決まっていたものだ。

歴史をさかのぼれば、はるか以前の「968ターボRS」といった、まれな例外も見つからないわけではない。けれども昨今の「GT3」系を筆頭に、ポルシェ自身が手を下してサーキットへと送り込んできたレーシングバージョンは、その大多数が「911の一員」であったのは紛れもない事実。

そもそも、いかに「カイエン」や「マカン」の販売比率が高まろうが、ポルシェにとってのイメージリーダーは昔も今も911。1996年に同じスポーツカーレンジへと「ボクスター」が投入され、後にそのクーペバージョンであるケイマンが誕生した後も、エンジン出力や動力性能スペック上からも「911こそがナンバーワン」というヒエラルキーが巧みにキープされ、そしてアピールされてきた。

確かに、ミドシップで2シーターなら、こっちの方が走りのポテンシャルは上でしょ!? と、そう思ったかどうかは定かではないが、あえてケイマンをベースとしたマシンを持ち込んで、草レース(?)へとエントリーしたチームも皆無ではなかった。

が、当のポルシェ自身はあくまで911を、戦う舞台へと送り込んできた。

けれども、そうした「禁」がついに破られる時がやってきた。それが、2015年末のロサンゼルスモーターショーで発表された、ケイマンGT4クラブスポーツという純レーシングバージョンだ。

「ケイマンGT4クラブスポーツ」は、先代ケイマン(タイプ981)の「GT4」モデルがベースのサーキット専用車。2015年11月のLAショーで発表された。
「ケイマンGT4クラブスポーツ」は、先代ケイマン(タイプ981)の「GT4」モデルがベースのサーキット専用車。2015年11月のLAショーで発表された。 拡大
国際試乗会はドイツ・ドレスデン郊外のサーキット「ユーロスピードウェイ・ラウジッツ」(旧称ラウジッツリンク)で行われた。
国際試乗会はドイツ・ドレスデン郊外のサーキット「ユーロスピードウェイ・ラウジッツ」(旧称ラウジッツリンク)で行われた。 拡大
3.8リッターのフラット6ユニットを搭載。アウトプットは385psおよび42.8kgmと、「ケイマンGT4」のノーマル仕様と変わりない。
3.8リッターのフラット6ユニットを搭載。アウトプットは385psおよび42.8kgmと、「ケイマンGT4」のノーマル仕様と変わりない。 拡大
「ケイマンGT4クラブスポーツ」には、さらにマンタイレーシングが手を加えた「クラブスポーツMR」という仕様が存在する。
「ケイマンGT4クラブスポーツ」には、さらにマンタイレーシングが手を加えた「クラブスポーツMR」という仕様が存在する。 拡大
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戦うためのGT4

ターボ化される以前の「911カレラS」用3.8リッターユニットを譲り受け、シャシー関係にはGT3系用のパーツを多用した、モータースポーツ部門が手がけた歴代ケイマン史上、最強で最速のモデル。そんな量販型のGT4グレードをベースに、さらにレース用のベースモデルとして開発されたのがこのサーキット専用モデル。

トランスミッションは量販型の6段MTから、「戦うための専用設計とチューニングが施された」と称される6段DCTへと換装。さらに、ロールケージやバケットシートなどのレース用安全アイテムを装備の上で、スリックタイヤの使用を前提に「シャシーとブレーキには『911 GT3カップ』用と同等パーツが採用され、機械式LSDにも最適化が施された」と紹介されている。

そんなベーシックなGT4クラブスポーツを元にして、FIA GT4カテゴリーへの対応を図るべく、今ではポルシェが過半の株式を保有するマンタイレーシングがさらに手を加えたのが「クラブスポーツMR」。

パワーパックはこちらも同様で、385ps/7400rpmというエンジンの出力スペックも、量販型GT4から変更ナシ。スリックタイヤに対応したスタビリティーコントロールのプログラムやクーリングダクトのレイアウトなども含めてレーシングモデル専用にチューニングされたブレーキなどは、2台のクラブスポーツに共通のアイテムとされている。

骨格がむき出しのコックピット。ポルシェ・モータースポーツのステアリングの背後には、アルカンターラで覆われたシフトパドルが備わる。
骨格がむき出しのコックピット。ポルシェ・モータースポーツのステアリングの背後には、アルカンターラで覆われたシフトパドルが備わる。 拡大
トランスミッションは6段AT(PDK)。「ケイマンGT4」のノーマル仕様は6段MTとなる。
トランスミッションは6段AT(PDK)。「ケイマンGT4」のノーマル仕様は6段MTとなる。 拡大
助手席が取り払われたシングルシーターで、室内にはロールケージが張りめぐらされている。
助手席が取り払われたシングルシーターで、室内にはロールケージが張りめぐらされている。 拡大

サーキットで映えるノーマルGT4

旧東独領のドレスデン郊外のサーキットで開催されたそんな“3種のケイマンGT4”の試乗会は、まずは量販型での完熟走行からスタート。過去にも紹介をしたように、ドライバーに対して最上級のドライビングプレジャーを提供するために開発されたというだけあって、こうしたシーンでの印象はまさにゴキゲンそのものだ。

GT4以前の最強ケイマンであった「GTS」グレードの265/35ZR20というサイズに対して、はるかに太い295/30ZR20タイヤをリアに履き、それゆえコーナリング時の入力も大幅に増しているはずなのに、“脚の位置決め感”がむしろベースモデルをしのぐのもこのグレードならではの大きな特徴。

やはり「GT3から流用」と説明される大容量ブレーキが標準設定されるものの、今回用意された車両はオプションのセラミックコンポジット・ブレーキ“PCCB”付き。強力なストッピングパワーに加え、180km/h超からのフルブレーキングが数カ所含まれる1周3.5kmほどのコースで周回を重ねても利きはもちろんペダルタッチも一切変わらないタフネスぶりにも、あらためて感心させられることになった。

ラウジッツ・サーキットを行く「ケイマンGT4」のノーマル仕様。
ラウジッツ・サーキットを行く「ケイマンGT4」のノーマル仕様。 拡大
試乗車はセラミックコンポジット・ブレーキ装着車。ハードなサーキット走行でも音を上げないタフネスぶりに、あらためて感心させられた。
試乗車はセラミックコンポジット・ブレーキ装着車。ハードなサーキット走行でも音を上げないタフネスぶりに、あらためて感心させられた。 拡大
「ケイマンGT4」ノーマル仕様の室内。トランスミッションは6段MT。
「ケイマンGT4」ノーマル仕様の室内。トランスミッションは6段MT。 拡大

勝つ理由がわかる仕上がり

そんな量販型から、カーボンパネル+ポリカーボネートウィンドウゆえに、まるで蝶の羽根をイメージさせるほど軽いドアを開き、まず乗り込んだのはクラブスポーツMR。エンジンはノーマルとはいえ、防音・遮音材の一切を剝がされたそんなモデルでフル加速をすると、キャビン内は別レベルの轟(ごう)音で包まれる。

が、いざ走り始めてみれば「量販型よりも、むしろこちらの方が楽で走りやすいな」という印象は、実は予想通りの事柄でもあった。そもそも、こうしたロケーションに合わせて開発されたモデルであるのに加え、パドル操作すらほとんど不要な“レーシングプログラム”が施されたDCTが採用されたことで、ステアリング操作に専念できるのがその大きな理由というわけだ。

スリックタイヤの装着によって当然コーナリング限界は高く、大きな踏力こそ要求されるものの、減速Gもすさまじく高い。

にも関わらず、前述のようにむしろ乗りやすいと感じさせられるのは、このコースに対して「脚が決まっている」感が強かったためだ。ピッチングやローリングはピタリと抑えている一方、少々縁石に乗り上げたくらいでは、それに気づかないくらいにサスペンションがスムーズに動いてくれる。

そこには、「レースに勝つためにはまず、ドライバーのストレスを極力取り除くことが必須」という開発の思想が垣間見えた気がした。マンタイレーシングのマシンが、ニュルブルクリンク24時間レースを筆頭とする多くの耐久レースでたびたび上位に食い込む強さも、「さもありなん」と教えられることになったのだ。

ラウジッツ・サーキットのレフトハンダーを行く「ケイマンGT4クラブスポーツMR」。
ラウジッツ・サーキットのレフトハンダーを行く「ケイマンGT4クラブスポーツMR」。 拡大
ドアトリムはカーボン製。ドアノブはレーシングポルシェ伝統のストラップ式。
ドアトリムはカーボン製。ドアノブはレーシングポルシェ伝統のストラップ式。 拡大
ホイールはノーマルの「ケイマンGT4」と同じ5穴タイプ。ミシュランのスリックタイヤが装着されている。
ホイールはノーマルの「ケイマンGT4」と同じ5穴タイプ。ミシュランのスリックタイヤが装着されている。 拡大
サーキットでは、ノーマル仕様よりむしろ「ケイマンGT4クラブスポーツMR」の方が楽で走りやすいと感じた。マンタイレーシングのマシンが強い理由がわかる仕上がりだ。
サーキットでは、ノーマル仕様よりむしろ「ケイマンGT4クラブスポーツMR」の方が楽で走りやすいと感じた。マンタイレーシングのマシンが強い理由がわかる仕上がりだ。 拡大

911の存在を危うくする?

一方、一見しての印象はほぼ同様。パワーパックも装着スリックタイヤも同じという、ポルシェ・モータースポーツ部門“謹製”のクラブスポーツでスタートをすると、その乗り味がクラブスポーツMRとは大きく異なっていることは、すでにピットレーンから本コースへと乗り入れようという時点から明らかだった。

あるいは駆動系ギアレシオが異なっていたのか、加速の印象はなぜかより軽いはずのクラブスポーツMRよりも、多少シャープに感じられたもの。もちろん、大きなウイングの角度などの影響などもありそうだが、量販型では230km/hほどに達するホームストレートエンドでの最高速も、今回の3車中、最も伸びる感触だった。

一方でこのモデルの場合、先ほどまではほとんどフラットと感じられたコース路面が、「実はこれほどバンピーだったのか!」と、驚かされることに。一周の各所で揺すられ感が大きく、フルパワーを与えるとタコメーターの針が上下をするほどで、クラブスポーツMRとはトラクションの掛かり方からして全く異なることになった。

そう、これはクルマそのもののハードウエアの違いというよりは、「脚がこのコースに合っていない」という感触。セッティングが煮詰まればフットワークの印象は、「決まってるね!」と感じさせてくれたクラブスポーツMRにきっと近づいていくはずだ。

それにしても、今回そんな“3種のGT4”に乗ってあらためて考えさせられることになったのは、最新のボクスター/ケイマンの心臓がターボ付き4気筒ユニットへと換装された理由。

表向きのコメントとしては、それが「CO2排出量のさらなる削減」とあるのはご存じの通り。けれども、それに勝るとも劣らない重要な理由として、「このままボクスター/ケイマンが6気筒エンジンを搭載して成長を遂げていくと、いつしか911の立ち位置を危うくしてしまう」というマーケティング上の危機感から、4気筒と6気筒という記号による差別化を明確にしたのではないか!?

“最後の6気筒ケイマン”ともうわさされるGT4の、何ともバランスに優れたレーシングバージョンに乗って、あらためてそんなことを感じさせられたのである。

(文=河村康彦/写真=ポルシェ)

続いてポルシェのモータースポーツ部門が手がけた「ケイマンGT4クラブスポーツ」に試乗。トラクションが思うように掛からず、さらなる煮詰めが必要な印象だった。
続いてポルシェのモータースポーツ部門が手がけた「ケイマンGT4クラブスポーツ」に試乗。トラクションが思うように掛からず、さらなる煮詰めが必要な印象だった。 拡大
ブレーキディスクは前後とも直径380mm。前には6ピストン、後ろには4ピストンのアルミ・モノブロックキャリパーが装着される。
ブレーキディスクは前後とも直径380mm。前には6ピストン、後ろには4ピストンのアルミ・モノブロックキャリパーが装着される。 拡大
ボンネット下のラゲッジスペースもご覧のとおり、“ストリップダウン”されている。
ボンネット下のラゲッジスペースもご覧のとおり、“ストリップダウン”されている。 拡大
リアゲートを開けると、いかついロールケージが顔をのぞかせる。
リアゲートを開けると、いかついロールケージが顔をのぞかせる。 拡大
「ボクスター/ケイマン」を4気筒化した本当の理由は? バランスに優れた「ケイマンGT4クラブスポーツ」に乗ると、いろいろなことを考えてしまう。
「ボクスター/ケイマン」を4気筒化した本当の理由は? バランスに優れた「ケイマンGT4クラブスポーツ」に乗ると、いろいろなことを考えてしまう。 拡大

テスト車のデータ

ポルシェ・ケイマンGT4クラブスポーツ

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4438×1817×1266mm
ホイールベース:2484mm
車重:1300kg
駆動方式:MR
エンジン:3.8リッター水平対向6 DOHC 24バルブ
トランスミッション:6段AT
最高出力:385ps(283kW)/7400rpm
最大トルク:42.8kgm(420Nm)/4750-6000rpm
タイヤ:(前)25/64-18/(後)27/68-18
燃費:--km/リッター
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--

テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

ポルシェ・ケイマンGT4クラブスポーツ
ポルシェ・ケイマンGT4クラブスポーツ 拡大
 
ポルシェ・ケイマンGT4クラブスポーツ(MR/6AT)【海外試乗記】の画像 拡大
河村 康彦

河村 康彦

フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。

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