ランボルギーニ・ウラカン ペルフォルマンテ(4WD/7AT)
そのウラカン凶暴につき 2017.06.14 試乗記 アクティブ・エアロダイナミクス・システムの導入、フォージドコンポジットによる軽量化、そして5.2リッターV10ユニットの強化――。「ランボルギーニ・ウラカン」に加わった新たな高性能バージョン「ペルフォルマンテ」の内容は、単なる“追加モデル”の域を超えた意欲的なものだ。その実力をイタリアの高速サーキット、イモラで解き放った。ウラカンの“パフォーマンス”モデル
ニュルブルクリンク・ノルドシュライフェ。ラップタイム、6分52秒01。
何をいまさら、と思ったクルマ好きが、特に日本には多かったに違いない。日本人のニュル・ラップタイム好きは、そりゃもう格別だから。そんな時代でもないんじゃないの? なんて声まで聞こえてきそうだ。
しかし、ランボルギーニにとってそれは今、むしろ大いに新鮮で戦略的な意味をもっているといっていい。
「むやみなパワー競争には関わらない。総合的なパフォーマンスを大事にしていきたい」
いみじくもステファノ・ドメニカリCEOが共同インタビューでそう語った意思の結実がニュル北コースのラップタイム、だったといえそうである。
ウラカン ペルフォルマンテ。スーパーカーブランドにとっては、もはやお約束の高性能バージョンの追加デビュー。先代「ガヤルド」における「スーパーレジェーラ」に相当する。もっとも、ランボルギーニファンにとっては既におなじみの名前で、実はガヤルド スーパーレジェーラのスパイダー仕様が、ペルフォルマンテ(パフォーマンス)と名乗っていた。日本にも何台か輸入されている。
コンセプトそのものには目新しさなどない。軽量化を施し、エンジンスペックを上げ、パワートレインを改良し、シャシー&サスペンションセットをより硬派に仕立てる。ガヤルド スーパーレジェーラや「アヴェンタドールSV」と同様に、サーキットでも速いウラカンを目指す。
ただし、新たに採用された、いくつかのテクノロジーには、大いに注目しておきたい。たとえば、革新的なアクティブ・エアロダイナミクス・システムのALA(エアロディナミカ・ランボルギーニ・アッティーヴァ)や、先進的なCFRP成型方法によるフォージドコンポジットなどがそれだ。
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可変空力システムを採用
ウラカン ペルフォルマンテで最も注目すべきが、ALAである(ランボ関係者は「エー・エル・エー」もしくは「ア・エッレ・ア」ではなく、「アラ」「アーラ」とそのまま読む人が多かった。イタリア語でその名もずばり“翼”という意味の単語でもあるからだ)。フロントバンパースポイラーと巨大なリアウイングが、ペルフォルマンテのスタイリング上の大きな特徴だが、“そのなか”にヒミツのALA技術が盛り込まれている。
構造的には、こうだ。まずはフロントスポイラー。4ピース構造となっていて、上下ケースの間に導風板と、中央にアクチュエーター(電動モーター)をもつフラップを挟み込んでいる。つまり、フラップを開閉することで空気の流れを変えることが可能だ。
次に、リアウイング。こちらはもう少し複雑で、左右のウイングステーの根元に、おのおのアクチュエーターをもつフラップを配置し、それらを電気的に開ければ、エンジンルーム内に設けられたエアダクトからの空気を“ウイング内”に流すことができる。流れ込んだエアは、ウイング裏面のダクトから外へと排出される。
このシステムを総称してALAと呼んでいるわけだが、制御を担当するのは当然、マシンの頭脳というべきLPI(ランボルギーニ・ピアッタフォルマ・イネルツィアーレ)で、フラップ起動に要する時間は0.5秒以内、閉じる作業なら0.2秒で可能。
作用の原理は、比較的簡単だ。勘のいい読者なら、だいたい想像がつくことだろう。ALAオフ、つまりフラップが閉じている場合は、フロント/リアともにダウンフォースが最大、つまり固定式エアロパーツとして機能した場合と同じだけの力を得ることができ、高速コーナリングや制動時にいっそう安定した走行を可能にする。
そしてフラップが開いたALAオンの状態で、ドラッグは最小限となり、加速性能が増して、最高速到達時間も短くなる、という仕掛けである。
もうひとつ。フロントのフラップは左右一体で1つのモーターが起動させているから、左右同じ動きにしかならない。けれどもリアは、別々に動いている、すなわち別々に制御することができる、というわけで、ANIMA(アニマ、ドライブモード制御)のコルサモードにおいては、“エアロベクタリング”を行う。要するに、コーナリング最中のインナーホイール側により多くのダウンフォースを掛けることが可能になっている、というわけだ。
ちなみに、LPIによるALA制御のデータセンシングは、アクセル、ブレーキ、ステアリングホイールにおいて行われている。
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“エアロベクタリング”の効果は明確
前後のエアロパーツとエンジンフードは、ランボルギーニ最新のCFRP成型方法である“フォージドコンポジット”を採用する。これは炭素繊維を使ったシート・モールディング・コンパウンド(SMC)成形の一種で、成形時間と成形自由度の大幅な短縮を実現したもの。既に室内トリム用などとして活用されているマーブル柄のCFRP、といえば分かるだろうか。クラスA品質のサーフェスを達成したという点がランボルギーニ独自の技術である。
ウラカン ペルフォルマンテでは、ノーマルの4WDモデルに比べて40kgのダイエットに成功しているが、フォージドコンポジットの積極的な活用によるところも大きいとみていいだろう。
そんなこんなもひっくるめての、ドメニカリCEOがアピールする“総合性能の素晴らしさ”、とはいかばかりのものだったのか。テストの舞台に選ばれたのは、屈指の高速サーキット、イモラ。その名も“エンツォ・エ・ディーノ・フェラーリ”サーキットだった。
通常ならアニマの各モードをおとなしい順に試していきたいところだったが、世界にその名の知れた高速サーキットで、これが筆者にとって初めての本格走行であり、先導車アリとはいえいきなりけっこう速いペースで走りだしたので、サーキットで最も“安全”なはずのコルサモードを試してみることに。
「アヴェンタドール」、ノーマルの「ウラカン」、そしてアヴェンタドールSVと、これまでサーキットをコルサモードで走ることは、あまり性に合っていなかった。確かに速くは走れるのだけれども、オン・ザ・レール感覚が勝ってしまい、決して楽しくなかったからだ。基本、スポーツモードで振り回し気味に乗るほうが好みだったのだが……。
ペルフォルマンテのコルサモードは文句なしに楽しいものだった。マシンを信じ切って走れば、とんでもなく速いコーナリングを経験できる。高速コーナーでは、はっきりとエアロベクタリングの恩恵を体感できた。常に腰の後ろの内側を抑えつけられている感覚があったのだ。その感覚をよりどころにすれば、よりいっそうの自信をもってアクセルペダルを踏んでいける。それがさらに速い脱出速度につながるという寸法だ。
タイトベンドでもノーズは恐ろしいくらいに早く内を向く。ブレーキング時に強力な前後ダウンフォースを得られるうえ、シャープなステアリングギア比に固定された可変ギア比電動パワーステアリング、LDS(ランボルギーニ・ダイナミック・ステアリング)のおかげである。
ESCの作動も、「アヴェンタドールS」よりいっそう洗練された。それゆえ、絶妙で精緻なコントロールによってドライバーに嫌悪感を抱かせない程度にフロントへのいっそうのトルク配分を可能にしたため、結果的に、脱出速度も劇的に向上している。
とにかく、高速コーナーにおける全開コーナリングは、ロードカーとしては異次元の経験で、それはまるで、見えざる神の手が車体を“より良き姿勢へ”と抑えていてくれるようでもあった。
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新時代の鏑矢
コルサモードで楽しみ尽くした後に、従来のランボルギーニモデルで好きだったスポーツモードを試してみると、これがなんとも危なっかしくてスリル満点、まるでリア駆動のおてんばマシンを操っているかのようだった。切れば切るほどにダイレクトさの増すステアリングと、ベース状態でコルサよりもリアに駆動が配分されているせいで、ちょっと右足を乱暴に扱っただけでリアがブレイクしそうになる。もちろん、エアロベクタリングも効かない。このモードはかなりの上級者向きである。
実をいうと、ストラーダモードでも安心してかっ飛ばせる。ALAによるダウンフォースのコントロールが効いているのだろう。素直なハンドリングは、安心のフルスロットルにつながる。もっとも、変速スピードは明らかに遅く、かったるいが。
小1時間ほどだったが、公道でもペルフォルマンテを試すことができた。ALAは70km/h程度の速度域から効くというが、乗りやすさそのものはウラカンの美点だったから、公道上での効能を体感するには至らなかった。磁性流体ダンパーによる乗り心地は、ストラーダモードでも、はっきりと硬め。アヴェンタドールSVよりも、ややマシという程度。アルデンテなアシまわりが好きな人にとっては、苦にならないレベルであったと言っておこう。
ALAという新兵器で、総合パフォーマンスを引き上げたランボルギーニ。おそらく、ウラカン ペルフォルマンテで新採用されたこのシステムは、早晩登場するアヴェンタドールの最終進化形(「GT」か、それとも「J」と呼ぶのか?)にも使われることだろう。それもまた、今から楽しみである。
(文=西川 淳/写真=ランボルギーニ/編集=竹下元太郎)
テスト車のデータ
ランボルギーニ・ウラカン ペルフォルマンテ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4506×1924×1165mm
ホイールベース:2620mm
車重:1382kg(乾燥重量)
駆動方式:4WD
エンジン:5.2リッターV10 DOHC 40バルブ
トランスミッション:7段AT
最高出力:640ps(470kW)/8000rpm
最大トルク:600Nm(61.2kgm)/6500rpm
タイヤ:(前)245/30R20/(後)305/30R20(ピレリPゼロ コルサ)
燃費:13.7リッター/100km(約7.3km/リッター 欧州複合モード)
価格:3416万9904万円/テスト車=--円
オプション装備:--
※価格は日本市場でのもの。
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックおよびロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

西川 淳
永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。
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