第516回:祝! 誕生20周年
そしてルノー・カングーは風景になった
2017.08.25
マッキナ あらモーダ!
2017年は「記念の年」
SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)の普及による弊害のひとつに「誕生日の情報がオープンになってしまったこと」があるとボクは思う。他人の誕生日を検索できるのは当たり前。それを記憶しておいて「私の誕生日、覚えていてくれたのね!」と女子を驚かせる喜びは、永遠に過去のものとなってしまった。
誕生日といえば、自動車メーカーが自社製品の○○周年を宣伝のトピックとして用いる手法は、もはや恒常化している。
2017年の日本自動車界で最大のアニバーサリーといえば、「日産(旧プリンス)スカイライン」のデビュー60周年であった。
ヨーロッパでは「ポルシェ928」と「BMW 7シリーズ」がそれぞれ40周年を、「BMW Z1ロードスター」が30周年を迎え、各地のヒストリックカーイベントなどでファンが祝った。
しかし気がつけばもうひとつ、メーカーすら大きく採り上げない、“さりげない街角グルマ”のアニバーサリーがあった。
「ルノー・カングー」である。
新鮮なイメージの実用車
カングーは今年2017年でちょうど20歳だ。人間でいえば、はたちである。
クロード・ルメートル/ジャンルイ・ルベ共著『ルノー 自動車界における創造の1世紀』によると、初代カングー(コードネーム:X76)の開発に際しては、4つの条件が挙げられたという。
具体的には、1.“力感”と“遊び心”のあるデザインを採用する/2.片側の後部ドアはスライド式とする/3.エンジンは既存の中から最も経済性が高いものを流用する/4.既存車種のパーツや機能を徹底的に活用する というものであった。若い家族もしくは2台目として求めるユーザーがターゲットとされた。
デビューは、1997年6月1日のバルセロナモーターショーであった。同書によると、ルノーが「エンスージアズムとゆとり」という新鮮なイメージを設定したのとは裏腹に、マスコミが過去の存在である「ルノー4」の再来であるなどと騒ぎ立てるという想定外の展開もあった。
だがその後、ターゲットとされたユーザーたちを中心に、同車が大きな支持を得たのは、誰もが知るところである。
「Kangoo」という車名の意味について、メーカーによる公式な解説はない。しかし、フランスでは誕生の1年前に、「動物のカンガルーによるバスケットボールチーム」という設定のアニメ『カングー』が放映開始された。フォルムからどこかカンガルーを想起させる、そのルノー製多目的車の知名度向上にアニメが貢献したのはたしかだろう。
現行のカングーは、2007年に生産開始された2代目である。現在は、EV仕様である「カングーZ.E.(ゼロ・エミッション)」もあり、こちらは欧州各国ではエコ行政を推進する自治体の公用車として一定の人気がある。
子供に「飽きた」と言われても
カングーの生産は、フランス北部モブージュにある工場が担当している。2016年1月に2代目カングーの100万台目をラインオフした。アルゼンチンのコルドバ工場では、初代が継続生産されている。
参考までに言うと、2017年6月のヨーロッパにおけるカングー(乗用車版)の販売台数は2897台。前年同月が2461台である。10年選手としては、かなり堅実な推移といえる(データはJATOダイナミクス調べ)。
筆者の知人にもカングー愛好者がいる。イラストレーターのアレッサンドロ・ヴァレンティ氏だ。彼は1999年に初めて購入して以来、すでに4台のカングーを乗りつぶしたつわものである。画伯とボクは20年来の知り合いだが、今回あらためてカングーの魅力を聞いてみた。
「美点? まずは実用性だな。荷室容量の大きさが半端でないこと。自分でも驚いたよ」
恐るべきことに画伯は14年前、自力で郊外に自宅を建ててしまった。そのときも建材として用いた中古材&廃材運びにカングーが役立ったという。前の家からの引っ越しも、ピアノ以外はすべてカングーに載せて済ませた。
そしてこう締めくくった。「第2の美点は、それだけ酷使しても、不死身ともいえるほど働くエンジンだ」。加えて、こちらは彼が以前から口にしていたことだが「イラストから出てきたようなかわいいデザイン」も、お気に入りの理由という。
こんな調子なので、2台目を買ったあと娘から「カングー、もう飽きた」と言われても、画伯は乗り続けた。信念が感じられる。
姉妹車探しは運試し?
当然のことながら、商用車仕様・乗用車仕様含め、カングーが活躍する姿を最もよく楽しめるのはパリである。もはや風景といえる。
なにせ、空港に降り立った時点で、飛行機の窓の外では構内作業車のカングーが真っ先に迎えてくれる。
かつて、ルノー4の「フルゴネット」や「ルノー5」をベースとした「エクスプレス」がボクのパリ旅情をかきたてたものだ。だが、今やカングーがその役をしっかりと果たしている。
そうは言いながら、実はもうひとつ個人的な楽しみがある。カングーの姉妹車だ。初代をベースにした「日産キュビスター」、そして2代目をベースにした「メルセデス・ベンツ・シタン」を見つけることだ。
前者は2003年~2008年のたった5年だけカタログに載っていたモデルですでに生産終了後9年が経過している。2012年に発売されたシタンの2017年6月欧州販売台数は528台。カングーの5分の1以下だ。
そのレアさゆえ、街中で「そうした姉妹車に遭遇した日はツイている」などと、勝手な運試しを楽しんでいる筆者である。
(文=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>、ルノー、Alessandro Valenti/編集=関 顕也)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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