「ホンダ・モンキー」が50年の歴史に幕……。
二輪車を取り巻く厳しい現実とは!?
2017.09.06
デイリーコラム
原付一種の販売台数は35年間で10分の1以下に
今年誕生50周年を迎えたホンダの原付きバイク「モンキー」が生産終了を発表した。記念モデルまで登場したその年に終了なんて、ホンダも気が利かないなあと思う人がいるかもしれないけれど、これにはやむにやまれぬ事情がある。
日本の二輪車販売台数は下がる一方。日本自動車工業会の統計によれば、1980年には237万台をマークしていたのに、35年後の2015年は32万台にまで下落している。大きく足を引っ張っているのがモンキーも属する50㏄以下の原付一種で、198万台から19万台へと10分の1以下に減っている。
僕が運転免許を取得した1980年頃、原付一種はヘルメットをかぶらなくても良かった。今では信じられないかもしれないが、原付=原動機付自転車という呼び名をまさに連想させるようなルールだったのだ。
僕の弟は当時モンキーを複数台所有する愛好家だった。少々“イケナイ”改造を施した彼のモンキーは活発なサウンドとともに鉄砲玉のようなダッシュを味わわせてくれた。それを弟や僕はノーヘルで楽しんでいた。若気の至りである。
![]() |
二輪車を取り巻く厳しい状況
ところがその後、ヘルメットの装着が義務付けられ、多くの交差点で自転車と同じく2段階右折が適用された。でも最高速度は30km/hのまま。しかも電動アシスト自転車という新たなライバルが登場したことで、原付一種の売れ行きは急激に落ち込んでいった。
これに追い打ちをかけたのが駐車違反取り締まりの厳格化だ。それまで二輪車は、路肩や歩道に駐車していても反則キップを切られることはほとんどなかったのが、突然四輪車並みの厳しい取り締まりを受けることになった。でも当時二輪車の駐車場はほとんど存在しなかった。出掛ければ捕まる可能性が高い。これでは売れなくなるのは当たり前だ。
さらに四輪車と同様に、二輪車の排出ガス規制も厳しくなっている。ちなみに現在の規制は欧州とほぼ共通で、それだけ聞くと良いイメージを持つかもしれないけれど、その欧州での小排気量の主力は、日本では原付二種となる125㏄。わが国では四輪車の免許を取ると原付免許が自動的についてくるが、欧州ではこれが125㏄となる。
欧州にも昔は50㏄が数多く存在していたけれど、排出ガス規制が厳しくなって、2ストロークから4ストロークへ、キャブレターからインジェクションへという転換が行われ、力を失っていく中で125㏄が主流になっていったようだ。ところが日本は従来どおり50㏄が最下限のまま。ここに厳しい排出ガス規制を掛けようとすれば、満足に走らないのは自明だ。
![]() |
ヤマハの人気モデルも生産終了に
日本メーカーのバイクが多く走り回っている東南アジアも125㏄が基本であり、いまや50㏄は軽自動車と同じ、日本独自の規格になりつつある。でも前述したように販売台数は軽自動車に遠く及ばない。多大なコストを掛けてまで厳しい規制にパスさせようというのも難しい。
すでにホンダの「スーパーカブ」は110㏄を主力としている。このぐらい排気量に余裕があれば排出ガスはなんとかパスできるようだ。しかしモンキーの車体に110㏄エンジンは大きすぎるということもあり、やむなく販売終了という決断になったのかもしれない。
モンキーと同じ理由で生産終了となるバイクとして、来年40周年を迎える予定だった、ヤマハの400cc「SR400」がある。現在250㏄クラス以上は、やはり排出ガス規制もあって日欧問わず水冷化が進んでいる。空冷単気筒という昔ながらのエンジン形式で最新のレギュレーションにパスするのは無理らしい。僕はSRを2台乗り継いできたので、実はモンキーよりもこっちのほうが残念に思った。
四輪の世界で空冷や2ストロークが次々に消えていったのは1970年代以降。同じ波がついに二輪にも押し寄せてきたという事実は、時代の要請だからしかたないけれど、ノーヘルでモンキーに乗っていた自分が大昔の人扱いされているようで、ちょっと寂しい。
(文=森口将之/編集=藤沢 勝)
![]() |

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
-
航続距離は702km! 新型「日産リーフ」はBYDやテスラに追いついたと言えるのか? 2025.10.10 満を持して登場した新型「日産リーフ」。3代目となるこの電気自動車(BEV)は、BYDやテスラに追いつき、追い越す存在となったと言えるのか? 電費や航続距離といった性能や、投入されている技術を参考に、競争厳しいBEVマーケットでの新型リーフの競争力を考えた。
-
新型「ホンダ・プレリュード」の半額以下で楽しめる2ドアクーペ5選 2025.10.9 24年ぶりに登場した新型「ホンダ・プレリュード」に興味はあるが、さすがに600万円を超える新車価格とくれば、おいそれと手は出せない。そこで注目したいのがプレリュードの半額で楽しめる中古車。手ごろな2ドアクーペを5モデル紹介する。
-
ハンドメイドでコツコツと 「Gクラス」はかくしてつくられる 2025.10.8 「メルセデス・ベンツGクラス」の生産を手がけるマグナ・シュタイヤーの工場を見学。Gクラスといえば、いまだに生産工程の多くが手作業なことで知られるが、それはなぜだろうか。“孤高のオフローダー”には、なにか人の手でしかなしえない特殊な技術が使われているのだろうか。
-
いでよ新型「三菱パジェロ」! 期待高まる5代目の実像に迫る 2025.10.6 NHKなどの一部報道によれば、三菱自動車は2026年12月に新型「パジェロ」を出すという。うわさがうわさでなくなりつつある今、どんなクルマになると予想できるか? 三菱、そしてパジェロに詳しい工藤貴宏が熱く語る。
-
「eビターラ」の発表会で技術統括を直撃! スズキが考えるSDVの機能と未来 2025.10.3 スズキ初の量産電気自動車で、SDVの第1号でもある「eビターラ」がいよいよ登場。彼らは、アフォーダブルで「ちょうどいい」ことを是とする「SDVライト」で、どんな機能を実現しようとしているのか? 発表会の会場で、加藤勝弘技術統括に話を聞いた。
-
NEW
マツダ・ロードスターS(後編)
2025.10.12ミスター・スバル 辰己英治の目利き長年にわたりスバル車の走りを鍛えてきた辰己英治氏。彼が今回試乗するのが、最新型の「マツダ・ロードスター」だ。初代「NA型」に触れて感動し、最新モデルの試乗も楽しみにしていたという辰己氏の、ND型に対する評価はどのようなものとなったのか? -
MINIジョンクーパーワークス(FF/7AT)【試乗記】
2025.10.11試乗記新世代MINIにもトップパフォーマンスモデルの「ジョンクーパーワークス(JCW)」が続々と登場しているが、この3ドアモデルこそが王道中の王道。「THE JCW」である。箱根のワインディングロードに持ち込み、心地よい汗をかいてみた。 -
航続距離は702km! 新型「日産リーフ」はBYDやテスラに追いついたと言えるのか?
2025.10.10デイリーコラム満を持して登場した新型「日産リーフ」。3代目となるこの電気自動車(BEV)は、BYDやテスラに追いつき、追い越す存在となったと言えるのか? 電費や航続距離といった性能や、投入されている技術を参考に、競争厳しいBEVマーケットでの新型リーフの競争力を考えた。 -
ホンダ・アコードe:HEV Honda SENSING 360+(FF)【試乗記】
2025.10.10試乗記今や貴重な4ドアセダン「ホンダ・アコード」に、より高度な運転支援機能を備えた「Honda SENSING 360+」の搭載車が登場。注目のハンズオフ走行機能や車線変更支援機能の使用感はどのようなものか? 実際に公道で使って確かめた。 -
新型「ホンダ・プレリュード」の半額以下で楽しめる2ドアクーペ5選
2025.10.9デイリーコラム24年ぶりに登場した新型「ホンダ・プレリュード」に興味はあるが、さすがに600万円を超える新車価格とくれば、おいそれと手は出せない。そこで注目したいのがプレリュードの半額で楽しめる中古車。手ごろな2ドアクーペを5モデル紹介する。 -
BMW M2(前編)
2025.10.9谷口信輝の新車試乗縦置きの6気筒エンジンに、FRの駆動方式。運転好きならグッとくる高性能クーペ「BMW M2」にさらなる改良が加えられた。その走りを、レーシングドライバー谷口信輝はどう評価するのか?