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ホンダN-BOX G・EXターボHonda SENSING(FF/CVT)/N-BOXカスタムG・L Honda SENSING(FF/CVT)

すべてはママのため 2017.09.28 試乗記 鈴木 真人 ホンダのベストセラー軽乗用車「N-BOX」がフルモデルチェンジ。見た目はマイナーチェンジ? と感じさせるほどの小変更にとどまるが、新設計のプラットフォームやエンジンの採用など、中身はまるで別物といえるほどの進化を遂げている。その使い勝手をテストした。

キープコンセプトは見た目だけ

試乗に先立って行われた技術説明会で、「クルマから生活へ」というキーワードが示された。N-BOXは「NEW NEXT NIPPON NORIMONO」だった初代から、「N for Life」の2代目へ。“本当につくりたいのは、いいクルマじゃなく、いい生活”だとしていて、CMでもN-BOXに乗って豊かな生活を楽しむ人々の姿を描いている。キャンプのシーンにさり気なく写り込んでいるのは、ホンダのハンディータイプ蓄電器「LiB-AID E500」。N-BOXと同じ日に発売されたのは理由があり、車中泊なども視野に入れた新しいカーライフを提案しているのだという。

クルマに詳しくなければ、いや詳しくても、ひと目見て新型のどこが変わったのかに気づくのは簡単ではない。絵に描いたようなキープコンセプトである。2年連続で軽乗用車販売台数第1位に輝くヒット商品で、「N」シリーズ全体の累計販売台数172万台のうち109万台がN-BOXなのだ。イメージを一新するのはリスクが高すぎる。ただし代わり映えしないと受け取られる可能性もあるわけで、別パターンのCMでは「すべてが生まれ変わった」と強調し、約80kgの軽量化をアピールしている。

それはウソでも大げさでもなく、プラットフォームとパワーユニットを刷新するという気合の入ったフルモデルチェンジだ。初代が売れたことで、資金を大胆に投入する決断が可能になったのだろう。ターゲットは「20代~40代の女性子育て層」と明確に規定されていて、技術的な細かい変更点に興味を示すとは思えないユーザーだ。結果として広いスペースと高いユーティリティー性能が得られることが肝要である。もちろんグッとくるルックスと上質なインテリアは不可欠で、安全装備もおろそかにはできない。

N-BOXの属するスーパーハイトワゴンというジャンルは、軽自動車の中でほぼ一貫して成長を続けている。2016年では全体の40.1%に達し、40.7%のハイトワゴンに肉薄した。N-BOX開発陣の「次世代ファミリーカーのスタンダードを狙う」という決意表明は本気なのだ。

今回は「N-BOX」と「N-BOXカスタム」にそれぞれ試乗。「G・EXターボHonda SENSING」は、ターボエンジンを搭載した、ノーマルモデルのトップグレードだ。
今回は「N-BOX」と「N-BOXカスタム」にそれぞれ試乗。「G・EXターボHonda SENSING」は、ターボエンジンを搭載した、ノーマルモデルのトップグレードだ。拡大
もう一台の試乗車は「N-BOXカスタムG・L Honda SENSING」。自然吸気エンジンを搭載した、カスタムの最もベーシックなグレードとなる。
もう一台の試乗車は「N-BOXカスタムG・L Honda SENSING」。自然吸気エンジンを搭載した、カスタムの最もベーシックなグレードとなる。拡大
「ハッピー&モダン」をキーワードにデザインされた「N-BOX」のインテリア。センターモニター横に設置されていたメーターパネルが、ドライバーの正面に移されるなどして、従来型とは印象が大きく変わった。
「ハッピー&モダン」をキーワードにデザインされた「N-BOX」のインテリア。センターモニター横に設置されていたメーターパネルが、ドライバーの正面に移されるなどして、従来型とは印象が大きく変わった。拡大
ホンダ の中古車

パパとママを仲良くさせるシート

新たに備えられた機能で、最も注目されるのが「助手席スーパースライドシート」だろう。前後に57cmスライドし、多彩なアレンジが可能になった。最大限後ろに動かせば、後席に設置されたチャイルドシートに座る子供を助手席から世話することができる。従来はママが後席に座らなければならなかったが、それでは運転するパパが一人ぼっちになってしまって寂しい。このシートがあれば、子供がいてもパパとママは恋人気分でいられるのだ。

目いっぱい前にスライドさせれば、後席左側からそのまま運転席に移れる。レバーはシートの前後に付いているから、どちらからでも操作できるのだ。スライド量を増やしただけではないか、などと思ってはいけない。グローブボックスの下にシートを押し込むために、エアコンの構造から見直すという大工事である。ブロアモーターをセンターに押し込むことで助手席の足元スペースを確保し、室内長を60mm伸ばした。樹脂製センタータンクを70mm薄くして底床化も実現している。肉厚も5.2mmから4.8mmに削るという涙ぐましい努力の成果なのだ。

スーパースライドシートが車内での乗員の自由度を飛躍的に高めることは確かだが、デメリットもある。ベンチシートに比べると、約20kg重いのだ。シートベルトが内蔵型になっているだけでなく、ヘッドレストも運転席とは別のタイプが使われていて互換性がない。強度確保のためには仕方がないところだが、せっかく80kg軽量化したのにその4分の1が戻ってしまうのはいかにも残念だ。

自然吸気(NA)とターボの2タイプが用意されるのは従来と同じだが、エンジンも刷新されている。ボア×ストロークが従来の64.0×68.2mmから60.0×77.6mmへと、大幅にロングストローク化された。NAには軽自動車初となる可変バルブタイミング・リフト機構「VTEC」が採用されている。加速性能と燃費性能の両立を狙ったとうたうが、JC08モード燃費は27.0km/リッターと控えめで、スペック競争に参戦する意思はないようだ。

「N-BOX G・EXターボHonda SENSING」のフロントシート。前後に57cmスライドする「助手席スーパースライドシート」は新型の大きな特徴だ。操作レバーは座面の下と背もたれの裏に備わっている。
「N-BOX G・EXターボHonda SENSING」のフロントシート。前後に57cmスライドする「助手席スーパースライドシート」は新型の大きな特徴だ。操作レバーは座面の下と背もたれの裏に備わっている。拡大
リアシートは前後に19cmスライドできるほか、座面を跳ね上げたり、背もたれを前方に倒したりもできる。センターのアームレストはターボモデルの専用装備。
リアシートは前後に19cmスライドできるほか、座面を跳ね上げたり、背もたれを前方に倒したりもできる。センターのアームレストはターボモデルの専用装備。拡大
フルモデルチェンジに際しては、エンジンも新開発された。写真は「N-BOX G・EXターボHonda SENSING」に搭載される0.66リッター直3ターボ。軽乗用車としては初となる電動ウェイストゲートを採用している。
フルモデルチェンジに際しては、エンジンも新開発された。写真は「N-BOX G・EXターボHonda SENSING」に搭載される0.66リッター直3ターボ。軽乗用車としては初となる電動ウェイストゲートを採用している。拡大
「N-BOXカスタムG・L Honda SENSING」に搭載される0.66リッター自然吸気エンジン。新たに可変バルブタイミングリフト機構「VTEC」を吸気側に採用している。
「N-BOXカスタムG・L Honda SENSING」に搭載される0.66リッター自然吸気エンジン。新たに可変バルブタイミングリフト機構「VTEC」を吸気側に採用している。拡大

高級車の装備が軽でも手に入る

エクステリアデザインがノーマルとカスタムの2種類から選べるのは、このタイプでは常識だろう。一足先にモデルチェンジした「スズキ・ワゴンR」は顔を3種類に増やしたが、N-BOXは2種類のままだ。並べてみると、同じ名前のクルマとは思えないほど印象が異なる造形だ。丸目で温和な表情のノーマルと比べ、カスタムは主張が強い。初期受注ではカスタムが57%を占めていて、いかつい顔が好まれているようだ。

ノーマルの「ハッピー&モダン」に対して、カスタムは「セレブリティースタイル」。イメージしているのはベッカム夫妻なのだという。シーケンシャルターンシグナルランプの採用は、ベッカムもうれしいだろう。いわゆる、“流れるウインカー”だ。以前は法規で禁止されていたため、どうしても欲しければ違法改造するしかなかった。最近になって規制が緩められたが、この機能を標準搭載しているクルマはアウディやレクサスなどの高級車に限られていたのだ。新技術が軽自動車まで降りてくるインターバルは、どんどん短くなってきている。

デザインとエンジンの関係は固定されてはおらず、それぞれ別個に選ぶことができる。シートタイプもベンチシートとスーパースライドシートから選べるので、全部で8種類の組み合わせだ。FFと4WDも加えれば、さらに2倍になる。試乗車はノーマルがターボ、カスタムがNAという組み合わせになっていた。まずは深い紫色にペイントされたカスタムに乗った。

インテリアは黒基調。シートも黒で、センターに革ひもを編み込んだような素材を使ったラインが通っている。ダッシュボードのデザインは、エクステリアとは違ってまったく新しいものになった。先代のメーターパネルがセンターモニターの右横に位置していたのに対し、新型は薄型のメーターを上部に配する最近のトレンドに沿ったタイプ。Aピラーを82mmから54.7mmまで細くしたこともあり、前方視界は上下左右ともに広がったように感じる。

ノーマルモデル(左)とカスタムを並べて比較すると、同じ名前のクルマとは思えないほどにフロントマスクの造形が異なる。
ノーマルモデル(左)とカスタムを並べて比較すると、同じ名前のクルマとは思えないほどにフロントマスクの造形が異なる。拡大
「N-BOXカスタム」のインテリアは、「セレブリティースタイル」がテーマ。ブラックを基調に、ラメの入ったバーガンディーのアクセントが施される。
「N-BOXカスタム」のインテリアは、「セレブリティースタイル」がテーマ。ブラックを基調に、ラメの入ったバーガンディーのアクセントが施される。拡大
試乗した「カスタムG・L Honda SENSING」はフロントベンチシート仕様。シートのセンターに引かれたラインには、革ひもを編みこんだような模様が細かく刺しゅうされている。
試乗した「カスタムG・L Honda SENSING」はフロントベンチシート仕様。シートのセンターに引かれたラインには、革ひもを編みこんだような模様が細かく刺しゅうされている。拡大
「カスタムG・L Honda SENSING」のリアシート。前後スライド機構や跳ね上げ機構は全車に標準装備される。
「カスタムG・L Honda SENSING」のリアシート。前後スライド機構や跳ね上げ機構は全車に標準装備される。拡大

全車種にホンダセンシングを搭載

スタートボタンを押すとウエルカムジングルが流れ、メーターの針が左右に振れた。ちょっと前は高価なクルマでしか味わえなかった演出である。エンジン音が少々安っぽいのは仕方がない。わずか658ccの3気筒なのだ。それでも、街なかを流れに乗って走る分には車内は静かなもの。遮音技術も格段に進歩している。メインターゲットの子育てママが子供の送り迎えや買い物に使うには何の不足もない。ただし、少し負荷がかかる状況では苦しくなる。試乗コースの横浜で山手から磯子に向かう急坂を登る時は、アクセルペダルを底まで踏みつけなければならなかった。そうなると、遮音材もあまり役に立たない。

薄いピンクのノーマルに乗り換えると、ほんわかした見た目とは逆にずっと元気な走りを見せた。高速道路でも十分な加速を見せ、ストレスを感じない。全開にする必要がないから静粛性にも優れている。乗り方によっては、NAより燃料消費を抑えられるだろう。ただ、運転して楽しいかと聞かれても困る。何しろ背の高いクルマで、しかも先代よりも10mm高くなっているから、コーナーではどうしてもグラつくような感覚がある。もう少し背の低い現行型「N-ONE」は十分に走りを楽しめるクルマだが、スーパーハイトワゴンなのだから同じレベルの走りを求めることはできない。あえて車高を上げてスペースを広げているのだから、運動性能に高い期待を持つのは欲張り過ぎである。

ママが子供を乗せるクルマにとって、最も大事なのは安全性能だ。「ホンダセンシング」が全車種に標準搭載されたのは喜ばしい。10種の先進機能がパッケージされており、そのうちオートハイビームと後方誤発進抑制機能はホンダ初の装備である。試乗では、アダプティブクルーズコントロール(ACC)と路外逸脱抑制機能を試してみた。ACCは30km/h以上のスピードでしか作動しないなど、機能は限定的だ。それでも、高速道路上で前車に追従しながら自動的にコーナーをトレースしていき、ドライバーの操作を軽減するだけの働きはしてくれた。自動運転だと言い張ったりはしていないのだから、このくらい機能すれば文句はない。

N-BOXはすでに月販予定台数の2倍となる3万台を受注していて、順調な滑りだしのようだ。しかし、一部に価格が高すぎるのではないかという声もある。正確な比較はできないが、先代より10万円以上値上がりしているというのだ。ホンダセンシングを標準搭載したことの結果だろう。一部のグレードではホンダセンシング非搭載のモデルの用意もあるが、選ぶ人は全体の7%にとどまるそうだ。先進安全装備はすでに必須アイテムだと認識されている。特に子育てママにとっては価値が高い。「クルマから生活へ」と宣言したのだから、全車種に標準搭載したのは当然の判断なのだ。

(文=鈴木真人/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)

緊急自動ブレーキやアダプティブクルーズコントロール(ACC)などからなる「ホンダセンシング」は全車に標準装備された。写真はステアリングホイールに備わるACCの操作スイッチ。
緊急自動ブレーキやアダプティブクルーズコントロール(ACC)などからなる「ホンダセンシング」は全車に標準装備された。写真はステアリングホイールに備わるACCの操作スイッチ。拡大
高速道路でアダプティブクルーズコントロールと路外逸脱抑制機能を試す。
高速道路でアダプティブクルーズコントロールと路外逸脱抑制機能を試す。拡大
テールゲート開口部の地上高は、従来型よりも75mm低められた。(写真をクリックすると荷室のアレンジを見られます)
テールゲート開口部の地上高は、従来型よりも75mm低められた。(写真をクリックすると荷室のアレンジを見られます)拡大
見た目はキープコンセプトながら、中身は大幅に刷新された2代目「N-BOX」。子育てママの強い味方だ。
見た目はキープコンセプトながら、中身は大幅に刷新された2代目「N-BOX」。子育てママの強い味方だ。拡大
ホンダN-BOX G・EXターボHonda SENSING
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テスト車のデータ

ホンダN-BOX G・EXターボHonda SENSING

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1790mm
ホイールベース:2520mm
車重:940kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:CVT
最高出力:64ps(47kW)/6000rpm
最大トルク:104Nm(10.6kgm)/2600rpm
タイヤ:(前)155/65R14 75S/(後)155/65R14 75S(ヨコハマ・ブルーアース)
燃費:25.6km/リッター(JC08モード)
価格:174万9600円/テスト車=203万6880円
オプション装備:ボディーカラー<プレミアムピンク・パール&ホワイト>(8万1000円) ※以下、販売店オプション 8インチプレミアムインターナビVXU-185NBiナビスペ用(19万9800円)/ナビ取り付けアタッチメント(6480円)

テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:1496km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター

ホンダN-BOXカスタムG・L Honda SENSING
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ホンダN-BOXカスタムG・L Honda SENSING

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1790mm
ホイールベース:2520mm
車重:900kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:58ps(43kW)/7300rpm
最大トルク:65Nm(6.6kgm)/4800rpm
タイヤ:(前)155/65R14 75S/(後)155/65R14 75S(ヨコハマ・ブルーアース)
燃費:27.0km/リッター(JC08モード)
価格:169万8840円/テスト車=193万7520円
オプション装備:ボディーカラー<プレミアムベルベットパープル・パール>(3万2400円) ※以下、販売店オプション 8インチプレミアムインターナビVXU-185NBiナビスペ用(19万9800円)/ナビ取り付けアタッチメント(6480円)

テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:1413km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター

鈴木 真人

鈴木 真人

名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。

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