スバルWRX S4 2.0GT-S EyeSight(4WD/CVT)
驚きの成熟 2017.11.16 試乗記 スバルが、デビューから3年を経たスポーツセダン「WRX S4」に、再びの改良を実施。BMWやアウディとの比較によって磨かれたという、静的質感や静粛性、そしてスポーティーな走りと快適な乗り心地の両立に、熟成された機械ならではの“豊かさ”を感じた。さらなる質感の向上を追求
WRXは実質的に「レヴォーグ」のセダン版である。もっとも、この2車はスバル的にはそれぞれ独立した機種であり、商品企画チームも別立てである。しかし、ご想像のとおり、ハードウエアには共通点が多い。
というわけで、今年夏の“大幅改良”もWRXとレヴォーグの同時実施となり、その主たるねらいも酷似する。最大のトピックはともに現行スバル最新の「アイサイト・ツーリングアシスト」が初搭載されたことで、さらには主に内装の質感、そして静粛性と乗り心地の向上に注力されている点も共通である。
WRX/レヴォーグはもともと「インプレッサ」の基本骨格を強化して、インプレッサと「レガシィ」の中間に位置づけたクルマである。よって、内装デザインもインプレッサのそれをベースに微妙にアップグレードしたもので、“Cセグメントの上級商品”と見れば、けっして悪くはなかった。
ただ、このサイズの本格的なセダン/ステーションワゴンは今や国内ではめずらしい。しかも、水平対向エンジンやターボ、4WDといった高性能メカをそこに詰め込んだWRX/レヴォーグは、販売現場でBMWやアウディあたりを嗜好する客筋に、じっくりと吟味されることが多かったという。
もっとも、スバル自身が「BMW 3シリーズ」や「アウディA4」を“理想のライバル”に据えてWRX/レヴォーグを開発したのも事実で、その意味では想定どおり。しかし、実際にはスバルが期待した以上に直接比較されるケースが多く、結果として内外装の質感に対するハードルが上がってしまった……という側面も今回の改良の背景にあるらしい。
また、先に世代交代を果たした弟分のインプレッサの質感や快適性も飛躍的にレベルアップ。ヒエラルキーの整合性のためにも、WRX/レヴォーグのテコ入れは急務だったわけだ。
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意匠と乗り味に見るレヴォーグとの差別化
いっぽうで、大幅改良されたWRXでは、より明確にレヴォーグと差別化された部分もある。
ひとつは外観だ。今までは正直にいうとレヴォーグとほとんど区別できなかったが、新しいWRXはフロントバンパーを専用の台形&大開口デザインとすることで、(少なくともこのクルマに興味がある人にとっては)レヴォーグと別物になった。
アシまわりの改良内容には、レヴォーグとのねらい(=客層)の差異が、より如実にあらわれている。
コイルスプリングやスタビライザーなどのバネ系を全体に柔らかくして、ダンピングもそれに合わせてしなやかさ(と、かといって上屋を動かせすぎない締まりの良さ)を演出……という改良の方向性は、レヴォーグとよく似る。しかし、それ以外の部分はWRXとレヴォーグではかなりちがう。
レヴォーグではさらに、フロントロワアーム後ろ側をゴムブッシュ化、リバウンド側のストロークを増やす(1.6リッター車にいたっては、車高をわずかに上げてバンプ側のそれも増やした)など、日常域の乗り心地への手当てがWRX以上に徹底している。
それはスポーツ性うんぬん以前に「このサイズのステーションワゴンがほしい」というライトな客層が、レヴォーグに当初の予定より多く集まったからだそうだ。
しかし、客層がより明確なスポーツ指向となるWRXでは、ロワアームブッシュは以前のピロボールを継承して、サスペンションストロークの増大策も採られていない。
……と、なんだかここまではレヴォーグの説明のほうが多くなってしまった。ただ、今回の主題であるWRX、しかもそれがパワートレインなどのメカニズムにレヴォーグとの共通点が多いS4は、レヴォーグを知ってこそ理解しやすいクルマである。
足まわりの進化には感心するほかない
というわけで、新しいS4は、走りだした瞬間に「やるなあ、スバル!」といいたくなるクルマだった。今回の主眼たる質感、静粛性、乗り心地へのテコ入れ効果はけっこう如実だ。
内装の基本造形はもちろん従来のままだが、これまで幅をきかせていたシルバー塗装の樹脂パネルを、ことごとく“ピアノブラック調パネル+細いメッキインサート”に置き換えたのは、素直に高級感アップに効いている。
静粛性の向上も顕著。車体骨格やパワートレインはそのままなので、静粛性対策については、前後ガラスの厚板化、ドアシールの追加と穴埋め、ドアガラスリップ強化、リアシェルフ吸音材の高密度化、フロントレールの発泡剤注入、サイレンサー面積と板厚拡大……といった正攻法の物量作戦による。単純に音量が下がっただけでなく、なんというか“防音室”っぽいというか、守られたようなS4の静粛性は、こうして真正面から質量とコストをかけたゆえの豊かさだろうか。
加えて、乗り心地とフットワークの進化熟成っぷりはちょっと驚きのレベルで、素直に感心するほかない。
レヴォーグもCセグメント乗用車としてはかなりの高剛性俊敏系だが、それに輪をかけて緊密な路面とステアリングの剛結感は“一部ピロ足”ならではのWRXの専売特許といえるだろう。
ほどよく整備された路面でのS4は、まさに滑るかのようなフラットライドだ。速度を問わずに、アシは常に滑らかに動く。少しばかりの目地段差でも、アシ先だけでしなやかに吸収して、上屋はゆったりと上下するだけ。大きめのギャップに蹴られても、鋭利な痛さを感じることはほとんどなく、ハーシュの角は徹底して丸く磨かれた状態でしか伝わってこない。
“生きた道”での楽しさが増した
とはいえ、WRX本来の路面に低くへばりついて、鋭く正確な身のこなしは新しいS4でも健在である。
高速域で以前より上下動が大きくなって、ブレーキングやステアリング操作で以前より荷重移動しやすくなったのは、バネが柔らかくなったせいもあるだろう。スバルの一面である“体育会系の豪傑スポーツ”というイメージからすると、これを軟弱になったと感じる向きもあるかもしれない。
ただ、新しいS4の重厚、かつ丸く高級感に富む乗り心地は、そうした柔らかさによるものだ。そして、ここ数年のスバルのフットワークはWRXにかぎらず“接地感”を明確に重視するように変わってきており、今回のチューニングもそうしたスバルの最新思想に合致したものである。
……といった説明をスバルのサスペンション設計担当からうかがってから、あらためてS4を味わうと、なるほど目からウロコである。手やお尻からは「ダンロップSPORT MAXX RT」が路面に食いついている様子がリアルに伝わってくるし、わずかな荷重移動でも、これまで以上に思い通りの走行ラインに乗せやすくなった。つまり、生きた道でより楽しく一体感が得やすくなった。
まあ、路面がヒビ割れたような過酷なラリーコース路面では、さすがに強い衝撃に見舞われるが、これは整備されたワインディングで最大限の真価を発揮する本格スポーツセダンならではの宿命だ。このあたりのオールラウンド性は、さすがにレヴォーグにゆずる。
300psの高性能ターボや「S♯」モードで8段ステップ変速となるCVT、そして前後不均等電子制御の「VTD-AWD」などのパワートレイン関連には、今回は文字にできるような変更点はない。
横滑り防止機能に走り優先の「Trac」モードが用意されるのもレヴォーグにないWRXならではの特色である。ただ、その介入制限モードを使っても、いきなり下品になったり、あるいは後輪優先のトルク配分のクセが如実に出るような事態に陥らないのはシャシー性能が優秀だからだろう。
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最終進化形に近づきつつある
新しいS4で世間一般的な注目はやはり「アイサイト・ツーリングアシスト」である。兄弟車のレヴォーグにスバルの期待以上に幅広い客層を集めることになったのも“クルマうんぬん以前にアイサイトがついているから”という理由も大きいそうだ。
新アイサイトのデキについては以前に今尾さんが詳しく書かれているので割愛するが、現時点では自動運転にもっとも近い商品のひとつであることは間違いなく、これだけでクルマ1台を購入させる決め手にもなるキラーアイテムだろうとは思う。
これだけ速くて、4WDという絶大な武器もあり、さらにスポーツカーばりの操縦性で、しかも今をときめく自動運転の最先端にして、なんとなれば300万円台で買える……となれば、WRX S4はなるほど、ほかに代用のない商品である。
さらに乗り心地についても、S4は速さ一辺倒ではない高級感がただようようになった。これならBMW、アウディをさし置いても……と考えるエンスージアストがいても不思議ではない。というか「あえてのS4」というのは、なかなかクルマ上級者の選択でもあろう。
いっぽうで、WRXにはさすがに基本設計の古さを匂わせるところもある。まあ、その味わいは新しくない機械を磨き抜いたがゆえの豊潤さ……の部分もあるのだが、やはりBMWやアウディと真正面から比較検討するには、後席周辺の調度類は簡素にすぎるし、ツボにハマれば絶品の走りについても、路面を選ぶ傾向にあるのは、絶対的なサスストロークが足りないからかもしれない。
まあ、このあたりの弱点の解消には次世代の「SGP=スバル・グローバル・プラットフォーム」が不可欠ということか。ハードウエアのデキにしても、そして時系列的に見ても、現行WRXは最終進化形に近づいている気がする。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=堀田剛資/取材協力=河口湖ステラシアター)
テスト車のデータ
スバルWRX S4 2.0GT-S EyeSight
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4595×1795×1475mm
ホイールベース:2650mm
車重:1550kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター水平対向4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:CVT
最高出力:300ps(221kW)/5600rpm
最大トルク:400Nm(40.8kgm)/2000-4800rpm
タイヤ:(前)245/40R18 93W/(後)245/40R18 93W(ダンロップSPORT MAXX RT)
燃費:12.4km/リッター(JC08モード)
価格:373万6800円/テスト車=390万9600円
オプション装備:ボディーカラー<クリスタルホワイト・パール>(3万2400円)/本革シート<メモリー機能+フロントシートヒーター>+サンルーフ<電動チルトスライド式>(14万0400円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:2330km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:527.7km
使用燃料:63.3リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:8.3km/リッター(満タン法)/9.0km/リッター(車載燃費計計測値)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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