第76回:騙されてつながった赤い糸
2018.02.06 カーマニア人間国宝への道いつかはフェラーリ
安物買いの銭失いな激安中古イタリア車を乗り継ぎ、貧乏に拍車がかかっていた安ド二等兵(41)。見かねたMJ参謀長が「いい加減、ほぼ絶対壊れない国産中古を買え!」と厳命し、約20年ぶりの国産中古車選びが始まった。
MJ参謀長(以下 M):いよいよ安心安全な国産中古車に乗り換えることになったわけだが、しかし思えばよく納得したものだ。なにしろお前も昔は、「いつか絶対フェラーリ買います!」と誓った男。
安ド二等兵(以下 安):絶対買うつもりだったんですが、貯金ができなくて……。
M:貯金どころか借金が増えるだけだったな。
安:それでも20代のうちは、いつか買える気がしてたんですが、30代も半ばになると、「さすがに無理かもしれない」と思い始めました。なので「アルファ166」は、フェラーリの代わりだったんです。
M:それは初耳だぞ!
安:一応パワフルですし、デカいじゃないですか。ちょびっとフェラーリ気分が味わえるかと思いまして。
M:内装が溶けるのも同じだしな。それが国産コンパクトへの乗り換えを決意したんだから、かなりの諦観(ていかん)だ。
安:取りあえず、子供がある程度大きくなるまでは我慢しようと決めました。ただ、どうしてもMTだけは捨てられなくて。なにしろこれまでの愛車、全部MTですから。
M:いざ国産コンパクトのMTを探してみたら、驚くほどタマ数が少なかった……。
安:殿の知り合いの業者さんに、オークションで落としてもらうようお願いしましたが、まるで出てこず、たまたまネットで見つけた赤い「デミオ」の「1.5スポルト5MT」に行きついた次第です。
中古車店の騙しテクニック
M:確か、ビックリするくらい走行距離が少なかったんだよな?
安:7年落ちで1.9万kmでした。殿に報告したら「今すぐ見に行け」と厳命され、その足で決めてきました。
M:千葉のド田舎の店だったか?
安:いかにもダメそうな店でしたが、クルマが異常にピカピカで、「これ、パネル交換とかしてませんよね?」って聞いたら「してません」って言うんで、その場で内金置いてきたんです。
M:ところがそれが、俺の知り合いの業者がいったん落札を考えたものの、事故っていたのでパスした個体そのものだった!
安:業者さんから「それ、このクルマじゃないですか?」って、事故ってる写真を送ってもらった時は衝撃でした。
M:事故といってもフレームまではいってないから、事故車ではないが。
安:でも、見事に騙(だま)されました。カネ振り込んでも連絡の1本もよこさないし、手違いで納車が1週間遅れたし、本当に仕事ができない店でした。支払総額も、結局ネットの表示より高かったですし。
M:いくらだった?
安:えーと、車両本体69万8000円、支払総額85万円のはずが92万円でした。今はネット上の表示額が命なので、多くの店がなんだかんだで支払総額を上乗せさせるのが常態化しているみたいです。
M:俺の激安BMWもそんな感じだった。納車前整備だコーティングだ保証だと、いろんな手で上乗せを画策する。「みなさんそうされますよ」とか言って。そうしないと利幅が取れないんだろう。
安:ですね。
安ド二等兵、マツダ党になる!?
M:ただ、買ってしまったからには、プラス思考にならねばイカン。そこでお前に「これは赤い糸だ。あのデミオは赤い糸号だ!」と言い聞かせた。
安:殿の一言がなかったら、騙されたことに落ち込んだままだったと思います。ありがとうございます。
M:実際、いいクルマだったんだろ?
安:はい。ビックリするくらいいいです。もともと先代デミオのデザインは好きですし。
M:先代デミオは、今をときめくマツダデザインの統括者・前田育男氏の傑作だと思っておる。いまだ国産コンパクトでアレを超えるデザインは出ていない。
安:走りもいいです。マツダ車は初代「ロードスター」以来ですが、先代デミオもいいですね! 乗ってみてビックリしました。MTのフィールもいいし、軽いし。
M:コーナリングに関しては、よりノーズの軽い「1.3」の方が断然いいが、しかしスポルトも悪くない。
安:パワーがそこそこありますし、1.3より静かな気がします。2万km弱なのでヤレてませんし!
M:やはりマツダ車は基本がしっかりしている。以前、友人の10年落ち先代「プレマシー」に乗って、あまりの足の良さに驚愕(きょうがく)したが、赤い糸号もなかなか良かった。
安:エアコンもビンビンに効きます。しかもアイフォーンに入れた音楽が、カーオーディオで再生できるんです! 「166」や「ムルティプラ」では、アイフォーンの極小スピーカーで再生するしかなかったですから。
M:涙が出る話だな……。
安:急に未来がやってきた感じです。
M:初代ロードスターにも乗ってたんだし、もうイタ車は卒業して、マツダ党になったらどうだ?
安:いやぁ、さすがにそこまでは……。次は中古の「ジュリエッタ」が欲しいです。
M:ジュリエッタなどちっとも面白くない! それなら今の「スイフトスポーツ」がいいぞ!
安:イタ車の夢はまだ捨てられません……。
(語り=清水草一、安ド二等兵/まとめ=清水草一/写真=清水草一、安ド二等兵、webCG/編集=大沢 遼)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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