第93回:高齢者の免許返納義務化は是か非か
2018.06.05 カーマニア人間国宝への道片目が見えません!
先日、左目をケガしてしまいました。草野球の練習でフライを捕ろうとして、グローブではなく目で捕ってしまったのです。
ピッチングマシンで高く高く打ち出したフライだったせいかかなりの衝撃で、目の周りがお岩さんのようになりましたが、それより問題は、お岩さんが治ってからも、左目の焦点が合わなくなったことでした。
診断の結果は、「瞳孔の調節機能の軽いマヒ」とのことで、完治しないかもと言われました。
検査では視野や視力は問題なかったんだけど、ピントが合うまでとても時間がかかるし、両目で見てるとずっとピントが合わない。なんか左目だけパカーンと何かが開きっぱなしな感覚で、何をしてても目がすぐ疲れる。もちろん運転も。目を開けてるとすぐ疲れちゃうので、つい目をつぶってしまいたくなる。特に左目はつぶりたくてしょうがない。
このままだったら運転、かなりキツイ。
そういえば、片目が見えないと免許ってダメなのか?
調べてみると、普通自動車の場合で、「両目で0.7以上、かつ一眼がそれぞれ0.3以上、または一眼の視力が0.3に満たない、もしくは一眼が見えない方は、他眼の視野が左右150度以上で、視力が0.7以上」とのことでした。
一応片目が見えなくても、運転は可能ってことですね。
高齢者の事故は他人事じゃない
クルマの運転は目が命。それが片方、若干でも不自由になったショックはかなりのものでした。
こういう不自由感が、高齢者になるってことかもしれない。こんな状態じゃ、運転は近所が精いっぱい。ロングドライブなんてとてもする気にならないし、速いクルマなんてまるで自分にカンケーない、遠い遠い存在だ。もちろんフェラーリも。
いや、逆にフェラーリはカンケーあるな。運転しなくても、見るだけでウットリできるから。
たとえ片目が見えなくなっても、この美しさは片目で十分認識できる。ああ、フェラーリ様ってやっぱりスバラシイ! 年取ってホントに視力がヤバくなっても、見るだけでうれしくなれるんだから! フェラーリ持っててヨカッタ~!
このように、高齢になってもフェラーリはアリという結論が出たのは不幸中の幸いでしたが、身につまされるのは、高齢者が大きな交通事故を起こしたというニュースでした。
先日茅ケ崎で起きた、90歳の女性による赤信号無視の死傷事故。まったく他人事(ひとごと)じゃないです。報道によるとこの女性、訪問先の人に見送られていたので、あせって信号を無視してしまったんだそうですね。
お見送りされると、長く見送らせるのは申し訳ない気持ちになるんだよね。その気遣いで信号を無視してしまったとは……。いや、お見送りと高齢化はあんまり関係ないけれど、とにかく高齢者の事故は他人事じゃない。
今回に限らず、高齢者がアクセルとブレーキを踏み間違え、歩道を暴走して死傷者が出たりすると、必ず「高齢者の免許返納を義務化すべきでは」という議論が出る。それについても真剣に考えてしまいましたよ。
オレたちには自動運転車がある!
しかし私は、年齢による一律の免許返納義務化には反対です。
片目が見えなくても、条件をクリアすれば免許の更新ができるんだから、高齢者も、条件をクリアしたら100歳だろうが200歳だろうが運転可能にすべきじゃないか? その条件を厳格化するという方向はアリだが、一律運転禁止は反対!
だってだって、カーマニアにとって、免許返納は死に近いもん! 返納義務化に賛成するカーマニアもいるとは思いますが、自分がそうなったときのことを考えてみて!
カーマニアもいずれ、「こりゃもうオレの運転、ヤバイ」と思う時は来るでしょう。報道によりますと、高齢者になるほど逆に運転に自信が生まれる三段逆スライド方式があまねく存在するらしいですが、さすがにカーマニアはそのあたりの自覚力は強いはず。
私も、左目をケガする前から視野の狭まりや動体視力の低下は自覚しており、オレの運転、昔に比べると全然ヤバいじゃんと思ってました。
でもね、免許を返納しちゃったら、可能性がゼロになるでしょ。たとえ「オレの運転ヤバいから、運転すんのやめよ」と思っても、可能性もゼロはヤダ! 自動運転でもいいから運転させて! 自動運転を運転するって言わないかもだけど。
しかし私は楽観しております。年齢による一律の免許返納義務化は日本では実現しないだろうし、自分がその対象になるまでには、自動運転はおいといても“ほぼぶつからないクルマ”は実現しているだろう。つまりオレはクルマに乗り続けられる! ご同輩諸君、いい時代に生まれましたなぁワッハハハハハハハハハハ!
(文=清水草一/写真=清水草一、池之平昌信/編集=大沢 遼)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
-
第317回:「いつかはクラウン」はいつか 2025.8.25 清水草一の話題の連載。1955年に「トヨペット・クラウン」が誕生してから2025年で70周年を迎えた。16代目となる最新モデルはグローバルカーとなり、4タイプが出そろう。そんな日本を代表するモデルをカーマニアはどうみる?
-
第316回:本国より100万円安いんです 2025.8.11 清水草一の話題の連載。夜の首都高にマイルドハイブリッドシステムを搭載した「アルファ・ロメオ・ジュニア」で出撃した。かつて「155」と「147」を所有したカーマニアは、最新のイタリアンコンパクトSUVになにを感じた?
-
第315回:北極と南極 2025.7.28 清水草一の話題の連載。10年半ぶりにフルモデルチェンジした新型「ダイハツ・ムーヴ」で首都高に出撃。「フェラーリ328GTS」と「ダイハツ・タント」という自動車界の対極に位置する2台をガレージに並べるベテランカーマニアの印象は?
-
第314回:カーマニアの奇遇 2025.7.14 清水草一の話題の連載。ある夏の休日、「アウディA5」の試乗をしつつ首都高・辰巳PAに向かうと、そこには愛車「フェラーリ328」を車両火災から救ってくれた恩人の姿が! 再会の奇跡を喜びつつ、あらためて感謝を伝えることができた。
-
第313回:最高の敵役 2025.6.30 清水草一の話題の連載。間もなく生産終了となるR35型「日産GT-R」のフェアウェル試乗を行った。進化し、熟成された「GT-RプレミアムエディションT-spec」の走りを味わいながら、18年に及ぶその歴史に思いをはせた。
-
NEW
BMWの今後を占う重要プロダクト 「ノイエクラッセX」改め新型「iX3」がデビュー
2025.9.5エディターから一言かねてクルマ好きを騒がせてきたBMWの「ノイエクラッセX」がついにベールを脱いだ。新型「iX3」は、デザインはもちろん、駆動系やインフォテインメントシステムなどがすべて刷新された新時代の電気自動車だ。その中身を解説する。 -
NEW
谷口信輝の新車試乗――BMW X3 M50 xDrive編
2025.9.5webCG Movies世界的な人気車種となっている、BMWのSUV「X3」。その最新型を、レーシングドライバー谷口信輝はどう評価するのか? ワインディングロードを走らせた印象を語ってもらった。 -
NEW
アマゾンが自動車の開発をサポート? 深まるクルマとAIの関係性
2025.9.5デイリーコラムあのアマゾンがAI技術で自動車の開発やサービス提供をサポート? 急速なAIの進化は自動車開発の現場にどのような変化をもたらし、私たちの移動体験をどう変えていくのか? 日本の自動車メーカーの活用例も交えながら、クルマとAIの未来を考察する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」発表イベントの会場から
2025.9.4画像・写真本田技研工業は2025年9月4日、新型「プレリュード」を同年9月5日に発売すると発表した。今回のモデルは6代目にあたり、実に24年ぶりの復活となる。東京・渋谷で行われた発表イベントの様子と車両を写真で紹介する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」の登場で思い出す歴代モデルが駆け抜けた姿と時代
2025.9.4デイリーコラム24年ぶりにホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。ベテランカーマニアには懐かしく、Z世代には新鮮なその名前は、元祖デートカーの代名詞でもあった。昭和と平成の自動車史に大いなる足跡を残したプレリュードの歴史を振り返る。 -
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】
2025.9.4試乗記24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。