メルセデス・ベンツG550(4WD/9AT)
もはや神話の世界 2018.09.14 試乗記 誕生からおよそ40年を経て初のフルモデルチェンジを迎えた、メルセデスのヘビーデューディーSUV「Gクラス」。見た目はかつてのままのようだが、その乗り味は……? “変わったところ”と“変わらぬところ”を、「G550」に試乗して確かめた。新旧の機能美が混在
小雨が降る東京・大手町のビル街でG550は待っていた。雨ニモ負ケズ、すっくと正しい姿勢で屹立(きつりつ)していて、神々しさすら感じさせる。そのすっくと立つG550にヨロヨロ近寄り、ドアを開けると、う~む、どうしたものか、といささかとまどう。
着座位置が高すぎる。つかまるところはありそうにない。ステアリングホイールに手をかける。足腰がなまっていると運転席によじ登れない。トライアスロンで鍛えているアスリート向きのクルマだ。
着座さえしてしまえば、そこはもう最先端テクノロジーの世界である。眼前にあるのは一体型デザインの高精密12.3インチワイドディスプレイが2枚。運転席正面のディスプレイは左に速度計、右に回転計の画像がシンプルに描かれ、違和感なく情報を与えてくれる。
ステアリングホイールがスポーツカー同然の楕円(だえん)でフラットボトムタイプなのは、テスト車が「AMGライン」というオプションを装着しているからだ。内装では、AMGライン専用デザインのこのスポーツステアリングのほか、赤いステッチが入ったナッパレザーのシートがおごられている。徹底した機能主義デザインだからこそ、こうした装飾が色気を醸し出す。
先代に通じる乗り心地
ステアリングの右側に生えたレバーを「D」に入れ、アクセルペダルにのせた右足に力をこめると、あっけないほどの軽快さで走りだす。先代に比べれば、鉄のバーベルを綿毛と交換したかのごとしだ。自動運転(アシスト)のためもあって、ボール循環式から電動機械式のラック&ピニオンに変更されたステアリングもまた軽く仕立てられている。フロントがリジッドから独立式のダブルウイッシュボーンへとモダナイズされたサスペンションは乗り心地の軽(かろ)みにも貢献しているだろう。
オフロード走行を鑑みてリジッドに固執したリアアクスルは、新型は旧型の面影を刻印してもいる。固定式のリアが路面の凸凹に対して同時にはねる印象があって、トラックを思わせる。トラックにしては乗り心地が大層よいけれど、トラックを思わせるところは変わっていない。
AMGラインのセットオプションはエクステリアも含んでいる。フロントスポイラーやサイドとリアのスカートが加えられ、19インチの標準の代わりに20インチのAMGマルチスポークホイールを履く。タイヤは275/50R20サイズの「ピレリPスコーピオンゼロ」というSUV用で、この大きなホイールとタイヤがバネ下の重量を増やして乗り心地に影響を与えていることも疑いない。
さりとて、もともと40年前につくられた古めかしいデザインを楽しむクルマなのだから、たとえそれが90万円もするオプションだろうと、AMGラインを選んだひとに後悔はないだろう。
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変わらないのに新しい
せっかくのオフロード性能に足かせをはめるようなスポイラー類がなぜ粋でいなせに見えるのかといえば、高速性能が向上するからというより、せっかくのそのオフロード性能をマイナス方向に働かせるヤンチャな行為だから、であるに違いない。Gクラスはもともと軍用車両として開発され、NATOに制式採用された実績をもつ。オフロード4×4としてこれ以上の血統書はない。
その軍用車の民生版が1979年に発売となった「ゲレンデヴァーゲン」、のちのGクラスであり、2018年1月のデトロイトショーでデビューを飾り、6月に日本に姿を現した新型車両は、新型ではなく、「改良版」とされる。先代から引き継いだのは、外側のドアハンドルとモール、ウオッシャーのノズル、それにリアのタイヤのカバーだけ。ラダーフレームにいたるまで新設計の、実に39年目にして初の全面改良であるにもかかわらず、メーカーみずから「revise(改訂する、修正する、復習する)」とうたうのは、ひとえにその血統の純度を維持するためだろう。
ホイールベースが+40mmだけ延ばされたボディーは、全長+53mm、全幅+64mmの拡大にとどめられ、姿かたちはあえて先代そっくりであることにこだわった。reviseだから当然だ。これに比べたら、最近の「ポルシェ911」はオタマジャクシからカエルに成長したぐらいの変貌ぶりではあるまいか。
その一方で、平面ガラスのように見える新型Gクラスのフロントウィンドウはごく軽くカーブしていたりもする。その変化に気づくと、なるほど新型Gクラスは新しい。変わっていないけれど、全部新しい。全部新いけれど、変わっていない。変わっていない代表のひとつは、走りはじめて、バシャンッと4本のつっかい棒が自動的に降りてドアをロックする音である。あえて先代の音をそのまま残しているという。
意のままにはならない走り
小径で極太のステアリングを操っていると、アンダーステア感が常にある。このクルマは運転するのがむずかしい。その点でも先代によく似ている。戦車が自在に動かぬように、Gクラスは自在には動かない。ドライバーの意のままにならない。巌(いわお)のようにも感じられる。ある意味、頼もしい。時に、その頼もしい巌のようなモノを自在に操っている感が得られる喜びの瞬間もある。
日本市場で展開されるのはいまのところ、このG550と「AMG G63」の2種類のみ。今回試乗したのは前者のG550で、585psのG63におよばないとはいえ、最高出力は422ps、最大トルクは610Nmと実用車としては必要十分以上の性能を持っている。しかも、ボア×ストローク83.0×93.0mmのロングストローク型、3982ccのV8ツインターボはAMGユニットをベースにしたもので、その鼓動はどことなく似ている。
組み合わされるギアボックスはメルセデス自製の9段オートマチックで、このAT、ほとんど変速ショックを感じさせないのはアッパレというほかない。170kgのダイエットに成功しているとはいえ、車重は例によって2.5t近くある。最初は軽々と動くことに驚いたけれど、慣れれば、やっぱりラグがある。
新型Gクラスは先代以上に矛盾に満ちている。全部変わったけれど、変わっていない。変わっていないけれど、変わっている。そういう意味では、福岡伸一のいう動的平衡のようでもあり、自動車として生命を持ち始めている、とさえいえるかもしれない。
筆者は最初、「軽い」といい、慣れれば「重い」という。どちらなのか、読者諸兄はいぶかるだろう。軽くて重いのである。矛盾に満ちた存在は、遺伝子を残すすべさえおぼえた。いまや生命にも似る。メルセデス・ベンツGクラスは、現行生産車にして神話の世界に到達したのだ。
(文=今尾直樹/写真=郡大二郎/編集=関 顕也)
テスト車のデータ
メルセデス・ベンツG550
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4817×1931×1969mm
ホイールベース:2890mm
車重:--kg
駆動方式:4WD
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ターボ
トランスミッション:9段AT
最高出力:422ps(310kW)/5250-5500rpm
最大トルク:610Nm(62.2kgm)/ 2000-4750rpm
タイヤ:(前)275/50R20 113V M+S/(後)275/50R20 113V M+S(ピレリ・スコーピオンゼロ オールシーズン)
燃費:--km/リッター
価格:1562万円/テスト車=1700万円
オプション装備:AMGライン(90万円)/AMGカーボンファイバーインテリアトリム(48万円)
※数値は欧州仕様参考値。
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:3860km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(8)/山岳路(0)
テスト距離:148.7km
使用燃料:26.7リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費: 5.7km/リッター(満タン法)/6.1km/リッター(車載燃費計計測値)
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今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
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