“金太郎あめ”か『おそ松くん』か
クルマのフロントマスクを統一するメリットは?
2019.02.27
デイリーコラム
判別ポイントは大きさの違いだけ!?
近年、世界中の自動車メーカーが、自社のクルマのフロントマスクを統一しつつある。
中でもメルセデス・ベンツは、セダン系、クーペ系、SUV系の中では、大きさにかかわらず、顔やフォルムの超相似形化を進めていて、大きさ以外に判別ポイントがないような状況になってしまった。
もちろんメルセデスは、もともとフロントフェイスが統一されていた“本家”。つっても昔は「大」と「中」、あとはスポーツモデルくらいしかなく、ものすごくモデル数が少なかったわけだが、それでも間違いなくデザインには統一感があった。
そんな元祖統一デザインのメルセデスに、いまさら文句をつける筋合いではないが、モデル数を年々増やしていることもあって、あまりの“金太郎あめ”ぶりに、われわれカーマニアも「ついていけないよ~」と悲鳴を上げている。
逆に、フロントマスクの統一が最も遅れているのは、トヨタだろう。「パッソ」と「カローラ スポーツ」の間には、ほとんど血縁関係すら感じない。しかしそれでも、徐々に「キーンルック」を取り入れつつあり、グローバルモデルに関しては、ゆっくり穏やかに統一デザイン化を進めている。
またレクサスに関しては、スピンドルグリルの導入以来、はっきりとフロントマスクを統一した。モデル数が少なく輸出比率の高いマツダやスバルも、完全にフロントマスクのイメージを統一している。
いったいなぜ各メーカーは、フロントマスクを統一するのか。そのメリットはどこにあるのか。
同じフロントマスク=高級という認識
これについて、元日産のデザイン責任者・中村史郎氏は、当サイトのインタビューで、このように答えている。
「共通のデザインでブランドを訴求しないと、価値を作れない世の中になったんです」
もともとフロントマスクを統一していたのは、メルセデスやBMW、ロールス・ロイスなどの高級ブランドだけだったが、それによってフロントマスクが統一されているブランド=高級、という基本認識ができた。
そこで、新たに高級ブランドを目指すメーカーが、印象的な統一フロントマスクで勝負に出る。その筆頭がアウディのシングルフレームグリルだ。これが大成功し、めでたくアウディは高級ブランドの仲間入りを果たした。
この流れに乗り遅れてはならじと、各社統一デザイン化を進めていく。高級ではないメーカーも、フロントマスクだけは統一し、自社のアイデンティティーをアピールするようになった。
韓国の起亜自動車(キア)は、アウディから引き抜いたペーター・シュライアーの指揮により、「タイガーノーズグリル」でフロントフェイスを統一。デザインの質そのものを飛躍的に向上させて、ブランドイメージを大幅に引き上げることに成功した。起亜につづいて親会社である現代自動車(ヒュンダイ)もシュライヤー氏をデザイン責任者に迎え、統一デザイン化を進めた。
こうなると、ブランドイメージの低いメーカーほど、フロントマスクを統一して、デザイン化を進めようとする。その流れに背を向けて、デザインに統一性を持たせなかったメーカーのクルマは、「誰が作ったのかわからないバッタもん」的なイメージになっていく。
「クルマの世界は、知らないうちにすっかり、ドイツ的な価値観発想に支配されました」(中村史郎氏)
大コケするリスクも秘めている
いまや、フロントマスクを統一するメリットよりも、統一しないことのデメリットが大きくなりすぎて、放置できなくなったというべきかもしれない。
トヨタが、国内向けのモデルに関してデザインの統一化を進めていないのは、すでにトヨタブランドは国内で圧倒的なブランド力や信頼感を得ており、デザインまで統一する必要がないからだ。いや、逆にトヨタだけは、デザインがバラバラでバリエーションが豊富なほうが、幅広い顧客の要望に応えることができて都合がいいのである。たぶん。
カーマニアとしては、各社個性豊かで質感の高いデザインを各種いろいろいっぱい出してくれたほうがうれしいわけですが、それは至難の業。フロントマスクを統一したほうがリスクが少ない。
ただ、ホンダの高級ブランド・アキュラのように、統一したフロントマスクが失敗すると、総コケになるというリスクはある。現行「ホンダ・レジェンド」(=「アキュラRLX」)はその見本だが、日本に導入されていない「ILX」「TLX」「RDX」「MDX」もすべてレジェンドの相似形で、大コケ(私見)です。
(文=清水草一/写真=メルセデス・ベンツ日本、トヨタ自動車、起亜自動車、現代自動車、本田技研工業/編集=藤沢 勝)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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