第86回:クルマはドイツ的発想に支配された?
2018.04.17 カーマニア人間国宝への道2000年代前半の日産デザイン
清水(以下 清):史郎さんが日産に移籍したのが99年ですね。
中村(以下 中):そうです。
清:で、2002年に2代目「キューブ」が出て、「フェアレディZ」が復活して、翌年には「スカイラインクーペ」も出た。その頃の日産デザインが一番輝いていたように思うんですが。
中:その頃はまだデザインはそれぞれが個性的でよかったんです。キューブとZと「マーチ」、まったく違うでしょう。
清:日産のマークを除いて、デザイン的な共通点はほぼなかったですね。
中:あれは意図的にやっていたんですよ。モデルごとにデザインのテーマは違うけど、日産車に共通なのは、大胆であるとか、メッセージ性がクリアだとか、そういうことをテーマにしようと。
清:大胆さ以外はバラバラでよかった。
中:形をそろえるのではなくて、デザインに対する姿勢を「ユニークで大胆」で共通させよう。それを日産デザインにしようとした。それが2000年代の前半です。
清:その試みは成功したと思います。でも、今は違いますよね。
中:世の中が変わってきたんですよ。日本メーカーの海外市場比重が高まって、ヨーロッパやアメリカ、中国に出て行くと、まず日産というブランドを認知させないとダメ。共通のデザインでブランドを訴求しないと価値を作れない世の中になった。昔は欧米のクルマも、高級車以外はモデルごとにデザインはバラバラだったけど、今はみんなそろえてます。
清:世界中がそうなってるんですね?
ドイツ的価値観の台頭
中:デザインテーマをそろえるようになったのは、ドイツメーカーのブランド戦略が圧倒的に強かったからです。
清:メルセデス、BMW、アウディ的なデザイン戦略が、世界を支配してしまった?
中:ドイツ的ブランド戦略に、他の欧州車もアメリカ車も追従して、日本車だけバラバラというわけにいかなくなったんです。今の日産で言えば、Vモーショングリルとかが、世界市場で戦うためのマストになった。
清:マストですか……。
中:クルマの世界は、知らないうちにすっかり、ドイツ的な価値観発想に支配されています。日産の場合は、日本市場にグローバルモデルが少ないのでわかりにくいですが、マツダやスバルなどはわかりやすいですよね。
清:マツダは完全にデザインテーマを統一してますよね。質も高い。スバルもその後を追っている。
中:トヨタはいまだに国内ではバラバラ。トヨタは、デザインをそろえるには国内市場が大きい。
清:トヨタだけは、国内専用モデルがまだけっこうありますから。
中:例えば日本では、マツダやスバルに乗っていれば、「マツダです」とか「スバルです」でいいけれど、トヨタだけは違う。「トヨタに乗ってます」とは言いませんよね。
清:「プリウス」とか、「クラウン」とか、モデル名で言いますね。
中:でもレクサスはグローバルブランドだから、同じくデザインテーマをそろえている。トヨタだって、アメリカやヨーロッパでは「トヨタ」なんですよ。そうでないと戦えない。
韓国車の圧倒的存在感
清:その流れには、日産も抵抗できなかったわけですね。
中:大きかったのは、韓国車が完全にドイツ式を取り入れたことです。我々は韓国車と競争するわけですから。
清:欧米に行くと、韓国車の存在感の強さにビビります。
中:しかもカッコいいのがそろってるでしょう?
清:特に起亜はメチャメチャカッコいいと思います、先代「オプティマ」とか。完全にヨーロッパのデザインで。日本にいると実感できないですが……。なにしろドイツ人デザイナーを社長にしちゃったんですもんね。
中:元アウディのデザイントップのペーター・シュライヤーを連れてきて、好きにドイツ的にやらせています。
清:起亜は“タイガーノーズグリル”ですね。アウディがシングルフレームグリルでデザインを統一した手法そのもの。
中:でも、この統一デザインの流れの中で、実は日産は「GT-R」「ジューク」なんかもあるし、他に比べるとまだバラバラの方なんです。最近感じるのは、世界中どのメーカーもブランドデザイン言語とか言ってますが、結局どのブランドもデザインが似てきてしまって、つまらないですよね。もうそろそろ違う方向に向かうべきだと思っています。クリス・バングルが最近のインタビューで同じようなことを言っている。「みんな、デザインDNAとか言ってるが、もう陳腐化している。その中で共通ブランド戦略にハマってない日産ジュークはすごい」と。
清:そうなんですか!
中:さらに「アイコンになったジュークには、みんなが対応せざるを得なかった」と。最近彼がデザインしたクルマは正直イマイチだけど、いいこと言いますね(笑)。
(語り=清水草一、中村史郎/まとめ=清水草一/編集=大沢 遼)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。