第564回:期待値の高さを“あのクルマ”との比較で検証
webCG執筆陣が語る「マツダ3」VS「トヨタ・カローラ スポーツ」
2019.03.26
エディターから一言
拡大 |
2018年のロサンゼルスモーターショーでお披露目されて以来、ギョーカイの話題を奪いっぱなしの新型「マツダ3」。その期待値はどれほど高いのか? 『webCG』で筆をふるう3人のライターに、走りのよさから好評価を得ている「トヨタ・カローラ スポーツ」との比較を語ってもらった。
拡大 |
拡大 |
技術的なインパクトはマツダに軍配
『「罪と罰」を読まない』という本がある。岸本佐知子、三浦しおんといった面々が、ドストエフスキーの『罪と罰』を読んだことがないのに作品について語り合うという奇妙な読書会をまとめたものだ。乗ったことのないクルマを比較しろというのは無謀ではあるが、先例があるのだから不可能ではない。
マツダ3は実物を見たことすらない。カローラ スポーツに関しては微妙で、厳密に言えば乗っていない。試乗会に参加しているが、その時の車名は「カローラハッチバック(仮)」だった。プロトタイプだったのである。
クローズドサーキットで試乗し、とてもいい印象を持った。フォルムは“斬新さ”ばかりを追っていたきらいのある最近のトヨタデザインから脱却し、素直なカッコよさを目指しているように感じられたのを覚えている。「GA-Cプラットフォーム」を使ったモデルは「プリウス」「C-HR」にも乗って素性のよさは知っていたが、カローラは前の2台を超える仕上がりだった。思ったとおりに鼻先が向きを変えるので、安心してコーナーに進入できる。TNGA以前と以後では、トヨタのクルマは別モノになった。
テクノロジーでは、マツダのSKYACTIVはさらに大きなインパクトを持つ。ディーゼルエンジンは圧縮比を低めてガソリンエンジンは圧縮比を高めるという、逆張りで効率を高める自由な発想が素晴らしい。初めて「SKYACTIV-D」の2.2リッターエンジンを搭載する「CX-5」に乗った時は、過剰なほどのトルク感に思わず笑ってしまった。マツダ3に搭載されるという「SKYACTIV-X」は集大成のような技術だから、期待せずにはいられない。
たゆまぬ切磋琢磨が日本車を成長させる
マツダは今や技術面でもデザイン面でも、業界で最も先進的なイメージを持たれているのではないだろうか。2002年に「Zoom-Zoom」キャンペーンを開始した頃は村上春樹に『海辺のカフカ』でデザインの凡庸さをディスられていたから、隔世の感がある。2006年からは「Nagare」というデザインテーマのもとにコンセプトカーを次々に発表し、2010年に「魂動(こどう)−Soul of Motion」として結実させた。
不首尾に終わったこともある。2015年に「デミオ ミッド・センチュリー」を発表した際に「半年に一度は特別なデザインを与えたモデルを提供していきたい」と説明していたが、実現していないようだ。「CX-3」はスポーティーなハンドリングをウリにしていたが、代償として乗り心地に難が出てしまったことは否定できない。
SKYACTIV-Xを体感してみたいし、写真で見るマツダ3のリアクオーターの形状には心引かれる。きっと新たな世界を見せてくれるのだろうと思いつつも、今どちらかを選べと言われたら、乗ったことのあるカローラ スポーツに軍配を上げるしかないだろう。道を走っていて見かけた後ろ姿がステキだったし、CMで中条あやみがハンドルを切るしぐさをするのがかわいいのも高ポイントだ。
そんなことより、カローラとマツダ3を比較するという企画が成立するようになったことを喜びたい。日本のCセグメントカーがライバルとして挙げるのは必ず「フォルクスワーゲン・ゴルフ」で、国内の競合車ではなかった。先代「オーリス」のマイナーチェンジを担当した主査にゴルフに勝っているかと聞いたら、「……正直に言いますね。まだまだです」という答えが返ってきた。カローラ スポーツの主査もゴルフの美点を語っていたが、「出だしのスムーズな動き」は上回ったと胸を張っている。
日本の自動車メーカーは絶対王者のゴルフを研究し、長らく精進を重ねてきた。ゴルフはこれからも水準器であり続けるだろうが、国内での競争が激化すれば日本のクルマ全体の底上げにつながるはずだ。
(鈴木真人)
全方位的にマツダのほうが一枚上手
マツダ3とカローラ スポーツ、買うならどっちか。
それはもう、言わずもがなだろう。マツダ3に決まっている。カローラ スポーツはよくできたクルマだけれど、積極的に選ぶ理由はない。個人的な評価は、デザイン65点、シャシー80点、パワートレイン75点、居住性70点というところだろうか。選ぶ理由があるとしたら、「トヨタディーラーの手厚いおもてなし」くらいだが、カーマニアたるもの、それを理由にクルマを選ぶなどありえない。
一方のマツダ3は、ハッチバックに限っての話だが、選ぶ理由だらけだ。まずデザインがシンプルでとても美しい。なによりも志が高い。デザイナーがいったい何を意図してこういうカタマリをつくったのか、じっくり対話してみたい気持ちにさせられる。現時点でのデザイン評価は90点。
シャシーも意欲的だ。リアサスをあえてトーションビームに変更した理由など、洗脳かもしれないが(?)目からウロコだった。そして「G-ベクタリングコントロール プラス」。少なくとも雪の上では、その効果をはっきり体感できた。マツダ3に乗っていれば、じっくりじわじわと感動を味わえるんじゃないかという期待が高まっている。シャシーも90点。
パワートレインもスゴい。なにせSKYACTIV-XとSKYACTIV-D、そしてただのSKYACTIV-Gの3種類のSKYACTIVから選ぶことができるのだ(たぶん)。どれを選べばいいのかわからないというのは、内燃機関フェチとしてうれしい悲鳴。乗り比べるのが楽しみだ。これまた90点。
居住性は70点でカローラ スポーツと同じだが、つまりカローラ スポーツがマツダ3を上回っている要素は、手厚いディーラーサービスだけということになる。それもまぁ、わが家の近所のマツダディーラーは、2カ所ともレクサス店みたいに黒く模様替えを終了していて、エリート気分はトヨタ系より上。この2台を比較すれば、文句なくマツダ3の勝ちになる。
じゃ本当にマツダ3を買うかといえば、たぶん買わないとは思うのですが……。やっぱり普段使いするハッチバックとしては、全幅が広すぎて、特に車庫での乗り降りが不便なのです。ドアがあんまり開かなくなっちゃうので。グローバルモデル共通の急所ですね。
(清水草一)
ワールドカップで例えるならば……
ともにグローバルモデルであるマツダ3とトヨタ・カローラ スポーツを比べるのであれば、「世界的に見るとどうなのか?」という視点が不可欠だ。ただし、実車を確認したけれどまだ乗っていないマツダ3と、すべての仕様を試乗したトヨタ・カローラ スポーツを比べるのはなかなか乱暴だと思う。ここでは乱暴ついでに、このクラス、つまりフォルクスワーゲンのゴルフだとかルノーの「メガーヌ」だとかを集めた「CセグメントW杯」を開くと仮定して比べてみたい。
まずカローラ スポーツからいくと、世界的に見てもよくできた実用車だ。何がいいって、まず乗り心地とハンドリングのバランスがいい。荒れた舗装路でもサスペンションがきちんと仕事をして、つまりしっかり伸びたり縮んだりしてショックを和らげつつ、引き締めるところは引き締めてフラットな姿勢を保つ。
ボディーもかっちりしている。かっちりしているからコーナリング中も歪(ゆが)んだりねじれたりせず、だからタイヤが正しく地面と接している感触がステアリングホイールを通じて伝わってくる。
仕様にもよるけれど、基本的にはソフトな乗り心地で、かつて所有していた「ルノー・サンク バカラ」や2代目ルノー・メガーヌ(「R.S.」じゃなくて1.6リッターの大衆向け)を思い出して、ちょっと懐かしくなった。
カローラ スポーツに用意される2種のパワートレインは、1.2リッター直列4気筒エンジンも1.8リッターのハイブリッド仕様も、どちらも黒子に徹する脇役タイプ。モデル名に「スポーツ」を冠するにはちと刺激が足りないとは思うものの、動力性能的には一切の不満がない。
これだけの実力があれば、カローラ スポーツは欧州の強豪国といい勝負はできそうな予感がする。圧勝することはなさそうだけれど、引き分けとか1点差の勝ちは十分に計算できるから、ワールドカップでは予選リーグを勝ち抜き、決勝トーナメントを狙えるはずだ。
本気で世界のテッペンを狙っている
一方のマツダ3。2018年のロサンゼルスモーターショーの写真で見てビビっと感じるものがあり、今年の東京オートサロンで実車に接して「ビビっ」は「ビービー」というアラーム音に変わった。このデザインはヤバい!
まず、このCピラーはなに? ピラーとは柱の意味だけど、マツダ3のは「Cピラー」ではなく「C平ー」と表記したくなるほどの広い面で、リアのフェンダーまで緩やかな起伏のある丘陵地帯が広がっている。結果、見たことのないハッチバックのスタイルとなっただけでなく、つややかなボディー面には周囲の景色がきれいに映り込み、借景のような効果を発揮している。
鋭利なキャラクターラインや複雑な面の組み合わせで“盛る”方向ではなく、シンプルに削(そ)ぎ落とす方向の外観デザインは最近のメルセデス・ベンツと同じで、新しいトレンドだ。マツダ3がメルセデスと異なるのは、インテリアにも削ぎ落とす方向を貫いたことで、シンプルかつクリーンな室内は、茶室を連想させる。ごてごて飾らず、機能的でありながら美しさを感じさせる内外観のデザイン、「用の美」という言葉も浮かんだ。
というわけでマツダ3は日本的な美意識を盛り込んで、先行者が誰もいない道を歩いているように見える。本気で世界のテッペンを取ろうとしているのではないか。
カローラ スポーツが、ワールドカップで予選リーグ突破を狙う仕上がりだとしたら、マツダ3は本気で優勝を狙っている。そりゃあマツダ3を応援したくなるというものです。
(サトータケシ)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
-
第875回:キモは氷上性能! ダンロップの新しいスタッドレスタイヤ「ウインターマックス アイスプロ」を試す 2026.7.1 違いは氷の上で表れる! ダンロップの新しいスタッドレスタイヤ「WINTER MAXX ICE-Pro(ウインターマックス アイスプロ)」に、冬の北海道で試乗。氷上性能を徹底的に追求したという新製品の、パフォーマンスの一端に触れた。
-
第874回:自動運転からワイパーまで! 自動車を支えるメガサプライヤー ボッシュのあくなき挑戦 2026.6.27 世界屈指のメガサプライヤー、ボッシュが開発中の新技術を披露! 市街地での高度な運転支援技術に、日本の方言にも対応した対話型AI、サーキット走行のノウハウを教えてくれるコーチング機能等々……興味深いその中身をリポートする。
-
第873回:ウエット路面に強み ミシュランの新タイヤ「パイロットスポーツ5エナジー」と「プライマシー5エナジー」を試す 2026.6.19 2026年1月29日に導入が発表されたミシュランの新製品「パイロットスポーツ5エナジー」と「プライマシー5エナジー」。これまでの特徴に加え、低燃費性能や耐摩耗性、ウエットグリップ性能のアップをうたう両モデルの走りを、クローズドコースで確かめた。
-
第872回:「フォレスター」がJNCAPで最高評価を獲得! “安全”に対するスバルの不断の取り組みに迫る 2026.6.6 相対速度100km/hの衝突後でも、普通にドアが開く!? 人気のSUV「スバル・フォレスター」が、日本の自動車アセスメントで最高評価を獲得した。安全なクルマづくりを第一とするスバルの取り組みを、群馬製作所で行われた衝突試験デモの様子とともにリポートする。
-
第871回:今年もグリーンヘルは熱かった! ニュルブルクリンク24時間レース観戦記 2026.5.27 “世界一過酷な草レース”として知られ、今年も波乱が巻き起こったニュルブルクリンク24時間レース。F1王者のフェルスタッペンも参戦するとあって、大いに盛り上がったその様子を、世界を飛び回るモータースポーツカメラマンが臨場感満点でリポートする。
-
NEW
ホンダCB750ホーネット(6MT)【レビュー】
2026.7.18試乗記ホンダのスポーツネイキッド「CB750ホーネット」が、話題の「E-Clutch」を獲得。ライディングの幅を広げる自動クラッチシステムは、パンチの利いた2気筒のストリートファイターにどんな走りをもたらすのか? その仕上がりを確かめた。 -
人気沸騰「ランクル“FJ”」を手にするもうひとつの方法
2026.7.17サブスク「KINTO」で「ランドクルーザー“FJ”」に乗る<AD>2026年5月に発売されるやオーダーが集中し、受注停止となってしまった「ランドクルーザー“FJ”」。しかし、あきらめるのはまだ早い。“FJ”とのカーライフを実現できる、トヨタの新車サブスクリプションサービス「KINTO」という手段があるのだ。 -
新型「アルピーヌA110」はどんなクルマに? グッドウッドを駆けたテストカーから読み解く
2026.7.17デイリーコラムアルピーヌが次期型「A110」を示唆する「A110フューチャー」を初公開。グッドウッドで走る姿を披露した。そこから分かる未来のA110の姿とは? 電動化がアナウンスされているが、エンジン車の設定はあるのか? 公式発表とテストカーの姿から深掘りする。 -
ベントレー・ベンテイガ スピード(4WD/8AT)【試乗記】
2026.7.17試乗記「ベントレー・ベンテイガ」に最上級グレードの「スピード」が登場。ブランドの在り方をストレートに伝える名称のトップパフォーマンスモデルだが、従来型との最大の違いはその心臓部にV8エンジンが積まれていることだ。およそ不満のあろうはずもないが、最新モデルの仕上がりをリポートする。 -
写真で解説する新型「日産エルグランド」
2026.7.16画像・写真新型「日産エルグランド」は、日本伝統の美をデザインに生かしながら、同社独自の最新技術を組み合わせて“走りのよさ”も徹底追求したという意欲作。その見どころを写真とともに解説する。 -
第970回:クルマの背中に浮かぶ文字たち――空いた字間が語るもの
2026.7.16マッキナ あらモーダ!アナタは自動車のボディー背面に施されたメーカー/ブランドのロゴについて考えたことがあるだろうか? 字間を詰めたり、広げたり、時代によって変わるそのトレンドと、その背景にあるメーカーの思惑を、自動車史にも精通する大矢アキオが語る。










































