第565回:マツダの未来を占うクルマ
新型「マツダ3」に見るSKYACTIVの進化
2019.03.27
エディターから一言
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日本でもデビュー前から大きな話題を集めている新型「マツダ3」。電動化が世の趨勢(すうせい)となっている中で、ICE(内燃機関エンジン)への強いこだわりを見せ、究極の燃焼技術と言われるHCCI(予混合圧縮着火)に近い、SPCCI(火花点火制御圧縮着火)を用いた新エンジン「SKYACTIV-X」を初搭載するだけでなく、シャシー系のテクノロジーやデザインなども刷新される新世代モデルの第1弾となる。
自動車メーカーとしての規模はそれほど大きくないが、ユニークかつ原理主義的な発想で大きな存在感を示しているマツダの今後を占う意味で、新型マツダ3には注目せざるを得ない。今回は現行のマツダ3(アクセラ)と比較しつつ、マツダの次世代商品の進化を見てみたい。
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新しいデザインは「引き算の美学」
現行モデルは、2012年の「CX-5」「アテンザ」に続く新世代商品の第3弾として2013年に登場。生命感をカタチにする「魂動」デザインは、アテンザなど全長の長いモデルでは四肢動物が後ろ足を蹴って体が伸びきったさまを思わせるエレガンスな表現となっていたが、ハッチバックのアクセラでは、蹴り出す手前で力をため、それを解き放とうとする瞬間を思わせるイメージにこだわっている。自動車を単なる機械として捉えるのではなく、クレイモデラーや生産技術のエンジニアらの職人技が生きる、アナログな輝きにまでこだわることで生命感を吹き込んだ。
その魂動デザインの2周目は、「引き算の美学」という考え方が用いられている。新型マツダ3の、特にハッチバックのほうは、サイドのキャラクターラインをはじめとした各部の要素を減らし、本質的なフォルムや面構成の美しさで勝負。バウハウスには「Less is more.」という概念があるが、減らすことでより豊かになるというのは、新しい魂動の美学に通じるところだろう。
近年は、いかにも生産技術が求められそうな、エッジの効いたキャラクターラインを大胆に使って目を引くデザインも多かったが、メルセデス・ベンツの「CLS」や「Aクラス」、BMWの「8シリーズ」や「3シリーズ」などもこれを改め、ツルンとしたシンプルな面構成を新たなデザイン言語とし始めている。
ただ、日本のカーデザインが世界をリードしているということはうれしく思うが、ここまで要素を減らしてシンプルになってくると、ボンネットの前部の切り欠きラインが目につく。アウディがクラムシェル型ボンネットで無駄なラインを消しているように、なんらかの手が打てなかったものかと思うのだ。
ガソリンとディーゼルのよさを併せ持つエンジン
マツダ3が搭載する予定のエンジンは、ディーゼルが1.8リッターターボ、ガソリンが1.5リッター、2リッター、2.5リッターの自然吸気、そしてSKYACTIV-Xということが判明している。注目のSKYACTIV-Xは、ディーゼルエンジンの低燃費と高トルク、ガソリンエンジンのパワフルさ(高回転)とクリーンな排ガスという、両者の優れた特性を併せ持つことを狙ったものだ。
HCCIは、ガソリンのようにあらかじめ燃料と空気を混合して、ディーゼルのように圧縮自己着火させる理想の燃焼と言われるが、コントロールが難しく、世界の名だたるメーカーがトライしつついまだ商品化できていない。マツダは圧縮着火をきちんとコントロールすることを目指し、点火プラグを燃焼コントロールの手段として用いた。火花ですべてを燃やすというよりも、点火によってスパークプラグ周辺の混合気が燃焼、膨張することで、まわりの混合気が圧縮されて自己着火。文字通りSpark Controlled Compression Ignitionにより、燃焼のコントロールを容易にしたのだ。燃料供給は予混合式ではなく直噴式で、過給器を用いてエアーの供給も行う。24Vのマイルドハイブリッド機構も併用される。
技術的に大変興味を引かれる内容であり、本質的なCO2低減、燃費改善には電動化だけではなくICEの進化も不可欠だという考え方にも大いに共感できるが、これがどのようにユーザーベネフィットをもたらすのかは、まだはっきりとしない。既存のガソリンエンジンよりは燃費がいいだろうが、日本ではディーゼルに対して燃料代が安くあがるかどうかは微妙。排ガスの後処理などが簡易に済むことは車両価格に有利だろうが、過給器やマイルドハイブリッドのプラス分はどれぐらいなのだろう? 期待は、ディーゼルエンジン並みの大トルクでありながら、高回転域ではガソリンエンジンらしく伸びやかで気持ちがいいところということか。いずれにせよ、商品化されたモデルを取材・試乗するまでは未知数のところが大きい。
Cセグメント車としては世界トップレベルのシャシー
シャシーおよびボディーも現行アクセラとは違い、新世代車両構造技術「スカイアクティブ・ビークル・アーキテクチャー」が採用されている。従来のボディーは上下左右を連結した環状構造としていたが、マツダ3ではさらに前後方向も連結。ボディー剛性が高まっているのは当然だが、それに加えて考え方にも変化がある。これまでは路面からの入力に対してバネ上に伝わるピーク値を抑えようとしていたが、新世代のマツダ車では、タイヤやサスペンションをはじめとした各部における入力の伝達遅れをなくすことで、滑らかに動くようにしている。この1月にアメリカで試乗したマツダ3は驚くほどにスムーズな乗り心地であったが、それはこういった要因からくるものなのだ。
また、一昨年に現行アクセラとスカイアクティブ・ビークル・アーキテクチャーのプロトタイプを比較試乗したときは、コーナーへ進入していったときの対角線上の動きに大きな違いがあった。前者もスポーティーで気持ちがよかったものの、入力が強くなってくると対角線方向で揺り戻されるような動きがあった。それに対し、後者は入力に反発するのではなく、しっとりと受け止めてタイヤを路面に押し付け続けるような感覚。決して硬くはないのに、驚くほどのグリップ力を発揮する不思議な感触があった。
現行アクセラとマツダ3のスペックに見られる大きな違いは、リアサスペンションがマルチリンクからトーションビームへと変更されていることだ。一見するとスペックダウンとも捉えられかねず、実際「デミオ」や「CX-3」のトーションビームは荒れた路面でのドタバタとした動きの要因となっていたのだが、マツダ3のそれは極めてスムーズ。しかも横力にもしっかりとした剛性感があり、ハードなコーナリング時にも絶大な安心感をもたらしていた。従来のマルチリンクも操縦安定性は悪くなかったが、動きのスムーズさでは歴然とした差がある。スペックダウンだなんてとんでもなく、Cセグメントカーとして世界トップクラスのシャシーに仕上がっているのだ。タイヤへの要求特性の変化やブッシュ類の工夫などの積み重ねも、シャシーの進化を促している。
走るよろこびを高める新しいアプローチ
2012年の初代CX-5以降、おおむね良好な評価を得ていたマツダの商品群だが、静粛性についてはあまり褒められたものではなかった。それが2代目CX-5では大きな進化を見せたが、マツダ3での改善はそれ以上のものとなっている。騒音の要因となる細かな振動エネルギーを特定箇所に集めて減衰し、熱エネルギーに変換して放出するという根本的な対策が施されているからだ。その他の一般的な遮音、吸音の手法とも相まって、静粛性はCセグメントでおそらく世界トップ。現行アクセラと比較したら、かなりの違いが感じ取れるだろう。ロードノイズ、風切り音、エンジン音などの聞こえ方のバランス、路面変化による音変化の抑制なども好ましい仕上がりで、ただ静かなだけではなく、実に耳に心地いい音質になっている。
そしてもうひとつ。マツダが掲げる人間中心の考え方が濃厚に注入されたのがシートだ。人間が歩いているときにはどういった動きをしているのか、骨盤を中心に解析していき、自動車の運転においても歩いたり走ったりするように、自然な感覚で操作できるよう考えた結果、骨盤の下部・上部、大腿(だいたい)部の3点で人を支え、骨盤をしっかり立てた状態で座らせるシート形状になった。腰掛けてみると、すっと背筋が伸びた感じになり、背骨がきれいなS字カーブを描く。確かにこれなら自然な感覚で運転でき、ワインディングロードではサイドサポートに頼らなくても楽に姿勢を維持していられる。シートの場合、ロングドライブをしてみないと真価のほどはわからないが、新境地を切り開いたのは確かだろう。
その昔のマツダ車は、硬めのサスペンションに、鋭いステアリングレスポンスでスポーティーな走るよろこびをやや大げさに表現していたが、現行型アクセラの世代では動きの連続性や一体感の高さで、その本質に迫っていった。新世代のマツダ3はさらに次元が上がり、接地性のいいシャシーに仕上げつつも、それ以前にシートをはじめとした運転環境を整えてドライバーの能力を引き上げることで、走るよろこびを高めていくという新しいアプローチに踏み込んでいる。世界のライバルを超えたかどうかというよりも、マツダ独自の価値観が生み出されつつあることこそ、注目すべきポイントなのだ。
(文=石井昌道/写真=マツダ/編集=堀田剛資)

石井 昌道
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