第604回:3億円級のスーパーカーを日本でお披露目 香港発のモビリティー企業に見る自動車産業の未来
2019.11.17 エディターから一言 拡大 |
V12エンジンのハイパーカーを東京で初披露。香港のモビリティーカンパニーWe Solutions(ウィ・ソリューションズ)が、今後の事業戦略と新たなグループ体制を発表した。ハイパーカービジネスから要素技術の開発まで手がける、業界を横断する新たな企業グループの形から、自動車産業の未来を考える。
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東京の秋空にV12サウンドがとどろく
11月にしてはポカポカ陽気の東京。閑静な住宅地の一角にある老舗宴会場に、自然吸気V型12気筒のエキゾーストノートが響き渡った。
クルマの名称は「アポロ・インテンサエモツィオーネ」。昨年(2018年)プロトタイプが公開されているが、今回お披露目されたのは世界限定10台の市販モデル。マレーシア人のオーナーへの納車式を兼ねた新車発表会となった。オーナー氏は「ベース価格は230万ユーロ(1ユーロ120円換算で2億7600万円)。オプションパーツを多く注文したので、最終的な金額がかなり上がった」と満面の笑みで話す。
このクルマ、外観はまるでゲームソフト『グランツーリスモ』シリーズに登場する架空のモデルのように、巨大な空力デバイスが目立つ。一方その中身は、開発担当者によると「車体構造はHWAとの共同開発の過程でプロトタイプから大幅に変更した」という。HWAといえば、ドイツの老舗チューニングブランドAMGの創業者ハンス・ヴェルナー・アウフレヒト氏が、ダイムラーがAMGを買収した1999年に設立した企業である。現在はDTMやフォーミュラEのプロジェクトで、ダイムラーに技術協力していることで知られる。
記者会見の中で紹介された動画では、ダイムラーが1997年にFIA GT選手権のために生産したホモロゲーションモデル「CLK-GTR」が登場。サーキットでインテンサエモツィオーネがそれを一気に抜きさるシーンが描かれていた。動画を見る限り、これら2台は本物だ。
ハイパーカーは事業のひとつにすぎない
今回の記者会見、量産型インテンサエモツィオーネの存在が目立ったのは当然だが、会見の趣旨は実は別にあった。
案内によると、会見の名称は「We Solutions Ltd. 新事業戦略/新グループ体制発表会」とある。We Solutionsというのは、香港を拠点とするモビリティーカンパニー。この名称になったのは2018年の春からだが、今夏発表されたハイパーカーメーカー、アポロ・オートモービルの買収に伴い、今後はグループ名を「APOLLO FUTURE MOBILITY GROUP(アポロ・フューチャー・モビリティー・グループ)」に改称すると発表した。新体制のもと、製造、投資、AI(人工知能)といった新技術、EVなどの先進自動車技術に関する事業に取り組んでいくという。
このうち、同社が「アドバンスド・テクノロジー」と呼ぶ先進自動車技術の事業では、中国、台湾、欧州、そして日本に開発部門を持ち、その日本での拠点となるのが京都のGLMだ。GLMといえば、京都大学発のEVベンチャーとして注目を集めていた企業であり、後に中国企業に買収されたニュースを思い出す方もいるだろう。その中国企業というのが、We Solutionsの前身である。
We Solutions(アポロ・フューチャー・モビリティー・グループへの名称変更は「アポロ・オートモービルの買収完了次第」となっているので、当記事ではこの現名称を使わせていただく)が発表した資料によると、GLMの買収が2017年秋。先述の通り2018年春に現在の社名に改称し、その後に他のEV関連ベンチャーなどを買収。2019年初頭にエリック・ホー氏率いる新経営体制となり、2019年夏にアポロ・オートモービルを、さらに2019年秋にはドイツのカロッツェリアIDEENION(イデニオン)を買収した。
会見に参加したIDEENIONのミルコ・コンタ氏によると、同社は欧州自動車メーカーからコンセプトモデルの製作を数多く受注。具体的には、2016年のフランクフルトショーにボッシュが出展した未来型トレーラーヘッド「ヴィジョンX」、2018年ロサンゼルスショーの「アウディe-tron GTコンセプト」、2019年ジュネーブショーの「アウディQ4 e-tronコンセプト」などだ。さらに中国では、EVベンチャーのBYTONに創業時から深く関わっていることを明らかにした。このIDEENIONが、アドバンスド・テクノロジーの欧州部門を担う。
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CASE時代に新風を吹き込めるか?
筆者を含め、今回の会見に集まったメディアの一部は、日本発のEVベンチャーが中国企業に買収され、その技術が反映されたスーパーカーが登場するのではないかと思っていた。ところが会見の趣旨は、その式名にもあるようにWe Solutionsの新事業戦略と新グループ体制の説明だった。
GLM買収から2年余りの短期間に、世界各地でカロッツェリアやEV関連企業を次々と買収している状況である。グループとして事業の方向性がどこにあるのかを、メディアにしっかりと説明する必要があると判断したのだろう。We Solutionsからアポロ・フューチャー・モビリティー・グループへの名称変更には、彼らの狙いがわかりやすく表れている。
会見の舞台に日本を選んだ理由について、最高経営責任者(CEO)であるリチャード・ソン氏は「第一に、日本にはスーパーカー市場としての需要がある。また今後はグループ全体として日本の自動車メーカーや部品メーカーと協業していきたいと考えており、日本には優秀な人材も多い」と語った。
自動車産業はいま、自動運転、電動化、通信によるコネクティビティー、そしてライドシェアリングに代表されるシェアリングエコノミーの台頭によって、大きな変革期を迎えている。そうした中で、今年(2019年)10月には、ホンダ傘下の部品大手であるケーヒン、ショーワ、日信工業と、日立オートモーティブとの合併が発表され、さらにトヨタ傘下のアイシン精機とアイシン・エィ・ダブリュも合併を発表した。
こうした大手部品メーカーの合従連衡(がっしょうれんこう)の時代に、We Solutionsのようにさまざまな自動車分野を横断するビジネスモデルが成長することの可能性は否定できない。秋晴れの下、V12のエキゾーストノートを聞きながら、自動車産業の未来を思うこととなった。
(文=桃田健史/写真=webCG/編集=堀田剛資)
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桃田 健史
東京生まれ横浜育ち米テキサス州在住。 大学の専攻は機械工学。インディ500 、NASCAR 、 パイクスピークなどのアメリカンレースにドライバーとしての参戦経験を持つ。 現在、日本テレビのIRL番組ピットリポーター、 NASCAR番組解説などを務める。スポーツ新聞、自動車雑誌にも寄稿中。
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