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ウン億円でも買うしかない!? めくるめくハイパーカービジネスの世界とは?

2019.11.22 デイリーコラム 西川 淳
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裾野は広がり頂点は上がる

スーパーカービジネスは今、1台数億円という限定車ビジネスが花盛りである。最近話題になったモデルを記憶にあるだけざっと拾い上げても、「ブガッティ・チェントディエチ」(10台限定、約9億円)を筆頭に、「フェラーリ・モンツァSP1/SP2」(500台、約3.5億円)や「ランボルギーニ・シアンFKP 37」(63台、3億円以上)、マクラーレンの「スピードテール」(106台、2.5億円以上)や「エルバ」(399台、2億円以上)、アストンマーティンの「ヴァルキリー」(150台、3億円以上)に「ヴァルハラ」(500台、1.5億円以上)、「メルセデスAMG ONE」(275台、3億円以上)と枚挙にいとまがなく、途方もない金額が並ぶ。この秋のイベントで話題となった往年の名レーシングカー「ポルシェ935」のオマージュ、「935/78」(77台)の約1億円がお買い得に思えてくるほどだ。

しかも、世界のマーケットではこういった限定車のみならず、そもそも少量生産のパガーニやケーニグセグといったオーバー3ミリオンブランドも旺盛な需要にさらされ販売する新車個体がないほどの人気で、その市場を狙ったブランド(アポロやゴードンマレー、デ・トマソ、ブラバムなど)の台頭・復興も後を絶たない。トヨタがGRブランドでこのクラスのスーパーカーを開発中であることも発表されているし、リマックやロータスのようにEVのハイパーカーに力を入れる新勢力も増えている。

いつから、一体どうして、このようなビジネスがはやり始めたのだろうか?

背景にはもちろん、“買うことのできる人が増えた”という歴然たる事実がある。ミリオネアはもちろん、ビリオネアの世界的な増加は誰もが知るところ。ビリオネアはこの10年間で2倍になっているし、ミリオネアの数も毎年10%以上の勢いで増えている。

結果、“フツウのスーパーカー”(おかしな表現だけれども、「フェラーリ488」や「ランボルギーニ・ウラカン」といったカタログモデル)を買おうと思う人も増えた。例えばランボルギーニの年間生産台数はこの10年で4倍近くに膨れ上がっている。メーカーがより簡単かつ安全に速く走ることのできる新型車を開発した結果、裾野が恐ろしく広がったのだ。そもそも“人とは違うクルマ”が欲しいと思ってスーパーカーを選ぶような人たちである。よりお金があれはその上が欲しくなる。そうやって裾野の広がりと釣り合うように、頂上も高くなっていく。

ブガッティが「EB110」へのオマージュとして開発した「チェントディエチ」。最高出力1600PSの8リッターW型16気筒ターボエンジンを搭載する。
ブガッティが「EB110」へのオマージュとして開発した「チェントディエチ」。最高出力1600PSの8リッターW型16気筒ターボエンジンを搭載する。拡大
「ランボルギーニ・シアンFKP 37」。3億円ともいわれる高価格にも関わらず、2019年9月のデビュー時点で限定63台は完売していた。
「ランボルギーニ・シアンFKP 37」。3億円ともいわれる高価格にも関わらず、2019年9月のデビュー時点で限定63台は完売していた。拡大
「モンツァSP1」(右)と「モンツァSP2」(左)は、フェラーリが新たに「Icona(イーコナ)」とネーミングしたジャンルに属する限定モデル。1950年代のレーシングカーをほうふつとさせるスタイリングと最先端のスポーツカー技術の融合を特徴とする。
「モンツァSP1」(右)と「モンツァSP2」(左)は、フェラーリが新たに「Icona(イーコナ)」とネーミングしたジャンルに属する限定モデル。1950年代のレーシングカーをほうふつとさせるスタイリングと最先端のスポーツカー技術の融合を特徴とする。拡大
日本で2019年7月に発表された、アストンマーティンの新型ハイパーカー「ヴァルハラ」。500台限定で、2021年のデリバリー開始が予定されている。
日本で2019年7月に発表された、アストンマーティンの新型ハイパーカー「ヴァルハラ」。500台限定で、2021年のデリバリー開始が予定されている。拡大

模範となるのはフェラーリ商法

メーカー側も増産・増モデルだけで対応しているわけにはいかない。これほどおいしい市場になってくれたのだ。昔と違ってライバルも増えた。当然、自社への囲い込み運動を積極的に推し進めようとする。だいたい冒頭に挙げた限定車たちは同じオーナーの元にすべてそろっている場合が多いけれども、逆に言うと、いつ何時、離れていくかもしれないという恐怖がメーカー側にはある。そうさせないためのシステムづくりが必要で、最もうまくいったのがフェラーリの例だ。

それは見事なカスタマーピラニッドである。頂点にF1カスタマープログラム(F1クリエンティ)やレーシングカスタマー(ジェントルマンドライバーでルマン参戦など)を据え、サーキットをがんがん走ってフェラーリらしい世界観をアピールしてもらう。それを見ておそらくは興奮するであろう、ロイヤル顧客の階層を順に、限定車カスタマー(「ラ フェラーリ」など)→フラッグシップカスタマー(「812スーパーファスト」など)→標準モデルカスタマー(「F8トリブート」など)、入門カスタマー(新型車「ローマ」など)、潜在カスタマー(ファン)と構築したのだ。

例えば潜在カスタマーがいよいよ跳ね馬に入門しようと思っても、いきなり新型ミドシップのF8トリブートは買えない可能性が高いし、ことによると「ポルトフィーノ」の新車さえすぐには回ってこないかもしれない。いきおい、入門したければオプションてんこ盛りの新車を注文して2年やそこら納車を待っているあいだ、程度のよい中古車を正規ディーラーから買ってまずは先にフェラーリとの“お付き合い”を始めることになる(つまり、ただでさえ人気のあるフェラーリのリセールバリューが高くなって、売る方もまたハッピーだ)。これを積み重ねていけば(何年かかって何台買うことになるか分からないけれど)、ひょっとすると“ラ フェラーリ相当の限定車カスタマー”にたどり着くことができる、という仕組みだ。

もちろん、階層を上っていくごとに供給は絞られる=欲しい人がたくさんいるから、「今回はあんまり好きじゃないからパスね」が難しい。なにせ、上部階層では客が商品を選ぶのではなく、商品=メーカーが客を選んでいる。取りあえずご指名がかかったなら、好むと好まざると買っておいたほうが頂上へとつらなる近道ルートというわけで、その循環がまた高いリセールバリューを生む。

だから、オレは金ならたくさんある! そんな面倒くさいことをやっていられるものか! という方は金にものを言わせて既にVIPカスタマーの手元にあるラ フェラーリを市場からムリヤリ買ってくるほかない。例えばそれがわずか210台限定の「ラ フェラーリ アペルタ」だったなら、新車時のほぼ倍となる7億円以上を投資しなければならないハメになる。

何ともよくできたシステムではないか。フェラーリが今も昔もこの手のビジネスの模範であり、先陣を切っていることは明白だ。一強と呼ばれる由縁でもある。

高価なフェラーリのなかでも、「ラ フェラーリ」(写真)のようなスペシャルモデルはケタ違いのプライスタグを付ける。しかも、購入にはフェラーリ側の承認が必要で、いわゆる一見さんは手に入れることができない。
高価なフェラーリのなかでも、「ラ フェラーリ」(写真)のようなスペシャルモデルはケタ違いのプライスタグを付ける。しかも、購入にはフェラーリ側の承認が必要で、いわゆる一見さんは手に入れることができない。拡大
「ラ フェラーリ」のオープントップバージョン「アペルタ」。希少性はクーペモデルを上回り、その価値は7億円以上ともいわれる。
「ラ フェラーリ」のオープントップバージョン「アペルタ」。希少性はクーペモデルを上回り、その価値は7億円以上ともいわれる。拡大
2019年11月に発表されたフェラーリのニューモデル「ローマ」。比較的抑えた価格設定になる見込みで、フェラーリオーナーの裾野を広げることが期待されている。
2019年11月に発表されたフェラーリのニューモデル「ローマ」。比較的抑えた価格設定になる見込みで、フェラーリオーナーの裾野を広げることが期待されている。拡大

価格を押し上げる「新」と「旧」

いくらクルマ好きの大金持ちであっても単なる道楽だけで高額なスーパーカーを買っているわけじゃない(そういう人も世界にはたまにいたりするけれど)。高額なモデルを買っても資産的に目減りしないということを“知っている”から彼らは買っている。そのうえ乗って楽しめるのだから、悪くない話だろう。ラ フェラーリ アペルタの例をみれば分かるとおり、これらの限定スーパーカーは“楽しめる安定資産”だし、通常モデルでもこのシステムにはまっていればリセールも悪くない。

そしてもうひとつ、ハイパーカーへの投資を後押しする重要な要素がある。それはクラシックカーの高騰だ。特にフェラーリのそれはすさまじい。1960年代以前のものはもはや手がつけられない状況で、ミリオンはおろかビリオンもざら。1980年代以降の限定車(新車当時の価格が5000万円以下の「288GTO」や「F40」、「F50」、「エンツォ」)もまたこの10年でのきなみ2億、3億円へと高騰した。

世界のマーケットが格段に広がり、欲しい人が増えた今、生産台数500台前後の限定車で、パフォーマンス的にすさまじく進化したモデルの新車をクラシック・フェラーリと同じ価格で買えると聞けば、クルマ好きの大金持ちなら食指が動かないほうがおかしい。

また、「マクラーレンF1」のように、この10年で取引相場が10~20倍へと急騰し、10億円から20億円で取引されるようなレアケースもあるから、畢竟(ひっきょう)、高性能限定車にはクルマの魅力と将来への期待という点で注目が集まったのだった。

個人的にはもうひとつ要因があったと思う。それは、パガーニやケーニグセグといった新興ブランドの成功である。彼らはフェラーリやランボルギーニといった伝統的ブランドよりも先に1台当たり2億円超の少量生産ハイパーカービジネスを成功させた。これらの希少モデルを購入するビリオネアのガレージには、ブガッティからフェラーリまですべての希少モデルがそろっている。それをみて、パガーニが2、3億円で売れるなら、うちだってイケる! と伝統的ブランドが思わないはずがない。もっとも、フェラーリやランボルギーニが2、3億円の限定車をリリースする昨今、パガーニやケーニグセグの限定車は5億円以上、なかには10億円近くという、もはや“空”や“海”に匹敵する価格帯に達してしまっているが……。

フェラーリの創設40周年を記念する“スペチアーレ”モデル「F40」。1987年のデビュー時は4000万円台の価格が提示されたものの、バブル経済期とあって2億円以上で取引された。クラシックカーブームのいま、同じような高値が付いている。
フェラーリの創設40周年を記念する“スペチアーレ”モデル「F40」。1987年のデビュー時は4000万円台の価格が提示されたものの、バブル経済期とあって2億円以上で取引された。クラシックカーブームのいま、同じような高値が付いている。拡大

傑作のほまれ高い、マクラーレンのスーパースポーツ「F1」。販売終了から20年ほどがたち、その価格は10倍以上に膨らんだ。


	傑作のほまれ高い、マクラーレンのスーパースポーツ「F1」。販売終了から20年ほどがたち、その価格は10倍以上に膨らんだ。
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「マクラーレン・スピードテール」は、“ハイパーGT”とカテゴライズされるロードカー。全長は5137mmと長く、往年の「マクラーレンF1」を思わせる3人掛けのインテリアが特徴。
「マクラーレン・スピードテール」は、“ハイパーGT”とカテゴライズされるロードカー。全長は5137mmと長く、往年の「マクラーレンF1」を思わせる3人掛けのインテリアが特徴。拡大

商機はまだまだ作り出せる!?

ハイパーカービジネスの今後はどうだろうか。限定モデルの高額化があまりにも急激に進んでしまったからだろう。シリーズモデルの最高峰が今のところ5000万円程度で、限定車が2億円以上である。結果、1億円あたりがぽっかりと空いてしまった。そこにすかさずクサビを打ち込んだのがまたしてもフェラーリだった。先ごろ日本でも発表された「SF90ストラダーレ」は限定車ではないけれども、ベース価格は6000万円弱ながら「アセットコルサ」という高額オプションを入れると乗り出しは8000万円前後となり、ちょうど空白のエリアを埋める存在となる。今後は他ブランドも、1億円前後の価格帯に魅力的なモデルが増えてくるはずだ。

また、冒頭のモデル群のなかに、フェラーリ・モンツァSP1&SP2やポルシェ935/78のように、基本的にナンバーの取れないトラック専用車があったことに気づいた方も多かったに違いない。アストンマーティンやジャガーのように、往年の名車を正確に復刻するけれどもナンバー取得は不可能(公道走行不可)というケースも増えている。これは近い将来、この手の趣味のクルマを楽しむためにはサーキットなど専用の場所に行かなければならないようになることを十分に示唆している。

既に今でも、目立つスーパーカーに乗って公道をぶっ飛ばそうものならSNSで生中継されてしまう時代である。高性能車や趣味のクルマを公道では楽しみづらいと感じるオーナーも増えてきた。彼らは以前にも増して今、サーキットでのドライブを楽しむようになっている。そして、サーキットで楽しむならスーパーカーよりも断然、レーシングカーであろう。クラシックレーシングカーの取引が活発になり、高騰しているのもまた、そんな背景があるからなのだ。

(文=西川 淳/写真=ブガッティ、ランボルギーニ、フェラーリ、マクラーレン、アストンマーティン/編集=関 顕也)

フェラーリ初のPHEV「SF90ストラダーレ」。「F8トリブート」に代表されるリアミドシップクーペと、「ラ フェラーリ」などのスペチアーレモデルの中間に位置づけられている。
フェラーリ初のPHEV「SF90ストラダーレ」。「F8トリブート」に代表されるリアミドシップクーペと、「ラ フェラーリ」などのスペチアーレモデルの中間に位置づけられている。拡大
“コンティニュエーションモデル”として復刻生産される、「アストンマーティンDB4GTザガート」。FIA承認のロールケージ付きで、サーキットでの走行が想定されている。
“コンティニュエーションモデル”として復刻生産される、「アストンマーティンDB4GTザガート」。FIA承認のロールケージ付きで、サーキットでの走行が想定されている。拡大
むかしのレーシングカーを思わせる「フェラーリ・モンツァSP1」は1人乗り。写真はそのコックピット。
むかしのレーシングカーを思わせる「フェラーリ・モンツァSP1」は1人乗り。写真はそのコックピット。拡大
西川 淳

西川 淳

永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。

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